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ミクとミクル3
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エルフの棲み処。
ミクルが焼き払ってしまった大地を土魔法で開墾したリリスだが、世界樹の加護の提言によって、エルフ達の食糧問題の解決を図る事になってしまった。
世界樹の加護の実体化したフローラは、リリスの了承を得て、リリスの身体の中に戻った。
それに合わせてリリスは若干躊躇いながらも開墾地の中に立ち、おもむろに世界樹の加護を発動させた。
更に産土神体現スキルの発動を意識すると、リリスの身体中の魔力が激しく体内を渦巻き、足元が激しく振動し始めた。
それと同時に身体全体から、細い糸の様な魔力の触手が無数に突出し始めた。
リリスの身体が金色に輝き始め、足元の大量の魔力の触手によって身体が上に押し上げられていく。
リリスの目線の高さは既に5m近くになっていた。
この一連の状況は以前にアブリル王国の孤島で発動させた時や、異世界で世界樹の代わりに発動させた時と同じだ。
リリスの身体中から更に大量の魔力の触手が伸びていく。
その様子を見てエルフ達も驚きの声を上げた。
「あの少女は何者だ?」
「とても人族の仕業とは思えないぞ。」
「あれは人族の皮を被った魔物なのか?」
様々な憶測が飛び交っている。
だがオーリスは意外にも冷静に事態を見つめていた。
「騒ぐな! リリスから発する波動が分からぬか? あれは衰えた生命をも躍動させる波動だ。」
そう言いながらもオーリスは疑問を感じていた。
聖魔法でもないのに生命を躍動させる魔法など無いはずだ。
そのオーリスの疑問は次の瞬間に解かれてしまった。
リリスの身体から細胞励起の波動が辺り一帯に放たれてきたからだ。
その波動にエルフ達は身も心も癒されていく。
「これは・・・・・精霊界に存在するスキルではないのか? そうだとして何故、人族の少女がそれを操るのだ?」
オーリスは驚きながらも細胞励起の波動に身を委ねた。
一方、リリスの耳に次々とフローラの声が聞こえてきた。
『現在、進捗率30%です。』
『産土神体現スキルの進捗を早める為、世界樹の加護が全てのスキルや加護を管理します。』
『魔力吸引スキルを発動させます。』
その言葉と共に魔力吸引スキルが発動し、大地や大気から魔力を吸引し始めた。
その事によってリリスの周りに魔力の渦が発生し、激しい流れとなってリリスの身体に流れ込んでくる。
流れ込んできた魔力によって更に魔力の触手が発生し、周囲に伸びて行った。
5mほどの高さに押し上げられたリリスの身体を中心に、大量の魔力の触手が生い茂り、リリスの姿はまるで巨大な樹木の様な様相になって来た。
その触手の末端が全て仄かに光り始め、何かを探すように蠢き始めた。
『マザーが開墾された土地に残存する穀物の細胞や遺伝子情報を把握します。』
細く長い魔力の触手の先端から、周辺の土壌に含まれる細胞や遺伝子情報が取り込まれてきた。
だがそれが膨大なデータであるため、リリスの脳内の処理が追い付かない。
『脳内の処理を円滑に行なう為、覇竜の加護による脳内リミッターを解除し、未使用あるいは休眠中の脳細胞を全て活用します。』
脳内に休眠領域が切り開かれ、リリスの意識は幾つにも分割された様な感覚である。
高速で大量の処理が展開され、把握した個々の細胞の復元と回復の準備が整った。
『残存している穀物の細胞の復元と活性化を図ります。』
リリスの身体から伸びている大量の細い魔力の触手から、マックスレベルの細胞励起の波動が激しく放たれ始めた。
それは開墾地を覆い尽くし、地下へと浸透していく。
地面が振動し始め、開墾した大地から一斉に穀物の芽が生えてくると、エルフ達は驚愕の声を上げた。
ドライアドでも単体の植物の成長促進を図る事は出来る。
だが一面の広大な大地から一斉に穀物の芽が生えてくる状況など、エルフ達の常識でも有り得ない光景なのだ。
しかもここからが産土神体現スキルの真骨頂である。
『進捗率50%です。ここから更に成長促進を図ります。』
フローラの声と共に、穀物の細胞を急速に分裂増殖させる波動が生み出され、リリスの身体に生える大量の細い魔力の触手から広範囲に放たれた。
それと共に、マックスレベルの細胞励起の波動も放たれ、その相乗効果によって穀物の芽はぐんぐんと成長し、あっという間に収穫出来る状態にまでなってしまった。
その光景にエルフ達も息を呑んだ。
産土神体現スキルの作業が終盤にまで進むに連れて、リリスの脳や身体がじんじんと熱くなってきた。
だが高速の脳内作業によって脳全体が加熱し少し意識が朦朧とした状態の中、リリスは若干違和感を感じていた。
穀物の成長の際に僅かに時空の歪を感じていたからだ。
これって拙いんじゃないの?
