白亜の砦

富士宮伏見

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一章 元勇者パーティの男、ハクア

第一節 銀嶺の町【アルゲンテウス】

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「着いた~!」

「ここが雪の降る町!」

「【アルゲンテウス】か」



三人組の男が馬車からバタバタと騒がしく現れる。



「ひゅー!絶景!」

三人組のうち一人、金髪に黒色のメッシュの入った黒色ローブに身を纏った青年が銀嶺の山腹から見下ろす景色を眺めて言う。



「こっちもいいぞー!」

三人組のうち一人、剣を携えた茶髪の獣人の青年が銀嶺を見上げて言う。



「お前ら、はしゃぎすぎだ」

最後の一人がなだめるような声色で二人に言う。



「すみません、町の往来でしたね……」

「すまねえ、レイン先生」



二人の青年が視線を声の主に移すと。



「……ああ、いいんだ。謝るな」

埋もれていた。雪に。



「「あんたが一番はしゃいでんじゃねえか!」」



「ははは、久しぶりの雪だからな。埋まりたくなった」



「やっぱ天然だよこの人」



獣人の青年がローブの青年に小さく耳打ちする。



「馬鹿、これでも天才魔法学者って言われてるんだぞ」



ローブの青年は大きな声で言う。



「さて、それではこの町のギルドに登録しに行くとするか」



「雪に埋まったまま真顔で言わないでください」





――――アルゲンテウスのギルドにて



「いらっしゃいませー、銀嶺の町のギルドへようこそ!」



メガネをかけた銀髪の受付嬢が元気のよい声で扉から来た三人の男を迎える。



「ほほっほう!」



三人組のうちの一人、獣人の青年が奇妙な声をあげ、全力疾走で受付嬢の元へと駆けた獣人の青年は受付嬢の手を取った。

「お姉さん、もしよかったらこの後……」



その光景にレインは小さくため息をつき、小さな杖タクトを懐から取り出した。

「其は呼ぶもの、呼ぶ力、地が我らを呼ぶならば、天へ行けぬは道理也……『地よ叫べアンルフ・エールデ』」



「ぶびゃあ!」



レインが詠唱を終えると、獣人の青年はたちまち地に伏す。



「スダム、全くお前というやつは……」



「レイン先生、ちょっとやりすぎじゃないですか?」



ローブの青年はスダムと呼ばれた獣人の青年を憐れむような視線で見て言う。



「ああ、そうだな……、コホン、弟子が失礼したね」



「あ、いいですよ。よくあることといえばよくあることなので……」



「ならばよい、では本題に移るとしよう」



そう言ってレインは懐から手帳を取り出す。



「多分話は聞いていると思うが、一応見せておこう」



「これは……王立魔法学院の教員手帳。あなたがレイン先生ですね!」



「ああ、此度はこの町の魔法体系の研究に出張に参った。2、3か月は滞在する予定だから寝泊りする場所、そして日銭を稼ぐための場所の確保をするために登録をしに来た」



「ええ、知ってますよ。伝書ですでに確認済みです。ギルド裏手に専属冒険者用の宿舎がありますのでそこを活用してください。登録自体は日が変わった時点で事前に済んでますよ」



