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結婚するまでのお話 <大谷視点>
6.逃げました。
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「帰る」
そう呟いて、私は逃げ出した。
頭が湧いていたとしか思えない。子供みたいに一方的に彼を罵倒して、うータンを置き去りにして自分だけ逃げ出すなんて。
「なにさ、丈さんの鈍ちん!うさぎ狂い!」
ドスドス大股で歩きでエレベーターに乗って自分の部屋、いやパパの部屋へと戻った。パタンと扉を閉めてリビングまで歩いて来て……ペタンとラグに腰を落とす。
「ううっ……」
興奮で涙がせり上がって来た。
バカみたいバカみたい……でも一番のバカは……
「バカもうさぎ狂いも私だよ……」
あまりの自分のバカさ加減に、恥ずかしくて申し訳なくて。
なのに出張の事実が覆る事は無いから嫉妬の気持ちも消えなくて、水野君のコト言われてムカッとした感情も消えやしない。ちゃんと説明したのにって。丈さんなんか何人も本当の彼女がいたくせに。私の恋愛未満の相手が何だって言うの?……なんて、心の中はグルグル納得できなくて。
暫くして玄関のインターフォンが鳴った。
多分丈さんだ……そう思ったけど、腰を上げる気にはどうしてもなれなかった。その後スマホに着信があって―――それを眺めていると、着信が止んだ。
もう少し長く鳴っていたら取っていたのに。そんな風に丈さんに責任を転嫁していたら、今度はメッセージがポコンと入った。
『うータンは預かる。明日落ち着いたら話そう』
既読を付けて、だけど返信は出来なくて。
また涙が盛り上がって来た。
付き合えただけで楽しくて、指輪も買ってこれから結婚に向けて準備をするんだってワクワクしていたのに。何でこんなになっちゃったんだろう?
―――なにがなんだか分からなくて気持ちが落ち着かなくて……結局『ゴメン』と伝える事も出来ずに悶々として、わんわん泣いた。
それでも暫く泣くと……涙は止まった。
ドロドロだった気持ちも散々泣いた所為か落ち着いて来て。
暑い最中に興奮した所為か体が汗でベトベトだ。洗面所に行って顔を洗う。鏡を見ると泣き過ぎて目が腫れていた。……子供かっ!自分の思い通りにならないからって泣いて目が真っ赤って、なんなの?
気持ちは少し落ち着いたけど……流石にこの状態で会いたくないなぁ……。
だってこんな顔見せたら、全身で責めてるみたい。全くの被害者じゃないのに、いや、むしろ加害者かも……?
丈さんも『明日話そう』って言ってくれたし、うータンの世話については全く心配していない。だから―――お言葉に甘えて今日はお風呂に入って、このまま寝てしまおう。泣き疲れてヘトヘトになった私は……そう、腹を括った。
朝起きて。妙にスッキリと目が覚める。
昨日のコトが思い出されて、何であんなに腹が立ったんだろうって逆に猛烈に恥ずかしくなって来た。
恋愛小説の主人公になったみたいに、自分のコトばっかり。しかも私……丈さんからの連絡に全く返答をせずに無視しちゃった?もしかして、もしかしなくても、そうみたい。
は、恥ずかし過ぎる……今すぐ謝りたい。
丈さんは何にも悪く無いのに。そうだよね、水野君の事も……彼氏がいるのに仕事でも無いのに二人でランチに行くって……やっぱり軽率だったかもしれない。自分から誘ったって訳じゃ無かったしそんなに気も進まなかったけど。だからこそ、告白されたりしたんだし。
あ、でもランチに行った事自体は後悔はしていない。色々な誤解が解けて、気持ちがスッキリした。そのお陰で憂いなく自分は丈さんが好きだって改めて自覚する事も出来たんだし。
そう。だから……そう、伝えれば良かったんだ。
もっとやり方はあった筈。結婚して一緒に住んだら、きっともっと色々な部分で二人の考え方が合わなかったり、改めて歩み寄れる発見があったりするんだと思う。
冷静になってみると分かる。丈さんは私のコトが心配だったのかもしれない。丈さんの事を信用しているのに、私が三好さんとの距離にジリジリしちゃうみたいに。
うん……ヨシ。
丈さんに連絡して、朝ご飯作るから一緒に食べようって言おう。
決意を新たにして、服を着て軽く化粧をする。全身鏡でチェックして、勇気を奮い起こすように、自分に向かって頷いて見せる。
準備を終えて、フーッと深呼吸した。そしてスマホを手に取った時、ポコンとメッセージが。
『おはよう。スマン、直ぐに仕事に行かなきゃならなくなった。これからうータンを連れて行く』
えっ……?
