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7.温泉にて
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二人で談笑をしていると、三人が戻ってきた。
「あ、おひさ~」
「ぅお……なんでおるん……」
ヒトマルの、唯一生死をさ迷わなかった奴。
画海君。トーキの幾つか先輩だ。
ヒトマルの中で唯一攻撃的じゃなくて、唯一人の話を聞かない奴。
「ほら~、赤も緑も死に損なっちゃったから。しばらくマルフタと行動しろってお偉いさんからの命令」
「断る。お前が入るとチームバランスが崩れる。却下だ」
「俺に言われてもねぇ」
東が抗議の電話を掛けに行き、画海はけらけらと笑いながら寧奈の方に向き直った。
「ところで彼氏いるの?」
「いませんよぅ」
「彼氏顔いい?」
「はぁい」
もう話す気がない寧奈は適当に返事をしながら折り紙をする。
「何折ってるの?」
「ゴミ箱」
「そうじゃなくて……」
「手紙貰ったから」
「誰から?」
真正面にいた人間を指さした寧奈に顔が引きつった。
ゴミ箱を広げた寧奈は、たい焼きソフトの落ちたカスをそこに入れ、箱を握り潰した。
「私話通じない人めっちゃ嫌いなんだ」
「そっか……!」
「話通じない人約束守らない人時間にルーズな人は無理」
ゴミを捨てて表に出ると、東が見えた。
「クソ野郎話が通じねぇ」
「本部長じゃなかったの?」
「出てるっつって秘書が出やがった。俺あいつ嫌いなんだよ」
「知ってる……」
ここに放置しても仕方が無いので、東と寧奈のご再考でとりあえず今晩は一緒に過ごすことになった。
「近くにダムがあるんですって」
「ダムか、久しぶりだな」
「星綺麗なんじゃない?」
「近くにコンビニとかあるか?」
「ここダムの橋なんですけど、歩いて五分十分辺りの場所にあるみたいです」
「いい立地だ」
そこに向かって車は走り出して、隣で寧奈はナビをしながら足の傷を触る。
絆創膏がふにふにになってきていて、白く膨れている。
「痛むか」
「あ、いえ痛みは全然。気になるなって」
長ズボンだと言うのに瞬がブランケットをくれて、苦笑いしながらそれを受け取って足にかけた。
ダムの近くまで行くと標識に案内が出るようになって、道なりに走る。
ダムの橋の上では既に車が三、四台停まっていた。
テントを広げたりレジャーシートでのんびりしている人達を横目に、皆降りてシートを倒す。
「本当に車中泊生活なんだ」
「毎日ホテルになんか泊まってられるかよ」
「えー狭そう……」
「狭いよ。五人なんか寝たことないもん」
「お前足元な」
誰も画海を信用していないので寧奈は安全のため助手席で寝ることになった。
後ろ三人で川の字に、画海を足元横向きに寝かせる。
これでもフルフラットで段差が無いのだ。それだけでも感謝してもらいたい。高かった。東が実費で買った車。
「せっま」
「喋んなー」
翌朝、寧奈は一番に目を覚ました。
車の外に出ると朝日が綺麗で、眩しくて目を閉じる。
冷えた空気を肺いっぱいに吸い込んで、大きく吐いた。
澄み切った心地良い空気だ。
「おはよう」
「おはようございます。空気綺麗ですね」
「田舎の特権だな~。んー!」
体を伸ばした東は髪をぐしゃぐしゃと解して整えると、運転席の足元から荷物を回収した。
「コンビニ行くけど来るか?」
「じゃあ」
二人でコンビニに向かう。
途中で鹿に手を振ったり、釣りをしている人を見つけたり。
かごを持って、コンビニで朝ご飯を選ぶ。
「決まったかー?」
