捕獲されました。

ねがえり太郎

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結婚するまでのお話 <大谷視点>

7.牛タン弁当を食べます。

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なんとなく社食で牛タン弁当を頼んでしまった。

「じゃあ今亀田課長、仙台にいるの?」
「うん、二週間も」

寂しいなぁ……本当にあの日、一緒に過ごせたら丈さんを充電出来たのに。そしたらまだここまで寂しく無かった。あ、『充電』って心のって意味ですよ!変な意味じゃないからっ!

そう言えば仙台支社の営業企画部長が体調を崩したから復帰するまでサポートするって言っていたけど……体調戻らなかったらどうなるんだろ。その時はまさかサポート延長……なんて事は無いよね。営業課には丈さんは無くてはならない人だと思うし。

「いっそ今週末、仙台に遊びに行こうかなぁ」
「……それは止めた方が良いと思う」

ボソリと呟く吉竹さんの声が何故か低い。

「え?」
「いや、その……仕事でしょ?休日だって何があるか分からないし」
「やっぱり休みも無いのかな。でも三好さんも一緒だし」

それが一番心配なんだけど。休日二人で過ごしたり……とかないよね?

いや、別にね?確かにちょっと嫉妬しちゃうけど、本社から応援に行くの二人だけなんだから、ご飯食べたりちょっと史跡を見に行ったりするくらいはそう、同僚なんだから構わない。三好さんだって独り行動は寂しいだろうし。
丈さんに八つ当たりした後、あんな風に眉を下げた彼をみたら―――疑った自分が馬鹿みたいに思えた。だからそれくらい、広い心で許容しますよ、うん。だって丈さんには浮気心なんて全く無いんだから……多分。
でも素敵な三好さんとプライベートを一緒に過ごしたら、改めて彼女の良さを再認識するとか、不意にときめいちゃうとかあったりして。だって丈さんは今では三好さんの秘めた思いを知ってしまった訳だし……駄目だ、やっぱり史跡巡りは無し!でもご飯くらいなら許す!って私は何様でしょう?あ、奥様(仮)か。じゃあ、これくらい言ってもいいよね?

「え?そうなの?」

三好さんも一緒、と聞いた途端、何故か吉竹さんの声のトーンが上がった。ぱああっと眉間が明るくなったように思える。私は三好さんと一緒、と聞くと落ち込むんだけど。何故そんなリアクションになるのだろう……と考えてハタと思い至った。

「ちょっと吉竹さん?まさか二人の仙台デートとかその後恋愛に発展しちゃったりとか……そう言う妙な妄想、してないよね?」

それしか考えられない。私はグッと彼女を睨みつけた。想像上とか創作上でもそう言うのは止めて欲しい。例え吉竹さんの頭の中限定でも、具体的に想像されると本当になりそうで嫌だ。これは譲れない。

すると目を見開いた吉竹さんが、プッと笑って首を振った。

「しないしない!私王道派だよ!裏道街道、趣味じゃないから!主人公絡みの不倫もの、浮気ものNG体質なんだよね~。トキメけないもの」
「じゃあ、何なの?『三好さんと一緒』って聞いて急に明るくなって」
「ん?んー……あ、このカツ美味しい!食べてみる?」
「あ、うん」

単純な私は食べ物に釣られた。ヒョイ、と吉竹さんが融通してくれたカツに箸を伸ばす。

「本当だ、すっごく美味しい!」

次はコレ、買おうかな?『キタカツ御膳』……トンカツ専門店の『キタカツ』のお弁当なんだよね。モグモグ。

彼女に話を逸らされたのだとその時の私は気付かなかった。だけど私の天敵・総務課女子のリーダー格である川北さんが現れて、彼女が放った意味深な言葉によって、吉竹さんが意図的に話を逸らしたのだと言う事に気が付いたのだった。



「亀田課長、仙台支店に出張なんですって?心配よね~」



吉竹さんと逆隣にストンと腰を下ろしたのは川北さんだった。ウフフと口元に笑みを浮かべて目を細めている。手にはおにぎり一つとスープのカップが握られていた。思わずガン見してしまう―――そんなちょぴっとで、足りるの?って。横から見たら「薄っ!」って思ってしまう彼女の細さの理由の一端が分かった気がした。

「はぁ、仕事ですから……」

この間川北さんは私を庇う三好さんに食って掛かっていた。彼女が三好さんの気持ちを知っているとは思わないけれど、明らかに丈さんに取材対象としてしか興味を持っていない吉竹さんの事も『亀田課長に気がある』なんて穿った考え方をする人だ。彼女の恋愛フィルターに掛かれば、三好さんだって危ない対象だと考えるのは自然なコトなのかもしれない。

って言うか、真っ先に私が危機感抱いているんだけどね……だから、当らずとも遠からず、なんだけど。でも私は丈さんとこれから一緒に生きて行くんだから、これぐらいで動じたりはしない。……しないって決めたんだから。

私はキッと視線に力を込めた……かったけど、川北さんが怖いので出来るだけ刺激しないように、何でもない様子を装うだけに留めた。

「別に三好さんは……」
「三好さん?違うわよ、私が言っているのは」
「あぁあ~!美味しかった!あら、大谷さんももう食べ終わったわね?急ぎで手伝って欲しい作業があるんだけど、戻らない?」

急に割って入った吉竹さんに違和感を抱いたけれども、確かに手元のお弁当はカラになっている。急ぎの仕事があるなら手伝わないと……と思い、席を立った。



「仙台支店の営業企画部長って、亀田課長の元カノよね」
「えっ……」
「あらっ!もしかして知らなかった?ごめんなさい!」



お弁当の容器を手に持ったまま、つい足を止めてしまう。
口だけ謝る川北さんの顔に浮かぶのは満面の笑みだ。

「ホント、ごめんなさいねぇ?ホラ、彼女独身でしょう?焼け木杭に火が付かないかって気にしているかと思って、心配になっちゃって……」

しおらしい口調と興味津々と言った様子で輝く瞳のギャップがスゴイ。私の頭に具体的に浮かんだのは、その事だけだった。だってそれ以外は頭が真っ白で……。

「行こう」

グイッと吉竹さんに腕を引かれて頷いた。川北さんに反論出来れば良かったと思う。だけど衝撃が大きくて口を開く事が出来なかったのだ。

「きっと大丈夫よ!あちらは付き合い長いかもしれないけれど、貴女には若さがあるから」

追い討ちを掛けるように、立ち去る背中に笑いを含んだ低い声が掛けられた。

『若さ』だけって言いたいのだろうか?根なし草の派遣社員、美女でも無く、特技も無い。仕事がバリバリ出来る訳でもない。私にあるのはそれだけだって、川北さんに念を押されている気がした。

ううっ……図星だけに更に何も言えない。
あ!でも『うータン』がいる!
私に何がなくても、丈さんは『うータン』と別れて暮らしたいなんて絶対思わないハズ!!だから、大丈夫―――って。



それ、私の魅力じゃないじゃん。じゃあ、丈さんの目の前に現れた私より好みの女性がウサギを飼っていたら―――ひょっとして負けちゃう?



吉竹さんにグイグイ腕を引かれながら、私の頭の中にはそんな答えの出ない問いが渦巻いているのであった。

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