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後日談 黛家の妊婦さん3
(170)ショールームで
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前話の続きのおまけ話です。
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『DMW』のショールームで七海は、今度は顎の位置でストレートの髪を揃えた可愛らしいタイプの女性のもてなしを受け、ピカピカ光る新車に囲まれ優雅な気分でレモネードを飲んでいた。
一通り雑誌をチェックした後、ふと思いついてショールームに並んでいる新車を眺める為に立ち上がる。産休に入ってからの定期健診で、先生から適度に運動するようにと指示を受けた。だから座ってばかりいないで少しは歩き回った方が良いだろうと考えたのだ。
車については何も分からない七海だが、ピカピカの車体を眺めていると心なしか楽しくなってくる。一際大きい黒い車体を眺めていた時、いつの間にか絶妙な距離に短めの髪をお洒落にセットした営業担当らしき男性が、ニコニコと人の好さげな笑顔を浮かべて寄り添っているのに気が付いた。
「こちら、つい先日から展示を始めたばかりです。実は7シリーズ誕生四十周年を記念したモデルで、世界に二百台しか存在しないんです」
「へー、そうなんですか」
『7シリーズ』と言うのが何を表しているのか、二百台と言うのが多いのか少ないのかイマイチピンと来ないので、七海は適当に相槌を打った。
「特に内装が最高なんですよ」
「へぇ、良いですね」
「是非座ってみてください!」
ニコリと微笑まれて、七海は慌てて首を振る。
「え?いえいえ!とんでもない!」
チラリと見えた値段は彼女がイメージしている普通車の値段より、ゼロが一つ多かったように思う。それに、七海に直接車を勧められても困ってしまう。車を買うのはあくまで黛で、今の彼女は訳も分からず付き添っているような状態なのだから。すると男性は七海の懸念を察したかのように一歩引いた姿勢で柔らかく微笑んだ。
「あの、ご心配なさらないで下さい。こう言う記念モデルは言わばテーマパークの客寄せみたいなもので、ショールームにいらしたお客様、皆さまにお勧めしているんです。一度座ったからと言って、押し売りのような真似は致しませんので……」
柳のようにやんわりと対応されると、頑なに首を振り続けるのも野暮に思えてくる。紳士的にドアを開け「さぁ、どうぞ」と促されてしまうと、ついつい断り切れずに七海は頷くしかない。何故か運転席では無く、後部座席を勧められた。
「うわぁ……」
しかし腰を下ろした途端溜息のような呟きが口を付き、七海はそのままうっとりとしてしまう。頭が包み込まれるような造りで、座り心地はとても良い。まるで上質なソファに座っているようだ。内装の白い革張りはラグジュアリーな雰囲気を醸し出していて、車の座席と言う事を忘れてしまいそうになった。
「快適でしょう?」
「あ……はい!」
やっぱり高いだけあるなぁ!などと思いっきり庶民らしく納得してしまい、そしてそんな自分のチョロさに呆れてしまう。助けを借りて車を降りると、男性はニッコリと微笑んだ。
「どうでしたか?」
「はい、とても乗り心地が良いですね」
「それは良かったです。お連れ様は試乗中でしたよね?他の車も試しに座ってみませんか」
「ええと、でも……」
幾ら七海を接待しても決定権は黛にあるのだ。だからここの車の乗り心地を七海に教えても、目の前の営業担当者の利益には全くならない。それをどうにか気を悪くされないように伝えなくては……と小心者の七海が躊躇していると。
「じゃ、あれ良いですか?」
いつの間にか隣にいた黛が、マットな色合いの深い藍色にも見える黒い車種を指差していた。あれ?とその時違和感を覚えたが、七海にはそれが何か分からない。
しかし黛が指定した車種を見て、営業担当の男性は妙に嬉しそうに目を輝かせた。
「ええ、どうぞ!」
そう言ってイソイソと七海達を車まで誘導する。さきほど七海が乗った安定感のある形の車種と違って、流れるようなスタイリッシュな形をしていて未来的な印象を受ける。更にどうやらガソリンでは無く、これは電気で動くタイプらしい。不思議な形のドアが付いていて営業担当の男性が手を掛けると、翔太の持っているオモチャのスーパーカーのように斜め上方に、回転するようにドアが持ち上がった。ちょうどクワガタが飛び立つ直前、広げた羽のようにも見える。座席も背が後ろに倒れ気味で、どちらかと言うとレース用の車のように見えなくもない。
「七海も乗るか?」
悪戯っぽく笑う黛に、七海はブンブンと首を振って拒否を示した。コクピットみたいな窮屈な座席は、妊婦にはあからさまに乗りづらそうだ。
黛も言ってみただけのようで、返事を確認した後さっさと乗り込んでしまう。ハンドルを掴んで満足そうにしている様子は、まるで子供みたいだ。同じように目をキラキラと輝かせている営業担当の男性と、ニヤついた笑いを浮かべながら楽しそうに車談義をしつつ、装備を触っている。その光景を見守っているうちに、やっと七海は違和感の正体に気が付いた。
これ……今の車と変わらない2ドアだよね?