「トマトサンドとBLTサンドで迷ってます」
「両方買えば? 半分食うよ」
「やった……! お願いします」
「おう」
車に戻るとトーキも目を覚ましていて、車で朝ご飯を広げた。
ガサガサワイワイしているうちに瞬も目を覚まして、体を起こし眼鏡を探す。
「…………んぅ……」
眼鏡をかけてなおバタッと倒れた瞬に苦笑いをして、東は瞬にオレンジジュースを差し出した。
ストローを指して、それをちゅーちゅー飲み始める。
「……ねむだーい……」
「昨日夜遅くなったもんなぁ。よく起きれたな」
「んぅ……」
午前八時。
未だ起きない方が一人いるわけだが。
「席戻すか」
「これどうするんですか?」
東は車の後ろに回ってバックドアを開けると、そのまま画海を引きずり下ろした。
「いッ……たぁ……!」
「ご愁傷さま」
皆が席を戻す間、東はまた電話をかけに行く。
咳が戻ると画海は早々にリアで横になる。
「どんだけ寝んの」
「時差ボケなのー……」
寧奈が車の外でストレッチをしていると、東が戻ってきた。
「行くか」
「結局どうなったんですか?」
「マルヨンに引き渡す」
「まる……」
「え! じゃあまた関西!?」
「岡山で落ち合うことになった」
「岡山!? 何日かかるの!?」
「高速乗って最速で行く」
「えやったー」
マルヨンは関西を拠点に巡る班。
絶対的な戦闘力が無いため、チームバランスを取るため押し付けもとい引き取ってもらえることになった。
「マルヨンって弱いところじゃん」
十二時過ぎ、ようやく目を覚ました画海は顔をしかめる。
「だから強いお前が入るんだよ」
「弱いやつ嫌い……しかもあいついるんでしょ、なんだっけ、かぼちゃみたいなやつ……」
「んなやついねぇよ」
「かぼちゃきらぁい」
いるのは全員人であってかぼちゃなどいない。きゅうりもスイカもゴーヤもいない。
途中高速を降りて、スーパーでトイレや昼食、日用品の調達をしたり、道の駅で寧奈のアイスを買ったり。
「んふ!」
「アイス好きだなぁ」
「寒い時期に食べるアイスは最高です」
「見てるだけで寒いわ」
寧奈と東が話していると、トーキと瞬と画海も帰ってきた。三人とも何か持っている。
「ハルさんにもこれどうぞ」
「なんだこれ」
「たい焼き」
「いや、見りゃわかるけど……」
「瞬が食べたいって言うから画海に買わせました。口が甘くなった時用のコーンポタージュも」
変なところで気が利くトーキに呆れながら、皆で車に戻った。
東が食べ終わってから、また出発する。
「寧奈寒くないか?」
「ブランケット被ってるので平気です」
「冬場にアイスってよく分からないんだよなぁ」
「え、美味しいじゃないですか!」
「夏に食ったらそりゃ冷たいし美味いんだろうけど」
「ハルさん寒がりだからじゃない?」
「あ、私寒さはいけるので!」
「俺暑い方が得意だ」
「汗かくの嫌なんですよね」
「なるほどな」
その分アイスは食べれば食べるほど体感温度が下がるし、汗とはおさらば出来るので素晴らしい食べ物だ。
「冬に食って腹壊さん?」
「アイス食べすぎてお腹壊したことないです。私たぶん体温も高いので……」
「すげぇな。俺と真逆だ」
寝る時はいつも誰よりも毛布を被って包まっている東は、いつも明け方小さく震えている。本当に寒がりらしい。
車中泊では湯たんぽも無いもんな。
「寧奈にくっ付いて寝たらいいんじゃないですか?」
「寧奈が嫌だろ」
「あでも、同じ布団に入ってればちょっとは温かいかもしれないです」
「そうなかぁ」
マルヨンは現在九州で仕事をしているらしくて、合流出来る夜まで岡山をぐるぐる巡る。
