落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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仮装コンテスト1

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マキの従者としてアブリル王国を訪れたリリス。

予期せぬ出来事を幾つも処理し、無事に二人はミラ王国に戻った。

その数日後、リリスは放課後に生徒会の部屋を訪れた。

部屋の扉を開けるとエリスやウィンディ達が幾つもの大きな箱を開け、その中身を取り出してテーブルの上に広げていた。
箱の中身は仮装ダンスパーティの為の衣裳類である。

数日後に迎える仮装ダンスパーティは、最上級生であるリリスにとっても魔法学院での最後の回となるので、何かと感慨深い気持ちになってしまう。

テーブルの上に置かれたドレス類は全てしっかりと梱包してある。
それを一つ一つ開けては傷等の有無を確認しつつ、ハンガーに掛けていく作業だ。
これらの衣裳はレンタル用なのだが、生徒会のメンバーが優先的に着用出来る決まりになっている。

真紅のドレスを手にしながらエリスが嬉々とした目つきで口を開いた。

「私は今回はこれに決めますね!」

エリスの言葉に傍で手伝っていたニーナがウッと唸った。

「エリス。それって結構目立つけど大丈夫? 背中のスリットも腰骨の辺りまで開いているし・・・」

「大丈夫ですよ、ニーナ先輩。今年はこれにチャレンジしてみたいんです。」

「う~ん。大人の階段を昇っていくつもりなのね。」

姉のような視線で心配するニーナ。
その言葉に何となく、昔聞いた歌の歌詞を思い出してしまったリリスである。

そのエリスの傍で、金色のラメの入った黒いドレスを手にしていたのはサリナだった。

「サリナったら相変わらず地味なのを選ぶわね。」

ウィンディの言葉にサリナはえっ!と驚いた。

「これって地味ですか? 金ラメが結構派手だと思うんですけど・・・」

「それはそうなんだけど、黒髪のサリナが黒のドレスって言うのもねえ。いっそのこと金髪のウィッグでも被ったら良いんじゃないの?」

「そうですね。仮装ダンスパーティなんだから、思い切った仮装をしても良いですよね。」

サリナの言葉にウィンディはうんうんと頷き、リリスの方に顔を向けた。

「リリス先輩。今回の仮装ダンスパーティで、仮装コンテストをやってみませんか? 」

ウィンディの言葉に、エリスも目を大きく開いて反応した。

「それって良いですよね。リリス先輩、やりましょうよ! ダンスが苦手な生徒も居ますからね。仮装コンテストなら積極的に参加するかも。」

「そうねえ。やってみようかしら。」

そう言いながらリリスはふとマキの事を思い出した。

マキちゃんったら、仮装ダンスパーティをコスプレイベントだって言っていたものね。
私にとっても魔法学園在学中で最後の仮装ダンスパーティだから、少し生徒会の意向を反映させて貰おうかしら。

リリスはエリス達と打ち合わせをし、第一部を仮装コンテスト、第二部をダンスパーティにする事にした。
その為に急遽、仮装コンテスト開催を知らせるプリントを1日で作成し、翌日には全生徒に向けて配り終えた。

その後は何時も以上に慌ただしい準備に追われ、リリス達は仮装ダンスパーティの前日にようやく全ての準備を終えた。
既に日が暮れている時間だ。
リリスは明日の行事への期待を胸に、心地良い疲れを感じつつ学生寮の自室に戻った。
だが自室のドアの向こうに複数の怪しい気配がある。

