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第5話 トリートの魔女と夜の王
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拍手と歓声の渦の中、パンプキン・バトラーが恭しく言った。
「魔女様の祝福を受ける方がもうひとり。――夜の王陛下でございます」
……王様?そんな設定もあるんだ。
どこまで凝ってるんだろ、このイベント。衣装代すごそう。
ざわり、と空気が揺れた。
闇の奥から現れたのは、黒い外套をまとった長身の男。
月光のような銀髪に、夜を閉じ込めたような瞳。
人間離れした美しさに、思わず見とれてしまう。
「初めまして、”トリートの魔女”」
低い声が響く。
「我が夜の領域は、長く”トリック”に支配されてきた。
けれど、貴女が”トリート”を選んだ。
――この夜に、ようやく光が戻る」
お、お芝居上手いなあこの人。俳優?
ていうか”トリック”と”トリート”を対立概念にするの、センスあるな。
広報企画として普通に感心してしまう。
「えっと……どうも、光担当の魔女です」
思わずそんなノリで返してしまった。
周囲のざわめきが、静謐な沈黙へと変わる。
「――光、か。なるほど。貴女の手から放たれた光が、そう言っている」
男が一歩、近づいた。
途端に、私の指先がほんのり温かくなった。
見下ろすと、淡い金の光がじんわりと滲み出している。
「……え、何これ。特殊効果? LED仕込み?」
バトラーがうやうやしく頷く。
「”トリート”の祝福にございます。貴女様の心が癒しを望む限り、光は溢れるのです」
「いや、そんな大層な……たぶん、照明の反射で……」
言い訳している間に、王がその手を包み込んだ。
手のひらが触れた瞬間、空気が変わる。
光が一瞬、夜を照らした。
テラスの蔦が、乾いた音を立てて花を咲かせる。
屋敷の外、遠くの森で、風が泣いた。
「……すご……本当に特撮スタジオ?」
「いいえ」
王は微笑んだ。
「これは、貴女の力だ」
「だから、その設定が……」
「我が夜に春をもたらす者、”トリートの魔女”。
貴女を、我が后として迎えよう」
……はい?
拍手。歓声。賛美。
屋敷の天井に金色の花が舞う。
「いやいや、ちょっと待って。プロポーズ!?
シナリオ飛びすぎじゃない!?」
「陛下、やはり”トリート”を選ばれし方は……!」
「祝福の女神の再来!」
「万歳、”夜と甘露の婚儀”!」
――ああ、これ、たぶん没入型恋愛イベントだ。
やばい、すっごく完成度高い。
帰ったらアンケート書かなきゃ。星五つ、間違いなし。
王が微笑んで、私の耳元に囁いた。
「恐れるな。貴女が望むなら、夜そのものを甘く染めよう」
おお、きた、告白シーン!
台詞回しも完璧。脚本すごいな。
広報の仕事してたからわかるけど、こういう体験型イベントって、
現場で役者がアドリブ効かせるんだよね。
たぶん私のリアクションに合わせて、自然に流れを変えてくれてる。
「えーっと……では、よろしくお願いします?」
冗談まじりに手を差し出すと、王の表情がふっと緩む。
「……貴女のその言葉を、我が命の誓いとしよう」
――やだ、ロマンチック。
もう少し照れた演技入れてくれてもいいのに。
拍手が起こり、音楽が流れ始める。
「……え、はや。これ結婚式モード?」
慌てて聞くと、バトラーが満面の笑みで頷いた。
「はい、婚儀の儀でございます。
トリートの魔女様が”夜の王”に心を許された瞬間に、式が始まる仕様にございます」
「仕様!? 自動スタート式なの!?!?」
「はい。祝福の魔法が、もう発動しております」
えっ、いやちょっと、私はまだ心の準備というか、アンケート書いてないというか!
バトラーは止まらない。
花弁が舞い、鐘が鳴る。
王が私の手をとり、ゆっくりと立ち上がる。
「恐れることはない。
この婚儀は、夜と光の結び。
誰もが望んだ”永遠のハロウィン”の完成だ」
……永遠?
え、イベントってそんな長期開催だった?
「夜が甘く、優しく染まるように――」
王の指が私の頬をなぞる。
目の前に、彼の金の瞳が映る。
距離が、近い。
近いって。ちょ、演出過剰じゃない!?
「”トリート”の魔女よ。
貴女の唇に、夜の誓いを」
「ま、待っ――!」
光が、弾けた。
温かい風が頬を包む。
花の香りが一面に広がる。
――何これ。あったかい。
息を呑むほど、現実的な感覚。
照明じゃない。人工風でもない。
これは……風だ。ほんものの。
「……え、ここ……外? え、私、どこにいるの?」
気が付くと、星空がすぐ上にあった。
天井がない。機材も見えない。
見渡せば、果てのない夜の大地。
王が、微笑んでいる。
「ようこそ、我が妃。
ここは”永夜の王国”。貴女の、第二の世界だ」
「え……第二……? え、いや、私、帰りの電車が……」
「”トリート”を選んだ貴女が、門を開いたのだ。
もう、夜は貴女なしでは続かない」
う、うそ。
いや、そんな設定、説明書に書いてなかったし。
ARでもCGでもない夜風が、髪を撫でていく。
……え。
これ、ほんとに異世界?
