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捕まった後のお話
21.居座りました。 <亀田>
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結局何だかんだ言って、そのまま大谷の部屋に泊まる事になった。つーか、なし崩しに俺が居座ってしまっている、と言う方が正しい。
俺のマンションを出たのは昼過ぎで、途中でお昼ご飯を食べ大谷の家へ向かった。うータンと大谷の写真を撮影したり、大谷から『こじま屋』に行った時食べた定食が如何に美味しかったか、と言う身振り手振りを交えた説明に頷いていたら……いつの間にか外はとっぷりと暗くなっていた。大谷とうータンと一緒にいると、本当に時が過ぎるのを早く感じる。
大谷の家に泊まるのはあの時以来だ。そう思うと自然と胸が高鳴ってしまう。しかしまたしても大谷の父親用だと言うスウェットを差し出されシャワーを勧められ、微妙な気持ちになると共に、妙に感慨深いものを感じる。うーん……大谷は何というか……妙な所で大雑把だな。職場では真面目に丁寧に振る舞っているから、プライベートでこういう場面を目にするとギャップを感じてしまう。まあ、そこが傍に居る時の居心地良さに繋がっているのかもしれないが。俺は最初この父親のスウェットを提供された時、大谷が自分のことをまるで男と認識していないのだと受け取ったのだが、大谷は特に引っ掛かりを感じていないらしい。
浴室から出て大谷と交代する。目いっぱい敷き詰められた布団に腰を下ろして手持無沙汰になった俺は、何気なく大谷の本棚に手を伸ばした。『うさぎクラブ』と名が付いているので『うさぎのきもち』と同じような実用書なのかと思い手に取ったら―――中身は漫画だった。俺は漫画や小説などをほとんど読んだ事が無い。あまり架空の物語と言うか……現実に起こる事以外に興味を引かれないのだ。しかしこれは……そうか、うさぎを実際に飼っている漫画家が描いているんだな。なるほど、うさぎの生態について面白可笑しく書いてあるが、どちらかと言うと日記かエッセイみたいなものだな。
フムフム『うさぎの襟巻』ね……この漫画家は肉垂が好きなんだな。『苦手って言う人も多いらしい』?何だと……あんな手触りの良いものを苦手に思う人間がいるとは……!
既に大人の雌であるうータンも顎の辺りにたっぷりとした膨らみを蓄えていて、触るとフニフニと柔らかい。野生のうさぎはここにエネルギーを蓄えて餌の少ない辛い冬を乗り切るらしい、いわば砂漠で生きるラクダのコブのようなものだ。ミミはそれほど大きく無かったがうータンはそれより立派な肉垂を持っていて、これはこれで味があって可愛らしいと思うのだが。ちゃんと慣れたうさぎでなければ触れずらい部分ではあるがな、うさぎは鼻づらの方を積極的に触って欲しがるものだし……。
「それ、面白いですか」
耳元で声がして思わずドキンと心臓が跳ねた。振り向くと着替えて既に髪を乾かした大谷が、俺の肩越しに漫画を覗き込んでいた。
「あ、ああ……こんな漫画があるんだな」
ドキドキしながら何とか答えると、大谷がほんわりと笑った。
「亀田課長、全然漫画とか読まないんですよね」
「……大谷……」
ほんわりと笑う大谷から、ほんわりとシャンプーの良い匂いが漂って来る。俺は手元の漫画を本棚に戻し、大谷に手を伸ばした。
そのままゆっくり引き寄せてクルリと布団に押し倒す。
「か、亀田課長……」
見下ろす大谷の頬が朱い。
「そういうの、そろそろ止めないか」
「え?」
「『課長』って……変だろう」
そろそろ名前で呼んで欲しい。彼女に普段も『課長』と呼ばせるって、どんなプレイだって思わず苦笑が漏れてしまった。
「あ……えっと、じゃあ……」
大谷がますます真っ赤になった。
「亀田……?」
まさかの苗字呼び捨てに思わず噴き出してしまう。
「もしかして……俺の名前知らないのか?」
「ち、違うんです!」
一年近く所属している課長の名前を知らないなんて、あり得ないと思うが……こうして素の大谷と付き合うようになり、偶にポカっと大きく抜ける所のある彼女の言動や挙動を見ていると、そう言う事も無きにしもあらずだな、と妙に納得してしまう。
すると大谷は気まずげに視線を彷徨わせた。―――やはり図星だったらしい。
「……ええとぉお、その、読み方が……『じょう』ですか?」
「ああ『丈』と読むんだ。そっか、読み方まで知らなかったか」
「すいません、確認しないままで。いつも名前を入力する時は『じょう』って打つのが楽なので……そのままになってました」
慌てる大谷が可愛らしくて、思わず口元に笑みが漏れる。
「……呼んでくれるか?」
「うっ……」
大谷は言葉に詰まり、瞳を潤ませて―――心許なげにやっと呟いた。
「……たけし……さん」
