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4.マルハチゴーの屋敷
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皆が眠ったあと、スマホを見た。
祖父母から早く帰ってきてと、放置してすまなかったとメールが来ている。
父方の祖父母は優しい人達だ。
兄夫婦が亡くなり、二人揃って弱かった体の体調が悪化。孫に面倒見させるわけにはいかないと私を妹夫婦へ預けた。
叔父叔母の家でのことは何も話していないから、たぶん二人から何かを聞いたのだろう。
しばらくは帰れないことと、人と一緒だから大丈夫であることを文に纏めて送信した。
「寧奈」
「ん? おはよう」
「大丈夫?」
「うん。もう寝るよ」
フルフラットになった後部席から起き上がったトーキはそばに寄ると、暗い顔をしている寧奈の頭を撫でた。
トーキは昼間二時から寝ていたので、もう起きたのだろう。
頭を執拗に撫でられ、鬱陶しくなってきて手を払い除けた。
トーキはくすくすと笑う。
「何かあったらすぐ相談してね」
「うん」
「おやすみ」
翌日、寧奈はタブレットをスマホに繋げて遅い回線の中で何かをする。
「ねーなー何してるの?」
「レポート」
「レポ?」
「学校の課題。通信制だからレポートが必須なの」
「学校!」
突然トーキが叫び、車がコンビニに入った。
買い物かトイレかなと思ったら、運転席にいた東に肩を強く掴まれた。
「ごめんッ……!」
「なんですか?」
「学校のこと失念してたッ!」
「別に、通信制なので大丈夫です。登校しなくても大丈夫なところですから。そうじゃなけりゃちゃんと言ってますから」
「通信制ってどうやって卒業するの?」
「レポートとスクーリングとテストクリアして三年間いたら」
「すくーりんぐ」
「合宿みたいなもんだよ。まだ行ったことないから分かんないけど」
だから大丈夫ですと取り乱している東を宥める。
「瞬さんは高校どうしてたんですか?」
「全日制だったよ。僕ここに入ったの今年の四月からだから」
「そうなんですね」
東は落ち着いてからまた車を出して、寧奈はタブレットから顔を上げる。
「……どこに向かってるんですか?」
「ハチマルゴー支部だ。新人が入ったらしい」
「はっぴゃくご……」
「時々新人研修もやってるんだよ。ハルさん凄腕だからね」
「うちの班はバランスがいいんだ。瞬は機械担当、トーキは付喪神持ちだし」
「……わたし、お荷物では……」
「まさか! いいナビ係さ。研修、寧奈も受けるといい」
「あ、はい! よろしくお願いします……!」
お昼になって、美味しそうな定食屋があったのでそこに入った。
メニューを見て、何にしようかなと悩む。
「私とんかつにする~」
「んー……カキフライ定食にします!」
「瞬も決まったか?」
「カキフライとチキン南蛮で迷ってる」
「カキフライ、良ければ一つか二つかあげますよ。量多いだろうし……」
「いいの?」
「はい」
「じゃ、チキン南蛮」
食べ始めて、四人とも美味しい美味しい定食に頬を緩める。
「でも、こんな外食ばっかりしてて大丈夫なんですか? この前も焼肉行ったし」
「経費引き上げたんだ。366日車中泊ってのも体に悪いし、月一でぐらいホテルに泊まれるように」
「で……食費が増えたんですか?」
「偽造データぶっ込んでかさ増しした。お偉い様方は揃いも揃って箱入り王子だからな。ホテルの相場なんか知るわけねぇんだわ」
「わっる」
「車中泊生活強いて来る方が悪い。もっと言うなら? 常識が無い奴らの方が悪い!」
また悪魔のように笑う東に三人でドン引きしていると、東がにょきっと体を伸ばした。
「おー偶然っすね!?」
「久しぶり~」
「お久しぶりですッ!」
