落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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仮装コンテスト その後の騒動2

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仮装ダンスパーティーの会場の片隅。

リリスはその場で警備員の服装を着たチャーリーと、フリフリの衣裳を着たミクと話をしていた。

だが程なく騒ぎを聞きつけたロイドとケイトが、リリス達を見つけて駆け寄ってきた。

「チャーリーさん。何事ですか?」

ケイトの言葉にチャーリーはニコッと笑顔を見せた。

「ああ、先生方にも心配させてすまんね。もう大丈夫や。騒動の火種は既に片付けたからね。」

「そうですか。まあ、チャーリーさんが大丈夫だと言ってくれるのなら、問題は無さそうですね。」

ロイドはそう言うとチャーリーに軽く頭を下げた。

「チャーリーさんに魔法学院全体の警備をしてもらって、本当に助かりますよ。」

「いやいや。これも僕の使命やと思っているからね。気にせんで良いですよ。それに僕もリリスが卒業するまでの期間と限定して、学院の警護を請け負っているんでね。」

チャーリーの言葉にケイトはふうっとため息をついた。

「そうでしたよね。でもそのまま継続していただいても構わないんですけどね。むしろそうしていただきたいくらいで・・」

ケイトの言葉にロイドはうんうんと頷いた。

「ケイト先生。そのお気持ちは僕も一緒なんですが、チャーリーさんに無理を言ってもいけないので。」

「そうですよね。いくらリリスさんの遠い親戚筋の貴族の方だと言っても、そこまではお願い出来ませんよね。でももし気が変わったら、魔法学院に何時でも連絡してくださいね。」

ケイトの言葉にチャーリーは軽く笑顔で頷いた。

「ああ、そうやね。そうなったらまた連絡しますよ。」

チャーリーの言葉にロイドとケイトは頷き、礼を言ってその場を離れていった。


ちょっと待ってよ。
私は何を見せられているの?

「チャーリー! 何時からあんたが私の遠い親戚筋の貴族になったのよ!」

リリスの強い問い掛けに、チャーリーはへらへらと笑いながら口を開いた。

「そんなの数代前からやで。そう言う事になってるからね。」

「何を言ってるのよ! 勝手にミラ王国の公式記録を書き換えるんじゃないわよ!」

「まあ、そんなに興奮せんでも良いよ。リリスが卒業するまでの間だけやからな。」

チャーリーの言葉にリリスは呆れてしまった。

「それにしても、どうして私の卒業までの間だけって決めたの? あんた達亜神にはそんな縛り事って、何の制約にもならないでしょうに。」

「まあそうなんやけどね。」

そう言うと、チャーリーは少し間を置いた。

「リリスが魔法学院を卒業すると、今までと違う存在になってしまうような気がするんや。」

それってどう言う意味なのよ。
単に社会人になるって事じゃないような言い回しだわね。

チャーリーの言葉に引っ掛かりを持ったリリスだが、そのリリスの様子をスルーして、チャーリーはミクに話し掛けた。

「ミク。警備員室に来てもらおうか。少し話を聞きたいんや。」

警備員室?
そんなものって学院内にあったっけ?

疑問を抱くリリスとミクを連れて、チャーリーは仮装ダンスパーティーの会場を後にした。
学舎の職員室の隣のゲストルームに入っていくと、その奥に見慣れない扉があった。
扉ではあるが開ける為の取っ手が無い。両側にスライドするか、上にスライドするのだろうと思っていると、チャーリーはその扉に手をかざした。
扉はそれに反応して半透明になり、チャーリーは前進してそれを通過していった。
リリスとミクもそれに続くと、そこは広い部屋になっていた。
壁には幾つもの絵画が飾られ、豪華なソファが設置されている。
その奥に執務用のデスクがあり、その背面は壁一面が9分割されたパネルになっていた。
しかもそのパネルには学院内の様々な様子がリアルタイムで映っており、仮装ダンスパーティーの会場の様子も映っていた。

