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番外編・うさぎのきもち
71.別れ話
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「まさか広斗が、私との関係を終わらせる前にって。ちょっと驚いたけど―――うん、まぁしょうがないけどね。キチンと話もせずに出て行ったのは私なんだし」
「ちょっ……待て!」
勝手に納得しそうなみのりを俺は慌てて制した。
「誤解だから! 伊都さんは……その、あの人はうさぎ屋さんで」
「『うさぎ屋さん』?」
「そうだ! うさぎ専門店の店員だよ、ほらあの棚にある餌を売ってる……」
店の名前が咄嗟に出て来ず、棚に置かれた餌を指差した。もともとそれが、あの店に行く切っ掛けだったのだ。
「ああ……『うさぎひろば』」
「そう! それだ!」
するとみのりは呆れたように眉を下げた。
「広斗、うさぎ屋さんにも懐かれちゃったの?」
「……えっ」
全く誤解が解けていないことに慌ててしまう。誤解されようがどうしようが、この後の展開に全く影響はないって分かっているのに。何故俺はこんなに動揺してしまうのだろうか。
「違っ……だから、その……それは偶然、上司の奥さんの知合いで……! それに、そもそもあの人一人で来たわけじゃ無くて上司の奥さんがうさぎを見たいって言ったから、伊都さんも来ただけで。たまたま先に奥さんが帰る事になったってだけで」
「ふーん……まあ、分かったわよ」
本当に分かって貰えているようには見えないのだが。しかしそれ以上重ねて言い訳することも出来ず開きかけた口を閉じ、俺は視線をテーブルの上に落とした。
みのりも何を考えているのか分からない静かな表情で視線を落とし、そのまま暫く口を噤んでいたが、ややあって決心したように顔を上げた。
「広斗、その―――お願いがあって」
「何だ?」
しおらしい物言いに、胸がドキッと音を立てた。
みのりが『お願い』?
人に頼むよりは自分でやる方が早いといつも言っていた、借りを作るのが苦手で何でも自分でやってしまう、そんな彼女が、別れ話の最中に口にした言葉に、俺は身構えてしまう。
「ヨツバを暫く預かって欲しいの。その、条件の合うペット可の物件が見つかるまで……本当に虫の良い話だけど」
「……」
「……駄目かな?」
少しだけ拍子抜けしてしまう。
そっか、そうだよな。俺は自嘲気味に嗤った。本当に虫の良い話だ……! 俺をどれほど振り回せば、気が済むんだ?! 勝手すぎる『お願い』に腹が立つより呆れてしまった。そんなの駄目に決まっているだろう……! そう言おうとしたのに―――
「いいよ」
無意識につるりと飛び出した言葉。
口に出した途端、ストンとそれが俺の胸に落ちた。
そうだ、いいじゃねーか、それで。
「つーか、別にペット可の物件、探さなくてもいいんじゃね?」
「え……」
流石にこの台詞には、みのりは言葉を失ったようだ。何だかおかしくなって来た。そうだ、やられっ放しでいるもんか。俺にだって意地ってもんがある。
「ヨツバはお前には渡せねーって言ってるんだよ」
「なっ……」
しかしこれ、何に対しての意地なんだか分からんな。
正直自分がとち狂ってしまったのじゃないかと思ってしまう。しかし何故かそれが一番良い落としどころのような気がしたのだ。これから住み慣れない東京で、上手く行くのか行かないのか分からない賭けに飛び出すみのり。ペット可アパートを探す?そんな余裕あるのか? それに研修中でも俺に連絡出来ないほどの忙しい職場に通いながら―――ヨツバの世話なんて満足に出来るもんか。
