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鉱山にて2
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ミスリル鉱山の採掘抗。
その奥でプラチナ色のメタルアーマーを装備した聖騎士が無双している。
剣聖アリアが憑依したマキは普段の動作や仕草とは異なり、その動きが機敏で無駄がない。
剣身が3mにも伸びた魔力の件は青白く光り、振り回すたびに地下から湧き上がってくるアンデッドを浄化させ、光の粒へと分解していく。そのマキの身体の周囲には青白い七つの宝玉が回転しながら、浄化の波動を放っている。
その浄化の波動は採掘抗の壁や地面を浄化させ、グールの発生をも許さない。
採掘抗の中を縦横無尽に駆け回り、時に5mほどの高さの天井にまでジャンプしながら先に進んでいった。
その後を追うリリス達もそのスピードに追い付けない。
マキの背中を遠くに見ながら、リリス達は採掘抗の奥に駆けていった。
採掘抗はところどころで大きな空洞になり、その壁際にトロッコや作業用の手押し車が放置されている。
これは作業員の待機用の場所にもなっているようで、小さな小屋や調理用のスペースも設置されていた。
このような大きな空洞を幾つか通過すると、マキが立ち止まって何者かと言い争っている様子が見えた。
何事かと思ってその場に辿り着くと、リリスの目に黒い小柄な人物が見えてきた。
あれって・・・魔族じゃないの?
もしかしてイヴァ族?
リリスの予想は当たっていたようで、魔族はマキに怒鳴りつけていた。
「貴様は何処から来た聖騎士なのだ? 我々の邪魔をするな!」
魔族の怒声を気にもせず、マキは魔力の剣となった聖剣アリアドーネを振りかざし、魔族に強力なソニックを放った。
そのソニックをシールドを張って躱しながら、魔族は後方に素早く引き下がった。
「聖騎士にアンデッドが相手では釣り合わないな。儂のテイムしている魔物がお前の相手をしてやる。」
そう言うと魔族は魔力を放ち、マキの目の前に大きな魔法陣を出現させた。
その魔法陣から光の帯が伸び上がり、直ぐに実体化して魔物の姿を現した。
巨大な蛇だ。
全長は10mほどもあり、頭部には小さな角が二つ生えていて、その角からバチバチと火花を放っている。
「あれって何?」
リリスの問い掛けにケネスは怪訝そうにその魔物を見つめた。
「あれはライトニングボアですね。雷撃を放つことはありませんが、接触すると強烈な雷撃を受けてしまいます。」
う~ん。
タチの悪い大蛇なのね。
ライトニングボアはさっそくその尻尾を鞭のようにしならせ、マキの身体を襲ってきた。
その素早い尻尾の動きを見極め、マキはその場から瞬時に後方に飛び、その攻撃を避けた。
その隙を突いてライトニングボアは素早くマキの着地点に回り込む。
マキはそれをソニックで牽制しながら後方に着地すると、瞬時に前方に走り込み、ライトニングボアの至近距離でスラッシュを放った。
聖魔法では攻撃の通用しない敵なので、マキは剣技で倒すつもりなのだろう。
魔力の剣を横一文字に振り切り、返す刀で上段から振り下ろすと、強烈なスラッシュの威力でライトニングボアの身体に斬撃を与えた。
その斬撃はライトニングボアの盾のような鱗を突き破り、内部にまで大きな傷を負わせた。
その痛みにのた打ち回りながら、ライトニングボアは後方に逃げようとする。
ライトニングボアの動きに釣られるように、マキはダッシュして敵の至近距離に近付いた。
このマキの動きを予想していたかのように、ライトニングボアは尻尾を素早く振り回し、マキの身体に襲い掛かった。
危ない!
咄嗟に声を上げたリリスだが、マキは瞬時に聖魔法でシールドを創り上げ、それを多層に凝縮させて大きな魔力の盾を創り上げた。
その盾でライトニングボアの尻尾の直撃を受け流すと、マキはその場で前方に急加速し、その魔力の盾を前方に突き出してライトニングボアに突撃した。盾と一体となったマキの身体はまるで巨大な魔力のハンマーの様だ。
両者がぶつかった瞬間にドンッと言う衝撃音と激しい光が放たれ、巨大なライトニングボアは後方に吹き飛ばされてしまった。
えっ!
