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・後日談・ 俺とねーちゃんのその後の話
25.大エビ天蕎麦、2つ <清美>
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とーちゃんはその甘いマスクを綻ばせて、もう既に俺がそう言うのを予想していたように、大きく頷いた。
「じゃあ聞くけど、お前が受験のとき、晶にして貰って嬉しかった事ってなんだ?」
俺が嬉しかったこと。
振り返ればねーちゃんにして貰った事は、数限りなくある。
その中で受験の時に関して言えば……
「勉強、教えて貰ったこととか……励まして貰った事とか。あとはやっぱり料理かな……特に受験前は、好きな物たくさん作ってくれた気がする」
「晶にして貰った嬉しい事の中で、お前に出来る事……ないか?」
「ええ?勉強は……教えられないし。励ますくらい?料理も大した物作れないし……」
とーちゃんはテーブルに両腕を乗せて、身を乗り出した。
「料理がいいんじゃないか?今までは晶も『料理する事が気分転換になっている』って言っていたからそのまま任せていたけど、もうすぐセンター試験、近いだろ?もう勉強に専念した方がいい。ハナも俺も年末忙しいから、晶の負担を減らす為に家政婦雇おうかどうかって話し合っていた所なんだ。でも晶は人見知りだから、こんな微妙な時期に他人に家に入られて調子崩しても困るし。だからお前が代わってやるのが、一番都合が良い」
「でも、俺の下手な料理食べさせて調子崩したら……」
「そこはさ、料理しなければいいんだ。今コンビニ惣菜も充実しているし、レトルトも結構美味しい。味噌汁だってかなり味がいいの、あるよ。ご飯炊いておかず温めて、並べるだけ。それなら部活通いながらでも、できるだろ?弁当は……無理しなくても良いけど、それも冷凍食品とか惣菜を詰めるだけでも良いし、時間無かったら朝コンビニ弁当買って用意してやるだけでも、晶の無駄な時間の短縮になる」
何だか楽しそうに話すとーちゃんに面食らいながら、俺は戸惑いつつ言った。ねーちゃんが手をかけて作ってくれた手作り料理に代わって提供するのが、レトルトとか冷凍食品で良いのだろうか。
「そんなんで……いいの?栄養とか偏らない?」
「センターまであと少しなんだから、必要最低限、食べられれば大丈夫だ。それに最近のコンビニ弁当はかなりバランスを考えているし、野菜が足りなければ惣菜を買い足せばいい。―――何より晶から料理の事を考える時間から解放してやれば、それだけ気持ちに余裕ができる。合理的に考えて出来る事を少しずつやるのが、大事なんだ。でもお前に余裕と覚悟があるんなら、掃除とか洗濯とか……晶の分の他の家事も代わってやれれば、更に良いけどな。そっちはお前も今まで手伝っていたんだろ?」
俺は頷いた。料理はほぼねーちゃんの担当だが、ユニフォームとかジャージの洗濯とか部屋の掃除をするのはほとんど自分でやっていた。洗濯物をビシッと角を揃えて畳む事に関しては、得意分野であると言っても過言では無い。床用ワイパーで部屋の隅の埃を取るのも好きだし、おおざっぱなねーちゃんよりよりずっと丁寧に作業できる自信はある。ただ部活で忙しい俺よりも、実際家にいる時間が多いねーちゃんの方が分量として多くの家事をこなしていたのは事実だった。
ねーちゃんが受け持っている家事を肩代わりするというのは、大事かもしれない。幸い(?)ウインターカップの出場は逃した。2月中旬に新人戦が控えているけれど……もし、ねーちゃんが4月から東京へ行ってしまうなら、どっちにしろ家事を今以上にこなしながら部活をやらなければならない運命なのだから―――今から具体的に動いておくのは自分にとっても必要な事に違いない。
「まずは、料理だな。不安だったら友達に相談してみろ。栄養とか、食べ物の組み合わせも大事だからな。あ、ハナは年末まで忙しいから、迷惑かけんなよ」
そこに先ほどとは違う店員さんが、大エビ天蕎麦とサラダを運んできた。その人もチラチラと、とーちゃんの顔を見ていた。しかしとーちゃんはそれに全く気付いていないみたいだ。これはもう、仕方ないから放って置くしかない。
さきほどの台詞にも、俺よりかーちゃんを大事にする心情が滲み出ていた。口を出したらきっと、馬に蹴られる事になるだろう。とーちゃんの女性関係を心配するのは、それこそ無駄だという考えに落ち着いた。
俺は自分のやるべき事に集中するだけだ。
「でもとーちゃんに料理や家事の事言われると思わなかった。全然やってないのに」
「そりゃ、大きくなってお前達が手伝ってくれるようになったからだ。一応俺も料理も家事も一通り経験しているぞ、得意では無いけど。……エリカが亡くなった後、ばーちゃんが倒れてお前と2人暮らしの時は苦労したし、こっち来てから暫くは4人で出掛ける時間を作る為にハナと家事を分担したからな。今は晶が頑張ってくれているけど……そう言えば4月から晶いないんだよな。改めて家事分担考えなきゃなー。いっそ、ハウスキーパー雇うか?」
今はほとんど家事はねーちゃんメインで、俺は自分の事はやるけど後は手伝う程度。ねーちゃんが居なくなったら、もっといろいろ自分で考えてできるようにならなきゃならないんだ。寂しいって感情の問題だけじゃ無くて、克服しなきゃならない事は色々あるんだな。……これから、残った3人で本当にやっていけるのかな……?
