付喪神

戯伽

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3.焼肉

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 本部とやらは、てっきりビルのようなところかと思っていたら違った。

 広い駐車場の先にあったのは旅館のような平屋の建物で、それを見上げる。

 木柱に漆黒の瓦の、厳かな建物。


「……トーキ、支えてやれ。足引きずってる」
「あら……あ! 傷開いてない!?」
「あぇ……」
「ちょっとごめんね。先降りて医務室行ってきます」
「おう。終わったら連絡する」
「はい」


 トーキに横抱きにされ、落ちないように肩にしがみつく。

 走っているはずなのにバタバタと足音が立たず、まるで猫が走るようにトットットッと小さな反響音だけが聞こえる。



 エレベーターを降りて、道を把握出来ないまま、連れていかれたのは医務室で。

「手当てお願いします!」
「トーキ、来たの。怪我したの?」
「私じゃなくて」


 トーキは医務室の外で待つらしいので、寧奈はスカートの下に履いていたジャージを脱いだ。



「傷開いてるじゃない! どうして止血してこなかったの」
「してもらったんですけど……」
「出来てないから。もう……」


 とてもとても威圧的な女性のお医者さんは、ブスッと局所麻酔の注射を刺すとまだ触られたら分かる程度の感覚が残る足をザクザクと縫い始めた。

 あまりにも痛くて、泣きそうになるのを堪える。


 それから、またテーピングをぐるぐる巻きにされた。



「終わり。松葉杖そこね」
「……ありがとうございました……」



 松葉杖のところまで片足で飛び跳ねて、それを借りて医務室から出た。

「はや、大丈夫? 縫ってもらえた?」
「はい」
「どうしたの、目赤いよ」
「ちょっと、痛くて」
「麻酔は?」
「してもらいました」


 頭を撫でてくれたトーキに笑ってみせて、松葉杖を突きながら遅い足で医務室を去る。


 トーキに抱っこされて階段を上がると、そこにはさっきは見えなかった壮大な景色が広がっていた。


 ドーム状の広い空間に、家や店、廊下に橋に川。
 整えられた植物が生い茂っていて、屋内とも屋外とも言えないような、とても幻想的な景色に思わず見蕩れた。


「すごい……」
「対心現シンゲン組織、精衙セイギョの本部。お偉いさんの中にこの山の付喪神に憑かれてる人がいて、その能力らしい」
「つくもがみ……」
「あ、付喪神の説明はまだだったね」


 付喪神。その名の通り、物に憑いた神である。
 長年使われてきたもの、大切にされたもの、強い力を持つもの、世代を超えて引き継がれたもの。
 そんな物々に宿る、一種の心現。

 物の所有者に憑き、基本は言うことを聞く。たまに暴走して聞かない時もあるけれど。


「私の付喪神は帯の神」
「帯って、着物の帯ですか?」
「そ。母も精衙の人だったから貰ったの。女性用のだから使えないけどね」
「すごく、強い付喪神ですよね」
「まさか。刀とか銃の付喪神とかの方がよっぽど強いよ」


 道の柵を飛び越え、そこに腰掛けたトーキを見上げていると、電話が鳴った。

しゅんからだ。ハルさんは今頃……」
「トーキだー! わ、珍しー!」

 元気な声が聞こえ、見るとトーキの幼馴染が手を振っていた。


詩春しはるだよ。私の幼馴染」
「トーキーカノジョー? 高校生? 犯罪だぞ!」
「うちの班に入った子だよ。寧奈ねな
「寧奈です。はじめまして」
「……班に入ったの? なんで」
「心現を引き出す体質っぽくて。ほっとけないでしょ?」
「引き出すって、何? そんなん疫病神じゃん」
「お前らはそれしか語彙が無いんか……」


 ここ連日疫病神という言葉を聞きすぎているトーキは呆れると、長い足を柵の内側に入れ通話に応答した。


「おいで」
「どこ行くの~?」
「もしもし瞬? どうしたの?」
『ハチヒトに、トーキ呼び出せって言われて……』
「あー、おっけー。じゃあ正門前で合流しようか?」
『わかった……』
「呼んでくるから待っててって言いな~」