すると直ぐにピンポンとインターフォンが鳴った。慌てて玄関に飛び出すと、既に服を着てケージを抱えた丈さんが立っている。スーツだけどネクタイをしていないシャツはボタンを一つ開けて、休日出勤の所為かそれとも急ぎの用事だからか、ラフな格好だ。出張用なのか、少し大きめの鞄を足元に置いていた。
「……おはよう。朝からスマンな」
差し出されたうータンのケージを受け取り、彼の顔を問うように見上げると、少し疲れたように微笑んでいる。目の下に隈があるような……もしかして寝ていない?まさかね。
でももし。私ばっかり、ぐっすり眠ってしまったのだとしたら―――
「あの、ゴメンなさい。私カッとなっちゃって……」
つい声が尻すぼみになって、視線が彼の口元に下がる。
そんな私を責める事無く、丈さんは首を振った。
「俺も悪かった。過ぎた事を蒸し返してしまって」
「ううん、そんなこと―――私こそ……ええと!あの、お仕事って……?」
グッと気持ちを奮い起こして、顔を上げる。
困ったように眉を下げる彼の表情にドキリとした。
「ああ、会社に出てそのまま仙台に行く事になった。あ、三好の日程は変わらないから。俺だけ先乗りするんだ」
やっぱり気にしている……のかも?
ゴメン、丈さん。知らなかったままの方が良かったよね?三好さんの気持ち。仕事がやりづらくなってしまうんじゃないかって心配になる。
「あの、ゴメンなさい。私が余計なコトを言ったから……?」
「いや、良いんだ。それにあくまで日程変更は上司の指示で、卯月の所為じゃない。―――それより、すまんな。今日一緒に色々見に行く予定だったのに」
これから同居する為に買い足さなきゃならない物を、今日はお店を回って物色しようと決めていたのだ。えーと……例えばベッドとかね?冷蔵庫も二人だと小さい気がするし……。
丈さんはふと、腕を上げて時計を見た。
「もう行くの?」
「ああ」
思わずウルッとしてしまう。貴重な時間を私の為に不意にしてしまった。
昨日一晩でも一緒にいれば良かった……。後悔しても、し足りない。
「丈さんゴメンなさい。私……」
「大丈夫だ、俺も悪かったんだから気にするな」
丈さんはニコリと笑った。
「―――それより、行き違いになるけど親父さんによろしくな。」
「うん」
頭にポン、と手を乗せて私を見る、銀縁眼鏡の奥の瞳は優しかった。
これ以上引き留めたら駄目だ。ますます足を引っ張る事になってしまう。私はまた、ちょっと泣きそうになったのだけど、頑張って笑顔を返した。ちゃんとできているかな?もうこれ以上心配掛けないように、気持良く送り出したい。
「うータンも、卯月のことよろしくな」
私の抱えたケージを覗き込むように腰を屈めた丈さんが、冗談めかしてそう言ったので、思わずクスリと笑ってしまった。
するとホッとしたように丈さんも頬を緩めた。
本当に、自分の我儘が恨めしい。でもだからこそ、ちゃんと笑顔で送りだそう。
「行ってらっしゃい。お仕事頑張ってね」
「ああ、行って来る」
丈さんは荷物を抱えると手を上げて―――そのまま仙台へと旅立って行ったのだった。
そう呟いて、私は逃げ出した。
頭が湧いていたとしか思えない。子供みたいに一方的に彼を罵倒して、うータンを置き去りにして自分だけ逃げ出すなんて。
「なにさ、丈さんの鈍ちん!うさぎ狂い!」
ドスドス大股で歩きでエレベーターに乗って自分の部屋、いやパパの部屋へと戻った。パタンと扉を閉めてリビングまで歩いて来て……ペタンとラグに腰を落とす。
「ううっ……」
興奮で涙がせり上がって来た。
バカみたいバカみたい……でも一番のバカは……
「バカもうさぎ狂いも私だよ……」
あまりの自分のバカさ加減に、恥ずかしくて申し訳なくて。