魔力の盾でバッシュしちゃったの?
採掘抗の壁に激突したライトニングボアは、バッシュの効果もあって数秒間の気絶状態になっている。
その隙を見逃さずマキは走り込み、ライトニングボアに再度スラッシュを放った。
強烈なスラッシュの斬撃がライトニングボアの身体を寸断し、切り離された頭部がゴロンと地面に転がった。
マキは魔力の盾を解除させると、魔族に向かって走り出し、ソニックを数発放った。
一方、魔族はライトニングボアを倒されて動揺していたが、それでも瞬時にマキの攻撃を躱し、魔力を循環させながらマキから離れるように回り込んだ。
「なんて奴だ! それならこいつはどうだ?」
魔族が再び魔法陣を出現させると、そこからまた光の塊が現われ、瞬時に巨大な獣の姿になった。
体長は3mほどだが獅子の身体に三つの顔がある。
ケルベロスだ!
三つの属性魔法を持つケルベロスは、その各々の顔から火球や雷撃やアイスボルトを放ち、マキに攻撃を仕掛けてきた。
更に咆哮して威圧を放ち、瘴気をすら振りまいている。
だが威圧や瘴気はマキには通じない。
マキは再度魔力の盾を創り上げ、ケルベロスの火球や雷撃を弾き返し、素早くソニックを連発してケルベロスをのけぞらせた。
「あの魔力の盾は凄いですね。三種類の属性魔法の攻撃をも弾き返すのですから。」
ケネスの言葉にリリスのみならず、同行してきた兵士達もうんうんと頷いている。
特に若い獣人の兵士は憧れるような眼でマキの戦う姿を目で追っていた。
うんうん。
あんたたちの気持ちは分かるわよ。
美形の聖騎士が巨大な魔物相手に無双しているんだものねえ。
マキの動きには無駄がない。
ケルベロスの魔法の攻撃を躱しながら、ソニックを放って牽制し、スラッシュでその巨体に切り込んでいく。
そのスタイルはどのような状況に置かれても変わらないようだ。
魔法攻撃を弾き返されるたびに、ケルベロスはその前脚の巨大な鉤爪でマキの襲い掛かった。
だがそれもマキの瞬時の動作でぎりぎりに躱している。
ケルベロスの動きや可動範囲を瞬時に見切っているのだろう。
ケルベロスの怯む隙にソニックを放ち、スラッシュで切り込む。
そのソニックも牽制と言うよりは、それそのものが巨大なエアカッターのような威力だ。
更にスラッシュの威力も徐々にパワーアップしてきた。
幾度かの繰り返しの後、ケルベロスは左右の顔を潰され、全身を切り刻まれてその場に座り込んでしまった。
その様子を見て魔族は驚愕の声を上げた。
「拙いな。これほどまでだとは思わなかったぞ。だがお前の好きにはさせん!」
魔族はそう言うと瀕死状態のケルベロスを置き去りにして、採掘抗の奥に素早く消えていった。
ケルベロスはその場で立ち上がれないが、残っている顔から盛んに火球を放ち、マキやリリス達に攻撃を仕掛けている。
採掘抗の奥に進むためにはケルベロスが邪魔だ。
「あの魔族の後を追うから、ケルベロスの始末は任せるわね!」
マキはそう言い放って、瞬時に魔族の後を追っていった。
「マキちゃんったら、後始末を私にさせるつもりなの?」
リリスの呟く声はケネスにも届いていたようで、ケネスは言葉も無くリリスの顔を見て軽く頭を下げた。
「う~ん。仕方が無いわね。」
「リリス様、よろしくお願いします。私は亜空間シールドで火球の攻撃を防いでいますので。」
ケネスはその言葉通り亜空間シールドをケルベロスの前方に張り、火球の攻撃からリリス達を守る事に徹した。
どうやって攻撃しようかしら?
