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「そこにいるのって、まさか、ななみ?」
女の声が張り詰めた空気を破った
。
すい、とうみちゃんは海のほうへ体の向きを変える。
のろのろと声のしたほうへ顔を向けると、そこにいたのは七海のかつての同級生だった。
長い茶髪をひとまとめにして、仕事着なのかジャージの上下を着ている。たしか彼女は漁師の跡取りと結婚したのだ。
「……ミキちゃん」
小さく名を呼ばれ、浅井美希は不機嫌そうな顔をさらに歪めた。
「こんなところでなにしてんの? 宇宙と交信? いるだけでうぜーからおとなしく家に引っ込んでなよ」
浅井美希と倉本七海は保育園から高校までずっと一緒で、中学に入った頃は一番仲がいい友達だった。
しかし母が消えたと言い募る七海にまっさきに冷たい言葉を投げかけいじめ始めたのは、美希だった。
「ミキちゃん」
美希の舌打ちが聞こえる。
元気で優しかった仲良しのミキちゃんの仕打ちは、多感な思春期の七海の心をへし折った。
美希に会うのは高校卒業以来だ。
3年も経っているが、また傷つけられるのかと、美希を前にすると勝手に足が震えた。
「ミキちゃん? 馴れ馴れしいわー。あんたほんとイライラさせるね。いつまで被害者ぶって引きこもりとかしてんの? だいたいあんたが大袈裟に言ったせいで」
さっきは家に引っ込んでろと言ったのに引きこもるのもだめなのか。だんだんとヒートアップしてきた美希の声がぴたりと止まる。
跪いていた慶がふらりと立ち上がったのだ。
「……ごめんなさいねぇ、急な暑さで具合悪くなっちゃって。帰りましょななみちゃん」
ぽん、と肩に手を置かれる。服の上からわかるほどそのてのひらは冷たい。
見上げた美しい額には汗で前髪が張りついている。
「えっ……、あ、あのぉ、わたし、えーとななみ、そのイケメンはどちら様?」
七海に向けたきつい声音からうってかわって、甘えるような声で美希が言う。
慶は田舎ではお目にかかれない、とんでもないイケメンだ。美希の目はすっかりハートだ。
「運転はわたしがするわ。行きましょ」
そう言って背中を押され、助手席に座らされる。
優しい声を出しながら美希を冷たく睨みつけたことに、七海は気づかなかった。
慶がエンジンをかけ、車を走らせる。
シートを目一杯さげたが背が高く足の長い慶に七海の軽自動車は窮屈そうだ。
バックミラーには遠ざかる美希がうつっている。表情はわからない。
遠足で一緒にお弁当を食べたミキちゃん。一緒に走り回って遊んだミキちゃん。お祭りだって一緒に行った。
仲良しだったミキちゃんの、結婚相手の苗字すらわからない。
どうしてこうなってしまったんだろう?
いじめられた記憶より、もっと前の楽しかった思い出ばかりが思い起こされて、車に揺られながらぽろりと涙がこぼれた。
女の声が張り詰めた空気を破った
。
すい、とうみちゃんは海のほうへ体の向きを変える。
のろのろと声のしたほうへ顔を向けると、そこにいたのは七海のかつての同級生だった。
長い茶髪をひとまとめにして、仕事着なのかジャージの上下を着ている。たしか彼女は漁師の跡取りと結婚したのだ。
「……ミキちゃん」
小さく名を呼ばれ、浅井美希は不機嫌そうな顔をさらに歪めた。
「こんなところでなにしてんの? 宇宙と交信? いるだけでうぜーからおとなしく家に引っ込んでなよ」
浅井美希と倉本七海は保育園から高校までずっと一緒で、中学に入った頃は一番仲がいい友達だった。
しかし母が消えたと言い募る七海にまっさきに冷たい言葉を投げかけいじめ始めたのは、美希だった。
「ミキちゃん」
美希の舌打ちが聞こえる。
元気で優しかった仲良しのミキちゃんの仕打ちは、多感な思春期の七海の心をへし折った。
美希に会うのは高校卒業以来だ。
3年も経っているが、また傷つけられるのかと、美希を前にすると勝手に足が震えた。
「ミキちゃん? 馴れ馴れしいわー。あんたほんとイライラさせるね。いつまで被害者ぶって引きこもりとかしてんの? だいたいあんたが大袈裟に言ったせいで」
さっきは家に引っ込んでろと言ったのに引きこもるのもだめなのか。だんだんとヒートアップしてきた美希の声がぴたりと止まる。
跪いていた慶がふらりと立ち上がったのだ。
「……ごめんなさいねぇ、急な暑さで具合悪くなっちゃって。帰りましょななみちゃん」
ぽん、と肩に手を置かれる。服の上からわかるほどそのてのひらは冷たい。
見上げた美しい額には汗で前髪が張りついている。
「えっ……、あ、あのぉ、わたし、えーとななみ、そのイケメンはどちら様?」
七海に向けたきつい声音からうってかわって、甘えるような声で美希が言う。
慶は田舎ではお目にかかれない、とんでもないイケメンだ。美希の目はすっかりハートだ。
「運転はわたしがするわ。行きましょ」
そう言って背中を押され、助手席に座らされる。
優しい声を出しながら美希を冷たく睨みつけたことに、七海は気づかなかった。
慶がエンジンをかけ、車を走らせる。
シートを目一杯さげたが背が高く足の長い慶に七海の軽自動車は窮屈そうだ。
バックミラーには遠ざかる美希がうつっている。表情はわからない。
遠足で一緒にお弁当を食べたミキちゃん。一緒に走り回って遊んだミキちゃん。お祭りだって一緒に行った。
仲良しだったミキちゃんの、結婚相手の苗字すらわからない。
どうしてこうなってしまったんだろう?
いじめられた記憶より、もっと前の楽しかった思い出ばかりが思い起こされて、車に揺られながらぽろりと涙がこぼれた。
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