「声抑えろ。迷惑だから」
見ると、五人組の人達が揃って頭を下げた。
「誰ですか?」
「ハチマルゴーの人達。支部、わりとこっから離れてるはずなんだけど……」
「さっきそこで騒ぎがあって! マルフタ班が反応無いからって要請が」
「あー、寧奈の邪魔になると思って通信切ったんだ。悪いなぁ」
「ネナ?」
「うちの新入り」
瞬の隣から覗いた寧奈はペコッと会釈をして、ずっと話していた若い男の人は目を輝かせる。
「めっさ美人……!」
「なんでセーラー服なわけ?」
後ろから女の人が顔を覗かせ、キツく眉を寄せた。
「私服っていう私服を持ってなくて……」
「高校生アピ? うざ」
「うざとか言わんの識ちゃん!」
「気にしなくていいからね寧奈」
「してないよ、大丈夫」
「敬語使えよ先輩だろ」
「スミマセーン」
寧奈は半笑いでご飯を食べ始め、向かいにいた東とトーキは苦笑いする。
話の節々で感じるが、寧奈って案外気が強い。
「んじゃまたあとで」
「はい!」
ご飯を食べ終わってしばらく雑談をして、寧奈がデザートを見ていたのでデザートも注文して。
「んま……!」
「甘いものは別腹か」
「アイスは別腹です」
アイスを二種類、抹茶とそばのアイスを食べた寧奈は幸せそうに笑い、それ見れたら満足な東は財布からカードを出した。
「んじゃ行くか」
「はーい」
四人に合わせてハチマルゴーも出てきて、東が先に会計する。予め、奢らんからなと釘を刺して。
「あの……」
スマホを見ていると、店員に話し掛けられた。
「はい?」
「これ、僕の電話番号です。迷惑じゃなければ……」
「あ……ありがとうございます……」
受け取ってしまって、男子は去っていく。見たところ同年代っぽかったが。
「何貰ったの?」
「電話番号」
「モッテモテー! 捨てな」
「うん……」
それは読み終わる前に、トーキに回収された。別に欲しいものでもないので、取り返そうともしない。
会計の終わった東にくっ付いて駐車場に出ると、あとから会計を終えたハチマルゴーもやってくる。
「さっき紹介出来なかったんですけど、新入りの小菜津です。十四歳です! わけぇでしょ!」
「わけぇってか幼い。子供やん」
紹介された小菜津の眉がギュッと寄り、東を睨んだ。
「小学生が馬鹿にすんな」
「悪いが俺は成人してる。マルフタのリーダー兼運転手だ」
「チビ」
東の笑顔がスっと消えて、さっきからちょっと機嫌の悪いトーキと共に、空気が地の底に落ちる。
「そ……それじゃあまたあとで……!」
「え、謝罪は?」
寧奈が子供を指さして男を見上げると、男は青い顔のまま子供に謝るように促した。
「チビはチビじゃん……」
「子供って言われて腹立ったんか小学生に馬鹿にされたんが気に食わないんか知んないけど人に暴言吐いて開き直んのは年齢関係無くクズだぞ」
「は? 人馬鹿にする方がクズだろ。上から目線に説教垂れんな」
「こいつもクズでお前もクズだ。東さんも謝って」
「悪かった。ごめん」
「ほら謝って」
餓鬼が顔を逸らして、寧奈が舌打ちした。
「これに教えるためにわざわざここまで来たんですか?」
「まぁ新入りだからな」
「ありがとうとごめんなさいぐらい五歳児でも言えますよ」
「五歳児以下なんだろ。可哀想なこった。行くぞ~」
「私子供嫌いなんです」
「お前も子供だ」
「自分も嫌い」
「おぉそっか……」
思ってた返答と違った東は思わずたじろいで、寧奈が一番不機嫌になりながら、リアシートに乗り込んだ。
イヤホンをつけて一人うずくまる。何も聞こえてなさそうだ。
「……寄り道するか」
途中で車を停めて、東は一人降りて行った。
「寧奈、ねーな」
「……何?」
「最近足どう? もう痛くない?」
席を少し倒したトーキの言葉に、寧奈はイヤホンを片付けると長い靴下を脱いだ。
「ちょっと膿んだ」