受付嬢は書類を出して、淡々と告げる。



「仕事が早くて助かるよ」



「部屋割りはどんな感じですか?」



ローブの青年が聞く。



「レイン先生の個人部屋と、ええと、トゥルスさんとスダムさんの二人部屋になりますね」



「ちぇー、またこいつと相部屋かー」



トゥルスがそういって地に伏したままのスダムを小突く。



その瞬間「バギィッッ!」と床が悲鳴をあげてスダムは床の下に落ちた。



「「「あ」」」



三人が同時に声をあげ固まる。



「……解除を忘れていた」



レインが舌を出して頭を押さえる。



「忘れていたじゃないでしょうがぁーーーー!」



それを見た受付嬢がレインの襟元をつかんでぐわんぐわんと揺らしまくる。



「スダム!? スダムーーーッ!」



トゥルスはぽっかりと床に空いた穴に向かって大声で叫ぶ。



「め……、めちゃ……痛い」



穴の底から声は辛うじて聞こえた。



「ああ、すまない、すまないから、待って、揺らさないで、解除させて、解除」



振り子のように揺らされ続けるレインは平謝りしながら言う。



「もう遅いんですよおおおおお!責任は最悪全部私に来るんですからねええええー!!」



受付嬢は半泣きのままレインの体をもう揺らして揺らして揺らしまくった。



「ああああ、ああああ、ああああああああ」



一方のレインは三半規管が限界を迎えたのか、もう「あ」しか言わなくなっていた。



「スダムーーーーッ!! 死ぬなぁああああああッ!」



またトゥルスは穴に向かって大声で叫んだ。



「はやく、たすけて……」



やはり穴の底から声は辛うじて聞こえた。







「ふぅ、なんとかなったな」



「なってないですからね!結果は覆りませんからね!!穴は塞がりませんからね!!!」



受付嬢は大きな声で言う。



「スダム、大丈夫か……?」



「大丈夫じゃない……」



トゥルスは床に倒れこむスダムの傷を確認しながら言う。



「ああ、一か所骨が折れてるな……回復魔法は俺とレイン先生は使えないし……」



トゥルスが頭を抱える。



「……はぁ」



その時、トゥルスの背後から小さなため息が聞こえた。



「そこで寝るな。邪魔だ」



白髪の男だ。魔法使いのようで杖を持っている。



「うっ、すみません。でもこいつケガをしてて……、担架か何かがないと不用意に動かせません……」



「ケガならもう治っているだろう」



白髪の男が杖でスダムのことを指す。



「え?」



トゥルスは目を見張ってスダムの骨折部分を見る。



「な……治ってる!?」



「え、マジ!? ほんとだ、全然痛くねえ!!」



スダムはそういって跳ね起きると元気に歩き回る。



「ふん」



男は二人が自分の進行方向からいなくなったのを確認すると鼻を鳴らして、受付嬢の元へ行く。



「あっ、ありがとうございます」



スダムが大きな声で男の背に声をかける。



男は一瞬だけ止まったが、意にも介さず、受付嬢に声をかける。



「イディム、今日は何かいい依頼あるか?」



「ああ、ハクアさん。ちょっと待ってくださいね。この人と今は話をしてますので」



「ふむ」



ハクアと呼ばれた男は返事だけした後、近くの席についた。



「で、レイン先生。この床は必ず弁償してくださいよ」



「わかっている。私の責任だ。すぐに資金を用意しよう」



レインは深く頷いて言った。



「……では、現在の見積もりだとこの額です」



「……すまない、無理になった。これでは2か月の資金が全部消える」



「無理になったじゃないです。あなたの責任です」



「……では、何かいい依頼はないか?それをこなして稼ごう」



レインの言葉ににっこりと笑みを浮かべて受付嬢改め、イディムはカウンターの上に「ドンッ」と一枚の紙を叩きつけた。



「これをお願いします」



その紙には白色の小型の竜が描かれていた。



「……ホワイトリザードの群れの討伐か、ずいぶんと報酬の額もいいようだが」



レインがその紙を見て言った。



「ええ、この山には竜種の魔物がたくさん潜んでいるので、この町は日夜危機に脅かされているのです」



「確かに竜種ともなると危険度も高い」



「ちょうどこの時期になると頂上付近から小型の群れが食料を求めてやってくることがあるのです。なので巣に直接向かって、頭数を減らしてほしいということです」



「しかし、群れか。例年だと何頭くらいいるのだ?」



「去年だと、巣に行って討伐したものと町に来たものを討伐した数が合計30頭くらいで、確認された数は50頭くらいですね」



イディムは書類を見ながら言う。



「え?」



「ですから確認できたのは50頭くらいです」



「別の依頼はないか?」



「……あら、残念。今はこの依頼しかないみたい」



イディムはわざとらしくほかの書類をカウンターから除けながら言う。



「嘘だろう」



「いいえ、あなたがたが受けられる依頼はこれしかないという意味です。この依頼は過酷すぎて受けたがる人が少ないのでやってください」



「嫌といったら?」



「やれ」



イディムは今までからは想像もつかないような鋭い声色で言った。



「……」



渋々といった様子でレインは紙にサインをしてイディムに渡す。



「はい、契約完了でーす。では、三日以内に直接ホワイトリザードの巣を叩いて、討伐数を報告してください。あ、10頭は倒さないと完了にはなりませんので悪しからず~」



イディムはにこにこと笑って言った。



「レイン先生、大変なことになりましたね……」



トゥルスが言う。



「もう今更だ。やるしかないだろう……」



レインがため息交じりに言う。



「イディムさん……怖い……」



スダムはハクアと話しているイディムを見ながら言った。



「しかし、私たち三人では確かにホワイトリザード数体は倒せると思うが数で押されて負けるぞ」



「魔法使いは広範囲の攻撃で敵を一網打尽にできても、詠唱っていうプロセスを踏む必要がある分、まとめてかかってこられたら手も足も出ずに死にますよ」



「どうすればいいんすかねぇ……」



「金銭的に苦しいが傭兵を雇うしかあるまい……」



レインは苦い顔をして言った。



「おい、お前ら」



三人が話し込んでいると背後から声がかかった。

ハクアだ。



「その依頼、俺も参加させてもらう」

「「「え?」」」
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