採掘抗だから壁や天井にダメージを与えない方が良いわよね。
そうすると毒か土魔法・・・。
リリスは土魔法での攻撃を勘案し、ケルベロスの周囲に直径5mほどの泥沼を瞬時に出現させた。
突然現れた泥沼にケルベロスは抵抗する余地も無く、ずぶずぶと沈んでいく。
元々瀕死の状態だったケルベロスになす術はない。
深さ5mほどの泥沼に数分で沈んでいった。
その様子を確かめながら、リリスは泥沼の上部を硬化させていく。
表面から1mほどまで硬化させ、ケルベロスの生命反応を探知すると、その反応が徐々に薄れていくのが分かった。
硬化させた表面を足で踏んで確かめながら待つ事5分。
ケルベロスの生命反応は全く消えてしまった。
リリスは無言でうんうんと頷き、心の中ではケルベロスに対して合掌していた。
だがそのリリスの耳に、若い獣人の兵士の呟く微かな声が聞こえてくる。
「生き埋めかよぉ。悪魔の所業だぜ。」
誰が悪魔よ!
マキちゃんに対する評価と違い過ぎるじゃないの!
ムッとするリリスをなだめる様にケネスがお疲れ様と声を掛けてきた。
まあ、ケネスさんの顔に免じて許してあげるわよ。
そのリリスの思いを知らず、ケネスは硬化された地面を見つめながら口を開いた。
「いやあ、驚きました。リリス様の土魔法は強力な攻撃手段にもなるのですね。」
「まあ、それは使い方次第ですよ。」
そう言いながらリリスは硬化された地面に魔力を放った。
「ケルベロスの墓標でも立ててあげようかしら。」
硬化された地面から瞬時に高さ1mほどの石柱が伸び上がった。
その石柱をポンポンと軽く叩き、獣人の兵士達の方に目を向けると、リリスから目を背けた者がいた。
あいつね、私を悪魔扱いしたのは。
覚えておきなさいよ!
リリスは気を取り直し、採掘抗の奥に目を向けた。
「さあ、マキちゃんを追いましょう! 多分アンデッドを呼び寄せる機械に向かっているはずだから。」
マキの主目的は機械の動力源である闇のオーブの無効化だ。
それを案じて魔族も先回りしようとしたのだろう。
リリス達はマキと魔族の後を追って、採掘抗の奥に駆けだした。
しばらく長い採掘抗が続き、その先にある大きな空洞に到達したリリス達は、マキと魔族の対峙している姿を目にした。
魔族の後方には闇のオーブとそれを包み込むような装置がある。
それを無効化すべく、マキは魔族を攻撃していた。
ソニックやスラッシュを連発するマキだが、魔族は亜空間シールドを張り、マキが放つソニックやスラッシュを防いだ。
基本的に魔族は聖魔法を嫌う。
それ故にマキは剣技で攻撃しながらも頻繁に、聖魔法の魔力を魔力弾として放っている。
だがこの魔族はそれを亜空間シールドの重ね掛けで防いでいるようだ。
更に魔族はマキの動きを見ながら火球や雷撃を放ち、マキの接近を困難にしている。
マキとしては打開策を練るところだが、あいにくマキの表情に冴えがない。
ここまでの攻撃でかなり魔力を費やしたのだろう。
マキに魔力を補充するか、自分が魔族と対決するか。
リリスはあれこれと考えを巡らせた。
魔人は亜空間シールドを幾重にも張れるほどに、空間魔法に精通しているようだ。
その空間魔法で転移して逃げないのは、闇のオーブとその装置があるからだろう。
属性魔法にも耐性があると考えると、攻撃手段は限られてくるのだが。
リリスはふと思いつき、ケネスに話し掛けた。
「あの魔族を時限監獄に閉じ込められますか?」
話し掛けられたケネスはう~んと唸り声をあげた。
「リリス様もご存じのように、私の生み出す時限監獄は低レベルですから、発動出来たとしてもあの魔族をあまり長い時間拘束するのは無理ですよ。」
「ああ、良いのよ。ほんの数分拘束出来れば良いから。」
リリスはそう言うと、マキに向かって叫んだ。
「マキちゃん! 手助けするわよ!」
リリスの声に反応したのか、マキの顔に僅かに安堵の表情が見える。
リリスは身体中に闇魔法の魔力を循環させ始めた。
それに連動して闇魔法の加護が発動される。
加護の影響でレベルアップした闇魔法の魔力がリリスの身体を包み込み、暗黒竜の禍々しい気配がリリスの身体から放たれ始めた。
