無能は不要だと追放された最弱魔術師、実は時空魔術の才能を持つ最強魔術師だった 〜奈落にて覚醒した時空魔術師、王女の護衛となり学園で無双する〜

浮島悠里

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【第一章】

22 職員室での戦い

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 ナタリア・アッシュベリーは弱冠二十歳ながらにして、王家の懐刀、強力な魔術師の集まる『暗躍星座ゾディアック』の一員として、多くの戦果を上げ続けている一流の魔術師である。

 中でも、彼女は『暗躍星座ゾディアック』の面々の中でも上から数えたほうが早いほどの古株であり、幼いころからその一員として、数多の敵を処理してきた。
 
 貧民窟スラムの孤児であった彼女は、幼いころにラヴィニアに拾われた。
 母親はとある貴族の邸宅で働いていたメイドの一人で、その家の当主であった男に孕まされた挙句に捨てられ、元々身体の弱かったナタリアの母親は、貧民窟スラムの片隅で娘であるナタリアに看取られて息を引き取った。

 ――彼女が貴族のような華美なドレスを身に纏い、口調をお嬢様のようなそれにしているのも、ある種のコンプレックスのようなものだ。
  
 母を、自分を捨てた貴族が許せないという想い。

 だからこそ、妹のために全てを賭して『牢獄世界コキュートス』へ向かおうとしているリリーに好感を抱く。
 ノアに対する親しみにも、同じく貴族の家から理不尽に追放された者であるという共感の要素が多い――無論、それだけではないが。

 ともあれ、ナタリアはそのようにして十歳のころ、同じく当時十歳であったラヴィニアによって貧民窟スラムから拾い上げられ、過酷な戦闘訓練を積んだ後にラヴィニアの率いる『暗躍星座ゾディアック』へと加わった。

 そんな風に多くの戦闘経験を積み重ねた彼女だからこそ、すぐさまその違和感を察知した。

 ――空気がおかしいですわね。

 登校までの道のりにおけるリリーの護衛を終え、職員室に近付いたところで、ナタリアはその違和感を感じ取り、警戒を強める。

 何が起こっているのかは分からないが――何かが起こっていることだけは理解できた。

「ノア様に報告しておきましょうか……」

 懐から通信用の魔道具アーティファクトを取り出す。暫く待つと、すぐに繋がった。

「ノア様ですの? こちらナタリアですけれど、なにやら学園内で異常が発生しているみたいですので確認してまいりますわ」
「――ああ、こっちは異常なしだ・・・・・・・・・。それじゃあ俺はリリー様の方の護衛の方に専念させてもらうぞ」
「……? はい、了解ですわ」

 通信を切断する。
 僅かに違和感を覚えたものの、ナタリアはその違和感に気付くことがなかった。

 そうこうしている間に職員室に辿り着く。内部は不気味なほど静かだ。
 ナタリアは恐る恐る職員室への扉を開いた。

「な――」

 そして、絶句した。
 異様な光景だった。

 職員室の机などは全て脇に寄せられ、空いた地面に教員たちが一心不乱に何かを書き殴っている。
 赤いインクで――否、教員の一人がぺティナイフを取り出すと、躊躇いなく自身の腕を切り、溢れ出た血を用いて床に文様を描いていく。

 おぞましく、冒涜的な景色だった。

 虚ろな眼差しをした教員たちは、入ってきたナタリアに見向きもせず、ひたすらに血を用いて床に巨大な魔法陣を描いている。

「なんだかよくわかりませんが――止めた方が良さそうですわねッ」

 魔法陣の効果は分からない。
 魔法陣は既に大方完成しているが、しかし魔法陣を一目見てその効果を判別できるのは、よっぽど深く魔術に精通している者だけだ。

 ナタリアは魔術――特に座学はそれほど得意ではなかったため、術式を正しく把握しているのは、自身が戦闘に用いている魔術くらいのものであった。

 ナタリアは懐から薔薇の造花を取り出すと、「Access起動」と唱えた。
 造花が一瞬光り、白銀の細剣レイピアへと変化する。普段は小さな物品の形を取ることで持ち運ぶのに便利な、武器型の魔道具アーティファクトだ。

 その様子を見て、虚ろな目をした教員の一部がナタリアに攻撃を仕掛ける。

「――『刺突風スピア』」
「――『爆雷撃ギガボルト』」
「――『激流槍トライデント』」
「――『灼熱イグニス』」

 無数の魔術が発動。ナタリアへ飛来する。
 ナタリアはひらりひらりと踊るような仕草で、迫り来る攻撃の全てを回避。同時に、細剣を指揮棒タクトのように用いて虚空で何度か振り、一つの文字を描く。

「――『Isa』」

 それはルーン魔術という、詠唱魔術とは異なる魔術の一形態。
 呪文スペルではなく、刻印ルーンと呼ばれる簡易的な魔法陣を術式として用いる魔術だ。

 刻んだ刻印ルーンは『イサ』。
 その意は氷、静止、凍結。

 空中に描かれた刻印ルーンが淡く発光すると――次の瞬間、刻印ルーンを中心に発生した冷気が大氷塊を職員室に顕現させ、室内にいる者の大半を凍結させて拘束する。

 そしてこの氷はただの氷ではない。
 囚われた者の魔術発動を阻害する効果もあるため、魔術を利用して脱出したり、拘束された状態から魔術で攻撃を仕掛けてくるようなことを防げるのだ。