黛君、確か2ドアじゃチャイルドシートが使い辛いから新しい車を試すって言って無かったっけ?扉を全開にするから駐車場が狭いと不便だとかなんとか言っていたハズ。
なのに今楽し気に試している車は、今の車よりもっとドアを開けるスペースが必要になりそうに見える。さきほどここに至る道すがら、耐久性がどうの理念がどうのと、小難しい事を語っていた黛を思い出す。
……やっぱりただ単にカッコイイ車に乗りたかっただけなのかも?
ウキウキと会話を交わす男性二人を見ながら、七海はそう確信を深めたのだった。
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アレ?こんなはずでは……。
またしても書きたいネタに辿り着かず、ただ車を愛でて終わってしまいました(゚д゚)!
次こそたぶん少しは恋愛小説っぽい話になる(ハズ)……と思います。(←弱気)
終わる終わる詐欺、再びで本当にスイマセン(;^ω^A
このネタ、まだ続きます。
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『DMW』のショールームで七海は、今度は顎の位置でストレートの髪を揃えた可愛らしいタイプの女性のもてなしを受け、ピカピカ光る新車に囲まれ優雅な気分でレモネードを飲んでいた。
一通り雑誌をチェックした後、ふと思いついてショールームに並んでいる新車を眺める為に立ち上がる。産休に入ってからの定期健診で、先生から適度に運動するようにと指示を受けた。だから座ってばかりいないで少しは歩き回った方が良いだろうと考えたのだ。
車については何も分からない七海だが、ピカピカの車体を眺めていると心なしか楽しくなってくる。一際大きい黒い車体を眺めていた時、いつの間にか絶妙な距離に短めの髪をお洒落にセットした営業担当らしき男性が、ニコニコと人の好さげな笑顔を浮かべて寄り添っているのに気が付いた。
「こちら、つい先日から展示を始めたばかりです。実は7シリーズ誕生四十周年を記念したモデルで、世界に二百台しか存在しないんです」
「へー、そうなんですか」
『7シリーズ』と言うのが何を表しているのか、二百台と言うのが多いのか少ないのかイマイチピンと来ないので、七海は適当に相槌を打った。
「特に内装が最高なんですよ」
「へぇ、良いですね」
「是非座ってみてください!」
ニコリと微笑まれて、七海は慌てて首を振る。
「え?いえいえ!とんでもない!」
チラリと見えた値段は彼女がイメージしている普通車の値段より、ゼロが一つ多かったように思う。それに、七海に直接車を勧められても困ってしまう。車を買うのはあくまで黛で、今の彼女は訳も分からず付き添っているような状態なのだから。すると男性は七海の懸念を察したかのように一歩引いた姿勢で柔らかく微笑んだ。
「あの、ご心配なさらないで下さい。こう言う記念モデルは言わばテーマパークの客寄せみたいなもので、ショールームにいらしたお客様、皆さまにお勧めしているんです。一度座ったからと言って、押し売りのような真似は致しませんので……」
柳のようにやんわりと対応されると、頑なに首を振り続けるのも野暮に思えてくる。紳士的にドアを開け「さぁ、どうぞ」と促されてしまうと、ついつい断り切れずに七海は頷くしかない。何故か運転席では無く、後部座席を勧められた。
「うわぁ……」