もしかして穀物の異常な成長の際に時空を歪めているんじゃないの?
リリスのこの懸念はほどなく的中している事が分かるのだが・・・。
『進捗率100%です。これにて産土神体現スキルを終了させます。』
『なお、強制的に収穫直前の状態にまで成長させた穀物は、若干の遺伝子操作の影響で次世代を産み出せません。』
『収穫後の種蒔きには別途に交易などで、種籾を入手する必要があります。』
フローラの声に伴い、世界樹の加護はその機能を収束させていく。
身体中から伸びていた金色の魔力の触手が徐々に消え、僅かな数の触手がリリスの身体を支えながら地上に静かに降下させた。
だが身体の消耗は半端ではない。
眩暈と頭痛でふらつきながら、リリスはその場に立ち上がった。
自分自身に細胞励起を掛けて症状を緩和させると、オーリスがその傍に近付いてきた。
「リリス。エルフ達を代表して、改めて礼を言うぞ。」
そう言いながらオーリスが頭を下げ、リリスの手を握ろうとしたその時、リリスは遠方から大きな魔力の塊が近付いて来るのを感じた。それはオーリスも感じたようで、うん?と唸って後方の空を見上げた。
膨大な魔力が一点に集中して光の球となり、リリスの頭上に近付いて来る。
これは・・・・・レイチェルの魔力の波動だわ。
でもどうして?
オーリスや他のエルフ達が警戒する中、光の球がその目前に降り立ち、徐々に形を変えて水色のローブを纏った女性の姿になった。
やはりレイチェルだ。
しかも使い魔の姿でもなく、更にレイチェルの持つ膨大な魔力を隠そうともしていない。
怪訝そうな表情でレイチェルはリリスを見つめた。
「リリス、どうしたのよ? ロキがあれほど警告していた産土神体現スキルを発動させるなんて。」
「私はロキが直接問い質そうとしていたのを引き留めて、ここに駆けつけて来たのよ。」
どうやらレイチェルはリリスを擁護する為に、ロキを引き留めてくれたようだ。
リリスはレイチェルに感謝して、一連の事の次第を簡略に説明した。
その説明にレイチェルも驚きながら、一応は納得してくれた。
リリスとレイチェルとのやり取りを見つめながら、オーリスはリリスに問い掛けた。
「その女性は何者なのだ? 背後に纏う膨大な魔力でエルフ達も恐れおののいているのだが・・・」
オーリスの言葉にレイチェルは苦笑いをしながら、その魔力を人族レベルにまで抑え込んだ。
「慌てて駆け付けたから、隠ぺいするのを忘れていたわ。」
そう言って笑うレイチェルをリリスはオーリスに紹介した。
「レイチェルは風の亜神です。亜神本体の一部であり、我々との接触を図る端末でもあります。」
リリスの言葉を聞き、レイチェルは付け加える様に口を開いた。
「風の女神の使いだと思って貰って良いのよ。普段はそう言う事にしているから。」
リリスとレイチェルの言葉に、オーリスはう~んと唸って首を傾げた。
「リリス。お前はどうしてそのような存在と関りを持っているのだ?」
「とても人族だとは思えぬ・・・」
そう言いながらオーリスは考え込んでしまった。
その様子を見てウフフと笑いながら、レイチェルはリリスの方に目を向けた。
「リリス。時空の歪が僅かに生じているのは分かるわよね。時空を歪めてまで生物の成長を促進させるなんて・・・。これも産土神体現スキルから生じた弊害としか思えないわね。」
レイチェルの言葉に弁解しようとしたその時、リリスの脳裏にフローラの声が浮かび上がった。
『もう一度、実体化して良いですか? 私から話したい事がありますので。』
リリスが許可をすると、リリスの身体から魔力が流れ出し、レイチェルの目の前でフローラの姿に実体化した。
「あなたは・・・世界樹の加護の疑似人格なの?」
「はい。フローラと呼んでください。」
フローラはそう言うとレイチェルにお辞儀をした。
「世界樹の加護の発動回数が増えるに従って、加護自体がアップデートされました。私はその所産だと思ってください。」
「そうなのね。それであなたの用件は何なの?」
レイチェルの問い掛けにフローラは指で二を示した。
「用件は二点です。先ず一点目は風の亜神であるレイチェルさんへのお詫びです。お詫びと言っても私の本体である世界樹からのお詫びですが、ウィンディさんの魔力を取り込んでしまい、多大な迷惑をお掛けして申し訳ないと言っています。」
「ああ、その事ね。それなら私が覚醒したから問題ないわよ。」
「でも、その為にウィンディさんの分まで、亜神としての仕事の負担が増えているんじゃないですか? 世界樹はそれを案じているんです。」
フローラの言葉にレイチェルはうんうんと頷いた。
「そんなに気を遣わなくても良いわよ。負担が多ければリリスに負わせるだけだから。」
うっ!
