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結婚するまでのお話 <大谷視点>
22.めでたしめでたし?
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前回、最終話と予告したのにまたしても申し訳ありません。
少し長くなったので区切って、もうちょっと続きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
結婚式まであと半年と言う時期、辞令を受けた丈さんは一人、杜の都・仙台へ行ってしまった。
あれから二人で話し合った結果、結局当初の予定通り私の方はパパのマンションに引き続き居候させて貰い派遣契約いっぱいの翌春まで本社で勤めた方が良いだろうと言う結論に達した。と言う訳で、丈さんは先ず単身で仙台へ移り住む事になったのだ。
今回の栄転でまたしても最年少で営業企画部長となってしまう丈さん。慣れない土地、役職に着くに当たって挨拶周りもあるし、私的な時間の間も学ばなけばならない事が沢山あって……寝る間も惜しいほど忙しくなることは必至だそう。―――それならば結婚に関してはこのままスケジュールを前倒しせず、私は半年後仙台へ彼を追い掛ける事にしようと言う事になった。きっと少し落ち着いてから一緒に暮らす事にした方が色々とスムーズだろうから。
そしてもう一人、引っ越したばかりの人物がゲッソリとした顔で私の隣に座っている。
「引越、お疲れさま」
「うん……疲れた」
会社の食堂で、吉竹さんと二人並んでお弁当を食べていた。
今日私が選んだのは、キタカツ御膳。吉竹さんが食べているのを味見させて貰ってから、時々手を伸ばすようになった。揚げ物だからカロリーが気になる所なんだけど、何故か無性に食べたくなる時があるんだよね~。昼からカツ!ってガツガツしているようなイメージあるけど、薄切りの三元豚とチーズをミルフィーユ状に重ねたカツは普通の肉厚なカツよりアッサリしていて、ランチでも意外とそれほど重たく感じないんだな。
カツを一口、それからご飯を一口食べて人心地付いた後、溜息を吐く彼女に対して私は呟いた。
「弱っている吉竹さんって珍しい……」
思わずニマニマしてしまうのは、決して私の性格が歪んでいるからでは無い。いや……ちょっとは歪んでいるかもしれない。いつも余裕な態度のマイペースの権化・吉竹さんが弱音を吐いている状況なんて、本当に貴重ですよ……!ウクク……。
「……」
吉竹さんは恨めしそうに私を見上げながら、サンドイッチに齧り付いた。いつももっとガッツリ食べなきゃ満足できない性質の彼女がそれくらいで済ますなんて、やはり調子が悪いのだと思う。
「荷物は一昨日運び込んだんだっけ。後は片付け?」
「はぁ……片付け……片付ける気力、湧いてこないよ。ああ~あれもこれもやっぱり捨てなければ良かった……!」
新居に引っ越すに当たり、吉竹さんは自分の蔵書の一部を涙を飲んで整理したそうだ。だけど処分した本に対する未練が後から後から湧いて来て、ついつい気持ちが沈んでしまうらしい。私はそんなに読書家じゃないけれど、趣味のモノを処分した時の気持ちは想像出来なくはない。ポン、と彼女の肩を叩いて慰めの言葉を放った。
「また本出せるんでしょ?ベストセラー作家になって、大きい家に引っ越して本も買い直せば良いじゃない!」
心の籠らない軽い慰めを口にする私を、吉竹さんはキッと睨みつけた。
「家を買えるくらい本が売れる人なんて、ほんの一握りだっつーの!私ごときがベストセラーなんて烏滸がましい!ペン一本、いやキーボード一枚で食べていけるようになるのなんて、夢のまた夢なんだから……!」
