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新妻・卯月の仙台暮らし
俺の妻が可愛くて仕方が無い2 <亀田>
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前話の後の週末のお話です。
『続続・うさぎ小話』「うさぎの好きなところ2」の続きでもあります。
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四十間近のおっさんが、一回りも年下の妻から『可愛い』と言われてしまった。
それも彼女が笑った理由を俺の『表情が恐ろしいから台詞とのギャップが面白い』のだと釈明され、何と返して良いのか分からず戸惑っている所に、そう言われたのだ。混乱しない方がおかしいと思う。
職場で『コワモテ銀縁眼鏡』と恐ろしがられるのは慣れているつもりだが、怖がらせるつもりなど毛頭無い可愛い妻に、いまだに『恐ろしい顔』と言われてしまうと正直ショックだ。だけどそう言う彼女の表情はなんとも楽し気だから、たぶん悪い意味として使っている訳では無いと思うのだが……。世代間の意識の違いなのか、それとも男女の感じ方の違いなのか。他人の心の機微を読むのが苦手な自覚はあるから、何と言って良いものか迷ってしまう。
「あ!せっかくだから写真撮っとかなくちゃ……!」
最近ブログを始めたという妻は、ケージから漸く出て来たうータンの方へスマホのレンズを向け始めた。知合いもいない新しい土地で暇を持て余してしまい、ついついブログ開設に手を出してしまったのだと説明されたのはつい先日のことだ。何にせよ、彼女に趣味が出来たことは喜ばしいと思う。うータンを驚かせないように慎重にシャッターを切る卯月を見て俺は頬を緩めた。
その様子を眺めつつ、俺は目を通し終えた資料を手にソファから立ち上がった。書斎として使わせて貰っている部屋から専門誌を取って来ようと思ったのだ。
もう少し仕事が落ち着いたらゆっくり二人で遠出でも出来たら、と思っている。忙しさにかこつけて実は結婚式も上げておらず、新婚旅行にも行っていない状態なのだ。―――だが、昇進して得た新しい立場になかなか慣れず自分の仕事もままならない状態なのに、加えて社内の人事異動やら揉め事やら取引先の人事異動やらで忙しく―――プライベートに割く時間がなかなか取れないままになってしまっている。
しかしつい先日参加した上司との飲み会で、仕事にばかり夫がかまけていた為にすれ違い、終には別れる事になってしまった夫婦の話を耳にして『これでは行けない』と改めて思い直した。だから今日は久し振りに卯月とのんびりしようと、部屋に籠ってしまうPC作業は一切控えている。
とは言え目を通さなければならない資料や情報誌が山になっているので、ソファで卯月と並んでうータンの様子見守りつつ書類を眺めていたのだ。一方の卯月はと言うと、タウン誌や観光情報誌を眺めながら仙台名物の牛タン定食を出す店を物色している。何でも、せっかく腰を据えて暮らすのだから色んな店の定食を端から全部食べてみたい、と考えているそうだ。俺は仕事とうさぎに関する以外の事は特に興味がないので、毎日の食事はコレが良いとかアレが良いとか希望がある訳ではない。だから出来る限り彼女が行きたいと言う店に一緒に行くつもりだ。
その後甘いモノも幾つかついでに手に入れられれば言う事は無い。引越して来てからなるべく目についた店に立ち寄り、小まめにチェックするようにしている。この地域で好まれる甘味があれば、何でも体験しておいて損はないと思うからだ。それにこれは営業職になって以来もはや習慣になってしまっている事だが、できればその店の周りのスーパーとコンビニも見回って自社製品の配置や売れ行き具合を直にこの目で確かめたい。役職が上がるとどうにも現場感覚が鈍ってしまうようで怖いのだ。疑い深いと言われるかもしれないが、査定をする立場の俺に対して部下から上がって来る情報は本人に都合の良い事しか書いていない可能性がある。それに実際の売り場を見て空気感を掴まないまま判断するのは、どうにも落ち着かないのだ。同期の篠岡には『完璧主義は身を亡ぼすぞ~!もう若くないんだから、無理せずもっと気楽にやれよ』とよく言われるのだが、こればっかりは性分だからどうしようもない。
……とは言えこれではいつもと変わらないな。全く仕事が頭から離れていない状態だ。いつも寂しい思いをさせているのだから、卯月の為にも今日は頭を切り替えなければ。そうだな、やはり自分の気になる場所はさて置いて、この週末は全面的に卯月の行きたい場所を優先することにしよう。
と、改めて心に決めて部屋から戻ると、卯月がポチポチとスマホに向かって文章を打っている所だった。
総務部長の庄子さんが飲み会で話題にした『すれ違い夫婦』の離婚の決定打になったのがネットで出会った相談相手だと聞いたばかりだったから、真剣にブログを投稿していた卯月を見て大いに焦ったものだが―――もう事実は分かっているのだから、慌てる必要は無い。情報誌を手にソファの横に座ると、俺に気が付いた卯月がこちらを向いてニコリと笑った。
