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3 何がおかしいの?
しおりを挟む「この間の……!!」
そう。あたしが待ち望んでいた人。
この間もあたしが人間達に罵倒された時に、助けてくれた命の恩人!
ーーといっても、アンタのためじゃないって本人は言ってた。実際は、あたしを罵倒してきた奴らから金を奪われたらしく、取り返しに来たんだって。
それでも、うっとり……。
前髪は目が隠れない程度にMを描くような感じに伸びていて、透き通った黒髪に毛先が少し紺色っぽいグラデーション。
綺麗な真紅の瞳にまつ毛も長く、一匹狼な雰囲気を醸し出している彼は、正にあたしの理想の青年だった。
ーー衣装を除いては、だけどね。全体的に使い古した黒い服を身に纏って、後はスカーフと……んー、動きやすいのかしら?? ぶかっとした布服。……これが人間界ではオシャレなのかな。
何も着ないほうがいいのに……。
「なんだ……またお前か」
砂嵐も止み、視界がくっきりと映し出されると、片手に短剣を持ち立ち尽くしている彼がそこにいた。
「ちっ。これは少ないな……使われたか」
ジャラジャラと手のひらで踊らせるように金貨と銀貨を持っている。もしかしてさっきの三人から奪った? 使われたかーーと言うなら、もしかしたら元は彼のものだったのかも。
「ねえ! また盗まれたのね? この間も、お金に困ってたじゃない? 随分と隙があるのね」
普段の傲慢な部分がどうしても滲み出てしまう。好きな子を弄りたくなるっていう噂は本当だったのかもしれない。
お金に目をやっていた彼は、やっとあたしに目を向けてきた。
「ーーうるさい。弟の尻拭いをしてやってるだけだ」
眉を顰めながらも、真剣な眼差し。まだ緊張が解けてないみたい。
「そう。弟がいるのね」
「まぁな。ーーじゃ、俺はこれで。お嬢さんもずっとそこに居たら干からびちまうぞ」
「なっ……! 失礼しちゃう」
唇を尖らすあたしに、クスッと笑顔を見せてくれる。お堅い表情が一瞬にして解けた瞬間だった。
「笑顔、初めて見たわ。ーー名前、教えてよ。あたしはリベラ。リベラ・スカイハート」
好きな人と進展があると、心が疼く。
ーーでも、教えてくれるかしら? 人間からしたら、あたしの見た目って良くないみたいだし……。
調子づいた態度で聞いていいものか、どうか。
「ーーベルナード」
砂浜を直に座り込んで、彼は渋々とそう言った。
「え?」
「ベルでいい。ベルナード・アイビー。それが俺の名前。……けど、あまり人前で言わないでほしい」
ベルはあたしから目を逸らし、眉を中心に寄せていた。ーー照れてる? いや、なんだか深刻そう。
「有名人?」
「ここら辺ではな」
「ふーん……貴族? って訳でも無さそう。ま、気にしないけど。宜しくねっ?」
そうしてあたしは自分の唇をベルの唇に近付けた。待て待て待て、とベルは手のひらであたしの唇を塞ぐ。
「んぅっ……?」
あ。
そうだった。
うちでは挨拶でキスを交わすけど、きっと人間界じゃ違うんだ。
「ごめんなさい。あたしのところではこれが挨拶なの」
ここは潔く引こう。気味悪く思われたら嫌だし……。
「そうなのか? ……なら、海族は危なっかしいな。気をつけろ、そんな事したら人間はすぐその気になるから」
「ふーーん……そうなの? そしたら、今ここでキスしたら貴方もその気になってくれる?」
「………………はぁーー」
大きく息を吸ってから、溜め息。
すると、自らあたしの腰に手を添えて引き寄せる。
「きゃっ!?」
もう片方の手であたしの前髪を横にーー
「試してみるか?」
ベルは片方に口角を上げて、ニヤリと笑みを浮かべた。
「っあ……!! ダメっ!!」
あたしの前髪に触れたベルの手を振り払う。
「えっ……??」
きょとんとした、その瞳は更に心をエグッた。腰に添えてくれていた手も、パッと外される。
「この間の……見たでしょ? おかげで自分の顔に自信がないの。だから隠してる」
自分の瞳を前髪で隠し、更にその上から手のひらで覆い尽くす。
「そしたら見えねーじゃん?」
「見なくていいのよ!」
カンカンと日照りの真っ只中で、それに反して場が凍りつくような空気が押し寄せる。沈黙の中、波風だけが聴こえる。
……あたしとしたことが。非常に、気まずい。
まずは大きく深呼吸をして……、
「っ……ねぇ」
人差し指と中指の隙間からコソリと目を向けて。
「うん?」
「あたしね、人間になりたいの。……協力してくれない?」
「っえ? 人間に? どうやって」
「その、あたしもよく分かってないけど、人間の精を体内に取り込めばいいって聞いてる」
「精!?」
今度はギョッとした目で見てきて!
そんなに驚くことなの?
精って? んー…………?
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