それは無いわよ。
ニヤッと笑うレイチェルにリリスは怪訝そうな視線を向けた。
それをスルーするようにフローラは言葉を続けた。
「二点目は僅かに生じた時空の歪の件ですが、マザーの持つスキルの中に、この事に関しての解消を提案してくれるスキルがあります。」
えっ?
それって何?
そんなスキル、あったっけ?
リリスの疑問をレイチェルも感じていたようで、怪訝そうに口を開いた。
「それって何?」
「提案してくれているのは異世界通行手形です。実は既に相互で連携出来る状態にあるのですが。」
フローラの言葉にリリスもレイチェルも驚いた。
「異世界由来のスキル同士で連携するなんて・・・・・」
「そう言う連携が成り立つ事で、また異なる弊害が生じるんじゃないの?」
二人の疑問にフローラは手を横に振った。
「大丈夫ですよ。弊害は在りません。どちらもマザーの管理下に置かれているのですから。」
そう言いながら、勝手にアップデートしているじゃないの!
リリスの反論の思いを他所に、レイチェルはフローラに問い掛けた。
「その異世界通行手形が時空の歪を解消してくれるの?」
「はい。僅かな時空の歪であれば可能だと言っています。それに、既に実践済みだとも主張していますよ。」
そう言いながらフローラはリリスの目を見つめた。
「まあ、確かにそんな事もあったわね。」
リリスの言葉を受けてレイチェルは口を開いた。
「それじゃあ、試しにやってみてよ。何もしないよりはマシだろうからね。」
「えっ? 良いの?」
リリスの言葉にレイチェルはうんうんと頷いた。
それを受けて、リリスは改めて異世界通行手形の発動を促した。
リリスの足首がじんじんと熱くなり、白い靄のようなものが噴き出してくる。
それが実体化して半透明の三毛猫の姿になったのだが、その数は10匹以上にもなった。
半透明の三毛猫がその場から駆け出し、穀物の茂っている畑の一帯に拡散していくと、パチパチッとあちらこちらから火花が発生し始めた。
それに伴って時空の歪の気配が薄れていく。
程なく三毛猫の群れは消え去り、時空の歪の気配も消えた。
「本当に解消しちゃったわね。」
レイチェルの言葉にフローラはウフフと笑った。
レイチェルは首を傾げながら、リリスに問い掛けた。
「それにしてもこの異世界通行手形って何なの? とてもスキルとは思えないんだけど・・・」
「それが私にも良く分からないのよ。私の魂に紐付けされていたとも聞いたんだけどね。」
リリスの返答を聞き、フローラが口を開いた。
「この世界の視点から見れば不可解なものにしか見えませんよね。でも世界樹のある世界の視点からは別の物に見えます。」
「これはある種の人格を持った魔力の塊、この世界で言えば亜神のような存在であったようです。」
「でもマザーの持つスキルによってかなりの部分を削ぎ落され、スキルの形に落とし込められたと感じます。」
そうなの?
