捕獲されました。

ねがえり太郎

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プロポーズの後のお話 <大谷視点>

19.お疲れのようです。

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「おっ……疲れさま……」
「おはよう」



今朝は朝から晴れていて、弾むような気分で通勤路を歩いて来た。そして鼻歌なんか歌っちゃって上機嫌でロッカーに辿り着いたのだった。吉竹さんを見掛けて『おはよう』と言おうとして―――思わず『お疲れ様』と軌道修正していた。

振り返った吉竹さんの頬がガッツリこけていたのだ。けれども当の吉竹さんはあまり気にしてないらしく、こけた頬を緩ませて満足気に微笑んだのだ。

「ええと……その顔は首尾良く例の『お仕事』が完了した、と受け取って良いのかな?」
「ウフフ……無事滑り込みセーフ!完成しましたとも!!」

休日一切合切を投じて書き上げた小説はどうやら締め切りに間に合ったそうだ。やり遂げた満足感で瞳をキラキラさせる吉竹さんに、私はパチパチと手を叩いて心からの賞賛を送った。

「おめでとう!」
「ありがとう!ふふふ、ぜーんぶ貴女のお陰よ、大谷さん」
「え?私じゃ無くて……中務さんのお陰じゃないの?」

集中するあまり、トイレに立つ時と睡魔に襲われて気絶するように意識を失う以外パソコンの前から動かなかった吉竹さんの世話を焼いてくれたのは、中務さんだと今聞いたばかりだ。コンビニで食べ物を確保して差し入れもしてくれたと言う……吉竹さん、あんな素敵な男性にそんな事をさせるなんて、なんて贅沢な人なんだろう。中務さんも面倒見が好過ぎるのじゃないだろうか。……こういうのを惚れた弱みって言うのかな?

中務さん、きっと川北さんと付き合った方がずっと楽が出来ただろうに。川北さんは女子力高そうだから料理とか上手そうだよね、恋人になったら尽くすタイプだと思う。でも隠れ肉食系と言うか……男性の前では可愛らしいけど、根回しとか策略とか得意そうで同性として付き合うのは気が抜けないから怖いんだよなぁ。
うん、やっぱ中務さん、見る目あるのかも。吉竹さんは欲望に正直だけどサッパリしていて明るいし裏表とか無さそうだから―――彼氏としては気楽に付き合えるよね、きっと。

……なんて呑気に、他人事のように川北さんの事を思い出していた私は、吉竹さんと連れ立って総務課に入る時突き刺さるような視線を感じて身を震わせた。

その視線は次の瞬間には逸らされた。勿論そのビームの発射元は、川北さんだ。

このところ私に向ける彼女の顔に張り付いていた能面のような笑顔がすっかり消えて……やっぱ怖いっ……!私が忠告に従わないで吉竹さんとニコニコふざけているのが気に入らないのかなぁ。

でもやっぱり私は吉竹さんが好きだし、川北さんの言いなりにはなれないよ。だからいくら悪口を吹き込まれたって吉竹さんに冷たい態度を取るなんて無理。それに―――丈さんに川北さんを紹介するなんて嫌だ。川北さんはハッキリ私に向かって言わないけど、彼女が『亀田課長』に興味を持っているって事は態度から漂ってきている。そんな下心のある女性を、彼氏に近付けるなんて出来ない。

だから川北さんが懲りずに私に『亀田課長と会いたいから仲を取り持て』って訴えて来たら―――ちゃんと断ろう。そして今度こそキッパリ言うんだ。丈さんは私の彼氏だから、例え私が同席していても川北さんとプライベートで会う場所を作るなんて無理だって。

だって私達……結婚するんだから!

と、改めて決意を新たにした私だったが―――。






お昼休み、吉竹さんと一緒に社食から帰って来た時、総務課の入口の前の廊下で鞍馬課長と立ち話をしている丈さんを見掛けた。丈さんは私に気付かず鞍馬課長に手を上げて去って行ったが、鞍馬課長は近付いて来る私達に気が付いてニッコリと微笑んで手招きをした。

ペコリと頭を下げて近づくと、鞍馬課長が笑顔のままこう言った。

「今日、営業課と飲み会する事になったから」
「え!営業課と……ですか?」
「うん、大谷さんは出席でお願いね。吉竹さん、今日大丈夫そう?」
「はい」
「じゃあ、営業課と総務課の人数取りまとめてどっか予約入れてくれる?あ、任意だから自由参加ってコトでよろしく」
「わかりました!」
「頼んだよ」

敬礼でもしかねないような勢いでビシッと返事をする吉竹さんに頷いて見せてから、鞍馬課長は総務課の奥へと歩いて行った。

何か……三好さんもそうだけど、ここの会社の正社員の女性って体育会系と言うか男の人以上にアグレッシブっていうか積極的な人、多いよね。それとも私が好んでそう言う人ばかり付き合っていると言う事だろうか。
吉竹さんは飲み会大好き(というか噂話が行きかう場所が大好き)だから「飲み会♪飲み会♪」なんてウキウキした様子で呟きながら、さっそく課内の出席者を募る作業に取り掛かっていた。

ほどなく吉竹さんから飲み会の案内メールが届いたので『参加する』と返信して、午前中の作業の続きに取り掛かろうとしたところで―――肩にポンと手が掛かった。振り向くとそこには笑顔の川北さんが……。



「大谷さん、アリガトね!」
「え……」



何の事やらと戸惑う私に顔を寄せ、手を口元にあてて川北さんが囁いた。

「……ちゃんと根回ししてくれたのね。営業課と合同飲み会、実現して嬉しいわ」

ハッ……そう言うコト?!

「あの、それは誤解……」

反論しようと顔を上げると、川北さんはサッサと私から離れてしまった後だった。しかもえらく上機嫌で……。


つい今朝、彼女にキッパリ言おうと決心したばかりなのに!ああっもう~!


タイミングの悪さや自分のトロさを恨みつつ、私は声にならない叫び声を心の中で上げて、ジタバタと足を動かしたのだった。

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