ドアを開けると案の定、ソファに赤い衣装のピクシーとブルーの衣裳のピクシーとノームが座っていた。

「「「お帰り!!!」」」

3者の声が妙にハモっている。

亜神でも浮かれるような事があるのかしら?
まあ、気のせいよね。

そう思いつつ、リリスはカバンをテーブルの上に置き、対面のソファにドカッと座った。

「3人とも、どうしたのよ?」

リリスの言葉にブルーの衣裳のピクシーが、えへへと笑って口を開いた。 
  
「どうもこうも無いわよ。もうすぐ仮装ダンスパーティがあるんでしょ? 今回も私達は参加するからね。」

亜神達はどうやら仮装ダンスパーティを楽しみにしている様子だ。

「まあ、おとなしく参加してくれれば構わないわよ。」

そう言いながらリリスはノームの方に目を向けた。

「チャーリーも参加するの? 前回は作業服っぽい仮装で参加していたわよね。」

リリスの言葉に赤い衣装のピクシーが即座に反応した。

「そいつは私達と楽しみ方が違うからね。ダンスを楽しもうって言う発想が無いのよ。土の亜神だから案山子の格好でもしていれば良いんじゃないの?」

「僕は仮装を楽しむのが第一やからね。それに僕にぴったりのイベントまで用意してくれたから感謝してるよ。」

ノームの言葉に2体のピクシーは同時に首を傾げた。

「イベントって何なのよ?」

「ああ、今回は第一部が仮装コンテストになっているんや。これがそのお知らせのチラシやで。」

ノームはそう言うと全校生徒向けに配布したチラシを取り出した。
仮装コンテストを行う旨を周知させるため、生徒会で急遽作成して配布したチラシである。

「チャーリー、良くそんなものを持っていたわね。」

「ああ、ロイドから貰ったんや。」

えっ?
どう言う事?

不思議に思ったリリスにノームは平然と答えた。

「ロイド先生からって・・・・・奪い取ったの?」

リリスの追及にノームはへらへらと笑いながら手を横に振った。

「違うよ、違う。職員室でロイドとケイトが話をしてたから聞いたんや。そしたら僕にこれをくれたって事なんやけどね。」

う~ん。
良く話が分からないわね。

「どうしてチャーリーが職員室に居たのよ。それにロイド先生やケイト先生と、周知の仲のような話なんだけど・・・」

リリスの疑問にブルーの衣裳のピクシーが身を乗り出してきた。

「あらっ? リリスは知らなかったの? チャーリーは最近、この魔法学院の警備員をやっているのよ。警備員の服装が気に入ったから、ついでにしばらく警備員をしてみようって事だそうよ。」

う~ん。
意味が分からないわ。

「そもそも誰がチャーリーを警備員として雇ったのよ?」

リリスの問い掛けにノームはえへへと笑いながら、頭をポリポリと掻いた。

「別に誰かに雇われたわけやないよ。僕が自発的にやってるだけやからね。」

「でも職員室に出入りしているってどう言う事?」

「それはやね・・・。」

ノームはそう言うと一呼吸、間を置いた。

「端的に言うと、僕が警備員であると言う認識を共有して貰っているって言う事なんやけどね。」

ノームの言葉に赤い衣装のピクシーがふふんと鼻で笑った。

「どこが端的なのよ。早い話が教職員全員を洗脳しただけでしょ?」

「まあ、そんな言い方も出来るかな。」

ノームはそう言うと平然とした表情でリリスを見つめた。

「まあ、そう言う事やから。」

「何がそう言う事よ! 自分の趣味で先生達を洗脳しないでよ。」

呆れるリリスにブルーの衣裳のピクシーが追い打ちを掛ける。

「それがねえ。単なる洗脳じゃないのよ。ミラ王国の貴族の出自であるかのように経歴を詐称したうえで、それを職員名簿にまで記載させてしまっているからね。これって公式的に記録に残るんじゃないの?」

うっ!
何をやっているのよ!
変なところで特殊なスキルを駆使しないでよ!

リリスは呆れて言葉を失ってしまった。
そのリリスの様子をスルーして、ノームはチラシをピクシー達にも見せた。

「ユリアもタミアもこれに参加したら良いと思うで。面白そうやからな。」

「確かに面白そうだけどね。でもどんな仮装が良いかしら?」

「そうやねえ。ユリアは水の女神の衣裳で水龍の造り物を身体に纏わらせるのはどうや? タミアは・・・イフリートの着ぐるみでも着て出たらうけるよ。」

ノームの言葉にピクシー達はケラケラと笑いながら盛り上がり始めた。

う~ん。
前途多難だわ。
仮装ダンスパーティ当日にアクシデントが多発しなければ良いんだけど・・・。

呆れるリリスを尻目に、亜神達は自分達だけで盛り上がり、しばらくして消え去っていった。

後に残されたリリスは若干の胸騒ぎを感じつつ、翌日の授業の準備に取り掛かり始めた。







そして迎えた仮装ダンスパーティの当日。

第一部は仮装コンテストなので、生徒会のメンバーはスタッフ用の黒い衣装で準備をしていた。
特設のステージが設けられ、エントリーした参加者が名前を呼ばれて出てくるようになっている。
その特設ステージの横には審査員のイスとテーブルが設置された。
そこに座るのは数名の教職員だが、審査はそれ以外に生徒全員の投票も加点される仕組みだ。