リリスの疑問にレイチェルも共感している様子だ。
「その削ぎ落したスキルって何なの?」
「はい。それはマザーの持つ最適化スキルです。私、つまり世界樹の加護も、このスキルによって残念ながら幾つかの権能を削ぎ落されましたからね。」
フローラの返答にリリスは納得した。
そうなのよね。
最適化スキルって、万能だとも言われた事があるからね。
私にとっては、いつも良い仕事をしてくれているスキルよ。
この後、フローラはリリスの身体の中に戻り、レイチェルも用件が済んだと言う事で消え去っていった。
後に残されたリリスはオーリスの空間魔法で、昏睡状態のミクルと共にマキの待つミラ王国の神殿に転送して貰ったのだった。
ミクルが焼き払ってしまった大地を土魔法で開墾したリリスだが、世界樹の加護の提言によって、エルフ達の食糧問題の解決を図る事になってしまった。
世界樹の加護の実体化したフローラは、リリスの了承を得て、リリスの身体の中に戻った。
それに合わせてリリスは若干躊躇いながらも開墾地の中に立ち、おもむろに世界樹の加護を発動させた。
更に産土神体現スキルの発動を意識すると、リリスの身体中の魔力が激しく体内を渦巻き、足元が激しく振動し始めた。
それと同時に身体全体から、細い糸の様な魔力の触手が無数に突出し始めた。
リリスの身体が金色に輝き始め、足元の大量の魔力の触手によって身体が上に押し上げられていく。
リリスの目線の高さは既に5m近くになっていた。
この一連の状況は以前にアブリル王国の孤島で発動させた時や、異世界で世界樹の代わりに発動させた時と同じだ。
リリスの身体中から更に大量の魔力の触手が伸びていく。
その様子を見てエルフ達も驚きの声を上げた。
「あの少女は何者だ?」
「とても人族の仕業とは思えないぞ。」
「あれは人族の皮を被った魔物なのか?」
様々な憶測が飛び交っている。
だがオーリスは意外にも冷静に事態を見つめていた。
「騒ぐな! リリスから発する波動が分からぬか? あれは衰えた生命をも躍動させる波動だ。」
そう言いながらもオーリスは疑問を感じていた。
聖魔法でもないのに生命を躍動させる魔法など無いはずだ。
そのオーリスの疑問は次の瞬間に解かれてしまった。
リリスの身体から細胞励起の波動が辺り一帯に放たれてきたからだ。
その波動にエルフ達は身も心も癒されていく。
「これは・・・・・精霊界に存在するスキルではないのか? そうだとして何故、人族の少女がそれを操るのだ?」
オーリスは驚きながらも細胞励起の波動に身を委ねた。
一方、リリスの耳に次々とフローラの声が聞こえてきた。
『現在、進捗率30%です。』
『産土神体現スキルの進捗を早める為、世界樹の加護が全てのスキルや加護を管理します。』
『魔力吸引スキルを発動させます。』
その言葉と共に魔力吸引スキルが発動し、大地や大気から魔力を吸引し始めた。
その事によってリリスの周りに魔力の渦が発生し、激しい流れとなってリリスの身体に流れ込んでくる。
流れ込んできた魔力によって更に魔力の触手が発生し、周囲に伸びて行った。
5mほどの高さに押し上げられたリリスの身体を中心に、大量の魔力の触手が生い茂り、リリスの姿はまるで巨大な樹木の様な様相になって来た。
その触手の末端が全て仄かに光り始め、何かを探すように蠢き始めた。
『マザーが開墾された土地に残存する穀物の細胞や遺伝子情報を把握します。』
細く長い魔力の触手の先端から、周辺の土壌に含まれる細胞や遺伝子情報が取り込まれてきた。
だがそれが膨大なデータであるため、リリスの脳内の処理が追い付かない。
『脳内の処理を円滑に行なう為、覇竜の加護による脳内リミッターを解除し、未使用あるいは休眠中の脳細胞を全て活用します。』
脳内に休眠領域が切り開かれ、リリスの意識は幾つにも分割された様な感覚である。
高速で大量の処理が展開され、把握した個々の細胞の復元と回復の準備が整った。
『残存している穀物の細胞の復元と活性化を図ります。』
リリスの身体から伸びている大量の細い魔力の触手から、マックスレベルの細胞励起の波動が激しく放たれ始めた。
それは開墾地を覆い尽くし、地下へと浸透していく。
地面が振動し始め、開墾した大地から一斉に穀物の芽が生えてくると、エルフ達は驚愕の声を上げた。
ドライアドでも単体の植物の成長促進を図る事は出来る。
だが一面の広大な大地から一斉に穀物の芽が生えてくる状況など、エルフ達の常識でも有り得ない光景なのだ。
しかもここからが産土神体現スキルの真骨頂である。
『進捗率50%です。ここから更に成長促進を図ります。』
フローラの声と共に、穀物の細胞を急速に分裂増殖させる波動が生み出され、リリスの身体に生える大量の細い魔力の触手から広範囲に放たれた。
それと共に、マックスレベルの細胞励起の波動も放たれ、その相乗効果によって穀物の芽はぐんぐんと成長し、あっという間に収穫出来る状態にまでなってしまった。
その光景にエルフ達も息を呑んだ。
産土神体現スキルの作業が終盤にまで進むに連れて、リリスの脳や身体がじんじんと熱くなってきた。
だが高速の脳内作業によって脳全体が加熱し少し意識が朦朧とした状態の中、リリスは若干違和感を感じていた。
穀物の成長の際に僅かに時空の歪を感じていたからだ。
これって拙いんじゃないの?