「では――契りの口づけを」
「いやいやいや、ちょっと待って!?!?!?」
月が、微笑んだ。
そして、花が再び夜に降り注いだ。
「魔女様の祝福を受ける方がもうひとり。――夜の王陛下でございます」
……王様?そんな設定もあるんだ。
どこまで凝ってるんだろ、このイベント。衣装代すごそう。
ざわり、と空気が揺れた。
闇の奥から現れたのは、黒い外套をまとった長身の男。
月光のような銀髪に、夜を閉じ込めたような瞳。
人間離れした美しさに、思わず見とれてしまう。
「初めまして、”トリートの魔女”」
低い声が響く。
「我が夜の領域は、長く”トリック”に支配されてきた。
けれど、貴女が”トリート”を選んだ。
――この夜に、ようやく光が戻る」
お、お芝居上手いなあこの人。俳優?
ていうか”トリック”と”トリート”を対立概念にするの、センスあるな。
広報企画として普通に感心してしまう。
「えっと……どうも、光担当の魔女です」
思わずそんなノリで返してしまった。
周囲のざわめきが、静謐な沈黙へと変わる。
「――光、か。なるほど。貴女の手から放たれた光が、そう言っている」
男が一歩、近づいた。
途端に、私の指先がほんのり温かくなった。
見下ろすと、淡い金の光がじんわりと滲み出している。
「……え、何これ。特殊効果? LED仕込み?」
バトラーがうやうやしく頷く。
「”トリート”の祝福にございます。貴女様の心が癒しを望む限り、光は溢れるのです」
「いや、そんな大層な……たぶん、照明の反射で……」
言い訳している間に、王がその手を包み込んだ。
手のひらが触れた瞬間、空気が変わる。
光が一瞬、夜を照らした。
テラスの蔦が、乾いた音を立てて花を咲かせる。
屋敷の外、遠くの森で、風が泣いた。
「……すご……本当に特撮スタジオ?」
「いいえ」
王は微笑んだ。
「これは、貴女の力だ」
「だから、その設定が……」
「我が夜に春をもたらす者、”トリートの魔女”。
貴女を、我が后として迎えよう」
……はい?
拍手。歓声。賛美。
屋敷の天井に金色の花が舞う。
「いやいや、ちょっと待って。プロポーズ!?
シナリオ飛びすぎじゃない!?」
「陛下、やはり”トリート”を選ばれし方は……!」
「祝福の女神の再来!」
「万歳、”夜と甘露の婚儀”!」
――ああ、これ、たぶん没入型恋愛イベントだ。
やばい、すっごく完成度高い。
帰ったらアンケート書かなきゃ。星五つ、間違いなし。
王が微笑んで、私の耳元に囁いた。
「恐れるな。貴女が望むなら、夜そのものを甘く染めよう」
おお、きた、告白シーン!
台詞回しも完璧。脚本すごいな。
広報の仕事してたからわかるけど、こういう体験型イベントって、
現場で役者がアドリブ効かせるんだよね。
たぶん私のリアクションに合わせて、自然に流れを変えてくれてる。
「えーっと……では、よろしくお願いします?」
冗談まじりに手を差し出すと、王の表情がふっと緩む。
「……貴女のその言葉を、我が命の誓いとしよう」
――やだ、ロマンチック。
もう少し照れた演技入れてくれてもいいのに。
拍手が起こり、音楽が流れ始める。
「……え、はや。これ結婚式モード?」
慌てて聞くと、バトラーが満面の笑みで頷いた。
「はい、婚儀の儀でございます。
トリートの魔女様が”夜の王”に心を許された瞬間に、式が始まる仕様にございます」
「仕様!? 自動スタート式なの!?!?」
「はい。祝福の魔法が、もう発動しております」
えっ、いやちょっと、私はまだ心の準備というか、アンケート書いてないというか!
バトラーは止まらない。
花弁が舞い、鐘が鳴る。
王が私の手をとり、ゆっくりと立ち上がる。
「恐れることはない。
この婚儀は、夜と光の結び。
誰もが望んだ”永遠のハロウィン”の完成だ」
……永遠?
え、イベントってそんな長期開催だった?
「夜が甘く、優しく染まるように――」
王の指が私の頬をなぞる。
目の前に、彼の金の瞳が映る。
距離が、近い。
近いって。ちょ、演出過剰じゃない!?
「”トリート”の魔女よ。
貴女の唇に、夜の誓いを」
「ま、待っ――!」
光が、弾けた。
温かい風が頬を包む。
花の香りが一面に広がる。
――何これ。あったかい。
息を呑むほど、現実的な感覚。
照明じゃない。人工風でもない。
これは……風だ。ほんものの。
「……え、ここ……外? え、私、どこにいるの?」
気が付くと、星空がすぐ上にあった。
天井がない。機材も見えない。
見渡せば、果てのない夜の大地。
王が、微笑んでいる。
「ようこそ、我が妃。
ここは”永夜の王国”。貴女の、第二の世界だ」
「え……第二……? え、いや、私、帰りの電車が……」
「”トリート”を選んだ貴女が、門を開いたのだ。
もう、夜は貴女なしでは続かない」
う、うそ。
いや、そんな設定、説明書に書いてなかったし。
ARでもCGでもない夜風が、髪を撫でていく。
……え。
これ、ほんとに異世界?
「では――契りの口づけを」
「いやいやいや、ちょっと待って!?!?!?」
月が、微笑んだ。
そして、花が再び夜に降り注いだ。
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