 通話を切ると、喧嘩している二人を見下ろした。

「トーキこいつ性格悪いよッ!」
「何言ったの……」
「チビ」
「紛れもない事実だよ。諦めな」
「トーキ味方してッ!」
「瞬と合流しようか。先車戻ろう」
「分かりました」

 詩春に、とてもとても冷たい目を向けていた寧奈のふにふにふわふわの頬を挟むと、二人で正門前に向かった。



 正門とは、頭の硬い上司達が鎮座する精衙セイギョの間の正面門。
 人の力では開けられない大きな大きな重たい木の門。
 今は、はるが中に入って上司達と話し合いをしているはずだ。



 そこへ一人でやってきた瞬は二人に駆け寄って、ほっと息をついた。


「戻ろう。車の鍵持ってる?」
「うん」






 三人で車に戻り、寧奈は怪我を隠すために長いニーハイを履く。
 スカートが膝丈まであるので、素足は見えない。



「足大丈夫?」
「麻酔効いてきたから平気です」
「今効いてきたの?」

 頷くと、トーキは信じられないような顔をした。


「縫われたの痛かったでしょ……!?」
「こんなもんなのかなと……」
「いや違うよ! 信じらんない……」


 シートの背を全て倒したトーキは苦笑いする寧奈の頭をよしよしと撫でて、そこにあぐらをかいた。


「痕残ったらやだよねぇ。ケロイドとかにならないといいけれど」
「まぁどうせ、誰も見ませんから」
「綺麗に治るにこしたことはないよ」




 寧奈に甘えたトーキが太ももで膝枕をしてもらって、昼寝をしていると東が帰ってきた。


「何してんだ」
「トーキさん寝てしまって」
「起きろトーキ! 怪我人の足に寝転がるんじゃねぇ」
「ん……んー……!……ハルさんおかえりなさぁい。話し合いどうでした~?」
「無事経費も増えたし寧奈の諸々も支給されることになった。晴れて正式なマルフタの一員だ」
「よかった……ありがとうございます」
「これ関係者証。警察になんか言われたら見せたら黙るから」
「はい……」


 免許証のようなカードを受け取って、それを財布に入れた。


「夜飯何食べたい?」
「あ、うーん…………もやし?」
「もやし」
「ナムルとか……」
「あー」
「焼肉行ったらあるんじゃない? 韓国料理いっぱい置いてあるイメージ」
「そうかも。焼肉でいいか?」


 焼肉なんて久しぶりな寧奈はこくこくと頷いて、東は近くの焼肉屋を調べ始めた。


 瞬はゲームをして、東は調べ物、トーキはまた寝てしまって、沈黙の車内で寧奈はスマホを弄る。


 連日心配の連絡をくれていた友人達とメールをして、電話は出来ないのと言いながら、彼氏だ夜逃げだ頑張れ頑張れと騒ぐグループメールに呆れる。元気すぎるだろ。



「すみません、ちょっと電話してきてもいいですか?」
「おー、全然大丈夫」
「ありがとうございます」


 トーキのおでこをちょんちょんとつついて頭を退かしてもらうと、松葉杖を突きながら車から少し離れた。




「……やっほー」
『ねーちゃん! 中学爆発したよ!』
「ね~」
『それ松葉杖? 怪我したの!?』
『折れた!? 割れた!?』
「骨折じゃないの、さっき麻酔で縫ってきたから」



 相変わらず騒がしい皆とグループ通話をして、面白おかしい話をする友人とげらげら笑う。






 気が付けば、二時間ほど話していたらしい。


「そろそろ行こっか」
「あ、はーい。そいじゃ」
『今度はちゃんと連絡返してよー!』
『また遊ぼうね~』
『お土産待ってる』
「はーい。ばいばーい」


 ピースをしてスクショを撮られてから通話を切って、スマホを確認した。充電が残り12パーセントだ。



「若いねぇ」
「すみません騒がしくて」
「全然。私にもタメ口でいいんだよ!」

 グイッと寄ってきたトーキに首を傾げ、小さく頷いた。


「私友達がいないからさ~」
「東さん達は?」
「そう、ハルさん達だけ。ハルさんは一応上司だけどね。ハルさんと、瞬だけ。だからマルフタの皆とは仲良くしてたいの!」
「私も?」
「もちろん!」


