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続・うさぎ小話
うさぎの別荘
しおりを挟む亀田視点のうさぎ小話です。
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休日に卯月がうータンを連れて俺の家に遊びに来る事になった。
以前ミミがいた頃揃えたうさぎグッズはほとんど処分してしまったので、うータンを迎えるにあたって俺は事前にペットショップやホームセンターで必要な物を改めて取り揃える事となった。
床が汚れないように断熱シートを敷き、その上に足の裏を痛めないような柔らかいカーペットを重ねた。カーペットの周りをぐるりと柵で覆い、ケージの中にうさぎ用のトイレと水飲みを設置する。序でに牧草入れの中に新鮮な牧草をセットすれば―――うータンの別荘の出来上がりだ。
足りない物が無いか確認のためにスマホで写真を撮って卯月に送ると『スゴイ、完璧!』と賞賛の返事が返って来て、取りあえず体裁は整ったのだと安堵する。
こうしてうータンは俺のマンションに初めて足を踏み入れる事になったのだった。
キャリーバックに詰め込まれ、タクシーに揺られて戦々恐々としていたうータンは、そこへ放たれた途端、一目散にピュッと布の覆いを掛けたケージの中に逃げ込んだ。
普段王様のように鷹揚な態度で振る舞っているうータンをみているだけに、その臆病な仕草に思わず笑ってしまう。卯月もプッと噴き出して目を細めた。
「暫く落ち着くまで放って置いた方がいいな」
「じゃあその間に夕飯の買い出しに行っちゃわない?」
「そうだな、そうするか」
そんな訳で買い出しに向かい戻って来ると―――出がけにケージの端っこで震えていたうータンがポシポシと牧草を食んでいた。
「あ!うータン落ち着いたみたい」
卯月が嬉しそうな声を上げた。
「無難に一番刈りのチモシーにしたんだが、気に入ってくれたみたいだな。念のためアルファルファとオーツヘイも少し買っておいたんだが」
「わー……有難う、至れり尽くせり!良かったね、うータン!」
人間達のこんなやり取りにもうータンは我関せずと、ポシポシ牧草を食べ続けている。そんなマイペースさを愛してやまない俺達は確かに『使用人』または『侍女』か『執事』と言えるかもしれない。
「アルファルファはちょっとカロリーが高いからな。チモシーを食べてくれるなら、それが一番良い」
「丈さん、抜かりないね?」
「お褒めに預かり光栄です」
「アハハ、本当に執事みたい!」
そう言って笑う卯月を見ていると胸がホッコリとする。彼女とうータンと出会ってから―――俺の胸は何度となくこんな風に温められてきた。ふと、ミミを失ったばかりのあの頃が頭を過ぎる。辛くて悲しくて寂しくて―――自暴自棄になったあの頃と同じ場所にいるのに、まるで違う空間に存在するかのようだ。
ミミには色んな感情を教えて貰った。辛い事もあったけれども、彼女に与えて貰った楽しい事の方がずっと多かったのだと今、改めて思う。そして図らずもその辛いばかりにしか思えなかったミミの喪失が……卯月とうータンに俺を巡り合う切っ掛けとなったのだ。
以前何かで読んだ諺が頭に浮かんだ。
『禍福は糾える縄の如し』
良い事も悪い事も―――余裕の無い目で見れば、その時見えているのは一面にすぎないのだろう。こんな風に幸せに転じる瞬間を知ってしまえば、傲慢に絶望ばかりしてはいられない。いつかまた、新たに辛い出来事が降りかかるとしても……立ち直る機会は無い訳では無いと俺は知ってしまったのだから。
うータンに微笑む卯月を見て思う。思えば彼女と出会ってから―――俺も随分楽観的な人間になったものだと。
手に入れた食材を冷蔵庫に入れ、ペットボトルのお茶を飲んで一息吐く。今日は温めるだけのパスタソースだから、後は麺を茹でるだけで良い。惣菜屋でサラダも手に入れたし―――ちょっと早いが夕飯の準備を始めようと思い、とりあえず手洗いへと向かった。ダイニングキッチンに戻って来ると―――お座りの格好のうータンと、柵の前に膝をついてジッと彼女と見つめ合う、卯月を見止めた。
声を掛けようとした時、卯月がハッとしたように仰け反って肩を震わせた。
「うータン……」
息を飲んだような気配に、何事かと思わずこちらも息を詰めて見守ってしまう。
「な……なんて可愛いのっ……!」
と小さく叫んだ言葉は一字一句、俺の耳に届いてしまった。
唖然としていると、芝居がかって動きを止めていた卯月がパッと振り向いた。
「あっ……その、これわっ……!」
手をパタパタと動かしアタフタと慌て出すから、思わず噴き出してしまった。
「違うの!あの、時々物凄くその……うータンが可愛過ぎて……っ、気付いたら叫ばずにいられない時があって、そのっ……」
「ふっ……ふふふっくっ……」
「わ、笑い過ぎ……っ!」
自分にも身に覚えがあるだけに、ツボに入ってしまった。
羞恥のあまり焦って目を白黒させる彼女が、可愛くて尚更笑いが止まらない。
あまりに笑い過ぎた所為か―――卯月の機嫌を損ねてしまったようだ。
パスタを食べている時、ボソッと仕返しのように俺がうータンと二人の時に呟いていた事をあげつらわれてしまった。
あれを見られていたのか……っ!
と、思わず恥ずかしさに絶句してしまったが―――これは自業自得と言うのだろうな、うん。
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お読みいただき、誠にありがとうございました。
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