夕方に温泉に入って、普段寧奈がゆっくり出来ていないので待ち合わせ時間を二時間後にして。その頃に、マルヨンもここに来るだろうという感じ。
久しぶりに体をお手入れして、ぬるめの湯にしっかり浸かれた。
体を伸ばし、息をつく。
入って一週間と少し。
全く落ち着かない日々だが、車中泊も案外不便無いし、喧嘩や不機嫌で空気が悪くなることもない。皆優しくて陽気で明るくて、一緒にいて楽しい人達。
朝や夜は静かに一人の時間も出来るし。
家が半壊した時は人生終わったと思ったけれど、よかった、生きてる。
叔父叔母から離れて、到底自分の力とは言えないけれど。よかった。
風呂で死ぬほど眠たくて、早々に上がると髪を乾かさずに脱衣所から出た。
髪の毛を包んだまま、休憩スペースの座敷に座ると、机に突っ伏して目を閉じた。
死ぬほど冷たい手が顔に当たって、体が震えた。
目を覚ますと、東がいた。
「おはよう」
「……おはようございます……」
「大丈夫か? 寝てたぞ」
「……体伸ばしたら眠たくなっちゃって……」
向かいを見ると、画海が座っていた。
「気を付けろよ。画海が先に上がってたからよかったけど」
「すみません……ありがとうございました……」
トーキと瞬はまだ出てきていない、少し寝ただけでもすっきりした寧奈は顔を擦った。
「二人とももう出てくるから。……髪乾かしてくるか?」
「あ……いいですか?」
「おん」
寧奈とちょうど入れ替わりでトーキと瞬が出てきた。
「ハルさんフルーツ牛乳いりますかー?」
「おーサンキュー」
「いらなかったら私飲みます」
「自分で買ってこい」
「今さっき飲んでたでしょ……」
「寧奈まだ?」
「髪乾かしに行った。さっきここで寝てたんだよ」
「あら。お疲れかな」
「慣れない車中泊だもんね。昨日の研修もキツかったろうし」
「ゆっくり休めたのならいいけれど」
男四人、むさ苦しい机に嫌気が差した頃に、マルヨンがやってきた。
「お疲れ様です……!」
「おーお疲れ。これ引き取ってくれ」
画海を見下ろして、うんともすんとも言わないマルヨンを見上げる。
「あそう言えば噂の新人さんは?」
「話を逸らすな。こいつを引き取れ」
「やっぱり無理ですよ……! いくらうちが弱いとは言えマルヒトの青さんとかいや無理……! そもそもうち四人乗りですし! もう四人なんですよ!」
「んじゃなんで了承したんだよッ……!」
「だーって本部長から言われたら断れないでしょォ!?」
「知るかわざわざ岡山まで来てやったんだぞ!?」
「二人とも落ち着いて……!」
掴み合うマルヨンリーダーの紫暮と東に皆が慌てて口を塞いでいると、寧奈が戻ってきた。
「どういう状況……?」
「押し付けたい人と押し付けられたくない人」
「あぁ……」
とても分かりやすい説明に納得した寧奈が見ていると、ふとマルヨンの人と目が合った。
「あ新人さん? 新人さんなら引き取ってもいいですよ、心現出しまくる厄介者って聞きましたけど。神持ちなんでしょ? うち神持ち一人しかいませんから、ちょうどいいです。ね!」
トーキに押さえつけられていた東がトーキを殴って立ち上がり、紫暮を見下ろした。
「行くぞ」
「え、画海君どうするんですか?」
「本部に引き渡す」
「えやだ。嫌だ赤もいないのに!」
「知るか。悪評作った自業自得だ」
画海は顔を真っ青にして東に嫌だ嫌だと縋り付き、あまりの慌てように、寧奈は少し首を傾げた。
「なんであんなに嫌がってるの……?」
「トラウマがあるんだって」
「画海君上層部に殺されかけてたんだよ~。間一髪のところで班入りになったけど。本部に引き渡すってことはつまり、上層部直下に逆戻りってことだから」