「ま、手抜きできるところはできるだけ手を抜くのが、家事を続けるコツだ。結構、なんとかなるもんだよ。できない部分は外注するし。……晶の料理、食べられなくなるのは、寂しいけどな」
「……」
そっか。
ねーちゃんが居なくなるって事は、ねーちゃんの朝ご飯も、お弁当も、夕飯のハンバーグも食べられなくなるって事なんだ。
俺もとーちゃんも何だかしんみりして、その後は黙ってエビ天蕎麦を啜った。
それからレジで会計を済ませたとーちゃんが、俺の肩を叩いて財布から追加資金を出した。
「じゃ、ケーキとチキン、頼んだよ。あと、晶の今日のご飯もこれで用意してくれ」
「わかった」
頷いて現金を受け取る俺の耳に「あの男の子が……」という声が聞こえて、思わず振り向いた。すると、先ほどの店員さん2名を中心に数人の女性店員が小さく歓声を上げた。
またとーちゃんの噂話かな?
お客さんはまだ少ないようだけど、あんな風におしゃべりしていてこのお店……大丈夫なのかな?
「じゃあ聞くけど、お前が受験のとき、晶にして貰って嬉しかった事ってなんだ?」
俺が嬉しかったこと。
振り返ればねーちゃんにして貰った事は、数限りなくある。
その中で受験の時に関して言えば……
「勉強、教えて貰ったこととか……励まして貰った事とか。あとはやっぱり料理かな……特に受験前は、好きな物たくさん作ってくれた気がする」
「晶にして貰った嬉しい事の中で、お前に出来る事……ないか?」
「ええ?勉強は……教えられないし。励ますくらい?料理も大した物作れないし……」
とーちゃんはテーブルに両腕を乗せて、身を乗り出した。
「料理がいいんじゃないか?今までは晶も『料理する事が気分転換になっている』って言っていたからそのまま任せていたけど、もうすぐセンター試験、近いだろ?もう勉強に専念した方がいい。ハナも俺も年末忙しいから、晶の負担を減らす為に家政婦雇おうかどうかって話し合っていた所なんだ。でも晶は人見知りだから、こんな微妙な時期に他人に家に入られて調子崩しても困るし。だからお前が代わってやるのが、一番都合が良い」
「でも、俺の下手な料理食べさせて調子崩したら……」
「そこはさ、料理しなければいいんだ。今コンビニ惣菜も充実しているし、レトルトも結構美味しい。味噌汁だってかなり味がいいの、あるよ。ご飯炊いておかず温めて、並べるだけ。それなら部活通いながらでも、できるだろ?弁当は……無理しなくても良いけど、それも冷凍食品とか惣菜を詰めるだけでも良いし、時間無かったら朝コンビニ弁当買って用意してやるだけでも、晶の無駄な時間の短縮になる」
何だか楽しそうに話すとーちゃんに面食らいながら、俺は戸惑いつつ言った。ねーちゃんが手をかけて作ってくれた手作り料理に代わって提供するのが、レトルトとか冷凍食品で良いのだろうか。
「そんなんで……いいの?栄養とか偏らない?」
「センターまであと少しなんだから、必要最低限、食べられれば大丈夫だ。それに最近のコンビニ弁当はかなりバランスを考えているし、野菜が足りなければ惣菜を買い足せばいい。―――何より晶から料理の事を考える時間から解放してやれば、それだけ気持ちに余裕ができる。合理的に考えて出来る事を少しずつやるのが、大事なんだ。でもお前に余裕と覚悟があるんなら、掃除とか洗濯とか……晶の分の他の家事も代わってやれれば、更に良いけどな。そっちはお前も今まで手伝っていたんだろ?」