「わ。消毒しよう、瞬ケースちょうだい」
「ん」
リアシートに移ったトーキが消毒液を染み込ませたガーゼで激痛消毒をしてくれて、半泣きの寧奈は顔を押さえる。
「大丈夫? もう終わるから」
「いたぁい……!」
「傷口が開いたりしなくてよかったけど……」
抜糸したあと、比較的綺麗に治ってくれていたのに、やはりずっと長い靴下で擦れていたからだろう。一気に悪化した。
「短い靴下あるでしょ? 履き替えて」
「足汚いんだもん……」
「汚くないよ。薬ぐらい買うから」
不服そうな寧奈は渋々スニーカーソックスに履き替えて、傷をちょんちょん触ってトーキに怒られる。
と、瞬がブランケットをくれた。
「これ掛けてたら気にならないんじゃない?」
「わ、ありがとうございます」
「……僕もタメ口でいいよ。一番歳近いし」
「そ……そう?」
「うん」
「ありがとう」
シートに足を上げてブランケットを掛けていると、東が戻ってきた。
後部席を開けて、寧奈にアイスを差し出す。
「さっきのお礼」
「アイス! ありがとうございます! なんのお礼ですか?」
「こいつもクズでお前もクズのお礼」
「あ……クズって言ってすみませんでした。ごめんなさい」
「いや、ちゃんと言ってくれてありがとう」
少し照れている寧奈はアイスを受け取って、それを一口食べる。
「ん、美味し!」
「りんご味だって」
「めっちゃ美味しいです! アップルパイみたい!」
「えー美味しそう! 一口ちょうだい」
「おいこら自分で買ってこい」
「ハルさん買ってー!」
「自分で実費で行け」
寧奈がトーキに一口あげてしまい、東は幸せそうなトーキの頭をポコっと殴る。
「足大丈夫か?」
「ちょっと膿んでて。靴下短いのに履き替えて、隠してます」
「そっか、支部にも医務室あるから見てもらった方がいいかもな。ここの医者はいいぞ、腕も人もいい」
東が言うならちょっと信頼出来るかも。
本部の方の医務室は、軽いトラウマだ。
「んじゃ行くぞー」
「はーい」
東は地図を見ずに慣れたように道を進み、車はどんどんどんどん山に入っていく。
この八人乗りではキツいような山道も、ガンガンガンガン進んで。
山道を越え、崖を越え、橋を越え、寝ている鹿を叩き起しながら。
「着いたー」
「東さん運転上手ですね……」
「ゴールド免許」
適当に拍手を送りながら、山の中にあった旅館のような場所を見上げた。
本部と似た空気感の、平屋では無いが木造の家。太い焦げ茶の柱に黒の瓦に、ガラスの無い木板の窓。
「古い建物ですね……」
「明治からあるらしい」
「へ、すご!」
「てか明治にはもうあったらしい」
「ここすごいんだよ」
四人横一列に玄関前に並んで、寧奈は言われた通り二度合掌をした。
目を伏せ頭を下げた次の瞬間、足は地面を離れ、腰が抜けて座り込んだ。
『ィッ、イらッ、しャーイ』
和装の女の、一つ目が縦に付いた女の人。付喪神だ、たぶん。
手に掬い上げられていて、砕けた腰で立てなくなって。
「館! 下ろして下ろして、怖がってるよ!」
『こわ、こワーい?』
「え、や……び……びっくり、しただけで……」
なんか、怖いと言ったら殺される気がして、大丈夫と虚勢を張った。
下がまるで見えないけれど、ずっと男の人の声が聞こえて、説得された付喪神は寧奈を下ろした。
『オ、おいデ~』
「寧奈、大丈夫!?」
バンッと玄関が開いて、湿った地面に座り込んだ寧奈がずるずると謎の引力で引きずられる。
「トーキ絶対入れんな! 閉めろ」
「抱っこするね」
──付喪神 帯──
「かッ……てぇッ……!」
玄関が閉まらなくて、トーキは寧奈を帯で捕まえながら車に向かう。
車に走った東が、屋敷に戻って玄関を閉めた。
「うちのッ! 新入り次連れ込もうとしたらただじゃおかねぇぞッ!」
『ァ"、レぇ?』
「お前もちっとは制御しろアホッ!」