珍しくネガティブな吉竹さんが面白くて。思わずクスクス笑ってしまう。でもやっぱり少し揶揄い過ぎたかもな~と、少しだけ反省して話題を変えようとした時だった。
「―――でね、仙台支社に栄転した亀田部長、年上の女性と同棲しているですって!」
そこへ潜めているようでいて妙に通る声が響いて来た。チラリと振り返ると私達の背後、少し離れた席の集団が顔を寄せ合っているのが目に入る。案の定、それは川北さんと彼女と仲良くしている総務課メンバーだったりする。
「え~!」
「でもまだ仙台に行ってまだ一月も経っていないよね……」
「それに亀田部長って……婚約している筈じゃ」
川北さんを取り巻く総務課女子達は、私の方をチラチラ気にしながら小さい声で彼女に応えた。幾らなんでも私がいる前で口に出す話題では無いと思っているのかもしれない。本当にね、グサグサ人の気持ちを抉ろうとするのは止めていただきたい。
『……だとしても、川北さんには関係ないことですよね。丈さんが誰と飲みに行こうが、誰と付き合おうが―――それに腹を立てられるのも、文句を言えるのも私だけです。心配してくれるのは有難いですが、プライベートは私達二人の問題なので、放って置いて下さい!』
大人しかった私の思わぬ反撃に怯んだ川北さんは、あれ以来私に直接話しかけて来る事がなくなった。それこそ仕事でどうしても話さなければならない場面でもなければ口もきかないし、そう言う場合でも視線を合わせない徹底ぶりだ。
以前ならそんな風にあからさまに無視をされていたら、ズーンと地の果てまで落ち込んでいた所だけれど、突き抜けてしまった私は彼女との接点が減った事に清々してむしろ過ごしやすいと感じるまでになっていた。
遠回しに嫌味を言われるのは正直いまだに嫌な気持ちになる。だけど彼女が周りの人を扇動するように得意げに人をあげつらう様子を見ても、もはや『女王様のようだ』とは思えなくなっていた。むしろ『負け犬の遠吠え』と言う形容が似合うような気がする。―――そして、虚しくならないのかな?と、気の毒にさえ思えて来るんだ。
相手を堕とす事で、自分がちょっと浮上するような気持ちになるのは分からないでは無い。私だってそう言う気持ちになる事もあるし、ついつい他人を悪役にして溜飲を下げる事もある。だけど川北さんのように、相手を貶める事にばかり固執するのはどうかと思う。
自分を変えずに人を下げる方が確かに簡単だ。だけど同じ場所で立ち止まっていないで、その情熱をもっと違う事に向ければ―――新しい扉が開けるかもしれないのに。
「おっ……メゲて無いね!」
背筋をピンと伸ばしたまま、むしゃむしゃとミルフィーユカツを飲み込む雄々しい私を見て、吉竹さんが賞賛の声を上げる。
「モチロン!噂話なんか気にしないモン!」
「ふふふ……恋は乙女を強くするのね~」
私のしっかりとした返答に、鼻歌でも歌うかのように彼女は上機嫌にそう言った。けれどもフッと真顔になって首を傾げる。
「だけど……本当に気にならない?」
え?何が?―――あ。
「……『亀田課長の同棲相手』の事?」
「桂沢部長は再婚して退職されたから、彼女では無いのは分かっているけど……」
心配そうに声のトーンを落とす吉竹さんの口調で気が付いた。どうやら既にその噂は吉竹さんの耳には届いていたらしい。確かに私にとって初耳ではあった。まことしやかにそんな噂が本社で囁かれているなんて。
私は最後のカツを箸で掴むと口に放り込んだ。
モグモグゴクンと飲み込んでから―――にっこりと微笑む。
「大丈夫!彼の事信じているから……!」
私の力強い宣言に目を丸くした吉竹さんが、一拍置いて「ひゅ~!おアツいわね!」と大袈裟に驚いて片手で顔を煽ぐようなリアクションを見せた。
て言うか、つい一昨日の土曜日に旦那様と同居したばかりの新婚さんである吉竹さんこそ、今絶賛『おアツい』時期である筈なんだけどな……?