「……そんなところに、引き渡すの……?」
殺されかけてたって、だって精衙の仕事はただでさえ命懸けだ。その上人からも殺されかけてたって。
あまりにも五月蝿い画海は東に拳骨を落とされたが、それでも嫌だ嫌だと喚き、車に乗るのを拒否した。
「東さん、一旦うちで面倒見るのは……」
「駄目だ! 一回の崩壊は総崩れに繋がる。絶対無理」
「崩れさせなかったら、いいんでしょ?」
「一番危ないのはお前だ寧奈。気強い上に話通じん奴嫌いなんだろ。信用出来ない男と車中泊ってのも危険でしかない」
「信用出来る出来ないは置いといて、男と車中泊が危ないのは百も承知です。私気が強いので言い負かされるまで意見は変えたくありません。アイツ可哀想ですよ。せめてマルヒトに戻すとか、単独? とか、あるか分かんないけど……」
「そもそもマルヒトは問題児の巣窟なんだよ。本部が管理したがってた。丁度いいタイミングだ」
「でも昔その本部に殺されかけてるんでしょう? アイツ殺したお偉いさん、全員辞めたんですか?」
東だって優しい人だ。わざわざ殺すために送るんじゃない。ただ、マルフタのことを思って追い出したいだけ。
「俺はリーダーだ。班を統率する義務がある」
「それは分かってます。だから、アレも含めて統率してくれませんか」
「……なんでそこまで言う」
「トラウマが怖いのは、私もよく分かります」
寧奈がお願いしますと頭を下げると、東はトーキと瞬に目を向けた。
頼むから嫌がってくれと思っていたのに、二人は揃って適当に頷きやがる。
「私はいいですよ。喋る気無いし」
「僕も。大丈夫だと思う」
東は頭を深く下げた寧奈を見下ろして、顔をしかめた。
「わーった。ただしマルヒトの二人が回復するまでだ。……それまでな」
「はい。ありがとうございます。……生意気なこと言ってすみません」
「いいよ。皆の意見を押し潰したいわけじゃない」
「あ、おひさ~」
「ぅお……なんでおるん……」
ヒトマルの、唯一生死をさ迷わなかった奴。
画海君。トーキの幾つか先輩だ。
ヒトマルの中で唯一攻撃的じゃなくて、唯一人の話を聞かない奴。
「ほら~、赤も緑も死に損なっちゃったから。しばらくマルフタと行動しろってお偉いさんからの命令」
「断る。お前が入るとチームバランスが崩れる。却下だ」
「俺に言われてもねぇ」
東が抗議の電話を掛けに行き、画海はけらけらと笑いながら寧奈の方に向き直った。
「ところで彼氏いるの?」
「いませんよぅ」
「彼氏顔いい?」
「はぁい」
もう話す気がない寧奈は適当に返事をしながら折り紙をする。
「何折ってるの?」
「ゴミ箱」
「そうじゃなくて……」
「手紙貰ったから」
「誰から?」
真正面にいた人間を指さした寧奈に顔が引きつった。
ゴミ箱を広げた寧奈は、たい焼きソフトの落ちたカスをそこに入れ、箱を握り潰した。
「私話通じない人めっちゃ嫌いなんだ」
「そっか……!」
「話通じない人約束守らない人時間にルーズな人は無理」
ゴミを捨てて表に出ると、東が見えた。
「クソ野郎話が通じねぇ」
「本部長じゃなかったの?」
「出てるっつって秘書が出やがった。俺あいつ嫌いなんだよ」
「知ってる……」
ここに放置しても仕方が無いので、東と寧奈のご再考でとりあえず今晩は一緒に過ごすことになった。
「近くにダムがあるんですって」
「ダムか、久しぶりだな」
「星綺麗なんじゃない?」
「近くにコンビニとかあるか?」
「ここダムの橋なんですけど、歩いて五分十分辺りの場所にあるみたいです」
「いい立地だ」
そこに向かって車は走り出して、隣で寧奈はナビをしながら足の傷を触る。