そう、これは俺からの餞別―――いや、嫌がらせだ。
一度手放しておいて、取り戻せるなんて命はそんな簡単なものではない。例えちっちゃな、しかも傍若無人の塊のようなマイペースなうさぎ一匹だとしても。
「だからヨツバの事なんか気にせず、行っちまえよ」
「ひろと……」
そうだ、これは嫌がらせなんだ。
独りぼっちで東京に行っちまえば良い。ヨツバとの暮らしはこれはこれでなかなか楽しい。みのりは男一人と雄一匹を捨てて行くんだ。後ろ髪を引かれるのか、それとも綺麗さっぱり俺達のことを忘れて仕事に没頭するのか―――結果、彼女の仕事や人生が上手く行くのか行かないのか―――それが分かるのはずっと後になるのだろう。一人で孤独に没頭すれば良い、その結果が目に見えるようになるまで。
「まあ三十にもなってさ、いい年して夢追い掛けて東京……なんて無謀な挑戦、上手く行くほど世の中甘くないって思い知れば良いんだよ」
「……」
「……泣いて帰って来たら、ヨツバと一緒に笑ってやるよ」
俺を凝視したまま言葉を失うみのりに、俺は如何にも楽しそうに笑って見せた。
「あ! でも俺けっこうモテるらしいからさ、帰って来たところで独り身とは限らないけどな……! 案外次がすぐ見つかって、意外とスピード婚とかしてるかもな !そうなったらヨツバのことは諦めてくれよ。なんたって『ヨツバ』ってだけあって幸運を呼び込む『強運うさぎ』かもしれないからな。手放したお前より俺が幸せになっちゃうかもな。そんで俺が幸せになった後『やっぱ広斗と結婚したかった!』なんて言ったって無理だからな。俺、愛人とか持つ甲斐性ないし。そしたらサッサと諦めて他、当たってくれよ!」
上滑りな台詞が惨めな感じになりそうだから、強がりはこれぐらいにしておこう。俺のモテキは今がピークで、この先結局誰とも付き合う事も無く、少年時代のトラウマを拗らせまくったまま独居老人まっしぐら―――なんてこともあるかもしれない。いや、少なくとも今はヨツバがいるから違うか。いやいや独身男がうさぎに癒されている図って……救いがないような気がしないでもない。
「ヨツバのことは上手くやるから……その、ホラ。嫌な上司が来たって言ったろ? アイツがさ、なんと……! 超の付くうさぎフリークだったんだよ。その奥さんって言うのがまた良い人でさぁ、あの銀縁眼鏡に似合わない若くて優しい嫁さんでさ。いろいろ親切に対応してくれるんだよな、夫婦して。ホントすっげ意外なんだけど。それにその奥さんの友達っつーうさぎ屋さんも……ちょっと変わった人だけど、うさぎに関しては詳しいし真面目だし。お節介なくらいなんだ。―――だからヨツバのことは本当に心配ないから」
「……うん」
ここにきてやっと、微かな返事があった。
「ああ、家事だってそう! もともと一人で俺、何でもやれるし。お前なんかいなくても、全然大丈夫だし。お前がやりたいっつーからやらせていただけで?だから……」
「うん。……うん、ありがと、広斗」
みのりの華奢な腕が伸びて来て―――柔らかな体が俺をギュッと抱き締めた。堪えきれないように、何度も頷くみのりの声は擦れ切って力なく……いつもの張りのある、自信にあふれたものと掛け離れていた。
ああ、みのりの匂いだ―――この匂いを嗅ぐのが好きだったんだ。
濁流のように、体の芯から声がする。
ひょっとして俺、気付かなかったけど匂いフェチなのかもしれない。その匂いとともに、解放された記憶が途端に蘇る。
蘇る想い出、それは何故か楽しい断片ばかりで―――みのりがここに転がり込んで来た時のことだったり、明かりがついている部屋の窓だったり。『おかえり』とのんびり応える笑顔だったり。冬の寒い夜なんか……特に飲んで帰った時、温かい部屋に入るとこう……胸がキュウっとなったな、なんて。
