付喪神

戯伽

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2.怪我

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 時は少し遡り、女の子の家に戻る前。学校の一件が終わった直後。



「名前は?」
寧奈ねなです。安寧の寧に、奈落の奈」
「歳は」
「十六です」
「いつから心現シンゲンが見える?」
「も……物心ついた時から……? 小学校の入学式の時には、見えてました」
「生まれつきかな」


 運転手、はるの淡々とした質問に答える。
 鏡越しにずっと目が合っていて、怖い。



『……こちら司令塔。コンタクトマルフタ、応答せよ』
「マルフタ。心現が見える高校生を保護した。引き入れる」
『待て、上に報告する』
「俺からする。黙ってろ」

 通信機を閉じ、通信をぶち切る。


「今からお前はマルフタの一員だ。こんだけ心現を引き起こす奴を放置は出来ない」
「……迷惑とかじゃないよ。人に好かれやすいんだろうね。いらん奴からも好かれてるけど。寧奈も被害者だから、気に病む必要は無いよ」

 トーキの言葉に小さく頷くと、鏡越しの東も少し笑った気がした。


「んじゃ荷物取りに行くか。トーキ、見てやれ」
「はーい」






 現在。

 夜も八時を回り、激動の一日で疲れたであろう寧奈はリアシートを使って横になって眠り、セカンドシートにいるトーキも付喪神の反動で熟睡。


「飯どうすっかな」
「買ってくるよ。朝ごはんもいるし」
「さんきゅー」



 朝になって、寧奈は目を覚ました。

「んー……!」

 まだ五時半で、三人ともまだ眠っていた。



 夏が終わった頃で良かった。汗はあまりかいていない。

 鞄を漁って、薬を飲んだ。



 七時頃に三人とも目を覚まし、東とトーキは比較的スっと起きたものの、ヘッドホンを首に掛けた、しゅんさんはぐずっとパーカーに丸まる。



「昨日瞬が買ってきてくれたんだ。嫌いなもんあるか?」
「特には……」


 おにぎりが二つ胸の中に飛んできて、それをキャッチする。

 鮭といくら。


「一個で大丈夫です……」
「え。足りんだろ!?」
「少食だねぇ? じゃあもーらう」


 鮭を渡し、回ってきたりんごジュースと共におにぎりを食べ始めた。



「おいし……」
「晩御飯食べてないでしょ? 足りる?」
「たぶん……」
「やっぱ食べな~? 残ったら貰うから」


 小さく頷いて、またそれを受け取った。



 なんとか二個食べきって、ジュースは飲みきれなかったけれど。

「風呂行くかー」
「おふろ、あるんですか?」
「銭湯だよ。私達は年中車中泊だから生活費が支給されるのだよね。寧奈の分も今日? 昨日? から出るらしいから、安心してね!」
「すごい……」
「命懸けで戦ってるんだもの。当然の福利厚生だよ」



