平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎

文字の大きさ
49 / 363
本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

36.花束の似合う美男

しおりを挟む
 その日は火曜日だった。

 いつも通り連絡を受けて駅で待ち合わせしていた筈なのに、またしても何故か会社の前に精悍な容貌のスタイルの良い男が、如何にも値の張りそうな仕立ての良いスーツを着て立っていた。

(これか……!)

 その光景が目に入って来た時、自分が受けたいわれのない疑いにやっと合点が行った。

 のぶは可愛らしいピンクの花束を抱えていた。
 七海は頭が痛くなった。思わず顔を覆って俯く。茫然とその場に立ち尽くしたまま。



 何故なぜ、『花束』。―――すごく似合っているけれども。
 そして約束したのに何故なにゆえ駅では無く、性懲りも無く会社の前まで来ているのだ。



 確実に岬が言っていたであろう『ホスト』は信だ。
 そうだ何故気付かなかったのだろう―――と七海は自分の迂闊さを呪った。

 高校の頃から見慣れ過ぎていて―――唯の友達としてイケメンに囲まれる生活をしていた為に、それが如何に非日常に見えるのかと言う事を認識していなかった。
 だって七海の周りのイケメンは皆七海では無く、あくまで唯のために存在していた。
 彼等は七海目当てで一緒にいた訳では無いのだ。
 そう、七海は添え物だった。そして矢面に立たないそのポジションが、あまりに居心地が良くその状況が周囲からどのように見えるかと言う事を忘れていたのだ。

 そして七海はある事に気が付き、バッと後ろを振り向いた。

 するとこちらを窺っていた課の先輩三人組と目が合ってしまい、ギョッとする。
 伊達と中村は、驚いてきまり悪そうに視線を外した。
 しかし一人だけジッとこちらから視線を逸らさず睨みつけている人物がいる。幼く見える大きな目を吊り上げた岬だった。

 七海の背筋を冷たい物が走り抜けた。

「七海ちゃん」

 その時タイミング良く(悪く?)肩をポンと叩かれ、彼女は飛び上がった。

「うっ…わぁあ!」

 いつの間にか信が七海の傍まで歩み寄って来ていて、花束を抱えたまま嫣然と微笑んでいた。そしてキョトンとした様子で、無邪気に話し掛けて来る。

「どうしたの?立ち止まって」
「の、のぶさぁん~……も、もうやめてくださいよぉ……『駅で待ってて』って言ったのにぃ」

 七海の肩に手を置きニッコリと笑う信を見上げた時、彼女の体からヘニャリと力が抜けた。
 そこで今度は信がギョッとして、狼狽うろたえだした。



「え?な、七海ちゃん……?!」



 驚き過ぎて、七海の目尻からポロリと涙が零れた。

 今日は七海なりに気を張って頑張って来たつもりだ。
 それなのに、その原因を作ったであろう信の呑気な顔を見ていたら―――腹が立ったのだ。

しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...