【R18】蜜を求める人魚姫

ロマネスコ葵

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4 失恋?

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「リベラ、アンタいくつだ?」
「? 十九よ」
「……そうか」

 ベルは手のひらに唇を乗せて、更に肘を膝に乗せる。最初の落ち着いた表情はどこへやら、今は目のやり場に困ってそうな、頬を赤らめて思い悩んだ表情だ。
 どんな顔も素敵。もっとこの目に焼き付けたい。恐る恐る、あたしは自分の手を首から胸へと下ろしていく。

「んね、ベルは?」
「……二十」
「近いじゃない!」
「リベラ。なんで人間になりたい? それによっては協力してやらなくもない」
「人間になれば美貌を手に入れられるからよ」
「なっ…………」

 即答すると、聞いた俺が間違いだった、と言うような呆れた表情に変わる。目を閉じて、はぁーあ、と大きく溜め息をつく。

「溜め息が好きなのね。何がそんなにおかしいのよ。あたしは常に綺麗でいたいの」
「くだらない、本当の話だとしてもな。つうか今も十分、綺麗じゃないかと思うけど……」

 砂浜に手を付けて、立ち上がろうとするベルの両肩を押さえる。

「ちょ、待って待って! ーーっあ!」

 隙を掴んだように、ベルはあたしの頬を撫でるように添えて、人差し指で前髪を横に寄せた。

「ちょっと……!」

 頬に乗せた手は、振り払いたくても払えない。どちらかといえば、嬉しいほうが何十倍、何百倍にも勝ってる。
 なんだかとても心が熱い……本当に体中が残ったまま溶けていくんじゃないかと思う。

「やっぱり、綺麗だよ。目ぇ黒いなって思ったけど、よく見たら綺麗な栗色してんだな」

 額と額をくっつけてきて、じっと見つめてくる。

「き……れい……?」 

 聞き慣れた言葉も今は新鮮で。

「そう思うなら、あたしに挨拶……してくれる?」
「…………」

 沈黙。そして、こんなに近距離で居続けるのは本当に心臓に悪い。発作でも起きてるのかってくらい、高鳴ってる。

 すると、どんどん唇が近づいて――――……






「…………? ん?」



 ? ?? 来ない。
 自然と瞼を閉じたのに、唇に感触が何も無くて、つい目を開けてしまう。

 すると、ベルは我慢してたのか思い切り吹き出した。

「ははっ! 残念……ここは地上だぞ?」
「イタ!!」
「俺を煽ったから仕返し。ファーストキスが奪われるとこだった」

 あたしの額に指を弾く。
 掠れる程度でそこまでは痛くなかったけれど、騙されたから胸が痛い。

「え? ファーストキス、まだなの……??」
「無い。……だから、なんだよ?」

 当たり前、というかのようにムッとした表情。あたしなんて誰がファーストキスだったかなんて覚えてすらない。人間界では、大事なことなのかしら。

「可哀想。キスすらした事ないなんて」
「異文化だから可哀想もない。こっちじゃぁ、好きな人にしかしないんだよ」
「うーん……」

 そーいうことだから。と、ベルは漸く立ち上がって、あたしに背を向けた。

「あっ……行くの?」
「追いかけなきゃいけない奴らがいるんでね。じゃーな、人魚姫。あんまり調子のってると人間様に喰われるぞ」
「ちょ、ちょっと!! 待ちなさいよー!」

 途中で振り返ることさえなかったベルは、潔く立ち去って行った。
 そんなぁ……。
 振られた気分……。やっぱりこんな顔だから駄目だったんだわ。人間と人魚の好みは違うものね……。

 理想の体を得られればきっと、彼も振り向いてくれるはず……。

 あたしはその考えに間違いなど無いと、心からそう思っていた。


***




「いや!! いやいやいや!! リベラ様ぁ! それは違います~~!! 絶対、絶対に間違ってますぅぅ!」

 海へ帰り、大きな貝殻に向かい合わせになって座っているあたし達。

 猛烈に大反対するのは、このローズ海で一番のテンパり丸顔娘、リリア。友達……というより、長年ずっと拭え切れない金魚のフンに近い。何故かは分からないけれど、あたしに憧れてるみたい。
 ベルに振られたあたしは海へ帰って、早速リリアに今日の出来事を伝えたらこのザマだった。

「だって……あたしの顔さえ良けりゃあ、絶対に堕ちてたわ。アイツ!! 悔しい、悔しい……!!」

 本当はショックで仕方がなかった。罵倒される以上にも、優しい対応をして逃げられた事のほうがよっぽと精神的によろしくない。

 いつもなら……! いや、海に住む凡人になら、あの誘いでコロッと堕ちるもんなのに!

「奴は見る目が無いだけです! それに……!! どうして、ど~してリベラ様はそんな奴に一目惚れなどするのでしょう!? 凄くショックなリリアです……」

 リリアの真っ青で真ん丸な瞳から、透明な丸々涙が今にも溢れそう。そしてリリアの口調は何か不思議で、稀に気になる事がある……。

「ひとっ……!? 違う!! あたしはあんな奴に堕ちたりなんかしてないわ!」

 もっぱらな大嘘。リリアでさえ見抜けてしまう大嘘だと自分でも思ってしまう……。

「そんなの嘘ですぅ! 憧れの人間様にちょっと助けてもらっただけで、すーぐコロッと堕ちちゃって! 典型的な異文化・異族好きです! リリアのほうがずっと前からリベラ様の事をお慕い申してましたのに……ふぅぅぅ、納得がいかないリリアです」

 リリアがぐすん、ぐすんと耐えきれなかった涙をどんどん溢れ落としていく。そして丸々に結び上げていた二つの林檎結びでさえ崩れていき、赤く綺麗に染まった髪が台無しになっていった。
 
「リリア泣きすぎよ」

 ホントはあたしが泣きたいのに。

「だって、だって……! リベラ様がどんどん離れて行くような気がして。リベラ様を惚れさせたベルナードという奴に頭突きしたいリリアです……!!」
「だーかーらー!」

 もう駄目だわ……。何言ったって聞いちゃくれない。いつもなら可愛い小魚さんのように純粋な目で素直に話を聞いてくれるのに。流石にあたしもショックで心に余裕が無さすぎて、リリアに余計な事を話しちゃったわ……。
 反省、反省。リリアの為にどこまで反省できるか自分自身が心配になってくるところだけど。

「リベラ様! ご存知ですよね? リリア達は人間に深入りしちゃいけないんです。大昔からの掟です! これはちっぽけな脳みそ持ちにでも分かる話ですぅ!」
「でもあたしの両親はそれを簡単に破ったわ」
「いやいやいや……!!」
「掟なんて大したことじゃないのよ」
「でもでもでも……」
「それよりもあたしは誰もが狂い出すような美貌が欲しい」
「いえいえいえ、今でも十分に」
「リリアの十分はあたしにとっては足りないの!」

 分かって! という気持ちをぶつけるように一喝する。リリアは驚いて、ふわっと舞い上がる真っ赤な髪と同時に自分の手をピシッと姿勢正しく膝に乗せた。
 それも束の間、徐々に髪も姿勢も忽ちに崩れていく……。

「…………やだわ。ちっちゃい子をイジメてるみたいじゃない」

 あたしは自分自身に対して大きく溜め息を吐いた。彼のように、はぁ~あ、ってね……。
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