ニヤニヤ私を揶揄う吉竹さんを見ながら、ちょっとだけ微妙な気持ちになってしまった。
食べ終わった私達は、早めに席を立つ事にした。ジロジロ無遠慮に私の様子を伺う視線を目の端で感じつつも、背筋を伸ばして大股で食堂を出たのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次こそ、(……たぶん)最終話となります。
少し長くなったので区切って、もうちょっと続きます。
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結婚式まであと半年と言う時期、辞令を受けた丈さんは一人、杜の都・仙台へ行ってしまった。
あれから二人で話し合った結果、結局当初の予定通り私の方はパパのマンションに引き続き居候させて貰い派遣契約いっぱいの翌春まで本社で勤めた方が良いだろうと言う結論に達した。と言う訳で、丈さんは先ず単身で仙台へ移り住む事になったのだ。
今回の栄転でまたしても最年少で営業企画部長となってしまう丈さん。慣れない土地、役職に着くに当たって挨拶周りもあるし、私的な時間の間も学ばなけばならない事が沢山あって……寝る間も惜しいほど忙しくなることは必至だそう。―――それならば結婚に関してはこのままスケジュールを前倒しせず、私は半年後仙台へ彼を追い掛ける事にしようと言う事になった。きっと少し落ち着いてから一緒に暮らす事にした方が色々とスムーズだろうから。
そしてもう一人、引っ越したばかりの人物がゲッソリとした顔で私の隣に座っている。
「引越、お疲れさま」
「うん……疲れた」
会社の食堂で、吉竹さんと二人並んでお弁当を食べていた。
今日私が選んだのは、キタカツ御膳。吉竹さんが食べているのを味見させて貰ってから、時々手を伸ばすようになった。揚げ物だからカロリーが気になる所なんだけど、何故か無性に食べたくなる時があるんだよね~。昼からカツ!ってガツガツしているようなイメージあるけど、薄切りの三元豚とチーズをミルフィーユ状に重ねたカツは普通の肉厚なカツよりアッサリしていて、ランチでも意外とそれほど重たく感じないんだな。
カツを一口、それからご飯を一口食べて人心地付いた後、溜息を吐く彼女に対して私は呟いた。
「弱っている吉竹さんって珍しい……」
思わずニマニマしてしまうのは、決して私の性格が歪んでいるからでは無い。いや……ちょっとは歪んでいるかもしれない。いつも余裕な態度のマイペースの権化・吉竹さんが弱音を吐いている状況なんて、本当に貴重ですよ……!ウクク……。
「……」
吉竹さんは恨めしそうに私を見上げながら、サンドイッチに齧り付いた。いつももっとガッツリ食べなきゃ満足できない性質の彼女がそれくらいで済ますなんて、やはり調子が悪いのだと思う。
「荷物は一昨日運び込んだんだっけ。後は片付け?」
「はぁ……片付け……片付ける気力、湧いてこないよ。ああ~あれもこれもやっぱり捨てなければ良かった……!」
新居に引っ越すに当たり、吉竹さんは自分の蔵書の一部を涙を飲んで整理したそうだ。だけど処分した本に対する未練が後から後から湧いて来て、ついつい気持ちが沈んでしまうらしい。私はそんなに読書家じゃないけれど、趣味のモノを処分した時の気持ちは想像出来なくはない。ポン、と彼女の肩を叩いて慰めの言葉を放った。
「また本出せるんでしょ?ベストセラー作家になって、大きい家に引っ越して本も買い直せば良いじゃない!」
心の籠らない軽い慰めを口にする私を、吉竹さんはキッと睨みつけた。
「家を買えるくらい本が売れる人なんて、ほんの一握りだっつーの!私ごときがベストセラーなんて烏滸がましい!ペン一本、いやキーボード一枚で食べていけるようになるのなんて、夢のまた夢なんだから……!」
珍しくネガティブな吉竹さんが面白くて。思わずクスクス笑ってしまう。でもやっぱり少し揶揄い過ぎたかもな~と、少しだけ反省して話題を変えようとした時だった。
「―――でね、仙台支社に栄転した亀田部長、年上の女性と同棲しているですって!」