しかし腰を下ろした途端溜息のような呟きが口を付き、七海はそのままうっとりとしてしまう。頭が包み込まれるような造りで、座り心地はとても良い。まるで上質なソファに座っているようだ。内装の白い革張りはラグジュアリーな雰囲気を醸し出していて、車の座席と言う事を忘れてしまいそうになった。
「快適でしょう?」
「あ……はい!」
やっぱり高いだけあるなぁ!などと思いっきり庶民らしく納得してしまい、そしてそんな自分のチョロさに呆れてしまう。助けを借りて車を降りると、男性はニッコリと微笑んだ。
「どうでしたか?」
「はい、とても乗り心地が良いですね」
「それは良かったです。お連れ様は試乗中でしたよね?他の車も試しに座ってみませんか」
「ええと、でも……」
幾ら七海を接待しても決定権は黛にあるのだ。だからここの車の乗り心地を七海に教えても、目の前の営業担当者の利益には全くならない。それをどうにか気を悪くされないように伝えなくては……と小心者の七海が躊躇していると。
「じゃ、あれ良いですか?」
いつの間にか隣にいた黛が、マットな色合いの深い藍色にも見える黒い車種を指差していた。あれ?とその時違和感を覚えたが、七海にはそれが何か分からない。
しかし黛が指定した車種を見て、営業担当の男性は妙に嬉しそうに目を輝かせた。
「ええ、どうぞ!」
そう言ってイソイソと七海達を車まで誘導する。さきほど七海が乗った安定感のある形の車種と違って、流れるようなスタイリッシュな形をしていて未来的な印象を受ける。更にどうやらガソリンでは無く、これは電気で動くタイプらしい。不思議な形のドアが付いていて営業担当の男性が手を掛けると、翔太の持っているオモチャのスーパーカーのように斜め上方に、回転するようにドアが持ち上がった。ちょうどクワガタが飛び立つ直前、広げた羽のようにも見える。座席も背が後ろに倒れ気味で、どちらかと言うとレース用の車のように見えなくもない。
「七海も乗るか?」
悪戯っぽく笑う黛に、七海はブンブンと首を振って拒否を示した。コクピットみたいな窮屈な座席は、妊婦にはあからさまに乗りづらそうだ。
黛も言ってみただけのようで、返事を確認した後さっさと乗り込んでしまう。ハンドルを掴んで満足そうにしている様子は、まるで子供みたいだ。同じように目をキラキラと輝かせている営業担当の男性と、ニヤついた笑いを浮かべながら楽しそうに車談義をしつつ、装備を触っている。その光景を見守っているうちに、やっと七海は違和感の正体に気が付いた。
これ……今の車と変わらない2ドアだよね?
黛君、確か2ドアじゃチャイルドシートが使い辛いから新しい車を試すって言って無かったっけ?扉を全開にするから駐車場が狭いと不便だとかなんとか言っていたハズ。
なのに今楽し気に試している車は、今の車よりもっとドアを開けるスペースが必要になりそうに見える。さきほどここに至る道すがら、耐久性がどうの理念がどうのと、小難しい事を語っていた黛を思い出す。
……やっぱりただ単にカッコイイ車に乗りたかっただけなのかも?
ウキウキと会話を交わす男性二人を見ながら、七海はそう確信を深めたのだった。
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アレ?こんなはずでは……。
またしても書きたいネタに辿り着かず、ただ車を愛でて終わってしまいました(゚д゚)!
次こそたぶん少しは恋愛小説っぽい話になる(ハズ)……と思います。(←弱気)
終わる終わる詐欺、再びで本当にスイマセン(;^ω^A
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