俺は頷いた。料理はほぼねーちゃんの担当だが、ユニフォームとかジャージの洗濯とか部屋の掃除をするのはほとんど自分でやっていた。洗濯物をビシッと角を揃えて畳む事に関しては、得意分野であると言っても過言では無い。床用ワイパーで部屋の隅の埃を取るのも好きだし、おおざっぱなねーちゃんよりよりずっと丁寧に作業できる自信はある。ただ部活で忙しい俺よりも、実際家にいる時間が多いねーちゃんの方が分量として多くの家事をこなしていたのは事実だった。
ねーちゃんが受け持っている家事を肩代わりするというのは、大事かもしれない。幸い(?)ウインターカップの出場は逃した。2月中旬に新人戦が控えているけれど……もし、ねーちゃんが4月から東京へ行ってしまうなら、どっちにしろ家事を今以上にこなしながら部活をやらなければならない運命なのだから―――今から具体的に動いておくのは自分にとっても必要な事に違いない。
「まずは、料理だな。不安だったら友達に相談してみろ。栄養とか、食べ物の組み合わせも大事だからな。あ、ハナは年末まで忙しいから、迷惑かけんなよ」
そこに先ほどとは違う店員さんが、大エビ天蕎麦とサラダを運んできた。その人もチラチラと、とーちゃんの顔を見ていた。しかしとーちゃんはそれに全く気付いていないみたいだ。これはもう、仕方ないから放って置くしかない。
さきほどの台詞にも、俺よりかーちゃんを大事にする心情が滲み出ていた。口を出したらきっと、馬に蹴られる事になるだろう。とーちゃんの女性関係を心配するのは、それこそ無駄だという考えに落ち着いた。
俺は自分のやるべき事に集中するだけだ。
「でもとーちゃんに料理や家事の事言われると思わなかった。全然やってないのに」
「そりゃ、大きくなってお前達が手伝ってくれるようになったからだ。一応俺も料理も家事も一通り経験しているぞ、得意では無いけど。……エリカが亡くなった後、ばーちゃんが倒れてお前と2人暮らしの時は苦労したし、こっち来てから暫くは4人で出掛ける時間を作る為にハナと家事を分担したからな。今は晶が頑張ってくれているけど……そう言えば4月から晶いないんだよな。改めて家事分担考えなきゃなー。いっそ、ハウスキーパー雇うか?」
今はほとんど家事はねーちゃんメインで、俺は自分の事はやるけど後は手伝う程度。ねーちゃんが居なくなったら、もっといろいろ自分で考えてできるようにならなきゃならないんだ。寂しいって感情の問題だけじゃ無くて、克服しなきゃならない事は色々あるんだな。……これから、残った3人で本当にやっていけるのかな……?
「ま、手抜きできるところはできるだけ手を抜くのが、家事を続けるコツだ。結構、なんとかなるもんだよ。できない部分は外注するし。……晶の料理、食べられなくなるのは、寂しいけどな」
「……」
そっか。
ねーちゃんが居なくなるって事は、ねーちゃんの朝ご飯も、お弁当も、夕飯のハンバーグも食べられなくなるって事なんだ。
俺もとーちゃんも何だかしんみりして、その後は黙ってエビ天蕎麦を啜った。
それからレジで会計を済ませたとーちゃんが、俺の肩を叩いて財布から追加資金を出した。
「じゃ、ケーキとチキン、頼んだよ。あと、晶の今日のご飯もこれで用意してくれ」
「わかった」
頷いて現金を受け取る俺の耳に「あの男の子が……」という声が聞こえて、思わず振り向いた。すると、先ほどの店員さん2名を中心に数人の女性店員が小さく歓声を上げた。
またとーちゃんの噂話かな?
お客さんはまだ少ないようだけど、あんな風におしゃべりしていてこのお店……大丈夫なのかな?
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