「チャーリー! いつの間にこんなものを設置したのよ。」

「ああ、これも僕の仕事やからね。」

仕事と言うより覗き見に近いわね。

そう思いながらリリスはパネル越しに、仮装ダンスパーティーの会場の様子を目にした。
チャーリーがパチンと指を鳴らすと、パネルが急にフォーカスされ、二人の女性が映り込んだ。
一人は斜めにストライプの入ったブルーのドレスを着ている。
もう一人は白いブラウスにタイトな黒のスカートを纏った女性だ。

「あの二人にもこっちに来てもらおうか。」

そう言ってチャーリーが再びパチンと指を鳴らすと、リリスとミクの目の前にその二人の女性が現われた。

ブルーのドレスを着ているのはレイチェルだ。
黒いタイトなスカートを着用し、まるで80年代のディスコやクラブに出没しそうな色黒の女性はジニアだった。

「あんた達まで仮装ダンスパーティーに参加していたの?」

リリスの問い掛けに二人はうんうんと頷いた。

「だって、リリスが卒業しちゃうと、参加する口実が無くなっちゃうからね。」

「レイチェル。そんな口実ってあんた達亜神に必要なの? この世の道理なんて全く無視しているくせに。」

リリスの言葉にジニアが首を横に振った。

「この世の道理が無くても、リリスを取り巻く時間軸があるからね。」

分かったような、分からないような理屈だ。
首を傾げるリリスを横目に、チャーリーはレイチェル達に話し掛けた。

「なあ、こいつを見てどう思う?」

ミクを指差し口を開いたチャーリーの言葉を受け、レイチェルとジニアはミクの顔をじっと見つめた。
しばらくの沈黙の後、二人は口を開いた。

「こいつってこの世界の魔物なの? 見た事も無いわよ。」

「どこから拾ってきたの?」

二人の言葉を聞きミクは憮然とした表情を浮かべた。

「こいつはロキの指示でリリスが個別進化させたトレントなんやけどね。トレントと言いながらドライアドのような特性を兼ねてるんや。しかもリモートで別個に動く捕食用の鞘まで持ってるからね。」

「リリス。君はあの鞘を持ってるんやろ? ここに出してみてくれ。」

チャーリーの言葉を受け、リリスはマジックバッグからミクの捕食鞘を取り出した。

それを見てミクは残念そうな表情を見せた。

「あ~あ。こんなにぼろぼろにされちゃって。もう使用出来ないわ。」

「ミク。そんなに残念そうに言わないでよ。これのせいで私の従弟が干物にされそうになったんだからね。」

リリスの言葉を聞きレイチェルは身を屈め、恐竜の着ぐるみを装った鞘をツンツンと突いた。

「なるほどねえ。上手く出来てるわね。」

レイチェルの仕草を見ながらジニアはう~んと唸って、何かを考え込んでいる。
しばらくしてジニアはミクを軽く睨み、問い質す様に口を開いた。

「捕食用の鞘ってこれ一つじゃないわよね! まだいくつもあるんでしょ?」

ジニアの言葉にミクはウッと唸って下を向いた。

ええっ!
これがまだいくつもあるの?

驚くリリスを横目に、チャーリーはうんうんと頷いた。

「やっぱりそうやな。そうやないかと思ったんや。」

「ジニア。把握出来てるんやったら、全部ここに持ってきてくれよ。」

チャーリーの言葉にジニアはうんと頷き、しばらく目を閉じた。
指で空中を何か所も差し示しているのだが、それは鞘を探しているような仕草に見える。
しばらくしてうんと強く頷き、ジニアは闇魔法の転移を発動させた。
その途端にリリス達の目の前の床に、ゴロっと転がる様に幾つもの鞘が出現した。

その数は5個。
そのどれもが内部に人型の魔物を捕えている。
鞘の中に見える干物状態のゴブリンやオークが不気味だ。

まあ、呆れたわねえ。

そう思ってリリスはミクを睨みつけた。

「ミク。あんたってこんなに鞘を拡散させていたのね。」

リリスの言葉にミクは神妙な表情で頷いた。

「しかも単に養分や魔力を吸い上げるだけじゃないわよね。その挙句に鞘の中に胞子を孕み、それを拡散させて繁殖までする仕組みになっているわ。」

ジニアの言葉にリリスはウッと呻いて言葉を失った。

こんなものを個別進化で産み出してしまっていたのか!

