捕獲されました。

ねがえり太郎

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プロポーズの後のお話 <大谷視点>

20.お久し振りです。

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三好さんが飲み物を持って、ちょうど空きが出た私の隣に座った。

「久し振りね」
「お久し振りです。あ、休日はイベント、お疲れ様でした」

合同飲み会開始直後は三好さんは『亀田課長』の隣の席だった。遠目に目黒さんと三好さん、丈さんが何やら熱く盛り上がっているのを目にしていた私は、営業課のメンバーは休日返上で働いていた筈なのに元気だなぁ……と、感心していた所だった。

「今回は小さいイベントだったから、それほど疲れなかったわよ。むしろ楽しかったかな?」
「どんなイベントだったんですか?」
「区が開催したキッズフェスティバルに出店したの。子供達にお仕事体験をさせるってイベントでね、飴玉の包み方を教えたりつかみ取りをして貰ったりして……疲れたけど終わった後、妙に達成感あったわぁ。子供って昔は苦手だったんだけど」

意外だった。三好さんは仕事をソツなくこなす。同じように子ども扱いも上手なイメージがあったのだ。私の心の中の疑問に答えるように彼女は笑って続けた。

「『子供』って考えないで、一人のお客様だって考えると意外と大丈夫だったわ。よく考えたら子供以上に子供っぽいお客様も偶にいるものね、それに比べたら可愛いものだなって思って」
「三好さんにも苦手なことがあるんですね」
「あるわよー、そりゃ。特に女らしい事は全然駄目。女子力、皆無だもん」
「ええ~?そんな風には全く見えませんけど」
「ふふ、欠点を誤魔化すのは得意なの。あとは気合!」

わぁ、やっぱり体育会系だ……!吉竹さんと方向は違うけど、やはり何だかとっても逞しいような気がする。

「タフですねぇ!」
「うーん……と言うより弱みを見せるのが、苦手なのかも」
「営業職の方は仕事柄、弱みを見せられないお仕事かもしれませんね」
「確かにそれもある!じゃあこれは私の性格と言うより、職業病かも!労災申請しなきゃ」

悪戯っぽく三好さんがそう言うから、思わず笑ってしまった。

三好さん、少し変わったような気がする。柔らかくなったと言うか……『女子力皆無』と言う言葉と裏腹に、肩の力が抜けて自然と内面の女らしさが滲み出て来たように見える。元々綺麗な人だけど―――蕾が綻ぶように、華やかさが増したなぁ。

うーん、これは……こんな素敵な三好さんと、丈さんは毎日朝から晩まで働いているのね。丈さんを疑う訳じゃないけれども、少し焦っちゃうなぁ。自分ももっと頑張らなきゃって思ってしまう。でも何を頑張らなきゃならないか全く分からないんだけど。女子力を鍛えるべき?……ダイエットやお洒落に精を出すとか料理の腕を磨いたり?それともお茶やお華を習うとか?
うさぎの世話に検定があれば及第点取れる自信はあるんだけどな。でもこれは女子力とは違うよなぁ。

「総務課にはもう慣れた?」
「あ、はい。知合いもいますし、営業課より仕事量も少ないので」
「でも女の人多いよね。私そう言うのちょっと苦手だから、簡単に馴染める大谷さんってスゴイなって思うわ」

うーん、確かに。三好さんのように綺麗で、尚且つ男の人と肩を並べてバリバリ働く人はあそこでは浮いてしまうかもしれない。でも私は逆に女性が多い方が落ち着くんだよな、大勢に埋もれて目立たない感じが、なお良い。男の人が多いとちょっと緊張しちゃう。勿論、川北さんみたいな人は女性でも苦手なんだけど。

「嫉妬とか牽制とか……女の人が多いと色々あるんじゃないの?」
「うっ、それはまあ……女性が多いと仕方無いですよね。ただ私はいつも目立たず空気になっちゃうので、当らず触らず過ごしています」

と言いつつ、最近川北さんの攻撃を躱しきれていないんだけど。これまでの人生では、ああいうリーダー格の人には歯牙にもかけられないので、ひっそり一部の仲良しとノンビリ過ごすのが定番の身の処し方だったのだけれど……丈さんと言う大事な人が出来てしまったから、そうも行かなくなって来る状況がジリジリ迫って来るのを感じている。
これまで総務課のコトは吉竹さんに頼ってなんとかやり過ごして来たのだけれど、これから私は丈さんを川北さんから遠ざける為に自ら戦わなくちゃならないのだ。こればっかりは強い人の後ろに隠れている訳には行かないんだ。―――だって丈さんは、私の彼氏だから。そして……旦那様になる予定の人なのだから。怖がってばかりいないで頑張らねば。

「ところで―――どう?」

チラリと先ほどまで座っていた席に視線をやり、こそっと声を潜めて三好さんが私に顔を近づけて来た。

「……『彼氏』とは順調?」
「えっ……」

思わぬ問いかけに私は真っ赤になってしまう。すると三好さんは何故か満足気に頷いて目を細めた。

「その様子じゃ上手く行っているみたいね。あーあ、残念……!」

お道化た様子で肩を竦める。『残念』と言いつつも口調は優しくて……クスリと笑って三好さんは「そうでなくちゃね、こんな良い女に目もくれないんだから。仲良くしてもらわなきゃ困るわ!」と冗談っぽくうそぶいた。
私が遠慮し過ぎないように気を使ってくれているのかもしれない。背中を押されたような気がして、拳を握ってコクリと頷いて見せる。

「大丈夫です……!……たぶん……えっと、頑張ります」

勢いを付けたものの語尾が弱々しくなる私の様子を眺めながら、グラスを傾けてクスクス笑う三好さんはとっても色っぽい。

数少ない総務課男子がチラチラとこちらを伺っている。分かりますよー、ついつい目が惹き付けられちゃうのって。これは周りの男性がほうっておかないだろうなぁ。三好さん、やっぱり以前より魅力的になったような気がする。ああ!なんかますます焦っちゃうなぁ!

なんてソワソワしつつもクスクス笑い合いながら楽しくおしゃべりをしていたら―――目の前の人が席を外し、代わりにストンと誰かが席に着いた。



「楽しそうね」



と全然楽しく無さそうに声を掛けて来たのは―――川北さんだった。
口は弧を描いているのに、目が全然笑っていない。私はヒクリと口元を引き攣らせて曖昧に微笑みを返したのだった。

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