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捕まった後のお話
38.久し振りです。 <大谷>
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言い出しっぺの吉竹さんが、テキパキと予約を取ってくれたスペインバルは黄色い内壁のこじんまりとした可愛らしいお店だった。四人席に腰掛けて壁に掛かっている細長い黒板に掛かれたメニューから、スペイン産生ハム、白エビのアヒージョ、スペイン風オムレツにパエリアを注文する。
「もう一人企画課に同大出身の人がいるんだよね。後から合流したいって」
吉竹さんのフットワークの軽さに私は目を丸くするばかりだ。テーブル席の斜め向かいに座る水野君も微笑んではいるものの、呆気に取られているのではではないだろうか。急遽持ち上がったなんちゃって同窓会(?)に参加したのも、私と同じで若干流された雰囲気もあったし……嫌がっているようには見えないけど大丈夫かな。
グラスワインでとりあえず乾杯。簡単な自己紹介をし合った後、吉竹さんが身を乗り出した。
「ところで二人は何処で知り合ったの?サークルとか?」
「いいえ……じゃなくて、元はサークルの集まりだったのかな?私は友達に誘われて付いて行っただけだけど」
「うん、元はスキー部の有志のOB会だったんだ。だけど皆がそれぞれ友達を連れて来るようになって結局サークル絡み半分付き合いの人半分って感じに落ち着いたかな」
「じゃあ在学中って言うより卒業後の付き合いなんだ。へぇー。そう言うのあるよね、私と大谷さんも在学中はちょっと知ってるって感じだったけど、まさか同じ会社に働く事になるなんて思わなかったもんね」
吉竹さんがニコリと笑いかけてくれる。
「うーん同じ……と言うのは烏滸がましいような……。正社員と派遣社員は違うでしょう」
「そーかな?同じ職場で働いているんだからそれほど違うと思わないけど。と、いう事は大谷さんは正社員希望?」
「うん、出来たらそうしたいな。先行きも不安だしね……正社員の二人が羨ましいなぁ」
ポンっと丈さんの顔が浮かんだが、付き合ったばかりの彼氏との将来なんてどうなるか分からないから、取りあえず今まで通りの希望を口にした。
でも何となく妄想してしまう。
例えば丈さんと結婚してあのマンションに一緒に住んだとしたら?派遣が終わって違う会社に移っても毎日丈さんと会えるなぁ。それならむしろ派遣の方が子供が出来た時辞めやすいし都合が良いかも。……なんちゃって。うーん、妄想癖が悪化しているかも。そのまま妄想が加速度を付けて進んでいき、数秒後にはもう頭の中ではハイハイしている子供がケージの中のうータンと鼻を突き合わせて見つめ合っていた。そして丈さんと私はそれをニマニマしながら眺めるのだ。スマホでしつこく写真を撮りまくったり……。
「えーと、大谷さん?」
はっ……白昼夢か!
