平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎

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玲子様とお呼び! ~続・黛家の新婚さん~

3 玲子様とお呼び!

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三歳になった龍太郎の見た目は、祖母である玲子にそっくりだ。しかしアラフィフの玲子の見た目は、どう見えても二十代後半から三十代。連れ立って散歩していると、母親に間違われることもしばしばであった。
一方龍太郎の性格は七海に似たのか、おっとりとしている。
同じ認定こども園に通う子供達の中で、比較的おとなしい部類に入るかもしれない。この頃になると一人前におしゃべりできるようになる子も多くなる。そして男の子は運動能力を発揮することに長けている傾向にあるが、おしゃべりは女の子の方に分がある。龍太郎も言葉の発達はゆっくりであるように見えた。周りのことも考えながら言葉を選んで話すせいかもしれない。
玲子そっくりで美少女のような見た目の、しかもおっとりと優しい性質の龍太郎は人気があり、通園するなり女の子たちに囲まれてしまうのであった。

「龍太郎、じゃあまた帰りに迎えに来るわね」

玄関先で手を振るといつも、龍太郎は小さい手をフルフルと振ってこたえてくれる。
だが「リュータローくーん!」と駆け寄ってきたツインテールの女児とポニーテールの女児二人に両側からがっしりと手を掴まれてしまう。
玲子がその様子を呆れたように笑って見送っていると、連行されつつある龍太郎が手を振る代わりに首だけ振り向き、ニコリと微笑みを返したのだった。

より龍太郎の関心を引くのはどちらかと競うように話しかけていた二人が、その笑顔をみてふと立ち止まる。

「リュータローくん、ママとそっくりね?」

ポニーテールの女児、ヒナが、龍太郎の顔をマジマジと覗き込み、こう言った。
龍太郎は首を傾げる。龍太郎はどちらかというと母親より父親似だと言われているからだ。フルフルと首を振る。するとツインテールの女児、マイカがこう言った。

「えー! そっくりじゃん!」
「ねー! リュウタローママ、きれー!」

指さすその先を見ると、玲子の姿がある。幼稚園バッグや帽子を指定位置に収めて、先生に連絡帳を渡していた。彼女はこのまま家に帰り日課であるピアノの練習をするはずだ。ピアニストの玲子は、龍太郎の世話をしつつも毎日練習を欠かさない。腕がなまっちゃうから、と言っていた。龍太郎はその様子を眺めたり、時にはピアノを教えてもらったり、傍らでお祖父ちゃんに買ってもらったタイコを叩いたりする。

「レーコちゃんのこと?」

玲子は息子だけではなく孫にも、名前呼びをさせていた。
ちなみに祖父となる龍一は、呼び方にこだわりがなく自分のことを「じーちゃん」と呼ばせている。

「『レーコちゃん』?」
「……ママじゃないの?」

龍太郎は、こくんと頷いた。

「家族だよね?」
「うん」
「ひょっとして、リュータローくんの、ママかパパのおねーちゃん?」

ヒナの母の姉は時折遊んでくれて、母親が忙しい時代わりにお迎えに来てくれることもある。
龍太郎はヒナの問いかけに、ふむと考える。
じーちゃんと違って、レーコちゃんを「ばーちゃん」と呼んだらダメなのだ。言葉を選ばなくちゃ、いけない。

「『レーコちゃん』は、とーさんの『ママ』だよ」
「……とーさんのママって……」
「それって、『おばあちゃん』ってこと?」
「えーっと……うん」

本人をそう呼んではいけないが、確かに玲子が龍太郎の『おばあちゃん』であることは違いない。迷いつつ龍太郎は頷いた。すると二人は、いかにも面白いことを発見した! と言うように目を丸くした。

