捕獲されました。

ねがえり太郎

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番外編・うさぎのきもち

50.ミネラル不足?

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「それは塩分摂取ですね、きっと」

 俺の話を聞いた卯月さんが頷きつつ訳知り顔でこう言った。その週末、俺の部屋に連れ立って現れた二人の女性を取りあえずソファに案内して、ペットボトルのお茶を渡した。そして話題提供にと先日ヨツバに親し気に手を舐められた事を打ち明けたのだ。
 ヨツバが少し落ち込んでいた俺を慰めてくれたのだと感じたのだが……卯月さんに真顔でそう返されて戸惑ってしまう。

「塩分……摂取ですか?」
「人間の手を舐めるのは、ミネラルを補う為だって言う説があるんです」
「そ、そうなんですか」

 微妙にショックだ。あの行動でヨツバと種族を越えた男同士の繋がりを得て、孤独感を払拭されたように感じたのだ。うさぎと暮らすのも何だか良いもんだな、なんてホンワカ気持ち良くなった所に冷風を当てられたような気分になってしまい、俺はガクリと肩を落とした。
 すると俺の落ち込む様子に気が付いた卯月さんが、慌てて隣に座っている伊都さんの腕に縋った。

「あ! で、でもですね! そればっかりじゃないかも……ね? 伊都さん?」

 伊都さんはハッとしたように口を開いた。

「あ、はい。そうですね……昔は塩分摂取って説が多かったんですが、最近は『愛情表現と言うのもあながち間違いではないかも』なんて書いてある本もありますよ。おさるさんみたいにコミュニケーション手段として頻繁に毛繕いし合うって言う訳じゃないんですが、仲の良い子同士で毛並みを舐め合うって言うのはあるみたいですし」
「そう言えばうータンを撫でた後、よくペロペロ手を舐めて来ることがあったなぁ。何だか『もっと撫でて!』って催促されているみたいで、また頭を撫で始めたら満足した感じでぺったり頭を下げて来て。フフッ、確かにそう言う時はミネラル不足って言うより、毛繕いのお返しって気がしますねぇ」

 卯月さんはその光景を思い出したかのように瞳を細めた。すると伊都さんも考え込むように腕を組んで呟いた。

「うさぎは鳴き声を出すことも滅多に無いですし、舐めるのも感情表現の手段として使っているんだと思います。その時その時で、その子にとって意味は違うかもしれませんが。飼い主に馴染んでも舐めない子もいるらしいですし、布を舐める子もいるので舌触りが好きって言う可能性もありますしね」

 勿論本当に塩気が足りないだけかもしれませんけど、と慎重に伊都さんは付け足した。
 うさぎに詳しい筈の人でも、ことうさぎ当人の気持ちとなると、はっきりとは断言できないらしい。そんな女性陣二人会話を耳にしながら、俺は『なるほど』と思った。



「うさぎは言葉で表現できないから……つまりは飼い主側で類推するしかないんですね」



 だから『正解』は分からない。

 だけど卯月さんとうータンの関係みたいに、何となくお互い伝わるものもあるのだろう。うーたんがいつもこうしたがるから、したがらないからとか。それこそ今機嫌が良いとか悪いとか感じ取ることが出来るのは、経験や学んで来た知識でもって「こうじゃないか?」って推測し理解を深めようと一歩づつ踏み込んで努力して来た積み重ねの結果なのだろう。一緒に生活していく日々の中で―――そうやって声にならない言葉を交わして、信頼関係を築いて来たのだろうか。

「そうですね、でも特にうさぎはマイペースだから。こっちから歩み寄って読み取らないと」

 伊都さんが思慮深い物言いをするのを珍しく感じて、思わずマジマジと見つめてしまう。すると俺の好奇の視線に気が付いた伊都さんが頬を染めて眉を寄せた。

「何ですか?」
「いや、伊都さんが珍しく落ち着いて見えるから」

 思わず本音がツルリと口から出てしまう。俺の台詞に目を見開いた伊都さんの横で、卯月さんがプッと噴き出した。
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