そこへ潜めているようでいて妙に通る声が響いて来た。チラリと振り返ると私達の背後、少し離れた席の集団が顔を寄せ合っているのが目に入る。案の定、それは川北さんと彼女と仲良くしている総務課メンバーだったりする。
「え~!」
「でもまだ仙台に行ってまだ一月も経っていないよね……」
「それに亀田部長って……婚約している筈じゃ」
川北さんを取り巻く総務課女子達は、私の方をチラチラ気にしながら小さい声で彼女に応えた。幾らなんでも私がいる前で口に出す話題では無いと思っているのかもしれない。本当にね、グサグサ人の気持ちを抉ろうとするのは止めていただきたい。
『……だとしても、川北さんには関係ないことですよね。丈さんが誰と飲みに行こうが、誰と付き合おうが―――それに腹を立てられるのも、文句を言えるのも私だけです。心配してくれるのは有難いですが、プライベートは私達二人の問題なので、放って置いて下さい!』
大人しかった私の思わぬ反撃に怯んだ川北さんは、あれ以来私に直接話しかけて来る事がなくなった。それこそ仕事でどうしても話さなければならない場面でもなければ口もきかないし、そう言う場合でも視線を合わせない徹底ぶりだ。
以前ならそんな風にあからさまに無視をされていたら、ズーンと地の果てまで落ち込んでいた所だけれど、突き抜けてしまった私は彼女との接点が減った事に清々してむしろ過ごしやすいと感じるまでになっていた。
遠回しに嫌味を言われるのは正直いまだに嫌な気持ちになる。だけど彼女が周りの人を扇動するように得意げに人をあげつらう様子を見ても、もはや『女王様のようだ』とは思えなくなっていた。むしろ『負け犬の遠吠え』と言う形容が似合うような気がする。―――そして、虚しくならないのかな?と、気の毒にさえ思えて来るんだ。
相手を堕とす事で、自分がちょっと浮上するような気持ちになるのは分からないでは無い。私だってそう言う気持ちになる事もあるし、ついつい他人を悪役にして溜飲を下げる事もある。だけど川北さんのように、相手を貶める事にばかり固執するのはどうかと思う。
自分を変えずに人を下げる方が確かに簡単だ。だけど同じ場所で立ち止まっていないで、その情熱をもっと違う事に向ければ―――新しい扉が開けるかもしれないのに。
「おっ……メゲて無いね!」
背筋をピンと伸ばしたまま、むしゃむしゃとミルフィーユカツを飲み込む雄々しい私を見て、吉竹さんが賞賛の声を上げる。
「モチロン!噂話なんか気にしないモン!」
「ふふふ……恋は乙女を強くするのね~」
私のしっかりとした返答に、鼻歌でも歌うかのように彼女は上機嫌にそう言った。けれどもフッと真顔になって首を傾げる。
「だけど……本当に気にならない?」
え?何が?―――あ。
「……『亀田課長の同棲相手』の事?」
「桂沢部長は再婚して退職されたから、彼女では無いのは分かっているけど……」
心配そうに声のトーンを落とす吉竹さんの口調で気が付いた。どうやら既にその噂は吉竹さんの耳には届いていたらしい。確かに私にとって初耳ではあった。まことしやかにそんな噂が本社で囁かれているなんて。
私は最後のカツを箸で掴むと口に放り込んだ。
モグモグゴクンと飲み込んでから―――にっこりと微笑む。
「大丈夫!彼の事信じているから……!」
私の力強い宣言に目を丸くした吉竹さんが、一拍置いて「ひゅ~!おアツいわね!」と大袈裟に驚いて片手で顔を煽ぐようなリアクションを見せた。
て言うか、つい一昨日の土曜日に旦那様と同居したばかりの新婚さんである吉竹さんこそ、今絶賛『おアツい』時期である筈なんだけどな……?
ニヤニヤ私を揶揄う吉竹さんを見ながら、ちょっとだけ微妙な気持ちになってしまった。
食べ終わった私達は、早めに席を立つ事にした。ジロジロ無遠慮に私の様子を伺う視線を目の端で感じつつも、背筋を伸ばして大股で食堂を出たのであった。
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次こそ、(……たぶん)最終話となります。
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