なのに出張の事実が覆る事は無いから嫉妬の気持ちも消えなくて、水野君のコト言われてムカッとした感情も消えやしない。ちゃんと説明したのにって。丈さんなんか何人も本当の彼女がいたくせに。私の恋愛未満の相手が何だって言うの?……なんて、心の中はグルグル納得できなくて。
暫くして玄関のインターフォンが鳴った。
多分丈さんだ……そう思ったけど、腰を上げる気にはどうしてもなれなかった。その後スマホに着信があって―――それを眺めていると、着信が止んだ。
もう少し長く鳴っていたら取っていたのに。そんな風に丈さんに責任を転嫁していたら、今度はメッセージがポコンと入った。
『うータンは預かる。明日落ち着いたら話そう』
既読を付けて、だけど返信は出来なくて。
また涙が盛り上がって来た。
付き合えただけで楽しくて、指輪も買ってこれから結婚に向けて準備をするんだってワクワクしていたのに。何でこんなになっちゃったんだろう?
―――なにがなんだか分からなくて気持ちが落ち着かなくて……結局『ゴメン』と伝える事も出来ずに悶々として、わんわん泣いた。
それでも暫く泣くと……涙は止まった。
ドロドロだった気持ちも散々泣いた所為か落ち着いて来て。
暑い最中に興奮した所為か体が汗でベトベトだ。洗面所に行って顔を洗う。鏡を見ると泣き過ぎて目が腫れていた。……子供かっ!自分の思い通りにならないからって泣いて目が真っ赤って、なんなの?
気持ちは少し落ち着いたけど……流石にこの状態で会いたくないなぁ……。
だってこんな顔見せたら、全身で責めてるみたい。全くの被害者じゃないのに、いや、むしろ加害者かも……?
丈さんも『明日話そう』って言ってくれたし、うータンの世話については全く心配していない。だから―――お言葉に甘えて今日はお風呂に入って、このまま寝てしまおう。泣き疲れてヘトヘトになった私は……そう、腹を括った。
朝起きて。妙にスッキリと目が覚める。
昨日のコトが思い出されて、何であんなに腹が立ったんだろうって逆に猛烈に恥ずかしくなって来た。
恋愛小説の主人公になったみたいに、自分のコトばっかり。しかも私……丈さんからの連絡に全く返答をせずに無視しちゃった?もしかして、もしかしなくても、そうみたい。
は、恥ずかし過ぎる……今すぐ謝りたい。
丈さんは何にも悪く無いのに。そうだよね、水野君の事も……彼氏がいるのに仕事でも無いのに二人でランチに行くって……やっぱり軽率だったかもしれない。自分から誘ったって訳じゃ無かったしそんなに気も進まなかったけど。だからこそ、告白されたりしたんだし。
あ、でもランチに行った事自体は後悔はしていない。色々な誤解が解けて、気持ちがスッキリした。そのお陰で憂いなく自分は丈さんが好きだって改めて自覚する事も出来たんだし。
そう。だから……そう、伝えれば良かったんだ。
もっとやり方はあった筈。結婚して一緒に住んだら、きっともっと色々な部分で二人の考え方が合わなかったり、改めて歩み寄れる発見があったりするんだと思う。
冷静になってみると分かる。丈さんは私のコトが心配だったのかもしれない。丈さんの事を信用しているのに、私が三好さんとの距離にジリジリしちゃうみたいに。
うん……ヨシ。
丈さんに連絡して、朝ご飯作るから一緒に食べようって言おう。
決意を新たにして、服を着て軽く化粧をする。全身鏡でチェックして、勇気を奮い起こすように、自分に向かって頷いて見せる。
準備を終えて、フーッと深呼吸した。そしてスマホを手に取った時、ポコンとメッセージが。
『おはよう。スマン、直ぐに仕事に行かなきゃならなくなった。これからうータンを連れて行く』
えっ……?
