捕獲されました。

ねがえり太郎

文字の大きさ
246 / 375
番外編・うさぎのきもち

49.みのりの行方

しおりを挟む
「転職するんだって言ってた」
「転職?!」
「だから花井さんとお前が今からどうなろうが、自分には関係ないんだって言ってた」
「みのりが……本当にそう言ったのか?」
「ああ。お前達が見えない所までみのりさんを引っ張って行って、みのりさんに言ったんだ。俺と付き合ってくれって。俺ならフラフラせずにみのりさんだけを大事にするって―――でも、きっぱり振られたよ。これから東京で暮らすから、俺とは付き合えないって」

 コイツ俺のことを調子が良いとか女たらしだとか言っておいて、隙あらば自分も上手いことやろうとするなんて。何処が誠実で不器用なんだ? いや、それは勝手にこっちがそう思っていただけなんだが……結構ちゃっかりしているじゃねーかっ!なんて思わず内心ツッコミを入れてしまったが―――問題は其処では無い。

 東京で転職だって?じゃあもう、元の職場に連絡を取ろうとしてもいないって事か。なら会って話すなんてそもそも無理だ。唯一の連絡手段はスマホか? 着信拒否はされていないようだから―――いや、もう着信拒否をされているかもしれない。あれからも彼女から返信は一切なく、こちらからも改めて連絡していない。着拒されてても俺には分からないのだ。

「もう、時間だ」
「あ、え?」
「行こうぜ」

 風間が時計を見て立ち上がった。俺は気持ちを立て直せないまま、ソファから立ち上がりその分厚い肩に続いた。
ショックで黙り込んだ俺に少しは遠慮したのか、風間は俺を置いて行くことなく肩を並べていた。気が付いたら職場の机に座っていた。遠藤課長に「風間!」と声を掛けられて顔を上げる。三度ほど声を掛けたのに気が付かなかったらしい。コンコンと嫌味を言われたが―――全く胸に響かなかった。俺はその後も上の空のまま終業時刻を迎えたのだった。





 玄関を開けて、靴を脱ぐ。
 ドサリとソファに鞄と自分を放り投げた。クッションにうつ伏せに顔を埋め、大きく溜め息をつく。

 一体なんだって言うんだ。
 俺が何をした……?
 黙って逃げ出すほど、みのりにとっては酷い男だったと言うのか?

 花井さんと良い雰囲気だったから? 風間から聞いた話を表面上は躱していたものの、本当は内心不実な二股野郎だと、腹を立てていたのか?
 結婚の話題を避けていたから?煮え切らない態度の男は用無しか?

 って言うか、仕事辞めて東京に行ったって?!
 何だそれは……?!

 カサリ、と音がして顔を上げる。

 ヨツバがスタッと運動場に出て来て、俺を瞑らな瞳で見上げた。



「ヨツバ……」



 心なしか、その瞳に親しみがこもっているように感じる。
 俺が帰って来たから、ヨツバは挨拶をしにケージから出て来たのか? まるでヨツバに『おかえり』と言われているような気がして、ドキッとした。

 俺は倒れ込んだソファから重たい体を持ち上げて立ち上がり、ヨツバの傍に近寄って腰を下ろした。するとヨツバも返事をするかのように、顔を上げて鼻をヒクヒク動かした。ヒョイッと後足で立ち上がり俺の顔を覗き込むように鼻づらを持ち上げる。

「ただいま、ヨツバ」

 そっと、ヨツバを驚かせないように柵の上から手を入れた。
 うさぎは上から急に覆い被さると恐怖を感じるらしい。そうだよな、野生だったら猛禽類が天敵なんだから、大きな影に驚くのは当り前だ。そんな常識も分からない俺は、最初急にヨツバに上から近付いて手痛い拒絶を受けたのだった。

 ヨツバから少し距離を取った所に手を置くと、ヨツバが鼻を近づけて来た。
 痛い記憶が蘇り、一瞬手を引きたい気分になったがグッと堪える。―――するとペロリと温かいモノが俺の手を舐めた。

 ペロペロペロ……。

 ヨツバが俺の手を舐めていた。
 驚きと共に温かい何かが胸に湧き上がる。

「ヨツバ、俺を慰めてくれるのか?」

 打ち捨てられた用無し男に、今寄り添ってくれるのはオスうさぎだけだ。
 このままヨツバと一緒に暮らすのも良いかもしれない。ふと、そんな思いが頭をかすめた。

「ハハっ……俺達を捨てて行った女なんか忘れて、一緒に暮らそうか」

 なんて軽口を言ったら、少し気が楽になった。

 女って分かんねーな。
 うさぎ以上に気持ちが読めねぇ。

 一人前に仕事も出来るようになって、女と一緒に暮らすようになって。
 なのに全然自分が自分の事も周りの事も分かって無かったって気が付かされた。



「あー、ホント。こんなんで『結婚』なんて……無理な話だよな」



 俺は呟いて笑ってしまった。
 だから良かったのかもしれない。みのりが出て行って見えなかったものが、いや目を逸らしていた色んな事が見えて来たような気がしたのだ。


しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。  後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。  香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。  一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。  しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

処理中です...