恥ずかし気に吐息と共にもれる言葉に―――自分で促しておいて、俺はガッツリ煽られてしまったのだった。自業自得とは……まさにこの事である。
俺のマンションを出たのは昼過ぎで、途中でお昼ご飯を食べ大谷の家へ向かった。うータンと大谷の写真を撮影したり、大谷から『こじま屋』に行った時食べた定食が如何に美味しかったか、と言う身振り手振りを交えた説明に頷いていたら……いつの間にか外はとっぷりと暗くなっていた。大谷とうータンと一緒にいると、本当に時が過ぎるのを早く感じる。
大谷の家に泊まるのはあの時以来だ。そう思うと自然と胸が高鳴ってしまう。しかしまたしても大谷の父親用だと言うスウェットを差し出されシャワーを勧められ、微妙な気持ちになると共に、妙に感慨深いものを感じる。うーん……大谷は何というか……妙な所で大雑把だな。職場では真面目に丁寧に振る舞っているから、プライベートでこういう場面を目にするとギャップを感じてしまう。まあ、そこが傍に居る時の居心地良さに繋がっているのかもしれないが。俺は最初この父親のスウェットを提供された時、大谷が自分のことをまるで男と認識していないのだと受け取ったのだが、大谷は特に引っ掛かりを感じていないらしい。
浴室から出て大谷と交代する。目いっぱい敷き詰められた布団に腰を下ろして手持無沙汰になった俺は、何気なく大谷の本棚に手を伸ばした。『うさぎクラブ』と名が付いているので『うさぎのきもち』と同じような実用書なのかと思い手に取ったら―――中身は漫画だった。俺は漫画や小説などをほとんど読んだ事が無い。あまり架空の物語と言うか……現実に起こる事以外に興味を引かれないのだ。しかしこれは……そうか、うさぎを実際に飼っている漫画家が描いているんだな。なるほど、うさぎの生態について面白可笑しく書いてあるが、どちらかと言うと日記かエッセイみたいなものだな。
フムフム『うさぎの襟巻』ね……この漫画家は肉垂が好きなんだな。『苦手って言う人も多いらしい』?何だと……あんな手触りの良いものを苦手に思う人間がいるとは……!
既に大人の雌であるうータンも顎の辺りにたっぷりとした膨らみを蓄えていて、触るとフニフニと柔らかい。野生のうさぎはここにエネルギーを蓄えて餌の少ない辛い冬を乗り切るらしい、いわば砂漠で生きるラクダのコブのようなものだ。ミミはそれほど大きく無かったがうータンはそれより立派な肉垂を持っていて、これはこれで味があって可愛らしいと思うのだが。ちゃんと慣れたうさぎでなければ触れずらい部分ではあるがな、うさぎは鼻づらの方を積極的に触って欲しがるものだし……。
「それ、面白いですか」
耳元で声がして思わずドキンと心臓が跳ねた。振り向くと着替えて既に髪を乾かした大谷が、俺の肩越しに漫画を覗き込んでいた。
「あ、ああ……こんな漫画があるんだな」
ドキドキしながら何とか答えると、大谷がほんわりと笑った。
「亀田課長、全然漫画とか読まないんですよね」
「……大谷……」
ほんわりと笑う大谷から、ほんわりとシャンプーの良い匂いが漂って来る。俺は手元の漫画を本棚に戻し、大谷に手を伸ばした。
そのままゆっくり引き寄せてクルリと布団に押し倒す。
「か、亀田課長……」
見下ろす大谷の頬が朱い。
「そういうの、そろそろ止めないか」
「え?」
「『課長』って……変だろう」
そろそろ名前で呼んで欲しい。彼女に普段も『課長』と呼ばせるって、どんなプレイだって思わず苦笑が漏れてしまった。
「あ……えっと、じゃあ……」
大谷がますます真っ赤になった。
「亀田……?」
まさかの苗字呼び捨てに思わず噴き出してしまう。
「もしかして……俺の名前知らないのか?」
「ち、違うんです!」
一年近く所属している課長の名前を知らないなんて、あり得ないと思うが……こうして素の大谷と付き合うようになり、偶にポカっと大きく抜ける所のある彼女の言動や挙動を見ていると、そう言う事も無きにしもあらずだな、と妙に納得してしまう。
すると大谷は気まずげに視線を彷徨わせた。―――やはり図星だったらしい。
「……ええとぉお、その、読み方が……『じょう』ですか?」
「ああ『丈』と読むんだ。そっか、読み方まで知らなかったか」
「すいません、確認しないままで。いつも名前を入力する時は『じょう』って打つのが楽なので……そのままになってました」
慌てる大谷が可愛らしくて、思わず口元に笑みが漏れる。
「……呼んでくれるか?」
「うっ……」
大谷は言葉に詰まり、瞳を潤ませて―――心許なげにやっと呟いた。
「……たけし……さん」
恥ずかし気に吐息と共にもれる言葉に―――自分で促しておいて、俺はガッツリ煽られてしまったのだった。自業自得とは……まさにこの事である。
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