我に返って赤面してしまう。私って結婚願望強かったのかなぁ、両親と離れて暮らすのが当たり前だったからそれほど結婚と言う形に夢は持っていなかった筈なのだけれど……だからこそ家族で一緒に暮らす普通の家庭に憧れてしまうのかもしれない。
「俺は派遣ってちょっと羨ましいよ。確かに将来に不安はあるかもしれないけれど、違う職場に移ってリセットできるでしょ」
そう言って笑う水野君は少し寂しそうだった。
「もしかして……お仕事大変だったりする?」
「三年働いて求められる事も多くなったしね。それより希望の部署になかなか配属されなかったりするのが気持ちとしてはしんどいかな。まあ、何処に勤めても大変さも楽しさもあるんだろうけど」
「分かるわ~……私も今の課、居心地良いから好きなんだけど、本当は企画とか営業に関わりたかったんだよね。行きたい課の人がバリバリ働ているのを見ると羨ましいと思うし、愚痴言ってると『私が代わるのに!』って思っちゃう」
おお……正社員になっても色々あるのね。そう言えば三好さんも大変そうだったな、勿論やりがいも感じているみたいだけど。でもそれでも羨ましいな……そう言う一段違った悩みを持てるのが。派遣って確かに色んな職場に行けるし、人間関係で悩んでも次にリセット出来ると思うから気楽な部分もある。でもやはり正社員の安定感は何物にも代えがたいよね。ずっと働ける保障って良いなぁ……あ、でも会社自体がつぶれたらそうも言ってられないか。でも水野君の会社もこの会社も老舗で大手、あまり潰れそうなイメージないしな。
「ところでさ……二人って本当に何も無かったの?」
唐突に思ってもみない事を聞かれて思わず喉を詰まらせる。パエリアが……っ、うっ……はぁ~~!水をガブッと飲んで何とか事無きを得た。
突然な話題転換に、せっかく打ち解け始めた水野君も固まってしまう。
「な、なにも……って。さっき言った通りよ、ただの『友達』だってば!ね!水野君?」
水野君はゆっくりと私を見た。さっきまで柔和な笑顔を浮かべていたその顔が―――僅かに緊張しているように見える真面目顔に変わってしまった。
え?え?なに、その顔……。
「うん、そうだね」
水野君が私に視線を固定したまま頷き、それからフイッと顔を逸らして吉竹さんに笑いかけた。
「大谷さんの言う通りだよ」
「ええ?何か怪しいなぁ……」
「何が『怪しい』って?」
低い声が降って来て、三人は顔を上げた。そこには体格の良い短髪の男性が立っていた。
「っ中務さん!……早かったですね」
少し焦った様子の吉竹さんに、厳つい表情のままその『中務さん』と呼ばれた男性は表情を崩さず頷いた。
「……ああ。つーか、またお前は人の事詮索してんのか」
「ええっと……」
落ち着かなさげに吉竹さんの視線が彷徨う。
「だって恋バナだったら楽しいかなって……」
吉竹さんの斜めの席、水野君の隣にその人はドカッと腰を下ろした。
よくよく聞くと三歳年上のその人は吉竹さんの彼氏らしい。吉竹さんは恋愛小説が大好きで、ちょっと気になった相手がいると過剰に恋愛話を期待してアレコレ聞きたがるそうだ。時折目に余るらしく、彼氏である中務さんはストッパーとして働く事が多いらしい。
「趣味で小説を書いていて……それで好みのシチュエーションがあると、どうしてもロマンスに結びつけたくなっちゃうの」
「それは何となく分かります。私も書きはしないけど、小説とか漫画は好きなので」
何だか叱られてシュンとしている吉竹さんが可哀想になって、私はフォローの言葉を口にした。すると冷静な中務さんは腕組みをして溜息を吐いた。
「勝手に妄想するぐらいならまだしも、ちょっとコイツの場合シツコイだろ?本当に付き合ってたって聞かれたく無い事もあるだろうし……酔うと遠慮がなくなるし」
「そうなの、欲望に忠実になっちゃうのよねー……」
なんて他人事のように言う吉竹さんに私は噴き出した。
一見シュンとしおらしくしているけど、その実彼女はあまり懲りていないようだ。しっかりした出来るお姉さんってイメージがあった吉竹さんの意外な一面を見て、何だか親近感が湧いて来てしまった。
クスクス笑う私に、吉竹さんがニコリと笑ってこう尋ねた。
「やっぱり付き合ってたんでしょう?」
「えぇ?な……違いますってば!」
本当にゴリゴリ来るな~!