その気配にケネスも兵士達も少したじろいだ。
聖と闇。
対極にある属性をそれぞれに極めるマキとリリスだ。
準備を整えたリリスはケネスに、時限監獄の発動を促したのだった。
その奥でプラチナ色のメタルアーマーを装備した聖騎士が無双している。
剣聖アリアが憑依したマキは普段の動作や仕草とは異なり、その動きが機敏で無駄がない。
剣身が3mにも伸びた魔力の件は青白く光り、振り回すたびに地下から湧き上がってくるアンデッドを浄化させ、光の粒へと分解していく。そのマキの身体の周囲には青白い七つの宝玉が回転しながら、浄化の波動を放っている。
その浄化の波動は採掘抗の壁や地面を浄化させ、グールの発生をも許さない。
採掘抗の中を縦横無尽に駆け回り、時に5mほどの高さの天井にまでジャンプしながら先に進んでいった。
その後を追うリリス達もそのスピードに追い付けない。
マキの背中を遠くに見ながら、リリス達は採掘抗の奥に駆けていった。
採掘抗はところどころで大きな空洞になり、その壁際にトロッコや作業用の手押し車が放置されている。
これは作業員の待機用の場所にもなっているようで、小さな小屋や調理用のスペースも設置されていた。
このような大きな空洞を幾つか通過すると、マキが立ち止まって何者かと言い争っている様子が見えた。
何事かと思ってその場に辿り着くと、リリスの目に黒い小柄な人物が見えてきた。
あれって・・・魔族じゃないの?
もしかしてイヴァ族?
リリスの予想は当たっていたようで、魔族はマキに怒鳴りつけていた。
「貴様は何処から来た聖騎士なのだ? 我々の邪魔をするな!」
魔族の怒声を気にもせず、マキは魔力の剣となった聖剣アリアドーネを振りかざし、魔族に強力なソニックを放った。
そのソニックをシールドを張って躱しながら、魔族は後方に素早く引き下がった。
「聖騎士にアンデッドが相手では釣り合わないな。儂のテイムしている魔物がお前の相手をしてやる。」
そう言うと魔族は魔力を放ち、マキの目の前に大きな魔法陣を出現させた。
その魔法陣から光の帯が伸び上がり、直ぐに実体化して魔物の姿を現した。
巨大な蛇だ。
全長は10mほどもあり、頭部には小さな角が二つ生えていて、その角からバチバチと火花を放っている。
「あれって何?」
リリスの問い掛けにケネスは怪訝そうにその魔物を見つめた。
「あれはライトニングボアですね。雷撃を放つことはありませんが、接触すると強烈な雷撃を受けてしまいます。」
う~ん。
タチの悪い大蛇なのね。
ライトニングボアはさっそくその尻尾を鞭のようにしならせ、マキの身体を襲ってきた。
その素早い尻尾の動きを見極め、マキはその場から瞬時に後方に飛び、その攻撃を避けた。
その隙を突いてライトニングボアは素早くマキの着地点に回り込む。
マキはそれをソニックで牽制しながら後方に着地すると、瞬時に前方に走り込み、ライトニングボアの至近距離でスラッシュを放った。
聖魔法では攻撃の通用しない敵なので、マキは剣技で倒すつもりなのだろう。
魔力の剣を横一文字に振り切り、返す刀で上段から振り下ろすと、強烈なスラッシュの威力でライトニングボアの身体に斬撃を与えた。
その斬撃はライトニングボアの盾のような鱗を突き破り、内部にまで大きな傷を負わせた。
その痛みにのた打ち回りながら、ライトニングボアは後方に逃げようとする。
ライトニングボアの動きに釣られるように、マキはダッシュして敵の至近距離に近付いた。
このマキの動きを予想していたかのように、ライトニングボアは尻尾を素早く振り回し、マキの身体に襲い掛かった。
危ない!
咄嗟に声を上げたリリスだが、マキは瞬時に聖魔法でシールドを創り上げ、それを多層に凝縮させて大きな魔力の盾を創り上げた。
その盾でライトニングボアの尻尾の直撃を受け流すと、マキはその場で前方に急加速し、その魔力の盾を前方に突き出してライトニングボアに突撃した。盾と一体となったマキの身体はまるで巨大な魔力のハンマーの様だ。
両者がぶつかった瞬間にドンッと言う衝撃音と激しい光が放たれ、巨大なライトニングボアは後方に吹き飛ばされてしまった。
えっ!
魔力の盾でバッシュしちゃったの?