 人懐っこい笑顔でにしっと笑ったトーキに笑い返して、駐車場のポールから立ち上がった。


 足も麻酔が切れて、痛むけれど動くようになった。


「松葉杖返してくるよ」
「一緒に行くよ」
「いいよぅ。痛むでしょ? 車で待ってて」



 トーキは東に声をかけると、また屋敷に入っていった。


「んしょ」
「寧奈、後ろ行きにくかったら助手席来るか?」
「い……いいですか?」
「おん」



 助手席に座って、瞬から荷物を貰った。


 充電器を出して、充電させてもらう。




 皆からの寂しいよメールに勉強しろと返して、頬が緩んでいるうちにトーキが帰ってきた。


「どうした」
「んーん。寧奈助手席に移動したの?」
「後ろ行くの大変だからって」
「助手席は特等席だよぅ。仕事が多い」
「頑張ります……!」
「頼もしい」



 寧奈は東に言われた通り、スマホを見ながら道案内をする。


「慣れてんな?」
「お父さんが運転する時よくやってました」
「なるほどな。トーキよりよっぽど役に立つ」
「えひどー!?」

 ドヤ顔をした寧奈にトーキが怒って、東は悪魔のような声でげらげら笑い、瞬は騒がしい三人に顔をしかめてヘッドホンをする。

 トーキは楽しそうにげらげら笑って、寧奈も腹を抱えて笑う。
 東はもう楽しそうすぎる二人に半ば呆れながら。



「あ、着いた」
「さけー!」
「うるせぇな」
「お酒好きなの?」
「大好き! 頭ふわふわして嫌なこと全部忘れられる!」
「そか」

 寧奈の適当すぎる返しに東がふはっと吹き出して、トーキは瞬の肩を叩くと車を降りた。



 席に案内され、コースの説明を受ける。



「三人ともお酒飲み放題付けますか?」
「俺は無し。運転するし」
「あ、瞬未成年だから私だけ」
「あ、そうなんですか……!?」
「十九だよ」
「……トーキは?」
「二十二だよー」
「わかい……」
「最年少が何を言いますか」


 寧奈がスマホで諸々注文してくれて、一番初めにドリンクが来た。

 乾杯をして、寧奈はジンジャーエールを飲む。うま。



 続いてお肉と、念願のナムルもやってきて。それとチョレギサラダと枝豆とサンチュも。

「野菜ばっかり」
「美味しいじゃん」
「お肉食べなー」
「タンがいい。タン焼いて」
「ねぎ塩でいい?」
「塩がいい!」
「ちぇ」


 寧奈は隣に座った瞬と枝豆を食べながら、トーキと東が焼いてくれるお肉が貯まるのを待つ。
 男三人は白米も食べているけれど寧奈は、白米なんか食べたら肉が三枚食べれるかも怪しいので。


「んま……!」
「お肉食べな」
「ナムル美味しい……!」
「俺もくれ」
「はい」


 絶品ナムルをおかわりして、ナムルとコチュジャンをサンチュに包みながらむしゃむしゃ食べる。

 こいつマジで肉食わん。


「肉嫌いか?」
「熱いのが嫌いです。冷ましてます」
「もう冷めただろ……」
「どんどん熱いのが乗せられるんですもん」
「私のせい?」
「はい」
「ひど」


 寧奈は肉から湯気が立たなくなった頃にサンチュと共に食べ始め、ふにゃふにゃと笑う。んまい。

 胃は強い方ではないので上カルビとか食べたらすぐに胸焼けしてしまうのだが、網焼きだと油が落ちてくれるので美味しい。
 タンは油があまりないから好き。コリコリしてるし。

 サンチュを二人前一人で食べた寧奈に東は呆れて、トーキは肉食え肉肉と怒って。


「サンチュばっかりで飽きない?」
「大好きなので大丈夫です! 葉物野菜大好きで」
「健康的だなぁ。見習え瞬」
「いらないよ……」
「肉包んで食え」
「やだ」
「ナムル食べますか?」
「……ナムルの方がいい……」
「お肉食べなよー」
「お前もさして食ってねぇだろ」
「お酒美味しいッ!」
「うるせー」
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