「へー!」
「そうなんだ!」
「リュータローくんのおばあちゃん、うちのおばあちゃんと、ぜんぜん違うね!」

龍太郎はその言葉の意味を聞き返す代わりに、首をかしげる。するとキャハハと、ツインテールのマイナが笑った。

「うちのおばあちゃん、もっとシワシワだもん!」

するとポニーテールのヒナも釣られて笑った。

「シワシワ?」
「シワシワ!」
「しーわっしわ~♪」
「わ~しっわし~ぃ♪」

そのまま歌いながら再び両側から龍太郎の腕をとって、廊下を歩きだした。
龍太郎は内心「女の人のこと、シワシワとか言ったらダメなのになぁ」と思ったが、黙っていた。そして手を引かれるまま教室へと向かったのである。

この時は、それだけで済んだ。
何故なら三歳児にとって、三十歳も四十歳も五十歳も、みんな大人という大まかな一括りにカテゴライズされるため、見た目の違いを厳密に把握できないからだ。
しかし時間差でジワジワと、子供の口を介して親へ情報は広まっていく。やがて玲子が母親ではなく祖母であること、その異常に若い見た目について親同士の間でも話題になった。そうして親が驚き話題にすることで、その情報が逆輸入の形で改めて子供達に広がって行くのだった……そしてとうとう、ある事件が勃発するのである。






その日玲子はいつも通り龍太郎の手を引いて、こども園を訪れた。龍太郎は靴を脱いで帽子を脱ぎ、鞄を自分で鞄掛けに掛けた。大人しくて手の掛からない性格は、きっと父親ではなく母親の性質を引き継いだのだろうと、玲子はその様子を微笑ましく見守りながら、先生に声を掛け連絡帳を渡す。そして去る前に、もう一度可愛い孫に声を掛けていこうと振り向いたその時―――ずらりと子供達が自分を囲むように立っているのに気が付いた。

何か用だろうか? ジッと彼らの顔を見下ろすと、子供達は何故かチラチラ視線を交わし合っている。

「……何か用?」

口に出して問いかけ、ニコリとほほ笑む。すると、今度はひそひそと言葉を交わし合っている。とうとう真ん中にいる男の子が、背中をつつかれて前に出た。

「……リュウタローの『おばあちゃん』って、ホント?」

ピクリと、玲子の眉が上がった。
彼らに真正面から向き直しコホン、と咳を一つして腕を組む。
玲子は穏やかに、返答した。

「確かに龍太郎は私の孫よ。私は―――彼の父親の、母親だから」

その途端、どよっと子供達が湧いた。



「ホントに、『おばあちゃん』なんだ!」
「ええー!」
「リュータローの、おばあちゃん!」
「おばあちゃんだ!」
「おばあちゃーん!!」



それから子供達は、一斉に声を上げだした。
わいわいと騒ぎながら、その喧噪を背に丁寧に上着を上着掛けにかけていた龍太郎の腕を引っぱり、真ん中に連れ出した。それから「おばあちゃん!」「おばあちゃん!」と何が楽しいのか掛け声のように囃し立て、笑い出す。
龍太郎は戸惑って「あの……レーコちゃんはそういうの……」と、周りの発言を止めようとしたが、窘めようとする声は盛り上がる幼児たちの声にかき消されてしまう。

だがそこに―――ビリっと空気を震わすような、指令が下された。



「シャーラァップ!!」



その途端しん……と、廊下が静まり返る。

「……私は貴方たちの『おばあちゃん』ではない」

女神のように見下ろす玲子を、子供達は口をつぐんで見上げた。

「玲子、と言う名前があるのよ」

そういい放ち胸の前で腕を組むと、口をあんぐり開け魅入られたように集まる視線たちを見下ろして、彼女はニッコリと微笑んだのだった。



「『玲子さま』とお呼び!」






******






―――その日以来、こども園に玲子が現れると駆け寄った子供達に囲まれるようになった。

「あ! レーコさま!」
「レーコさまぁ!」
「ねぇねぇ、レーコさま~!」

と……何故か玲子は、こども園で大人気となってしまったのである。

そして園児以外の、母親や先生たちが『玲子さま』と呼ぶようになるのも、時間の問題なのであった―――






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

やっと表題のお話が書けました。
お読みいただき、ありがとうございました!

※ ちなみにマイナちゃんの両親は晩婚で、その両親も晩婚…と言う設定です。
  お祖母ちゃんは龍太郎の曾祖母と同世代。

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