採掘抗の壁に激突したライトニングボアは、バッシュの効果もあって数秒間の気絶状態になっている。
その隙を見逃さずマキは走り込み、ライトニングボアに再度スラッシュを放った。
強烈なスラッシュの斬撃がライトニングボアの身体を寸断し、切り離された頭部がゴロンと地面に転がった。
マキは魔力の盾を解除させると、魔族に向かって走り出し、ソニックを数発放った。
一方、魔族はライトニングボアを倒されて動揺していたが、それでも瞬時にマキの攻撃を躱し、魔力を循環させながらマキから離れるように回り込んだ。
「なんて奴だ! それならこいつはどうだ?」
魔族が再び魔法陣を出現させると、そこからまた光の塊が現われ、瞬時に巨大な獣の姿になった。
体長は3mほどだが獅子の身体に三つの顔がある。
ケルベロスだ!
三つの属性魔法を持つケルベロスは、その各々の顔から火球や雷撃やアイスボルトを放ち、マキに攻撃を仕掛けてきた。
更に咆哮して威圧を放ち、瘴気をすら振りまいている。
だが威圧や瘴気はマキには通じない。
マキは再度魔力の盾を創り上げ、ケルベロスの火球や雷撃を弾き返し、素早くソニックを連発してケルベロスをのけぞらせた。
「あの魔力の盾は凄いですね。三種類の属性魔法の攻撃をも弾き返すのですから。」
ケネスの言葉にリリスのみならず、同行してきた兵士達もうんうんと頷いている。
特に若い獣人の兵士は憧れるような眼でマキの戦う姿を目で追っていた。
うんうん。
あんたたちの気持ちは分かるわよ。
美形の聖騎士が巨大な魔物相手に無双しているんだものねえ。
マキの動きには無駄がない。
ケルベロスの魔法の攻撃を躱しながら、ソニックを放って牽制し、スラッシュでその巨体に切り込んでいく。
そのスタイルはどのような状況に置かれても変わらないようだ。
魔法攻撃を弾き返されるたびに、ケルベロスはその前脚の巨大な鉤爪でマキの襲い掛かった。
だがそれもマキの瞬時の動作でぎりぎりに躱している。
ケルベロスの動きや可動範囲を瞬時に見切っているのだろう。
ケルベロスの怯む隙にソニックを放ち、スラッシュで切り込む。
そのソニックも牽制と言うよりは、それそのものが巨大なエアカッターのような威力だ。
更にスラッシュの威力も徐々にパワーアップしてきた。
幾度かの繰り返しの後、ケルベロスは左右の顔を潰され、全身を切り刻まれてその場に座り込んでしまった。
その様子を見て魔族は驚愕の声を上げた。
「拙いな。これほどまでだとは思わなかったぞ。だがお前の好きにはさせん!」
魔族はそう言うと瀕死状態のケルベロスを置き去りにして、採掘抗の奥に素早く消えていった。
ケルベロスはその場で立ち上がれないが、残っている顔から盛んに火球を放ち、マキやリリス達に攻撃を仕掛けている。
採掘抗の奥に進むためにはケルベロスが邪魔だ。
「あの魔族の後を追うから、ケルベロスの始末は任せるわね!」
マキはそう言い放って、瞬時に魔族の後を追っていった。
「マキちゃんったら、後始末を私にさせるつもりなの?」
リリスの呟く声はケネスにも届いていたようで、ケネスは言葉も無くリリスの顔を見て軽く頭を下げた。
「う~ん。仕方が無いわね。」
「リリス様、よろしくお願いします。私は亜空間シールドで火球の攻撃を防いでいますので。」
ケネスはその言葉通り亜空間シールドをケルベロスの前方に張り、火球の攻撃からリリス達を守る事に徹した。
どうやって攻撃しようかしら?