絆創膏がふにふにになってきていて、白く膨れている。
「痛むか」
「あ、いえ痛みは全然。気になるなって」
長ズボンだと言うのに瞬がブランケットをくれて、苦笑いしながらそれを受け取って足にかけた。
ダムの近くまで行くと標識に案内が出るようになって、道なりに走る。
ダムの橋の上では既に車が三、四台停まっていた。
テントを広げたりレジャーシートでのんびりしている人達を横目に、皆降りてシートを倒す。
「本当に車中泊生活なんだ」
「毎日ホテルになんか泊まってられるかよ」
「えー狭そう……」
「狭いよ。五人なんか寝たことないもん」
「お前足元な」
誰も画海を信用していないので寧奈は安全のため助手席で寝ることになった。
後ろ三人で川の字に、画海を足元横向きに寝かせる。
これでもフルフラットで段差が無いのだ。それだけでも感謝してもらいたい。高かった。東が実費で買った車。
「せっま」
「喋んなー」
翌朝、寧奈は一番に目を覚ました。
車の外に出ると朝日が綺麗で、眩しくて目を閉じる。
冷えた空気を肺いっぱいに吸い込んで、大きく吐いた。
澄み切った心地良い空気だ。
「おはよう」
「おはようございます。空気綺麗ですね」
「田舎の特権だな~。んー!」
体を伸ばした東は髪をぐしゃぐしゃと解して整えると、運転席の足元から荷物を回収した。
「コンビニ行くけど来るか?」
「じゃあ」
二人でコンビニに向かう。
途中で鹿に手を振ったり、釣りをしている人を見つけたり。
かごを持って、コンビニで朝ご飯を選ぶ。
「決まったかー?」
「トマトサンドとBLTサンドで迷ってます」
「両方買えば? 半分食うよ」
「やった……! お願いします」
「おう」
車に戻るとトーキも目を覚ましていて、車で朝ご飯を広げた。
ガサガサワイワイしているうちに瞬も目を覚まして、体を起こし眼鏡を探す。
「…………んぅ……」
眼鏡をかけてなおバタッと倒れた瞬に苦笑いをして、東は瞬にオレンジジュースを差し出した。
ストローを指して、それをちゅーちゅー飲み始める。
「……ねむだーい……」
「昨日夜遅くなったもんなぁ。よく起きれたな」
「んぅ……」
午前八時。
未だ起きない方が一人いるわけだが。
「席戻すか」
「これどうするんですか?」
東は車の後ろに回ってバックドアを開けると、そのまま画海を引きずり下ろした。
「いッ……たぁ……!」
「ご愁傷さま」
皆が席を戻す間、東はまた電話をかけに行く。
咳が戻ると画海は早々にリアで横になる。
「どんだけ寝んの」
「時差ボケなのー……」
寧奈が車の外でストレッチをしていると、東が戻ってきた。
「行くか」
「結局どうなったんですか?」
「マルヨンに引き渡す」
「まる……」
「え! じゃあまた関西!?」
「岡山で落ち合うことになった」
「岡山!? 何日かかるの!?」
「高速乗って最速で行く」
「えやったー」
マルヨンは関西を拠点に巡る班。
絶対的な戦闘力が無いため、チームバランスを取るため押し付けもとい引き取ってもらえることになった。
「マルヨンって弱いところじゃん」
十二時過ぎ、ようやく目を覚ました画海は顔をしかめる。
「だから強いお前が入るんだよ」
「弱いやつ嫌い……しかもあいついるんでしょ、なんだっけ、かぼちゃみたいなやつ……」
「んなやついねぇよ」
「かぼちゃきらぁい」
いるのは全員人であってかぼちゃなどいない。きゅうりもスイカもゴーヤもいない。
途中高速を降りて、スーパーでトイレや昼食、日用品の調達をしたり、道の駅で寧奈のアイスを買ったり。
「んふ!」
「アイス好きだなぁ」
「寒い時期に食べるアイスは最高です」