人と暮らすことって温かくて楽しい―――その時、単純にそう思えたんだ。生々しく、この部屋で暮らし始めた頃の幸福感が蘇る。
『結婚』に対しての覚悟は全く出来ていなかった。
でもこの暮らしの延長線上にあるものが『結婚』だと言うものなら、それはそれほど絶望するほどのものでもないのかもしれない……なんて確かにそう感じた瞬間が、俺の中にもあったんだ。
眠りに就く瞬間、隣に温かな気配が存在すること。朝起きて誰かと『おはよう』と挨拶をし、寝惚けた無防備な状態で会話を交わして一緒に朝御飯を食べる。たいした話をするわけじゃ無い、だけど他人と暮らすことは―――そんなに悪いもんじゃない。そう、みのりと暮らす中で、俺は自然と思えるようになったのだ。
すれ違いの多い、本音を晒さない関係だった。だけど、みのりとの暮らしを通して、俺の中で確実に何かが変わったのだ。幼い頃繰り返し受けた苦しみのために自分の中にこびりついてしまった思い込みと疑心暗鬼は……少しづつ、みのりとの暮らしの中で薄まっていたのだ。みのりもそう、同じように感じていたのなら。そうだったら、俺は……
「私……たぶん広斗以外の人だったら、一緒に暮らせなかったと思う。自分が他人と、こんなに長い間暮らせるなんて思っていなかったから……」
その瞬間、ぬくもりがゆっくりと離れた。その後の言葉は、俺の耳には届かなかったと思う。
「じゃあ、もう行かなきゃ」
「……泊って行かないのか」
「うん」
はっきり、キッパリ。言い切る口調。
みのりはもう、いつも通りの『みのり』になっていた。
「……一回でも寝たら、離れられなくなるのが嫌なんだろ」
俺の捨て身の冗談に、プッとみのりは噴き出した。
それからケラケラと、おかしそうに笑い出す。
「うん、そうなの。一回でもやっちゃったら、もう離れられなくなっちゃうから……」
そんな風に冗談に冗談で返す遣り取りに懐かしさが込み上げる。こんな風にポンポン言葉を返す彼女の機転の良さを、俺は好ましいと思っていたのだ。
「だから……行くね」
「ちょっ……待て!」
勝手に納得しそうなみのりを俺は慌てて制した。
「誤解だから! 伊都さんは……その、あの人はうさぎ屋さんで」
「『うさぎ屋さん』?」
「そうだ! うさぎ専門店の店員だよ、ほらあの棚にある餌を売ってる……」
店の名前が咄嗟に出て来ず、棚に置かれた餌を指差した。もともとそれが、あの店に行く切っ掛けだったのだ。
「ああ……『うさぎひろば』」
「そう! それだ!」
するとみのりは呆れたように眉を下げた。
「広斗、うさぎ屋さんにも懐かれちゃったの?」
「……えっ」
全く誤解が解けていないことに慌ててしまう。誤解されようがどうしようが、この後の展開に全く影響はないって分かっているのに。何故俺はこんなに動揺してしまうのだろうか。
「違っ……だから、その……それは偶然、上司の奥さんの知合いで……! それに、そもそもあの人一人で来たわけじゃ無くて上司の奥さんがうさぎを見たいって言ったから、伊都さんも来ただけで。たまたま先に奥さんが帰る事になったってだけで」
「ふーん……まあ、分かったわよ」
本当に分かって貰えているようには見えないのだが。しかしそれ以上重ねて言い訳することも出来ず開きかけた口を閉じ、俺は視線をテーブルの上に落とした。
みのりも何を考えているのか分からない静かな表情で視線を落とし、そのまま暫く口を噤んでいたが、ややあって決心したように顔を上げた。
「広斗、その―――お願いがあって」
「何だ?」
しおらしい物言いに、胸がドキッと音を立てた。
みのりが『お願い』?
