ひだまりを求めて

空野セピ

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第五章 港町での休息

海辺での鍛錬

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 宿屋に戻ると、先にマッドとティミーが帰って来ていて、食材の仕分けをしていた。
 ヴェノルが真っ先につまみ食いしようとするもウォックに首根っこを掴まれ、そのままソファーに投げ飛ばされる。
 そんなヴェノルを苦笑しながら、ティミーはウォックに視線を向けた。

「ウォック、ヴェノル、おかえり。どう? 高く売れた?」
「ただいま。あぁ。15,000ニルになった。思ったより換金出来たな」
「良かった。こっちも食材沢山買えたよ」
「この食材、殆どルグート産の物なんだぜ。鮮度も良いし、安いし味も良いぜ」
「へぇ、ルグート産の物か。確かに野菜や果物は美味いよな。ルバナでも少し売っていた気がするよ」
「へへっ、俺達の村の食材が旅の間でも食えるなんて嬉しいぜ」

 マッドとティミーは何処と無く嬉しそうで、ウォックもつられるように微かに笑った。
 ソファーで伸びているヴェノルは、不満そうに頬を膨らませる。

「ねーねーティミー、お腹空いた~。パンケーキ作ってよ~」
「はいはい、作ってあげるからちょっと待ってて。マッドとウォックは食べる?」
「俺は良いよ。剣の鍛錬してくるわ」
「俺も少し鍛錬してくる。夕食までには戻るよ」

 マッドとウォックはそこまでお腹が空いていないようで、ティミーのおやつを遠慮した。
 貴重な食材をあまり使いたくないのもあるが、今は二人共身体を動かしたいようだ。
 そんな二人にティミーは頷き、エプロンを手に取ると買ってきたばかりの食材を漁りだした。

「分かった。何かあったら呼ぶね。じゃあヴェノル、少し待っててね。何枚食べるの?」
「んっとね! 十枚!」
「はいはい、三枚が限界だからね。そんなに食べたら夕飯入らなくなっちゃうよ?」
「う、それは嫌だ......」
「じゃあ三枚ね。夕飯まで解散だね」
「そうだな。じゃあ、また後で」
「うん」

 マッドはティミーに挨拶すると、剣を持ち部屋を出る。
 その後を追うように、ウォックも部屋を出てようとするも、何かを思い出したのか一度ティミーの方に振り返り、ティミー向けて小さな袋を投げ渡した。

「そうだティミー、これ」
「わっ!? ウォック、なにこれ?」

 袋を開けると、クルミ程の小さな木の実が沢山入っていた。

「シェリーナッツだ。細かく砕けば満腹作用が出る。これを入れてパンケーキを作ればあの馬鹿でも三枚位で満腹になるだろう」
「ウォック、ありがとう......。本当、足りるか不安だったんだ」
「折角買い込んだこの量も二日で無くなりそうだしな。じゃあ、俺も行ってくる」
「行ってらっしゃい」

 食費の心配をしていたウォックが、ベルナスに着く前に木の実を集めていたのだろう。
 お金に厳しい所も有るな、と思いつつ、ティミーは部屋のキッチンを借りてパンケーキを作り始めた。



 一方マッドは海岸に向かい、剣を抜き一人で素振りをしていた。
 いつでも毎日鍛錬を怠らず、こうして時間のある時は素振りをしたり筋トレをしたりしている。

「五十八! 五十九!」

 数えながら素振りをするその額には、汗が滲み出ている。
 毎日必死にやらないと、強くなれない。
 そんな思いを抱えながら続けていると、背後から殺気を感じ、マッドはすぐ様に後ろに振り返り、剣を前にかざした。

 ガキンッ!!! 