「見てるだけで寒いわ」
寧奈と東が話していると、トーキと瞬と画海も帰ってきた。三人とも何か持っている。
「ハルさんにもこれどうぞ」
「なんだこれ」
「たい焼き」
「いや、見りゃわかるけど……」
「瞬が食べたいって言うから画海に買わせました。口が甘くなった時用のコーンポタージュも」
変なところで気が利くトーキに呆れながら、皆で車に戻った。
東が食べ終わってから、また出発する。
「寧奈寒くないか?」
「ブランケット被ってるので平気です」
「冬場にアイスってよく分からないんだよなぁ」
「え、美味しいじゃないですか!」
「夏に食ったらそりゃ冷たいし美味いんだろうけど」
「ハルさん寒がりだからじゃない?」
「あ、私寒さはいけるので!」
「俺暑い方が得意だ」
「汗かくの嫌なんですよね」
「なるほどな」
その分アイスは食べれば食べるほど体感温度が下がるし、汗とはおさらば出来るので素晴らしい食べ物だ。
「冬に食って腹壊さん?」
「アイス食べすぎてお腹壊したことないです。私たぶん体温も高いので……」
「すげぇな。俺と真逆だ」
寝る時はいつも誰よりも毛布を被って包まっている東は、いつも明け方小さく震えている。本当に寒がりらしい。
車中泊では湯たんぽも無いもんな。
「寧奈にくっ付いて寝たらいいんじゃないですか?」
「寧奈が嫌だろ」
「あでも、同じ布団に入ってればちょっとは温かいかもしれないです」
「そうなかぁ」
マルヨンは現在九州で仕事をしているらしくて、合流出来る夜まで岡山をぐるぐる巡る。
夕方に温泉に入って、普段寧奈がゆっくり出来ていないので待ち合わせ時間を二時間後にして。その頃に、マルヨンもここに来るだろうという感じ。
久しぶりに体をお手入れして、ぬるめの湯にしっかり浸かれた。
体を伸ばし、息をつく。
入って一週間と少し。
全く落ち着かない日々だが、車中泊も案外不便無いし、喧嘩や不機嫌で空気が悪くなることもない。皆優しくて陽気で明るくて、一緒にいて楽しい人達。
朝や夜は静かに一人の時間も出来るし。
家が半壊した時は人生終わったと思ったけれど、よかった、生きてる。
叔父叔母から離れて、到底自分の力とは言えないけれど。よかった。
風呂で死ぬほど眠たくて、早々に上がると髪を乾かさずに脱衣所から出た。
髪の毛を包んだまま、休憩スペースの座敷に座ると、机に突っ伏して目を閉じた。
死ぬほど冷たい手が顔に当たって、体が震えた。
目を覚ますと、東がいた。
「おはよう」
「……おはようございます……」
「大丈夫か? 寝てたぞ」
「……体伸ばしたら眠たくなっちゃって……」
向かいを見ると、画海が座っていた。
「気を付けろよ。画海が先に上がってたからよかったけど」
「すみません……ありがとうございました……」
トーキと瞬はまだ出てきていない、少し寝ただけでもすっきりした寧奈は顔を擦った。
「二人とももう出てくるから。……髪乾かしてくるか?」
「あ……いいですか?」
「おん」
寧奈とちょうど入れ替わりでトーキと瞬が出てきた。
「ハルさんフルーツ牛乳いりますかー?」
「おーサンキュー」
「いらなかったら私飲みます」
「自分で買ってこい」
「今さっき飲んでたでしょ……」
「寧奈まだ?」
「髪乾かしに行った。さっきここで寝てたんだよ」
「あら。お疲れかな」
「慣れない車中泊だもんね。昨日の研修もキツかったろうし」
「ゆっくり休めたのならいいけれど」
男四人、むさ苦しい机に嫌気が差した頃に、マルヨンがやってきた。
「お疲れ様です……!」
「おーお疲れ。これ引き取ってくれ」
画海を見下ろして、うんともすんとも言わないマルヨンを見上げる。