「ふう……」

 これで大半の無力化が完了した。
 できることなら、このまま職員室を抜け出してリリーの様子を確認しに行きたいところだが――そうもいかないようだ。

 何者かに操られてナタリアに襲いかかる教員のうち、六人ほどが『イサ』の氷塊による拘束を回避していた。
 彼らは連携を取りながらナタリアに攻撃を仕掛けてくる。

 教員の一人がナタリアに手を翳すと、莫大な雷光が迸った。
 ナタリアは再び『イサ』の刻印ルーンで氷塊を生み出し、雷の魔術を放った術者ごと呑み込む。

 しかし、教員の一人が氷塊に触れて詠唱をすると、氷塊は粉々に砕け散った。
 物質破壊の魔術――『粉砕ブレイク』だ。

 氷塊が砕け散る際に、氷塊に囚われていた教員は解放された代償として全身に裂傷を負って倒れ伏したが、しかし誰一人として気にする様子はない。
 更に一人の教員が『暴風テンペスト』を発動。『粉砕ブレイク』によって散らばった氷片を巻き込んで殺傷力を高められた嵐がナタリアを襲う。

「――『大鹿Algiz』」

 ナタリアが即座に虚空に新たな刻印ルーンを刻むと、刻まれた刻印ルーンを中心にして半透明の結界が発生。
 
 庇護を示す『大鹿アルシズ』の刻印ルーン
 効果は防護結界の生成。

 ガリガリガリッ――という氷片が結界を削る音が響くものの、結界は壊れることなく攻撃をなんとか防ぎきった。

 『暴風テンペスト』が止んだタイミングを見計らってナタリアが踏み込む。
 一番近くにいた男の教員に向かって駆け出す。
 同時に『イサ』の刻印ルーンによって職員室の中央を縦断する氷の壁を生み出すことで、他の教員による救援を妨げる。

 男は迎撃のために魔術を乱射するが、碌に狙いもせず闇雲に撃っただけの攻撃に被弾するようなナタリアではない。ほとんど速度を緩めることなく全て避けきると、大きく踏み込み、男の肩を細剣で貫いた。
 即座に抜き取り、痛みで動きを止める男の脇腹に回し蹴りを叩き込む。男は壁に寄せられていた机などを盛大に巻き込んで地面を転がり、気絶した。

 残り四人。
 だが同時に再び氷塊が『粉砕ブレイク』され、洗脳された教員たちは何者かの命令通りナタリアへと迫る。

「全く、しつこいお方は嫌われますわよ?」

 返事はない。相変わらず瞳は虚ろで、洗脳は簡単に解けそうにはない。
 残念なことにナタリアは魔術が苦手だった。唯一使えるのが戦闘用にラヴィニアによって叩き込まれたルーン魔術だが、生憎、その中に洗脳を解除できそうな刻印ルーンの心当たりはない。

「まあ、全員ぶちのめしてしまえば同じことでしょう――?」

 教員の一人の指先から熱線が射出される。
 氷塊では防げないと判断し、回避。膨大な熱量の余波が肌を焼く。床が僅かに蠢く、ナタリアは弾けるように後方へ跳躍する。床に亀裂が走り、隙間から無数の棘が飛び出す。『土棘』アースニードルだ。ドレスのスカートが巻き込まれて引き裂かれる。
 飛び散った床の断片がナタリアの柔肌を傷付けた。
 
 更に壁側へ下がり距離を取ったナタリアに対し、魔術の一斉掃射が加えられる。回避する隙間すらない密度の弾幕だ。
 『大鹿アルシズ』の刻印ルーンで防護結界を張るも、絶え間ない攻撃で結界は瞬く間に破られた――が、既にその場所からナタリアの姿は消えている。

 魔術の一斉掃射は必然的に術者側の教員たちの視界を遮っていた。
 ナタリアは細剣レイピアで魔術を切り裂き、道を強引に切り開きながら弾幕を突破し、疾走する。

「――勝利Teiwaz

 頬の掠り傷から流れ出る自らの血を用いて、自己の身体にルーンを刻む。
 ナタリアの足がいっそう加速した。
 身体強化の刻印ルーン、『勝利テイワズ』の効果だ。
 
 加速したまま教員の一人に接近する。迎撃の魔術を細剣レイピアで切り捨て、接近。そのまま胸倉を掴んで身体を持ち上げ、他の教員の方に向かって投げ飛ばす。

 残り三人。
 しかし彼らは躊躇なく、味方を平気で巻き込む軌道で魔術を乱射する。
 だがそれはナタリアからすれば、味方ごと氷塊を『粉砕ブレイク』する敵の行動を見た時点で予想済みだ。

 ナタリアは即座に跳躍すると、投げ飛ばされて宙を舞う教員の身体を踏み台にして更に再び跳躍、更には天井を蹴り、地面に着地。
 三次元的な機動で以って強襲を仕掛ける。

「――『|氷(Isa)』」

 敵はあくまでも操られているだけである以上、できるだけ殺さずに無力化したい。
 そのため細剣レイピアによる刺突ではなく『イサ』の氷塊によって拘束しようとするも、至近距離で氷塊が発生したために逃げ遅れた一人を除き、残る二人には回避される。

 けれど、これで残る敵は二人だけだ。

 ――だがここで、彼らはナタリアの予想外の行動を取った。

「――なっ」

 残る二人のうち、片方、男の教員が自らの首をナイフで切ったのだ。
 頚動脈から鮮血が溢れる。驚いて動きが止まった隙に、もう一人、女の教員がナタリアに魔術を放つ。ナタリアは慌ててそれを避けた。

 不味い――と思った時点で既に手遅れだった。
 男が溢れる血液を床に塗り、魔法陣を完成させる。慌てて止めようとしたナタリアだが、女がそれを阻む。

 そして――魔法陣が完成した。してしまった。

「ふ――ふふ、ふふふふふふふふふ」

 どこからともなく笑い声が聞こえる。不気味な、女の声だ。

 次の瞬間。
 床に描かれていた鮮血の魔法陣が――怪しく光った。
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