玄関扉を閉めると引力が収まって、東は安心して手袋を外した。
直後、再度玄関が開き、車から地面に引きずり下ろされた寧奈が何かに足を引っ張られながら屋敷に引きずり込まれた。
祖父母から早く帰ってきてと、放置してすまなかったとメールが来ている。
父方の祖父母は優しい人達だ。
兄夫婦が亡くなり、二人揃って弱かった体の体調が悪化。孫に面倒見させるわけにはいかないと私を妹夫婦へ預けた。
叔父叔母の家でのことは何も話していないから、たぶん二人から何かを聞いたのだろう。
しばらくは帰れないことと、人と一緒だから大丈夫であることを文に纏めて送信した。
「寧奈」
「ん? おはよう」
「大丈夫?」
「うん。もう寝るよ」
フルフラットになった後部席から起き上がったトーキはそばに寄ると、暗い顔をしている寧奈の頭を撫でた。
トーキは昼間二時から寝ていたので、もう起きたのだろう。
頭を執拗に撫でられ、鬱陶しくなってきて手を払い除けた。
トーキはくすくすと笑う。
「何かあったらすぐ相談してね」
「うん」
「おやすみ」
翌日、寧奈はタブレットをスマホに繋げて遅い回線の中で何かをする。
「ねーなー何してるの?」
「レポート」
「レポ?」
「学校の課題。通信制だからレポートが必須なの」
「学校!」
突然トーキが叫び、車がコンビニに入った。
買い物かトイレかなと思ったら、運転席にいた東に肩を強く掴まれた。
「ごめんッ……!」
「なんですか?」
「学校のこと失念してたッ!」
「別に、通信制なので大丈夫です。登校しなくても大丈夫なところですから。そうじゃなけりゃちゃんと言ってますから」
「通信制ってどうやって卒業するの?」
「レポートとスクーリングとテストクリアして三年間いたら」
「すくーりんぐ」
「合宿みたいなもんだよ。まだ行ったことないから分かんないけど」
だから大丈夫ですと取り乱している東を宥める。
「瞬さんは高校どうしてたんですか?」
「全日制だったよ。僕ここに入ったの今年の四月からだから」
「そうなんですね」
東は落ち着いてからまた車を出して、寧奈はタブレットから顔を上げる。
「……どこに向かってるんですか?」
「ハチマルゴー支部だ。新人が入ったらしい」
「はっぴゃくご……」
「時々新人研修もやってるんだよ。ハルさん凄腕だからね」
「うちの班はバランスがいいんだ。瞬は機械担当、トーキは付喪神持ちだし」
「……わたし、お荷物では……」
「まさか! いいナビ係さ。研修、寧奈も受けるといい」
「あ、はい! よろしくお願いします……!」
お昼になって、美味しそうな定食屋があったのでそこに入った。
メニューを見て、何にしようかなと悩む。
「私とんかつにする~」
「んー……カキフライ定食にします!」
「瞬も決まったか?」
「カキフライとチキン南蛮で迷ってる」
「カキフライ、良ければ一つか二つかあげますよ。量多いだろうし……」
「いいの?」
「はい」
「じゃ、チキン南蛮」
食べ始めて、四人とも美味しい美味しい定食に頬を緩める。
「でも、こんな外食ばっかりしてて大丈夫なんですか? この前も焼肉行ったし」
「経費引き上げたんだ。366日車中泊ってのも体に悪いし、月一でぐらいホテルに泊まれるように」
「で……食費が増えたんですか?」
「偽造データぶっ込んでかさ増しした。お偉い様方は揃いも揃って箱入り王子だからな。ホテルの相場なんか知るわけねぇんだわ」
「わっる」
「車中泊生活強いて来る方が悪い。もっと言うなら? 常識が無い奴らの方が悪い!」
また悪魔のように笑う東に三人でドン引きしていると、東がにょきっと体を伸ばした。
「おー偶然っすね!?」
「久しぶり~」
「お久しぶりですッ!」
「声抑えろ。迷惑だから」
見ると、五人組の人達が揃って頭を下げた。
「誰ですか?」