 集合時間を決めて、別れて風呂に入った。


 銭湯なのでいくつもの湯船とかは無くて、大浴場が一つあるだけ。

 給湯器近くの熱いお湯に十分ほど浸かって、さっさと上がった。


 着替えて髪を乾かして、化粧水を振り掛けて。

 髪が長いので乾かすのに二十分ぐらいかかって、出ると三人は既に待っていた。


「お待たせしました……!」
「大丈夫~。髪乾かすのとか考えてなかったねって言ってさ。あったまれた?」
「はい」


 東が寧奈にだけ市販菓子を買ってくれて、二人にずるいずるいと挟まれながら車に戻る。


 リアシートに座って、シートベルトを締める。


「んじゃ行くか」
「次の目的地は?」
「我らが腐った上司の巣窟、本部だ」



 車内はずっと沈黙で、寧奈は窓の外を眺める。

 昨日の化け物ほど大きくもなく、禍々しくもない。ただし、確実にそこにいる奴ら。
 人に危害も加えない、人に干渉されない場所に鎮座するだけ。

 強くなれば一番に人を殺すような奴ら。



「なんか多いねぇ」
「寧奈の影響かもな。いつもこんな数いるか?」
「はい。いつもこれぐらい……」
「こんな弱い奴が出てくるのも珍しい」



 本部は県を超えて超えて超えた先の県にあるそうで、お昼になっても着かなかった。


「夜は経費増える予定だから飯行こうなー。寧奈の歓迎会だ」
「やった! おさけ~!」
「程々にしろよ」
「ありがとうございます……」


 サービスエリアに着いて、四人で車を降りた。

「カード渡すから三人で飯買ってこい。俺ガソリン入れてくる」
「はーい。ハルさんのご飯は?」
「戻ってきてから買うわ。先食ってろ」
「分かりましたー」


 実年齢非公開の東はこの班の運転手兼リーダーだ。
 マルヒト、マルサンに並び、上層部を揺るがす権力を持っていると噂されている。

「本当かどうかは不明」
「そんなにすごい人なんですね」
「早く食べさせてあげなよ。伸びるよ」


 うどんを頼んだもののトーキのお喋りが止まらず、返事をするためにうどんが食べれていない寧奈に瞬が助け舟を出した。

 トーキもおにぎり定食に一口も手を付けていない。瞬は海鮮丼を半分ほど食べ終わったところ。


「この班? とかって、どのぐらいあるんですか?」
「ん~、今いくつなんだろ。ゴーナナフタまであるのはほぼ確実だけど。たまに減ったりするからなぁ」
「もう千超えてると思う。全国の市区町村への配置を目標にしてるから」
「全国に……」
「マルヒトからマルヨンまでは例外で全国を回るの。私達はマルフタとして巡ってる」




 途中で東がラーメンを持ってやってきて、寧奈は先に食べ終わった。


「お腹いっぱい……」
「少食だねぇ。背高いのにねぇ」
「背高いのは、遺伝だと思います。母も百七十近くあったので……」
「いいな、モデルの家系だ。ところでアイス食べに行く?」
「もうお腹いっぱいです」
「半分こしよう! レッツゴー!」


 新人が入って楽しそうなトーキは寧奈を連れて外の売店に歩いていき、二人はそれを見送った。


「ごちそーさん」
「はやッ」
「ゆっくり食え。早食いは良くない」


 海鮮丼を食べ終わった瞬も食器を片付けるとアイスを食べに、二人を追い掛けた。

 もう行ってから五分以上経っているのですれ違うかなとも思ったがそんなことはなくて、ソフトクリーム屋の前に行くと、寧奈が一人で立っていた。周りには知らない男の人達。
 やばい、俗に言うナンパと言うやつか。ちょっと待てなんて、割り込む勇気は無いぞ。

 トーキはどこに行ったんだと周囲を見回して、いないのを確認して東の元へ戻った。



「はる……!」
「おんどうしたどうしたそんな顔真っ青にして」
「なんぱ、怖い……!」
「なんぱ?」



 荷物をまとめて外に行くと、寧奈が壁に背を付けて男達の手をやんわりと押し返していた。


「おい!」
「あ? あー、家族旅行だったの。おとうとー? 小学生かなぼくー?」
「明らか未成年に手出そうとしてんじゃねぇ」
「大丈夫大丈夫、俺らまだ十九。ハンザイじゃなーいよ」
「大学生だか社会人だか知らんが高校生狙ってる時点でアウトだろ。警備員呼ばれたくなきゃさっさと失せろ」
「あん? 口の利き方考えろよクソガキ」


 男が東の胸ぐらを掴んだ時、困り果てていた寧奈が顔を上げた。


「私の連れになんか用?」


 身長180を超える長身に細身とは言え筋肉のある肩幅に、恐ろしいほど端正な碧眼の青年。
 禍々しい圧を放って、周囲の気にしていた人達が関わらないようにと目を逸らすほどの圧。