もしかして穀物の異常な成長の際に時空を歪めているんじゃないの?
リリスのこの懸念はほどなく的中している事が分かるのだが・・・。
『進捗率100%です。これにて産土神体現スキルを終了させます。』
『なお、強制的に収穫直前の状態にまで成長させた穀物は、若干の遺伝子操作の影響で次世代を産み出せません。』
『収穫後の種蒔きには別途に交易などで、種籾を入手する必要があります。』
フローラの声に伴い、世界樹の加護はその機能を収束させていく。
身体中から伸びていた金色の魔力の触手が徐々に消え、僅かな数の触手がリリスの身体を支えながら地上に静かに降下させた。
だが身体の消耗は半端ではない。
眩暈と頭痛でふらつきながら、リリスはその場に立ち上がった。
自分自身に細胞励起を掛けて症状を緩和させると、オーリスがその傍に近付いてきた。
「リリス。エルフ達を代表して、改めて礼を言うぞ。」
そう言いながらオーリスが頭を下げ、リリスの手を握ろうとしたその時、リリスは遠方から大きな魔力の塊が近付いて来るのを感じた。それはオーリスも感じたようで、うん?と唸って後方の空を見上げた。
膨大な魔力が一点に集中して光の球となり、リリスの頭上に近付いて来る。
これは・・・・・レイチェルの魔力の波動だわ。
でもどうして?
オーリスや他のエルフ達が警戒する中、光の球がその目前に降り立ち、徐々に形を変えて水色のローブを纏った女性の姿になった。
やはりレイチェルだ。
しかも使い魔の姿でもなく、更にレイチェルの持つ膨大な魔力を隠そうともしていない。
怪訝そうな表情でレイチェルはリリスを見つめた。
「リリス、どうしたのよ? ロキがあれほど警告していた産土神体現スキルを発動させるなんて。」
「私はロキが直接問い質そうとしていたのを引き留めて、ここに駆けつけて来たのよ。」
どうやらレイチェルはリリスを擁護する為に、ロキを引き留めてくれたようだ。
リリスはレイチェルに感謝して、一連の事の次第を簡略に説明した。
その説明にレイチェルも驚きながら、一応は納得してくれた。
リリスとレイチェルとのやり取りを見つめながら、オーリスはリリスに問い掛けた。
「その女性は何者なのだ? 背後に纏う膨大な魔力でエルフ達も恐れおののいているのだが・・・」
オーリスの言葉にレイチェルは苦笑いをしながら、その魔力を人族レベルにまで抑え込んだ。
「慌てて駆け付けたから、隠ぺいするのを忘れていたわ。」
そう言って笑うレイチェルをリリスはオーリスに紹介した。
「レイチェルは風の亜神です。亜神本体の一部であり、我々との接触を図る端末でもあります。」
リリスの言葉を聞き、レイチェルは付け加える様に口を開いた。
「風の女神の使いだと思って貰って良いのよ。普段はそう言う事にしているから。」
リリスとレイチェルの言葉に、オーリスはう~んと唸って首を傾げた。
「リリス。お前はどうしてそのような存在と関りを持っているのだ?」
「とても人族だとは思えぬ・・・」
そう言いながらオーリスは考え込んでしまった。
その様子を見てウフフと笑いながら、レイチェルはリリスの方に目を向けた。
「リリス。時空の歪が僅かに生じているのは分かるわよね。時空を歪めてまで生物の成長を促進させるなんて・・・。これも産土神体現スキルから生じた弊害としか思えないわね。」
レイチェルの言葉に弁解しようとしたその時、リリスの脳裏にフローラの声が浮かび上がった。
『もう一度、実体化して良いですか? 私から話したい事がありますので。』
リリスが許可をすると、リリスの身体から魔力が流れ出し、レイチェルの目の前でフローラの姿に実体化した。
「あなたは・・・世界樹の加護の疑似人格なの?」
「はい。フローラと呼んでください。」
フローラはそう言うとレイチェルにお辞儀をした。
「世界樹の加護の発動回数が増えるに従って、加護自体がアップデートされました。私はその所産だと思ってください。」
「そうなのね。それであなたの用件は何なの?」
レイチェルの問い掛けにフローラは指で二を示した。
「用件は二点です。先ず一点目は風の亜神であるレイチェルさんへのお詫びです。お詫びと言っても私の本体である世界樹からのお詫びですが、ウィンディさんの魔力を取り込んでしまい、多大な迷惑をお掛けして申し訳ないと言っています。」
「ああ、その事ね。それなら私が覚醒したから問題ないわよ。」
「でも、その為にウィンディさんの分まで、亜神としての仕事の負担が増えているんじゃないですか? 世界樹はそれを案じているんです。」
フローラの言葉にレイチェルはうんうんと頷いた。
「そんなに気を遣わなくても良いわよ。負担が多ければリリスに負わせるだけだから。」
うっ!