「ハチマルゴーの人達。支部、わりとこっから離れてるはずなんだけど……」
「さっきそこで騒ぎがあって! マルフタ班が反応無いからって要請が」
「あー、寧奈の邪魔になると思って通信切ったんだ。悪いなぁ」
「ネナ?」
「うちの新入り」
瞬の隣から覗いた寧奈はペコッと会釈をして、ずっと話していた若い男の人は目を輝かせる。
「めっさ美人……!」
「なんでセーラー服なわけ?」
後ろから女の人が顔を覗かせ、キツく眉を寄せた。
「私服っていう私服を持ってなくて……」
「高校生アピ? うざ」
「うざとか言わんの識ちゃん!」
「気にしなくていいからね寧奈」
「してないよ、大丈夫」
「敬語使えよ先輩だろ」
「スミマセーン」
寧奈は半笑いでご飯を食べ始め、向かいにいた東とトーキは苦笑いする。
話の節々で感じるが、寧奈って案外気が強い。
「んじゃまたあとで」
「はい!」
ご飯を食べ終わってしばらく雑談をして、寧奈がデザートを見ていたのでデザートも注文して。
「んま……!」
「甘いものは別腹か」
「アイスは別腹です」
アイスを二種類、抹茶とそばのアイスを食べた寧奈は幸せそうに笑い、それ見れたら満足な東は財布からカードを出した。
「んじゃ行くか」
「はーい」
四人に合わせてハチマルゴーも出てきて、東が先に会計する。予め、奢らんからなと釘を刺して。
「あの……」
スマホを見ていると、店員に話し掛けられた。
「はい?」
「これ、僕の電話番号です。迷惑じゃなければ……」
「あ……ありがとうございます……」
受け取ってしまって、男子は去っていく。見たところ同年代っぽかったが。
「何貰ったの?」
「電話番号」
「モッテモテー! 捨てな」
「うん……」
それは読み終わる前に、トーキに回収された。別に欲しいものでもないので、取り返そうともしない。
会計の終わった東にくっ付いて駐車場に出ると、あとから会計を終えたハチマルゴーもやってくる。
「さっき紹介出来なかったんですけど、新入りの小菜津です。十四歳です! わけぇでしょ!」
「わけぇってか幼い。子供やん」
紹介された小菜津の眉がギュッと寄り、東を睨んだ。
「小学生が馬鹿にすんな」
「悪いが俺は成人してる。マルフタのリーダー兼運転手だ」
「チビ」
東の笑顔がスっと消えて、さっきからちょっと機嫌の悪いトーキと共に、空気が地の底に落ちる。
「そ……それじゃあまたあとで……!」
「え、謝罪は?」
寧奈が子供を指さして男を見上げると、男は青い顔のまま子供に謝るように促した。
「チビはチビじゃん……」
「子供って言われて腹立ったんか小学生に馬鹿にされたんが気に食わないんか知んないけど人に暴言吐いて開き直んのは年齢関係無くクズだぞ」
「は? 人馬鹿にする方がクズだろ。上から目線に説教垂れんな」
「こいつもクズでお前もクズだ。東さんも謝って」
「悪かった。ごめん」
「ほら謝って」
餓鬼が顔を逸らして、寧奈が舌打ちした。
「これに教えるためにわざわざここまで来たんですか?」
「まぁ新入りだからな」
「ありがとうとごめんなさいぐらい五歳児でも言えますよ」
「五歳児以下なんだろ。可哀想なこった。行くぞ~」
「私子供嫌いなんです」
「お前も子供だ」
「自分も嫌い」
「おぉそっか……」
思ってた返答と違った東は思わずたじろいで、寧奈が一番不機嫌になりながら、リアシートに乗り込んだ。
イヤホンをつけて一人うずくまる。何も聞こえてなさそうだ。
「……寄り道するか」
途中で車を停めて、東は一人降りて行った。
「寧奈、ねーな」
「……何?」
「最近足どう? もう痛くない?」
席を少し倒したトーキの言葉に、寧奈はイヤホンを片付けると長い靴下を脱いだ。
「ちょっと膿んだ」
「わ。消毒しよう、瞬ケースちょうだい」
「ん」
リアシートに移ったトーキが消毒液を染み込ませたガーゼで激痛消毒をしてくれて、半泣きの寧奈は顔を押さえる。