 鈍い金属音が海岸に響き渡り、剣の刃から微かに火花が散る。
 振り返った先には、マッドの剣をヌンチャクで受け止めるウォックがいた。

「ウォック! てめぇ、どう言うつもりだ」

 そのまま体重を掛けて剣を押すも、ビクともせずマッドは歯を食い縛る。
 ウォックは微かに笑うと、ヌンチャクを振りそのままマッドの剣を弾き飛ばした。

「鍛錬するって言うから、付き合ってやろうかと思って」
「ったく、脅かすなよ。その割にすげぇ殺気感じたぜ」

 マッドは大袈裟に溜息を吐くと、弾き飛ばされたて砂浜に突き刺さった剣を抜いて剣に着いた砂を振り払った。
 ウォックは不敵に笑みを浮かべ、ヌンチャクを回し始める。

「背後を取られても直ぐに気付いただろ。気配の察知はかなり良いみたいだな」
「毎日鍛錬してりゃ自然に身につくさ。何だ、相手してくれんのか?」
「俺で良ければな。お前の実力も知りたいし」
「へっ。手加減しねぇぜ?」
「俺も手加減はしないぞ」

 お互い鍛錬をするに当たって、相手がいるのは丁度良い。
 実戦にもいかせるし、何よりお互いの力を知る事も出来る。
 マッドとウォックの意見が一致し、二人は互いに距離を取る。

「よっしゃ、行くぜ!!」

 マッドは一気に距離を詰め、ウォックに向けて剣を振るう。

「足は速いようだな」

 ウォックはヒラリとマッドの剣を交わし、脚でマッドの足元を目掛けて払おうとする。
 即座に気付いたマッドは飛び下がり、剣を大きく地面に向けて振った。

「翔空破!」

 マッドが叫ぶと、剣を振ったと同時に凄まじい剣圧が放たれる。
 突風の塊が一気に放たれた感じで、ウォックは直ぐ結界を張りマッドが放った剣圧を弾き飛ばした。

「ちっ」

 マッドは即座にウォックに向けて剣を振るう。
 ウォックはヌンチャクで剣を受け止めては弾き、海岸には金属が交わる音が何度も響き渡った。
 ずっと剣を振るうマッドに、ウォックは違和感を覚える。

(こいつ、ずっと剣だけだな。陽術が使えないタイプの人間か)

 戦いに置いて、陽術を用いる場合も多いが、全ての人間が陽術を使える訳ではない。

(試してみるか)

 ウォックは一度距離を取り、足元に水色の魔法陣を浮かべ精神を集中させる。
 魔法陣が強く輝くと、ウォックはマッドに向けて手をかざした。

「スプラッシュ・ノア!」

 ウォックが陽術名を言うと、マッドに向けて三つの水の束が向かっていった。

「やべぇっ......!」

 マッドは何とか二つかわすも、残りの一つが当たり体制を崩してしまう。
 それを見たウォックは、慌ててマッドの元に駆け寄った。

「おい、大丈夫か?」
「イッテェ~......。何とか大丈夫だ」

 剣を支えにして何とか立ち上がり、マッドは服に付いた砂を払い落とす。
 多少手加減していたようで、怪我はしていないようだ。
 しかし、ウォックの予感は的中したようだ。

「お前、陽術や結界は使えないのか?」

 ウォックの言葉に、マッドは顔を逸らす。

「使えねーよ。使えなくて何が悪い。だからこうして鍛錬してんだよ」

 マッドは立ち上がり、剣を空にかざした。

「俺は陽術も結界も使えねぇ。だからこそ、剣で頑張るしかねぇんだ。毎日鍛錬して、陽術が使えなくても負けねぇように」

 ニッと笑顔を見せるマッドに、ウォックは微かに笑い小さく息を吐く。

「成る程な。剣の腕は中々だな。だが結界が張れないなら戦闘になってもそこまで前に突っ込もうとするなよ」

「分かってるっての。さ、続きやろうぜ」
 
 マッドとウォックはお互い武器を構える。
 海岸には再び金属音が響き渡り、二人の鍛錬は夕日が海を照らすまで続いた。
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