「ブログを更新しているのか?」
「あ、うん。ブログ更新は終わったよ。今のは『うさぎひろば』の店員さんに報告メールを送ったところ」
「『うさぎひろば』?」
「うん、何度か買い物に行ったんだ。うさぎ専門店があってね、そこの店員さんとアドレス交換したの。古風な人でね、ガラケーだからSNSじゃなくてメールなの」
と、卯月は嬉しそうに笑った。どうやらその店員と相当馬が合ったのだろう。如何にも楽しそうに笑っている。
「そうか、良かったな」
「あ!それでね、あのね、そこでミミにとっても良く似ているうさぎを発見したんだ!生粋のネザー(※)だから雑種のミミとは違うんだろうけど……ちょっと待ってね。写真撮らせて貰ったから……」
『ミミ』と聞いてドキッと胸が跳ねた。甘さと苦さが入り混じった、何とも言えない感情が蘇る。気持ちの整理が着いた気がした事もあったが、やはり彼女は俺にとっては特別な存在だ。
なのに、今の今まで忘れていた。
仕事の多忙さと新婚時期の幸せに紛らせて、ミミの記憶をこれほどまでに遠ざけてしまっていた自分に驚いたのだ。あれほど愛しく思い、失った時には心を見失うほど呆然としたのに……。
卯月がスマホのデータを確認し「ほら、ね?」と写真を目の前に差し出してくれた時、胸がキュッと絞られるような感覚を覚えた。
「……似ているな……」
確かにその子うさぎはミミによく似ていた。多少色合いは違うが、ぬいぐるみのような可愛らしい顔立ちや短い耳、何より黒くてつぶらな瞳はミミがまだ子うさぎだった頃を思い起こさせる。
「やっぱり!あ、他にも何枚か撮ったんだよ?ちょっと待ってね」
と言って卯月は次の写真を開いて行く。
「……」
何だ、これは。
「あのね、もし良かったら、丈さんも見に行かない?」
「ああ、行く」
俺は即答した。
「わ、やった……!あのね、店員さんにも紹介するね。とってもうさぎに詳しくてね、とっっ……ても可愛い人なの」
「……『可愛い』……?」
「うん!」
これを『可愛い』と表現する卯月の神経が分からない。
いや、俺のことも『可愛い』と言ってのけるのだから、この小さなミミ似のうさぎを腕に抱いている―――かなりゴツイ、垂れ目の男を『可愛い』と表現してもおかしくないかもしれない。
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読者様は既にお気づきのことと思いますが、ものすごい勘違いをしています(^^;)
※註)ネザー:ネザーランドドワーフの意味です。
『続続・うさぎ小話』「うさぎの好きなところ2」の続きでもあります。
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四十間近のおっさんが、一回りも年下の妻から『可愛い』と言われてしまった。
それも彼女が笑った理由を俺の『表情が恐ろしいから台詞とのギャップが面白い』のだと釈明され、何と返して良いのか分からず戸惑っている所に、そう言われたのだ。混乱しない方がおかしいと思う。
職場で『コワモテ銀縁眼鏡』と恐ろしがられるのは慣れているつもりだが、怖がらせるつもりなど毛頭無い可愛い妻に、いまだに『恐ろしい顔』と言われてしまうと正直ショックだ。だけどそう言う彼女の表情はなんとも楽し気だから、たぶん悪い意味として使っている訳では無いと思うのだが……。世代間の意識の違いなのか、それとも男女の感じ方の違いなのか。他人の心の機微を読むのが苦手な自覚はあるから、何と言って良いものか迷ってしまう。
「あ!せっかくだから写真撮っとかなくちゃ……!」
最近ブログを始めたという妻は、ケージから漸く出て来たうータンの方へスマホのレンズを向け始めた。知合いもいない新しい土地で暇を持て余してしまい、ついついブログ開設に手を出してしまったのだと説明されたのはつい先日のことだ。何にせよ、彼女に趣味が出来たことは喜ばしいと思う。うータンを驚かせないように慎重にシャッターを切る卯月を見て俺は頬を緩めた。
その様子を眺めつつ、俺は目を通し終えた資料を手にソファから立ち上がった。書斎として使わせて貰っている部屋から専門誌を取って来ようと思ったのだ。
もう少し仕事が落ち着いたらゆっくり二人で遠出でも出来たら、と思っている。忙しさにかこつけて実は結婚式も上げておらず、新婚旅行にも行っていない状態なのだ。―――だが、昇進して得た新しい立場になかなか慣れず自分の仕事もままならない状態なのに、加えて社内の人事異動やら揉め事やら取引先の人事異動やらで忙しく―――プライベートに割く時間がなかなか取れないままになってしまっている。
しかしつい先日参加した上司との飲み会で、仕事にばかり夫がかまけていた為にすれ違い、終には別れる事になってしまった夫婦の話を耳にして『これでは行けない』と改めて思い直した。だから今日は久し振りに卯月とのんびりしようと、部屋に籠ってしまうPC作業は一切控えている。