「それでは仮装コンテストを始めます!」

司会のケイトの宣言で、仮装コンテストは幕を開いた。
軽快な音楽が流れる中、エントリーした参加者の名前が呼ばれ、ステージに上がる。

一人が2~3分ほどステージの上で練り歩くのだが、エントリー数が50もあるのでそれなりに時間が掛かってしまう。
それでも創意工夫に満ちた仮装に会場内は盛り上がった。

「エントリーナンバー5は特別出演になります。神殿の大祭司マキさんです。」

ケイトのアナウンスで出てきたマキは、イオニアで手に入れたのであろう民族衣装を着ていた。
薄いローブを身に纏い、カラフルな頭巾を被っているが、半透明のローブ越しに見える上半身は、金色のラメや装飾品が大量に施された赤いビキニのようなセクシーな衣装が見えている。下半身は深いスリットが入った赤いロングドレスだ。

これってベリーダンスの衣裳じゃないの?

あまりに大胆な衣装にリリスも驚いてしまった。
観客からの歓声が渦巻く。
その観客達の熱い視線を浴びながら、マキは様々なポーズをとってステージの奥に消えていった。
 
その後数人の出場者が続いた後、司会のケイトはウフフと笑ってマイクを握った。

「エントリーナンバー15は、これまた特別出演ですね。警備員のチャーリーさんです。」

ケイトの司会に応じて出てきたチャーリーは、真っ赤なカニの着ぐるみを着ていた。
大きなハサミを振り回しながら、ブクブクと泡を吹き、横歩きをしている
その滑稽な仕草に観客からは爆笑を得ていた。

「エントリーナンバー16は、隣国ドルキアの水の神殿から来られた、水の女神の使いユリアさんです。」

あらあら。
ユリアったらそう言う自己紹介になっているのね。

ステージの後ろで待機しているリリスは、ユリアの紹介アナウンスにふっと笑みを漏らしてしまった。

ユリアは薄いブルーのドレスを纏い、頭には白いティアラを着け、青白いオーラを全身から発しながら出てきた。
しかも身体の周りに半透明の水龍をぐるぐると回転させている。
水龍はその厳つい顔を四方に向けながら、口から白い息を吐き出していた。

そのユリアがステージの上に30cmほど浮かび上がり、舞うように動き回る。
その姿におおおっと歓声が上がり、ユリアもそれに反応して笑顔を向けていた。

その後、各学年の生徒が様々な仮装で続き、仮装コンテストは終盤に差し掛かった。

「エントリーナンバー45番は、最上級生のデニス君です。」

あらあら。
デニスまでエントリーしていたのね。

リリスは同級生で従弟のデニスの名を呼ばれ、大丈夫かなあと思いつつステージに目を向けた。

デニスは布地で作られた恐竜の着ぐるみを着て出てきた。
如何にも安っぽい作りの着ぐるみだが、リリスは若干の違和感を感じた。

恐竜の着ぐるみって、元の世界ではネット上でよく見かけたけど、この世界では全く見ないわよねえ。

リリスの違和感も当然の事で、この世界で地を這う竜と言えば巨大なトカゲの姿の地竜であり、空を飛ぶ竜やワイバーンなども居る。
だがいわゆる恐竜そのもののフォルムの存在は居ないのだ。

滑稽に動き回るデニスの着ぐるみは、どこからどう見てもティラノザウルスの類をデフォルメしたものだと思われる。

これって偶然の創作物なの?

そう思いながらリリスはデニスの動きを注視していた。
デニスはバタバタと走り回りながら、時に回転し、時にはバク転までして会場を沸かせた。
その様子を見てリリスも少し気持ちが和んだ。
だがデニスが退場した後、ステージの奥の控室で叫び声が聞こえ、リリス達スタッフは急遽そちらに駆けつけた。

急ごしらえの控室の中では、デニスが着ぐるみを着たまま倒れてジタバタしている。

どうしたの!

慌てて駆け付けたリリスの耳に、悲鳴に似たデニスの声が聞こえてきた。

「リリス、助けてくれ! 着ぐるみが脱げないんだ。しかもこいつは俺の身体から魔力を吸い上げてやがる!」

ええっ!
そんな事ってあるの?
呪いでも掛かっているのかしら?

デニスは徐々にその動きが鈍くなってきている。

拙いわね。

リリスは急いで解析スキルを発動させ、デニスの様子を探ったのだった。







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