捕獲されました。

ねがえり太郎

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新妻・卯月の仙台暮らし

22.眼鏡屋さんを出ました。

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 レンズを入れるのは一週間ぐらいかかるそう。もう一度来店した時に、眼鏡の最終調整をしてくれるんだって。

 預かり証を受け取って店を出る。その眼鏡屋さんが店舗を構えているのは、仙台駅の駅前通り沿いにある老舗百貨店の中だ。この百貨店は四つの建物に分かれていて、私達が今いるのは一番大きい本館。店を後にしてから、たけしさんが腕時計を見た。

「そろそろ昼だな」
「お腹空いたね」
「何か食べたい物はあるか?」

 と聞かれ、迷うことなく私は手を上げた。

「パスタ!」

 下調べはバッチリだ。最近の外食は、だいたい私が行きたいお店を提案するパターンになっている。ほとんど知合いのいない土地に来た私の現在の楽しみは『食』と『うさぎ』。きっと丈さんは、それをなるべく優先してくれるつもりなのだろう。

 結婚してからますます実感したけど、丈さんって身内に甘い。丈さんの部下になった始めの頃の印象を思うと、こんな状態になるなんて全くもう、全然想像出来なかったことだけれど―――いや、でも意外でも無いのかな?うータンにはずっと、あまあまだったもんね。
 そんなことを考えつつスマホを取り出し、私は事前に調べて来たレストランを丈さんに示した。

「あのね、このレストランに行きたいんだ。パスタ、美味しそうでしょ?この百貨店の違うビルに入っているんだって」
「座れるか?予約はしていないよな」
「大丈夫だと思う。席が百席以上あるんだって」

 そう、いつ終わるか分からなかったから予約しなくても座れそうな所を探したのだ。

 本館を出て通りに沿って少し歩いた。この通りも駅前からずっと、街路樹が並んでいる。私は緑を見上げながら、感嘆を込めて溜息を吐いた。

「さすが『杜の都』だねぇ。一番中心にある駅前通りがこんなに緑豊かなんだもの」
「維持費が大変そうだな」
「……維持費?」
「剪定にお金がかかるだろう?通行人や車に配慮して作業するのも一苦労だし」
「もー……情緒がないなぁ」

 仕事みたいに無粋なことを言う彼に眉を寄せると、丈さんが可笑しそうに笑った。

「ハハ、でも確かに街中で何処を見ても緑が目に入るのは気分が良いよな。今はそれほど暑くはないが、もう少ししたら木陰があるだけでも有難く感じる時期になるだろう」

 街区の角を曲がるとそこはアーケードになっている。車道かと思ったら歩行者天国だった。商店街を眺めながら一区画ほど歩くと、老舗高級ブランドのテナントに辿り着いた。高級ホテルのような重厚な外装、ガラス張りの店内には大きなシャンデリアが輝いていてショーケースが並んでいる。ふわぁ、豪華だなぁ……!時計や結婚指輪で人気の、誰でも知っているフランスのブランドだ。
 ちなみに私達の結婚指輪は別のブランドで、丈さんがいつもスーツなどを揃える時に利用している百貨店で購入した。こちらも結婚指輪で有名なブランド。ジュエリーや洋服、香水でも有名だ。しがない派遣社員には手が届かない価格設定だから、結婚指輪以外で利用したことないけどね……。と、言ってもこの指輪、丈さんに買って貰ったのだけれど。
 結婚指輪は一番シンプルなタイプを選んだ。高いのは畏れ多い、と言うのも勿論あるけど、あまりゴテゴテしたりキラキラするのは普段使いできないと考えたからだ。うーん、改めて見るとこちらのブランドも素敵だなぁ。けど、比べると少しデザインが私にはイカつく感じられるような気がする、豪勢と言うか。うん、やっぱりコッチを選んでよかったかも……!

 惹き付けられるようにフラフラと近づいた私は、表に向けて展示されているブライダルリング特集を凝視し、自分の指に嵌ったシンプルな指輪を交互に見比べていた。

 そんな私の肩を、丈さんが叩く。

「卯月?レストランは地下じゃないのか?」
「……レストラン?……あ!行き過ぎちゃったね」

 地下への入口はもう少し手前にあった。戻ろうとしたら、今度は丈さんが動かない。何故か食い入るように店舗の中を見つめている。

「……丈さん?」

 私は彼の視線を追って、お店の中を覗き込んだ。そこには男性と、可愛らしい女性がいて、ショーケースの中のジュエリーを覗き込んでいる。販売員の男性に説明を受けながら、商品を選んでいるようだった。

「知合い?」
「……ああ、会社の……」

 と呟いたきり、黙り込んでしまう。
 その男性は丈さんより年上に見えた。……仙台支店の上司だろうか?

「あの、挨拶した方が良いかな?」

 ひょっとして、ここが初・妻の出番ですか……?!
 心の中で鼻息荒く腕まくりをした私と対照的に、丈さんの表情は静かだった。

「いや」

 丈さんはやけにキッパリそう言って、私を振り返る。その瞳は打って変わって優しく細められていた。クスリと笑って私を再び促す。



「腹減っただろ?行こう」
「あ、うん!」



 彼に促されるまま、私達は地下へ入る入口へと向かったのだった。



 あれ?一瞬、緊張しているように見えたけど―――気のせいだったのかな?
 うむむ……まだまだ丈さんの心を読むのは、新米しんまい妻には難しいようだ。
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