人に頼むよりは自分でやる方が早いといつも言っていた、借りを作るのが苦手で何でも自分でやってしまう、そんな彼女が、別れ話の最中に口にした言葉に、俺は身構えてしまう。
「ヨツバを暫く預かって欲しいの。その、条件の合うペット可の物件が見つかるまで……本当に虫の良い話だけど」
「……」
「……駄目かな?」
少しだけ拍子抜けしてしまう。
そっか、そうだよな。俺は自嘲気味に嗤った。本当に虫の良い話だ……! 俺をどれほど振り回せば、気が済むんだ?! 勝手すぎる『お願い』に腹が立つより呆れてしまった。そんなの駄目に決まっているだろう……! そう言おうとしたのに―――
「いいよ」
無意識につるりと飛び出した言葉。
口に出した途端、ストンとそれが俺の胸に落ちた。
そうだ、いいじゃねーか、それで。
「つーか、別にペット可の物件、探さなくてもいいんじゃね?」
「え……」
流石にこの台詞には、みのりは言葉を失ったようだ。何だかおかしくなって来た。そうだ、やられっ放しでいるもんか。俺にだって意地ってもんがある。
「ヨツバはお前には渡せねーって言ってるんだよ」
「なっ……」
しかしこれ、何に対しての意地なんだか分からんな。
正直自分がとち狂ってしまったのじゃないかと思ってしまう。しかし何故かそれが一番良い落としどころのような気がしたのだ。これから住み慣れない東京で、上手く行くのか行かないのか分からない賭けに飛び出すみのり。ペット可アパートを探す?そんな余裕あるのか? それに研修中でも俺に連絡出来ないほどの忙しい職場に通いながら―――ヨツバの世話なんて満足に出来るもんか。
そう、これは俺からの餞別―――いや、嫌がらせだ。
一度手放しておいて、取り戻せるなんて命はそんな簡単なものではない。例えちっちゃな、しかも傍若無人の塊のようなマイペースなうさぎ一匹だとしても。
「だからヨツバの事なんか気にせず、行っちまえよ」
「ひろと……」
そうだ、これは嫌がらせなんだ。
独りぼっちで東京に行っちまえば良い。ヨツバとの暮らしはこれはこれでなかなか楽しい。みのりは男一人と雄一匹を捨てて行くんだ。後ろ髪を引かれるのか、それとも綺麗さっぱり俺達のことを忘れて仕事に没頭するのか―――結果、彼女の仕事や人生が上手く行くのか行かないのか―――それが分かるのはずっと後になるのだろう。一人で孤独に没頭すれば良い、その結果が目に見えるようになるまで。
「まあ三十にもなってさ、いい年して夢追い掛けて東京……なんて無謀な挑戦、上手く行くほど世の中甘くないって思い知れば良いんだよ」
「……」
「……泣いて帰って来たら、ヨツバと一緒に笑ってやるよ」
俺を凝視したまま言葉を失うみのりに、俺は如何にも楽しそうに笑って見せた。
「あ! でも俺けっこうモテるらしいからさ、帰って来たところで独り身とは限らないけどな……! 案外次がすぐ見つかって、意外とスピード婚とかしてるかもな !そうなったらヨツバのことは諦めてくれよ。なんたって『ヨツバ』ってだけあって幸運を呼び込む『強運うさぎ』かもしれないからな。手放したお前より俺が幸せになっちゃうかもな。そんで俺が幸せになった後『やっぱ広斗と結婚したかった!』なんて言ったって無理だからな。俺、愛人とか持つ甲斐性ないし。そしたらサッサと諦めて他、当たってくれよ!」
上滑りな台詞が惨めな感じになりそうだから、強がりはこれぐらいにしておこう。俺のモテキは今がピークで、この先結局誰とも付き合う事も無く、少年時代のトラウマを拗らせまくったまま独居老人まっしぐら―――なんてこともあるかもしれない。いや、少なくとも今はヨツバがいるから違うか。いやいや独身男がうさぎに癒されている図って……救いがないような気がしないでもない。