「あそう言えば噂の新人さんは?」
「話を逸らすな。こいつを引き取れ」
「やっぱり無理ですよ……! いくらうちが弱いとは言えマルヒトの青さんとかいや無理……! そもそもうち四人乗りですし! もう四人なんですよ!」
「んじゃなんで了承したんだよッ……!」
「だーって本部長から言われたら断れないでしょォ!?」
「知るかわざわざ岡山まで来てやったんだぞ!?」
「二人とも落ち着いて……!」
掴み合うマルヨンリーダーの紫暮と東に皆が慌てて口を塞いでいると、寧奈が戻ってきた。
「どういう状況……?」
「押し付けたい人と押し付けられたくない人」
「あぁ……」
とても分かりやすい説明に納得した寧奈が見ていると、ふとマルヨンの人と目が合った。
「あ新人さん? 新人さんなら引き取ってもいいですよ、心現出しまくる厄介者って聞きましたけど。神持ちなんでしょ? うち神持ち一人しかいませんから、ちょうどいいです。ね!」
トーキに押さえつけられていた東がトーキを殴って立ち上がり、紫暮を見下ろした。
「行くぞ」
「え、画海君どうするんですか?」
「本部に引き渡す」
「えやだ。嫌だ赤もいないのに!」
「知るか。悪評作った自業自得だ」
画海は顔を真っ青にして東に嫌だ嫌だと縋り付き、あまりの慌てように、寧奈は少し首を傾げた。
「なんであんなに嫌がってるの……?」
「トラウマがあるんだって」
「画海君上層部に殺されかけてたんだよ~。間一髪のところで班入りになったけど。本部に引き渡すってことはつまり、上層部直下に逆戻りってことだから」
「……そんなところに、引き渡すの……?」
殺されかけてたって、だって精衙の仕事はただでさえ命懸けだ。その上人からも殺されかけてたって。
あまりにも五月蝿い画海は東に拳骨を落とされたが、それでも嫌だ嫌だと喚き、車に乗るのを拒否した。
「東さん、一旦うちで面倒見るのは……」
「駄目だ! 一回の崩壊は総崩れに繋がる。絶対無理」
「崩れさせなかったら、いいんでしょ?」
「一番危ないのはお前だ寧奈。気強い上に話通じん奴嫌いなんだろ。信用出来ない男と車中泊ってのも危険でしかない」
「信用出来る出来ないは置いといて、男と車中泊が危ないのは百も承知です。私気が強いので言い負かされるまで意見は変えたくありません。アイツ可哀想ですよ。せめてマルヒトに戻すとか、単独? とか、あるか分かんないけど……」
「そもそもマルヒトは問題児の巣窟なんだよ。本部が管理したがってた。丁度いいタイミングだ」
「でも昔その本部に殺されかけてるんでしょう? アイツ殺したお偉いさん、全員辞めたんですか?」
東だって優しい人だ。わざわざ殺すために送るんじゃない。ただ、マルフタのことを思って追い出したいだけ。
「俺はリーダーだ。班を統率する義務がある」
「それは分かってます。だから、アレも含めて統率してくれませんか」
「……なんでそこまで言う」
「トラウマが怖いのは、私もよく分かります」
寧奈がお願いしますと頭を下げると、東はトーキと瞬に目を向けた。
頼むから嫌がってくれと思っていたのに、二人は揃って適当に頷きやがる。
「私はいいですよ。喋る気無いし」
「僕も。大丈夫だと思う」
東は頭を深く下げた寧奈を見下ろして、顔をしかめた。
「わーった。ただしマルヒトの二人が回復するまでだ。……それまでな」
「はい。ありがとうございます。……生意気なこと言ってすみません」
「いいよ。皆の意見を押し潰したいわけじゃない」
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