私は慌てて目いっぱい否定した。水野君だってただの友達との仲を疑われたら困るだろう。あの時付き合っていたらしい(?)カワイ子ちゃんとまだ付き合っているかもしれないし。すると私の強硬さに追及を諦めた吉竹さんは、水野君の方にクルリと向き直った。
「水野君、どうなの?」
「えっと……」
グイッと正面の水野君の方へ身を乗り出す吉竹さんを、呆れたように中務さんが肩を押して押し戻した。
「シツコイ!この話終了!」
「えー……」
と不満げな声を上げたが、吉竹さんは結局それ以上蒸し返さずに漸く大人しくなったのだった。
「もう一人企画課に同大出身の人がいるんだよね。後から合流したいって」
吉竹さんのフットワークの軽さに私は目を丸くするばかりだ。テーブル席の斜め向かいに座る水野君も微笑んではいるものの、呆気に取られているのではではないだろうか。急遽持ち上がったなんちゃって同窓会(?)に参加したのも、私と同じで若干流された雰囲気もあったし……嫌がっているようには見えないけど大丈夫かな。
グラスワインでとりあえず乾杯。簡単な自己紹介をし合った後、吉竹さんが身を乗り出した。
「ところで二人は何処で知り合ったの?サークルとか?」
「いいえ……じゃなくて、元はサークルの集まりだったのかな?私は友達に誘われて付いて行っただけだけど」
「うん、元はスキー部の有志のOB会だったんだ。だけど皆がそれぞれ友達を連れて来るようになって結局サークル絡み半分付き合いの人半分って感じに落ち着いたかな」
「じゃあ在学中って言うより卒業後の付き合いなんだ。へぇー。そう言うのあるよね、私と大谷さんも在学中はちょっと知ってるって感じだったけど、まさか同じ会社に働く事になるなんて思わなかったもんね」
吉竹さんがニコリと笑いかけてくれる。
「うーん同じ……と言うのは烏滸がましいような……。正社員と派遣社員は違うでしょう」
「そーかな?同じ職場で働いているんだからそれほど違うと思わないけど。と、いう事は大谷さんは正社員希望?」
「うん、出来たらそうしたいな。先行きも不安だしね……正社員の二人が羨ましいなぁ」
ポンっと丈さんの顔が浮かんだが、付き合ったばかりの彼氏との将来なんてどうなるか分からないから、取りあえず今まで通りの希望を口にした。
でも何となく妄想してしまう。
例えば丈さんと結婚してあのマンションに一緒に住んだとしたら?派遣が終わって違う会社に移っても毎日丈さんと会えるなぁ。それならむしろ派遣の方が子供が出来た時辞めやすいし都合が良いかも。……なんちゃって。うーん、妄想癖が悪化しているかも。そのまま妄想が加速度を付けて進んでいき、数秒後にはもう頭の中ではハイハイしている子供がケージの中のうータンと鼻を突き合わせて見つめ合っていた。そして丈さんと私はそれをニマニマしながら眺めるのだ。スマホでしつこく写真を撮りまくったり……。
「えーと、大谷さん?」
はっ……白昼夢か!