すると直ぐにピンポンとインターフォンが鳴った。慌てて玄関に飛び出すと、既に服を着てケージを抱えた丈さんが立っている。スーツだけどネクタイをしていないシャツはボタンを一つ開けて、休日出勤の所為かそれとも急ぎの用事だからか、ラフな格好だ。出張用なのか、少し大きめの鞄を足元に置いていた。
「……おはよう。朝からスマンな」
差し出されたうータンのケージを受け取り、彼の顔を問うように見上げると、少し疲れたように微笑んでいる。目の下に隈があるような……もしかして寝ていない?まさかね。
でももし。私ばっかり、ぐっすり眠ってしまったのだとしたら―――
「あの、ゴメンなさい。私カッとなっちゃって……」
つい声が尻すぼみになって、視線が彼の口元に下がる。
そんな私を責める事無く、丈さんは首を振った。
「俺も悪かった。過ぎた事を蒸し返してしまって」
「ううん、そんなこと―――私こそ……ええと!あの、お仕事って……?」
グッと気持ちを奮い起こして、顔を上げる。
困ったように眉を下げる彼の表情にドキリとした。
「ああ、会社に出てそのまま仙台に行く事になった。あ、三好の日程は変わらないから。俺だけ先乗りするんだ」
やっぱり気にしている……のかも?
ゴメン、丈さん。知らなかったままの方が良かったよね?三好さんの気持ち。仕事がやりづらくなってしまうんじゃないかって心配になる。
「あの、ゴメンなさい。私が余計なコトを言ったから……?」
「いや、良いんだ。それにあくまで日程変更は上司の指示で、卯月の所為じゃない。―――それより、すまんな。今日一緒に色々見に行く予定だったのに」
これから同居する為に買い足さなきゃならない物を、今日はお店を回って物色しようと決めていたのだ。えーと……例えばベッドとかね?冷蔵庫も二人だと小さい気がするし……。
丈さんはふと、腕を上げて時計を見た。
「もう行くの?」
「ああ」
思わずウルッとしてしまう。貴重な時間を私の為に不意にしてしまった。
昨日一晩でも一緒にいれば良かった……。後悔しても、し足りない。
「丈さんゴメンなさい。私……」
「大丈夫だ、俺も悪かったんだから気にするな」
丈さんはニコリと笑った。
「―――それより、行き違いになるけど親父さんによろしくな。」
「うん」
頭にポン、と手を乗せて私を見る、銀縁眼鏡の奥の瞳は優しかった。
これ以上引き留めたら駄目だ。ますます足を引っ張る事になってしまう。私はまた、ちょっと泣きそうになったのだけど、頑張って笑顔を返した。ちゃんとできているかな?もうこれ以上心配掛けないように、気持良く送り出したい。
「うータンも、卯月のことよろしくな」
私の抱えたケージを覗き込むように腰を屈めた丈さんが、冗談めかしてそう言ったので、思わずクスリと笑ってしまった。
するとホッとしたように丈さんも頬を緩めた。
本当に、自分の我儘が恨めしい。でもだからこそ、ちゃんと笑顔で送りだそう。
「行ってらっしゃい。お仕事頑張ってね」
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