採掘抗だから壁や天井にダメージを与えない方が良いわよね。
そうすると毒か土魔法・・・。
リリスは土魔法での攻撃を勘案し、ケルベロスの周囲に直径5mほどの泥沼を瞬時に出現させた。
突然現れた泥沼にケルベロスは抵抗する余地も無く、ずぶずぶと沈んでいく。
元々瀕死の状態だったケルベロスになす術はない。
深さ5mほどの泥沼に数分で沈んでいった。
その様子を確かめながら、リリスは泥沼の上部を硬化させていく。
表面から1mほどまで硬化させ、ケルベロスの生命反応を探知すると、その反応が徐々に薄れていくのが分かった。
硬化させた表面を足で踏んで確かめながら待つ事5分。
ケルベロスの生命反応は全く消えてしまった。
リリスは無言でうんうんと頷き、心の中ではケルベロスに対して合掌していた。
だがそのリリスの耳に、若い獣人の兵士の呟く微かな声が聞こえてくる。
「生き埋めかよぉ。悪魔の所業だぜ。」
誰が悪魔よ!
マキちゃんに対する評価と違い過ぎるじゃないの!
ムッとするリリスをなだめる様にケネスがお疲れ様と声を掛けてきた。
まあ、ケネスさんの顔に免じて許してあげるわよ。
そのリリスの思いを知らず、ケネスは硬化された地面を見つめながら口を開いた。
「いやあ、驚きました。リリス様の土魔法は強力な攻撃手段にもなるのですね。」
「まあ、それは使い方次第ですよ。」
そう言いながらリリスは硬化された地面に魔力を放った。
「ケルベロスの墓標でも立ててあげようかしら。」
硬化された地面から瞬時に高さ1mほどの石柱が伸び上がった。
その石柱をポンポンと軽く叩き、獣人の兵士達の方に目を向けると、リリスから目を背けた者がいた。
あいつね、私を悪魔扱いしたのは。
覚えておきなさいよ!
リリスは気を取り直し、採掘抗の奥に目を向けた。
「さあ、マキちゃんを追いましょう! 多分アンデッドを呼び寄せる機械に向かっているはずだから。」
マキの主目的は機械の動力源である闇のオーブの無効化だ。
それを案じて魔族も先回りしようとしたのだろう。
リリス達はマキと魔族の後を追って、採掘抗の奥に駆けだした。
しばらく長い採掘抗が続き、その先にある大きな空洞に到達したリリス達は、マキと魔族の対峙している姿を目にした。
魔族の後方には闇のオーブとそれを包み込むような装置がある。
それを無効化すべく、マキは魔族を攻撃していた。
ソニックやスラッシュを連発するマキだが、魔族は亜空間シールドを張り、マキが放つソニックやスラッシュを防いだ。
基本的に魔族は聖魔法を嫌う。
それ故にマキは剣技で攻撃しながらも頻繁に、聖魔法の魔力を魔力弾として放っている。
だがこの魔族はそれを亜空間シールドの重ね掛けで防いでいるようだ。
更に魔族はマキの動きを見ながら火球や雷撃を放ち、マキの接近を困難にしている。
マキとしては打開策を練るところだが、あいにくマキの表情に冴えがない。
ここまでの攻撃でかなり魔力を費やしたのだろう。
マキに魔力を補充するか、自分が魔族と対決するか。
リリスはあれこれと考えを巡らせた。
魔人は亜空間シールドを幾重にも張れるほどに、空間魔法に精通しているようだ。
その空間魔法で転移して逃げないのは、闇のオーブとその装置があるからだろう。
属性魔法にも耐性があると考えると、攻撃手段は限られてくるのだが。
リリスはふと思いつき、ケネスに話し掛けた。
「あの魔族を時限監獄に閉じ込められますか?」
話し掛けられたケネスはう~んと唸り声をあげた。
「リリス様もご存じのように、私の生み出す時限監獄は低レベルですから、発動出来たとしてもあの魔族をあまり長い時間拘束するのは無理ですよ。」
「ああ、良いのよ。ほんの数分拘束出来れば良いから。」
リリスはそう言うと、マキに向かって叫んだ。
「マキちゃん! 手助けするわよ!」
リリスの声に反応したのか、マキの顔に僅かに安堵の表情が見える。
リリスは身体中に闇魔法の魔力を循環させ始めた。
それに連動して闇魔法の加護が発動される。
加護の影響でレベルアップした闇魔法の魔力がリリスの身体を包み込み、暗黒竜の禍々しい気配がリリスの身体から放たれ始めた。
その気配にケネスも兵士達も少したじろいだ。
聖と闇。
対極にある属性をそれぞれに極めるマキとリリスだ。
準備を整えたリリスはケネスに、時限監獄の発動を促したのだった。
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ファンタジー
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それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
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