「は、誰お前……」
「用があんのか無いのか聞いてんの。あるなら私に話せ。無いなら視界から消えろ」


 一層圧が強くなって、男達は東から手を離すと逃げていった。

「腰抜けめ」
「お前目離すんじゃねぇよ! 未成年だっつってんだろ!」
「ごめんなさい!」
「なんかあってからじゃ遅いんだよ!」


 手刀を落とされたトーキは頭をさすりながら、硬直している寧奈を覗き込んだ。

「大丈夫?」
「……あれも、しんげん、ですか……」


 振り返ると、地面がぐにょんと歪んで盛り上がっていた。
 目が二つ、気持ち悪い裂けた口が二つ。


「なんだろう。同化……?」



──付喪神 帯──


 一旦盛り上がっているところを刻んでみると、ぴょんっと飛んでこちらに寄ってきた。

 ぴょんぴょんと跳ねて、跳ねて跳ねて寄ってきて、とぷんと地面に沈んで消えたかと思えば寧奈の足にまとわりついて現れた。


 寧奈が絶叫を堪えたのも束の間、寧奈の足ごと顔が両断される。
 足に鋭い痛みが走って、それを引っ込めた。
 流石に切断まではいってないものの、肉がぱっくり割れている。一応繋がってはいるか。


「ゎーごめんッ!?」
「や、平気です。大丈夫……」
「歩けるか? 瞬、車戻って手当てしてくれ」
「うん。……だいじょーぶ……?」
「大丈夫です」


 瞬は心配しながらもドキマギしながら車に戻った。


 真っ白な細い細い足から血が溢れ出し、とりあえず車の外で傷を縛って止血する。

「そこまで多くないけど、気分悪くなったら言ってね。貧血とかあるだろうから……」
「ありがとうございます」
「……うん」


 今から本部に行くし、本部の医務室で縫ってもらわらないと。

 ガーゼを当て、テーピングでキツく傷口を閉める。



「足、冷たくなってない?」
「大丈夫です」

 一つ頷いた寧奈に終わりを告げ、救急セットを片付けた。


 そこへ、トーキと東が戻ってきた。


「ね~ごめんねぇ。あんなべったりくっ付くと思わなくて」
「全然大丈夫です。気持ち悪かったので、助かりました。ありがとうございました」
「ごめんねのアイス。一番高いの買ってきた。シャインマスカットのジェラートだって」
「マスカット……!」
「マスカット好き?」
「フルーツ全部大好きです! あ、マンゴーだけ苦手なんですけど……」
「お食べ」
「瞬、ダブルでよかったか?」
「うん、ありがとう」


 寧奈はジェラートを、昨日含めて会った中で一番幸せそうな顔で食べる。


「美味しいこれ……!」
「私もちょーだい」


 セカンドシートから振り返って、もう一本のスプーンで食べたトーキも目を輝かせる。

「んま!」
「美味しいですよね……!」
「すごいねぇ。サービスエリアって特産に力入れてるからいいよねぇ。気に入ったもらえてよかった!」


 コーンは全てトーキが食べてくれて、美味しいものが沢山食べれて幸せな寧奈は少し壁に寄りかかる。足が痛いし、やはり貧血だろうか。息苦しくて、顔が青い気がする。


 そのうち、高速を降りてまた車が停まった。

「買いもん行ってくる。トーキ、足上げてやれ」
「あ、はい。……大丈夫? 顔真っ青、貧血だよね」


 トーキも車から降りると、後ろのラゲッジスペースからキャリーケースを出した。

 それをリアシートに置いて、上にタオルを敷いて、ジャージのズボンを履いた寧奈の足をそこに乗せる。


「出血は止まってるから、しばらくしたらマシになると思うんだけど……」
「すみません、心配かけてしまって……」
「私が切っちゃったせいだもの。痛い思いさせてごめんね」


 頭を撫でてくれたトーキに小さく頷くと、トーキがそういえばと言って、自分の席から巾着を取り出した。


「貧血にはチョコがいいんだっけ。失血性にも効果あるのかな。苦いやつなんだけど」
「ありがとうございます」


 カカオ84パーセントのチョコを貰って、普段食べることの無い高カカオチョコレートを恐る恐る食べた。

「……にがぁ……」
「あはは、やっぱり? 私も苦手」
「水……」

 水を飲むと苦味が口いっぱいに広がるだけ広がって緩和されなくて、泣く泣く口を押える。にっげぇ。



 すぐに戻ってきた東がスポーツドリンクと鉄剤をくれて、それを飲んだ。
 ほんのり甘いスポーツドリンクは魔の高カカオチョコレートよりもよっぽど美味しい。


「おいし……!」
「……何食わせた」
「84パーセントのチョコレート」
「お前それお前が食えんかったやつだろ」
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