そんな思いがリリスの脳裏を駆け巡る。
だがミクはジニアの言葉に反論した。

「繁殖能力は・・・ほとんど無いですよ。それに拡散させる胞子は魔物の食用になりますからね。」

それが本当だったとしても、無条件に安心出来ないわね。

そう思いながらもリリスはミクに疑問を投げかけた。

「どうしてデニスを捕獲していた鞘だけが着ぐるみを装っていたの?」

「ああ、それは人族でも騙されるか試してみたんですよ。元々捕食鞘はゴブリンやオークを捕獲する為の物だったので、工夫をすれば人族でも捕獲出来るかなと思って・・・」

それで引っ掛かったのがデニスだったって事なのね。
要するにデニスって、判断力がゴブリン並みだと言う事かしら?

「ミク! そう言う工夫は禁止ね!」

リリスの強い口調にミクは神妙な表情でうんと頷いた。

ミクの様子を見ながらジニアは再度鞘を点検し始め、ウッと呻いてミクの方に目を向けた。

「この鞘から吸い上げるのは生気や魔力だけじゃないわね? もしかして捕獲した相手のスキルや能力まで奪っているの?」

ジニアの言葉にミクはしばらく黙り込んでいたが、ジニアがキッと睨むと黙って頷いた。

うっ!
そこまでするのね!

呆れるリリスを横目に、チャーリーがふんふんと悟ったような仕草をした。

「なるほどね。リリスが個別進化させたから、リリスの持つスキルや能力まで受け継いでるんやな。もちろんそのままやなくて、劣化コピーみたいなもんやけどね。」

そうなの?
私のせいなの?

納得がいかないリリスであるが、ミクにそのような能力があるのは脅威だ。

「あんたって何属性の魔法を使えるの?」

レイチェルの言葉にミクは指で3を示した。

「どうやって3属性も手に入れたのよ?」

「それは・・・捕獲した魔物の中に高齢のオークシャーマンが居たので・・・・・」

う~ん。
そう言う事なのね。

「でも、私から捕食鞘を奪わないでください。これが無いと私は生命を維持出来ないんですから。」

「ええっ? そうなの?」

「そんな風にリリス先輩が個別進化させたんですよ。」

そう言うとミクはうなだれて下を向いた。

「何となく分かってきたで。こいつは本体はエルフの棲み処にあるんやな。そこから抜け出さんようにロキが定めたけど、エルフを捕獲するわけにもいかんから、遠近に捕食鞘を拡散させたと言う事か。」

「そうなると、リリスが責任もってこいつを管理するしかないやろなあ。」

「ちょっと! こんな事を私に背負わせないでよ!」

怒気を孕んだリリスの肩をジニアがポンポンと軽く叩いた。

「でも個別進化させたのはリリスでしょ? だったらあんたの目の届く範囲で鞘を設置させれば良いわよ。」

「私の目の届く範囲って? どこに置けって言うのよ?」

リリスの言葉にレイチェルが口を開いた。

「それはリリスの得意とする領域で良いんじゃないの? 例えばダンジョンとかね。」

「ああ、それは良い考えやね。試しにシトのダンジョンに置いて、飽きたら他のダンジョンに移設させるのもアリやで。」

何だかなあ。
私の意思を無視して勝手に決めているわね。

そう思ってミクを見ると、懇願するような眼でリリスを見つめている。

「仕方が無いわね。分かったわよ。とりあえずシトのダンジョンね。でもレイチェルはそれで良いの?」

話を振られたレイチェルはうんうんと頷いた。

「まあ、良いわよ。私がダンジョンマスターをしていると言っても、片手間の仕事だからね。」

「それに何か不具合があるようなら、別のダンジョンに移動させれば良いだけだからね。」

レイチェルの言葉で他の亜神達も納得したようだ。

でもこれで良かったのかしら?

拭えない疑問を抱えつつ、リリスはミクの面倒を見る事を受け入れたのだった。











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