トリート選んだら異世界で愛され魔女になってました

星野 千織

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第4話 トリートを選んだ女

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 ……まあ、最近はプロジェクションマッピングとかいうの、あるし。
 そういう最新技術を使って、それっぽくしてるのかも?
 なんて、強引に自分を納得させる。

 広報時代に企画書で散々見た言葉だ。
「没入体験」だの「非日常空間」だの。
 こういうの、若者にはウケる。
 まさか自分が体験する側になるとは思わなかったけど。

 黒い燕尾服の”パンプキン・バトラー”が、恭しく私を案内する。
 彼の頭はカボチャそのものだ。
 どう見てもCGか最新マスク。目が光るのも演出だろう。
 ……たぶん。

「こちらでございます、魔女様」
「魔女様?あ、そういう設定ね。ハロウィンだから」

 私は苦笑しながらついていく。
 石畳の通りを抜けると、丘の上に黒い屋敷が建っていた。
 窓という窓にオレンジ色の灯り。風の流れまで”リアル”だ。
 思わず広報脳が働く。
 ――ここ、撮影許可とかどうしてるんだろ。

 案内されたホールには、長いテーブルがあった。
 ロウソクの火がゆらめき、十人ほどの人影が席についている。
 吸血鬼、狼男、仮面の貴族……見事な出来栄え。
 みんな本当に、プロの役者みたいに自然に動いている。
 そして、中央の椅子には――王冠を戴いた影。

「”夜の王”でございます」

 パンプキン・バトラーが恭しく頭を下げる。
 私はとりあえず、ぺこりと会釈した。

「ど、どうも……すごい衣装ですね」

 影が、ゆっくりと立ち上がった。
 その輪郭は人間のようでいて、どこか、ぼやけている。
 光が当たらないのではなく、光を吸い込んでいる。
 まるで、夜そのものを形にしたような存在だった。

「ようこそ、異界の魔女よ」

 低く響く声が、床を這うように広がる。

「このハロウィンの宵、我らが世界と貴女の世界は、ひととき繋がる。魂の門が、開いたのだ」
「……設定、凝ってますねえ。あの、これ、どういう体験型イベントなんです?」

 ”夜の王”は、わずかに笑った。
 笑った、のだと思う。形はないのに、笑い声だけが空気を震わせる。

「この宵に招かれし異界の魔女よ、選びなさい。トリック・オア・トリート」

 あ、出た。決め台詞。
 お菓子くれなきゃいたずらするってやつね。
 うーん、流石にそのまま言うんだ。

「じゃあ、”トリート”で!」

 私は手を挙げて言った。
 お菓子の方。甘い報い。要は平和的解決だ。
 途端に、拍手が起こった。

「新たなる魔女は”トリート”を選ばれた!」
「慈しみと実りの象徴!」
「さすがです、魔女様!」

 ……え、なんか盛り上がってる。
 いやいやいや、ただのイベント参加者でしょ私。
 でもまあ、これも演出の一環かな?
 すごいなあ。役者がノリノリだ。
 パンプキン・バトラーが手鏡を差し出した。

「さあ、貴女様の姿を。女神の祝福を受けた”真の魔女”を」
「え、鏡?……これもAR演出とかかな」

 鏡を覗く。
 そこに映っていたのは、くすんだ髪でも、目尻の小じわでもない。
 金色の瞳に、艶のある栗色の髪をした――若い女。
 いや、少女と言っていいかもしれない。

「うぉっ、デジタル技術すげー……!」

 思わず声が出た。
 最近の美容アプリだってここまでは無理だ。
 肌が発光してるし、まつげの密度が漫画レベル。

「お見事です、魔女様」
「その輝きこそ、トリートの証」
「貴女の微笑みが、この夜を豊かに照らすでしょう!」

 拍手と歓声。
 バトラーが深々と跪き、私の手をとる。

「さあ、”甘き魔女”よ。どうかこの世界を導いてください」

 ――いや、導くって。私ただの会社員なんだけど。
 でも、ここまで来たら引き返せない。
 広報の人間として、イベントは盛り上げてナンボだ。
 なら、やるしかないでしょ。

「……えーと、それでは皆さん、ハッピーハロウィン!」

 その一言に、会場がどっと沸いた。
 魔法の火花が宙を舞い、夜空のカボチャ月が輝く。

 ――まさか、これが本当に異世界だなんて。
 そのときの私は、欠片も思っていなかった。


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