とは言え目を通さなければならない資料や情報誌が山になっているので、ソファで卯月と並んでうータンの様子見守りつつ書類を眺めていたのだ。一方の卯月はと言うと、タウン誌や観光情報誌を眺めながら仙台名物の牛タン定食を出す店を物色している。何でも、せっかく腰を据えて暮らすのだから色んな店の定食を端から全部食べてみたい、と考えているそうだ。俺は仕事とうさぎに関する以外の事は特に興味がないので、毎日の食事はコレが良いとかアレが良いとか希望がある訳ではない。だから出来る限り彼女が行きたいと言う店に一緒に行くつもりだ。
その後甘いモノも幾つかついでに手に入れられれば言う事は無い。引越して来てからなるべく目についた店に立ち寄り、小まめにチェックするようにしている。この地域で好まれる甘味があれば、何でも体験しておいて損はないと思うからだ。それにこれは営業職になって以来もはや習慣になってしまっている事だが、できればその店の周りのスーパーとコンビニも見回って自社製品の配置や売れ行き具合を直にこの目で確かめたい。役職が上がるとどうにも現場感覚が鈍ってしまうようで怖いのだ。疑い深いと言われるかもしれないが、査定をする立場の俺に対して部下から上がって来る情報は本人に都合の良い事しか書いていない可能性がある。それに実際の売り場を見て空気感を掴まないまま判断するのは、どうにも落ち着かないのだ。同期の篠岡には『完璧主義は身を亡ぼすぞ~!もう若くないんだから、無理せずもっと気楽にやれよ』とよく言われるのだが、こればっかりは性分だからどうしようもない。
……とは言えこれではいつもと変わらないな。全く仕事が頭から離れていない状態だ。いつも寂しい思いをさせているのだから、卯月の為にも今日は頭を切り替えなければ。そうだな、やはり自分の気になる場所はさて置いて、この週末は全面的に卯月の行きたい場所を優先することにしよう。
と、改めて心に決めて部屋から戻ると、卯月がポチポチとスマホに向かって文章を打っている所だった。
総務部長の庄子さんが飲み会で話題にした『すれ違い夫婦』の離婚の決定打になったのがネットで出会った相談相手だと聞いたばかりだったから、真剣にブログを投稿していた卯月を見て大いに焦ったものだが―――もう事実は分かっているのだから、慌てる必要は無い。情報誌を手にソファの横に座ると、俺に気が付いた卯月がこちらを向いてニコリと笑った。
「ブログを更新しているのか?」
「あ、うん。ブログ更新は終わったよ。今のは『うさぎひろば』の店員さんに報告メールを送ったところ」
「『うさぎひろば』?」
「うん、何度か買い物に行ったんだ。うさぎ専門店があってね、そこの店員さんとアドレス交換したの。古風な人でね、ガラケーだからSNSじゃなくてメールなの」
と、卯月は嬉しそうに笑った。どうやらその店員と相当馬が合ったのだろう。如何にも楽しそうに笑っている。
「そうか、良かったな」
「あ!それでね、あのね、そこでミミにとっても良く似ているうさぎを発見したんだ!生粋のネザー(※)だから雑種のミミとは違うんだろうけど……ちょっと待ってね。写真撮らせて貰ったから……」
『ミミ』と聞いてドキッと胸が跳ねた。甘さと苦さが入り混じった、何とも言えない感情が蘇る。気持ちの整理が着いた気がした事もあったが、やはり彼女は俺にとっては特別な存在だ。
なのに、今の今まで忘れていた。
仕事の多忙さと新婚時期の幸せに紛らせて、ミミの記憶をこれほどまでに遠ざけてしまっていた自分に驚いたのだ。あれほど愛しく思い、失った時には心を見失うほど呆然としたのに……。
卯月がスマホのデータを確認し「ほら、ね?」と写真を目の前に差し出してくれた時、胸がキュッと絞られるような感覚を覚えた。
「……似ているな……」
確かにその子うさぎはミミによく似ていた。多少色合いは違うが、ぬいぐるみのような可愛らしい顔立ちや短い耳、何より黒くてつぶらな瞳はミミがまだ子うさぎだった頃を思い起こさせる。
「やっぱり!あ、他にも何枚か撮ったんだよ?ちょっと待ってね」
と言って卯月は次の写真を開いて行く。
「……」
何だ、これは。
「あのね、もし良かったら、丈さんも見に行かない?」
「ああ、行く」
俺は即答した。
「わ、やった……!あのね、店員さんにも紹介するね。とってもうさぎに詳しくてね、とっっ……ても可愛い人なの」
「……『可愛い』……?」
「うん!」
これを『可愛い』と表現する卯月の神経が分からない。
いや、俺のことも『可愛い』と言ってのけるのだから、この小さなミミ似のうさぎを腕に抱いている―――かなりゴツイ、垂れ目の男を『可愛い』と表現してもおかしくないかもしれない。
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読者様は既にお気づきのことと思いますが、ものすごい勘違いをしています(^^;)
※註)ネザー:ネザーランドドワーフの意味です。
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