それは無いわよ。
ニヤッと笑うレイチェルにリリスは怪訝そうな視線を向けた。
それをスルーするようにフローラは言葉を続けた。
「二点目は僅かに生じた時空の歪の件ですが、マザーの持つスキルの中に、この事に関しての解消を提案してくれるスキルがあります。」
えっ?
それって何?
そんなスキル、あったっけ?
リリスの疑問をレイチェルも感じていたようで、怪訝そうに口を開いた。
「それって何?」
「提案してくれているのは異世界通行手形です。実は既に相互で連携出来る状態にあるのですが。」
フローラの言葉にリリスもレイチェルも驚いた。
「異世界由来のスキル同士で連携するなんて・・・・・」
「そう言う連携が成り立つ事で、また異なる弊害が生じるんじゃないの?」
二人の疑問にフローラは手を横に振った。
「大丈夫ですよ。弊害は在りません。どちらもマザーの管理下に置かれているのですから。」
そう言いながら、勝手にアップデートしているじゃないの!
リリスの反論の思いを他所に、レイチェルはフローラに問い掛けた。
「その異世界通行手形が時空の歪を解消してくれるの?」
「はい。僅かな時空の歪であれば可能だと言っています。それに、既に実践済みだとも主張していますよ。」
そう言いながらフローラはリリスの目を見つめた。
「まあ、確かにそんな事もあったわね。」
リリスの言葉を受けてレイチェルは口を開いた。
「それじゃあ、試しにやってみてよ。何もしないよりはマシだろうからね。」
「えっ? 良いの?」
リリスの言葉にレイチェルはうんうんと頷いた。
それを受けて、リリスは改めて異世界通行手形の発動を促した。
リリスの足首がじんじんと熱くなり、白い靄のようなものが噴き出してくる。
それが実体化して半透明の三毛猫の姿になったのだが、その数は10匹以上にもなった。
半透明の三毛猫がその場から駆け出し、穀物の茂っている畑の一帯に拡散していくと、パチパチッとあちらこちらから火花が発生し始めた。
それに伴って時空の歪の気配が薄れていく。
程なく三毛猫の群れは消え去り、時空の歪の気配も消えた。
「本当に解消しちゃったわね。」
レイチェルの言葉にフローラはウフフと笑った。
レイチェルは首を傾げながら、リリスに問い掛けた。
「それにしてもこの異世界通行手形って何なの? とてもスキルとは思えないんだけど・・・」
「それが私にも良く分からないのよ。私の魂に紐付けされていたとも聞いたんだけどね。」
リリスの返答を聞き、フローラが口を開いた。
「この世界の視点から見れば不可解なものにしか見えませんよね。でも世界樹のある世界の視点からは別の物に見えます。」
「これはある種の人格を持った魔力の塊、この世界で言えば亜神のような存在であったようです。」
「でもマザーの持つスキルによってかなりの部分を削ぎ落され、スキルの形に落とし込められたと感じます。」
そうなの?
リリスの疑問にレイチェルも共感している様子だ。
「その削ぎ落したスキルって何なの?」
「はい。それはマザーの持つ最適化スキルです。私、つまり世界樹の加護も、このスキルによって残念ながら幾つかの権能を削ぎ落されましたからね。」
フローラの返答にリリスは納得した。
そうなのよね。
最適化スキルって、万能だとも言われた事があるからね。
私にとっては、いつも良い仕事をしてくれているスキルよ。
この後、フローラはリリスの身体の中に戻り、レイチェルも用件が済んだと言う事で消え去っていった。
後に残されたリリスはオーリスの空間魔法で、昏睡状態のミクルと共にマキの待つミラ王国の神殿に転送して貰ったのだった。
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その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
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投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』
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