「ヨツバのことは上手くやるから……その、ホラ。嫌な上司が来たって言ったろ? アイツがさ、なんと……! 超の付くうさぎフリークだったんだよ。その奥さんって言うのがまた良い人でさぁ、あの銀縁眼鏡に似合わない若くて優しい嫁さんでさ。いろいろ親切に対応してくれるんだよな、夫婦して。ホントすっげ意外なんだけど。それにその奥さんの友達っつーうさぎ屋さんも……ちょっと変わった人だけど、うさぎに関しては詳しいし真面目だし。お節介なくらいなんだ。―――だからヨツバのことは本当に心配ないから」
「……うん」
ここにきてやっと、微かな返事があった。
「ああ、家事だってそう! もともと一人で俺、何でもやれるし。お前なんかいなくても、全然大丈夫だし。お前がやりたいっつーからやらせていただけで?だから……」
「うん。……うん、ありがと、広斗」
みのりの華奢な腕が伸びて来て―――柔らかな体が俺をギュッと抱き締めた。堪えきれないように、何度も頷くみのりの声は擦れ切って力なく……いつもの張りのある、自信にあふれたものと掛け離れていた。
ああ、みのりの匂いだ―――この匂いを嗅ぐのが好きだったんだ。
濁流のように、体の芯から声がする。
ひょっとして俺、気付かなかったけど匂いフェチなのかもしれない。その匂いとともに、解放された記憶が途端に蘇る。
蘇る想い出、それは何故か楽しい断片ばかりで―――みのりがここに転がり込んで来た時のことだったり、明かりがついている部屋の窓だったり。『おかえり』とのんびり応える笑顔だったり。冬の寒い夜なんか……特に飲んで帰った時、温かい部屋に入るとこう……胸がキュウっとなったな、なんて。
人と暮らすことって温かくて楽しい―――その時、単純にそう思えたんだ。生々しく、この部屋で暮らし始めた頃の幸福感が蘇る。
『結婚』に対しての覚悟は全く出来ていなかった。
でもこの暮らしの延長線上にあるものが『結婚』だと言うものなら、それはそれほど絶望するほどのものでもないのかもしれない……なんて確かにそう感じた瞬間が、俺の中にもあったんだ。
眠りに就く瞬間、隣に温かな気配が存在すること。朝起きて誰かと『おはよう』と挨拶をし、寝惚けた無防備な状態で会話を交わして一緒に朝御飯を食べる。たいした話をするわけじゃ無い、だけど他人と暮らすことは―――そんなに悪いもんじゃない。そう、みのりと暮らす中で、俺は自然と思えるようになったのだ。
すれ違いの多い、本音を晒さない関係だった。だけど、みのりとの暮らしを通して、俺の中で確実に何かが変わったのだ。幼い頃繰り返し受けた苦しみのために自分の中にこびりついてしまった思い込みと疑心暗鬼は……少しづつ、みのりとの暮らしの中で薄まっていたのだ。みのりもそう、同じように感じていたのなら。そうだったら、俺は……
「私……たぶん広斗以外の人だったら、一緒に暮らせなかったと思う。自分が他人と、こんなに長い間暮らせるなんて思っていなかったから……」
その瞬間、ぬくもりがゆっくりと離れた。その後の言葉は、俺の耳には届かなかったと思う。
「じゃあ、もう行かなきゃ」
「……泊って行かないのか」
「うん」
はっきり、キッパリ。言い切る口調。
みのりはもう、いつも通りの『みのり』になっていた。
「……一回でも寝たら、離れられなくなるのが嫌なんだろ」
俺の捨て身の冗談に、プッとみのりは噴き出した。
それからケラケラと、おかしそうに笑い出す。
「うん、そうなの。一回でもやっちゃったら、もう離れられなくなっちゃうから……」
そんな風に冗談に冗談で返す遣り取りに懐かしさが込み上げる。こんな風にポンポン言葉を返す彼女の機転の良さを、俺は好ましいと思っていたのだ。
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