「大丈夫? もう終わるから」
「いたぁい……!」
「傷口が開いたりしなくてよかったけど……」
抜糸したあと、比較的綺麗に治ってくれていたのに、やはりずっと長い靴下で擦れていたからだろう。一気に悪化した。
「短い靴下あるでしょ? 履き替えて」
「足汚いんだもん……」
「汚くないよ。薬ぐらい買うから」
不服そうな寧奈は渋々スニーカーソックスに履き替えて、傷をちょんちょん触ってトーキに怒られる。
と、瞬がブランケットをくれた。
「これ掛けてたら気にならないんじゃない?」
「わ、ありがとうございます」
「……僕もタメ口でいいよ。一番歳近いし」
「そ……そう?」
「うん」
「ありがとう」
シートに足を上げてブランケットを掛けていると、東が戻ってきた。
後部席を開けて、寧奈にアイスを差し出す。
「さっきのお礼」
「アイス! ありがとうございます! なんのお礼ですか?」
「こいつもクズでお前もクズのお礼」
「あ……クズって言ってすみませんでした。ごめんなさい」
「いや、ちゃんと言ってくれてありがとう」
少し照れている寧奈はアイスを受け取って、それを一口食べる。
「ん、美味し!」
「りんご味だって」
「めっちゃ美味しいです! アップルパイみたい!」
「えー美味しそう! 一口ちょうだい」
「おいこら自分で買ってこい」
「ハルさん買ってー!」
「自分で実費で行け」
寧奈がトーキに一口あげてしまい、東は幸せそうなトーキの頭をポコっと殴る。
「足大丈夫か?」
「ちょっと膿んでて。靴下短いのに履き替えて、隠してます」
「そっか、支部にも医務室あるから見てもらった方がいいかもな。ここの医者はいいぞ、腕も人もいい」
東が言うならちょっと信頼出来るかも。
本部の方の医務室は、軽いトラウマだ。
「んじゃ行くぞー」
「はーい」
東は地図を見ずに慣れたように道を進み、車はどんどんどんどん山に入っていく。
この八人乗りではキツいような山道も、ガンガンガンガン進んで。
山道を越え、崖を越え、橋を越え、寝ている鹿を叩き起しながら。
「着いたー」
「東さん運転上手ですね……」
「ゴールド免許」
適当に拍手を送りながら、山の中にあった旅館のような場所を見上げた。
本部と似た空気感の、平屋では無いが木造の家。太い焦げ茶の柱に黒の瓦に、ガラスの無い木板の窓。
「古い建物ですね……」
「明治からあるらしい」
「へ、すご!」
「てか明治にはもうあったらしい」
「ここすごいんだよ」
四人横一列に玄関前に並んで、寧奈は言われた通り二度合掌をした。
目を伏せ頭を下げた次の瞬間、足は地面を離れ、腰が抜けて座り込んだ。
『ィッ、イらッ、しャーイ』
和装の女の、一つ目が縦に付いた女の人。付喪神だ、たぶん。
手に掬い上げられていて、砕けた腰で立てなくなって。
「館! 下ろして下ろして、怖がってるよ!」
『こわ、こワーい?』
「え、や……び……びっくり、しただけで……」
なんか、怖いと言ったら殺される気がして、大丈夫と虚勢を張った。
下がまるで見えないけれど、ずっと男の人の声が聞こえて、説得された付喪神は寧奈を下ろした。
『オ、おいデ~』
「寧奈、大丈夫!?」
バンッと玄関が開いて、湿った地面に座り込んだ寧奈がずるずると謎の引力で引きずられる。
「トーキ絶対入れんな! 閉めろ」
「抱っこするね」
──付喪神 帯──
「かッ……てぇッ……!」
玄関が閉まらなくて、トーキは寧奈を帯で捕まえながら車に向かう。
車に走った東が、屋敷に戻って玄関を閉めた。
「うちのッ! 新入り次連れ込もうとしたらただじゃおかねぇぞッ!」
『ァ"、レぇ?』
「お前もちっとは制御しろアホッ!」
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