我に返って赤面してしまう。私って結婚願望強かったのかなぁ、両親と離れて暮らすのが当たり前だったからそれほど結婚と言う形に夢は持っていなかった筈なのだけれど……だからこそ家族で一緒に暮らす普通の家庭に憧れてしまうのかもしれない。
「俺は派遣ってちょっと羨ましいよ。確かに将来に不安はあるかもしれないけれど、違う職場に移ってリセットできるでしょ」
そう言って笑う水野君は少し寂しそうだった。
「もしかして……お仕事大変だったりする?」
「三年働いて求められる事も多くなったしね。それより希望の部署になかなか配属されなかったりするのが気持ちとしてはしんどいかな。まあ、何処に勤めても大変さも楽しさもあるんだろうけど」
「分かるわ~……私も今の課、居心地良いから好きなんだけど、本当は企画とか営業に関わりたかったんだよね。行きたい課の人がバリバリ働ているのを見ると羨ましいと思うし、愚痴言ってると『私が代わるのに!』って思っちゃう」
おお……正社員になっても色々あるのね。そう言えば三好さんも大変そうだったな、勿論やりがいも感じているみたいだけど。でもそれでも羨ましいな……そう言う一段違った悩みを持てるのが。派遣って確かに色んな職場に行けるし、人間関係で悩んでも次にリセット出来ると思うから気楽な部分もある。でもやはり正社員の安定感は何物にも代えがたいよね。ずっと働ける保障って良いなぁ……あ、でも会社自体がつぶれたらそうも言ってられないか。でも水野君の会社もこの会社も老舗で大手、あまり潰れそうなイメージないしな。
「ところでさ……二人って本当に何も無かったの?」
唐突に思ってもみない事を聞かれて思わず喉を詰まらせる。パエリアが……っ、うっ……はぁ~~!水をガブッと飲んで何とか事無きを得た。
突然な話題転換に、せっかく打ち解け始めた水野君も固まってしまう。
「な、なにも……って。さっき言った通りよ、ただの『友達』だってば!ね!水野君?」
水野君はゆっくりと私を見た。さっきまで柔和な笑顔を浮かべていたその顔が―――僅かに緊張しているように見える真面目顔に変わってしまった。
え?え?なに、その顔……。
「うん、そうだね」
水野君が私に視線を固定したまま頷き、それからフイッと顔を逸らして吉竹さんに笑いかけた。
「大谷さんの言う通りだよ」
「ええ?何か怪しいなぁ……」
「何が『怪しい』って?」
低い声が降って来て、三人は顔を上げた。そこには体格の良い短髪の男性が立っていた。
「っ中務さん!……早かったですね」
少し焦った様子の吉竹さんに、厳つい表情のままその『中務さん』と呼ばれた男性は表情を崩さず頷いた。
「……ああ。つーか、またお前は人の事詮索してんのか」
「ええっと……」
落ち着かなさげに吉竹さんの視線が彷徨う。
「だって恋バナだったら楽しいかなって……」
吉竹さんの斜めの席、水野君の隣にその人はドカッと腰を下ろした。
よくよく聞くと三歳年上のその人は吉竹さんの彼氏らしい。吉竹さんは恋愛小説が大好きで、ちょっと気になった相手がいると過剰に恋愛話を期待してアレコレ聞きたがるそうだ。時折目に余るらしく、彼氏である中務さんはストッパーとして働く事が多いらしい。
「趣味で小説を書いていて……それで好みのシチュエーションがあると、どうしてもロマンスに結びつけたくなっちゃうの」
「それは何となく分かります。私も書きはしないけど、小説とか漫画は好きなので」
何だか叱られてシュンとしている吉竹さんが可哀想になって、私はフォローの言葉を口にした。すると冷静な中務さんは腕組みをして溜息を吐いた。
「勝手に妄想するぐらいならまだしも、ちょっとコイツの場合シツコイだろ?本当に付き合ってたって聞かれたく無い事もあるだろうし……酔うと遠慮がなくなるし」
「そうなの、欲望に忠実になっちゃうのよねー……」
なんて他人事のように言う吉竹さんに私は噴き出した。
一見シュンとしおらしくしているけど、その実彼女はあまり懲りていないようだ。しっかりした出来るお姉さんってイメージがあった吉竹さんの意外な一面を見て、何だか親近感が湧いて来てしまった。
クスクス笑う私に、吉竹さんがニコリと笑ってこう尋ねた。
「やっぱり付き合ってたんでしょう?」
「えぇ?な……違いますってば!」
本当にゴリゴリ来るな~!
私は慌てて目いっぱい否定した。水野君だってただの友達との仲を疑われたら困るだろう。あの時付き合っていたらしい(?)カワイ子ちゃんとまだ付き合っているかもしれないし。すると私の強硬さに追及を諦めた吉竹さんは、水野君の方にクルリと向き直った。
「水野君、どうなの?」
「えっと……」
グイッと正面の水野君の方へ身を乗り出す吉竹さんを、呆れたように中務さんが肩を押して押し戻した。
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