悪役令息に転生したから断罪ルート回避しようとした結果、王太子殿下を溺愛してる

琥月ルル

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12.セシリアの陰謀

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結局、本命を決めずにハーレムエンドを目指すことにしたのか、セシリアの学園内での行為はどんどんエスカレートしていった。

『セカ愛』でハーレムエンドを迎えるためには、各攻略対象と日常的な交流に加えて、デートなどのスチル付きイベントを満遍なくこなさなければならない。

それを現実世界でやろうとするとどうなるかというと、高位の貴族令息や王子に見境なく色目を使う身の程知らずの女になる。

しかし、セシリアはイザベラを悪役にして自分を『意地悪な公爵令嬢にいじめられている可哀想な聖女様』と周囲に認識させることで、事情をよく知らない生徒たちの同情を引いているらしい。最悪だよね。

マーカス、リックの二人とはだいたい『セカ愛』のシナリオ通りに進展してるみたいだけど、エドワードと俺は相変わらずセシリアを避けまくっていた。
特にスチル付きのデートイベントは攻略対象とヒロインの距離が縮まるから、意地でも突入しないように片っ端からフラグを折り続けている。

俺たちが全然自分になびかないうえにゲームシナリオ通りの行動をしないので、セシリアはムキになっているらしい。
遊び人設定で攻略難易度も高くないセバスチャン殿下へのアプローチを減らしてまで、俺たちに積極的なアプローチを仕掛けてくるようになったのだ。

待ち伏せされてるとさすがに無視はできないし、やってることがストーカーっぽくてちょっと気持ち悪いからやめてほしい。
そんなようなことをやんわり言ってみても全然伝わらず、それどころか気を引くために言ってると思われたのか、翌日から俺たちへのアプローチが激化した。謎の思考回路だ。

特に親しくなった覚えもないうえに体に触れる許可も出していないのに、セシリアは腕を組んだり豊満な胸をわざとらしく押し付けたりしてくる。ボディータッチの程度までエスカレートしてきているのだ。

俺はエドワードがそういった類のちょっかいを出されるのがとにかく嫌で、彼女が近付いてきたらすかさず前に出てエドワードを背後に庇うようにしていた。

人目もある中で、いくら立場が上だからといって185cmある男が155cmくらいしかない女の子を乱暴に振り払えるはずもない。
俺は死んだ魚の目をしながら、がっちりとホールドされた腕を振り払うこともなく、彼女の露骨なアピールをのらりくらりとかわしていた。

これがまた神経使うから疲れるんだよね。もし対応を間違えて泣かれたら、次の日には俺の悪評が学園中に広まってるだろうし。
まぁ、彼女があまりにもしつこいときは、エドワードが俺の腕を引いて「ウィリアム、そろそろ行こう」と声をかけてくれるから平気だ。

俺がその場にいたことで、教会の中庭でお互いのことを話しながら散歩するというイベントを回避したからか、エドワードはセシリアに好意どころか必要以上の関心すら寄せていないように思う。

エドワードがセシリアとの恋に溺れていないのは俺にとっては正直めちゃくちゃ嬉しいし良いことなんだけど、残る問題はイザベラなんだよね。

『セカ愛』のイザベラは、ヒロインが誰のルートを選んだとしても悪役令嬢として断罪されることになっていた。
現実世界の彼女は、もちろん他人が気に入らないからという理由で虐めたりしてないものの、セシリアに濡れ衣を着せられて悪役令嬢に仕立てあげられそうになっているのが現状だ。

「きゃあっ!」

ほら、今も。

教室から出たところでセシリアの甲高い悲鳴が聞こえてきて、エドワードと俺は足を止めた。
反射的に声が聞こえた方を見ると、セシリアとイザベラが廊下に尻もちをついている。

「ひどいわっ、イザベラ様!私のことがいくらお嫌いだからって、足をひっかけて転ばそうとしてくるなんて……!」

セシリアはさりげなく体勢を変えてぺたん座りをすると、大きな目に涙を浮かべながらイザベラを責め立てた。
イザベラはあまりに突然のことにびっくりしてるみたいで、尻もちをついたまま呆然としている。

俺はエドワードに目配せをしてから彼女のもとに駆け寄った。セシリアには関わりたくないけど、イザベラを守るのが最優先だ。

「大丈夫か、イザベラ」
「あ……ありがとうございます、お兄様」

手を差し出して立たせてやると、我に返ったイザベラは繋いだ手をぎゅっと強く握ってからすぐに離し、静かに目を伏せる。

「どうした、何があった?」

エドワードが俺の隣に立ち、床に座り込んだままのセシリアとすでに立ち上がっているイザベラを交互に見た。

「エドワード様っ、それにウィリアム様もっ……聞いてください!イザベラ様が、私を転ばそうと足をひっかけてきたんですっ」

うるうるの大きな瞳は「私のことも手を取って立たせて♡」と言いたげだったが、エドワードはそれを無視して周囲に視線を向けた。

「セシリア嬢はこのように言っているが、誰かそれを目にした者はいるか?」

アイスブルーの瞳は、ひんやりと冷たく鋭い光をたたえている。
セシリアを擁護しようと口を開きかけていた取り巻きの生徒たちも嘘を言えばただでは済まないと感じたようで、大人しく口をつぐんだ。

「どうやらいないようだな」

エドワードは淡々とした口調でそう言うと、今度はイザベラに労るような視線を向けた。

「イザベラ嬢。お怪我はないか?」
「はい、エドワード殿下。兄がすぐに助けてくれましたし、どこも痛みませんわ。お気遣いに感謝致します」
「それはよかった」

このまま何事もなければエドワードはイザベラを婚約者に迎える可能性が高いことを思い出して、俺は心がズキズキと痛むのを感じた。

エドワードがイザベラに恋愛感情を抱いてるわけじゃないのは、わかってるんだけどね。

王族や俺たち高位貴族の結婚なんて、だいたいお互いの気持ちより家格とか政治的情勢で決まる政略結婚だからなぁ。要するに、半強制的な義務みたいなものなんだよね。

「エドワード様っ!イザベラ様の心配はなさるのに、私のことはどうでも良いのですか!?ひどいわっ!まさか私の言うことを信じてくださらないのですか……?」

ふたりが俺を間に挟む形で話していると、未だに床に座り込んだままのセシリアが今にも泣き出しそうな顔をして訴えかける。
逆に、どうして証拠もないのに信じてもらえると思ってるんだろうな。

男が女の涙に弱いというのは正しいが、王太子のエドワードも公爵令息の俺も、多くの人間の上に立つ者としてふさわしい言動が求められる。
だから、女の子の涙のひとつやふたつで判断力が鈍るようなことはないのだ。

エドワードは切れ長の瞳をきゅっと細めると、恐ろしいほど完璧な微笑を浮かべてセシリアを見下ろした。

「目撃者がいない以上、イザベラ嬢が君を転ばせようとしたという君の証言は、勘違いによるものかもしれないだろう。私は王太子という立場上、不正確な情報で軽率な判断をすることはできないんだよ」

柔らかく正論を言って聞かせることでセシリアとその取り巻きを黙らせつつ、露骨にイザベラの肩を持つようなことはしない。さすがエドワード、見事なかわし方だった。

「君の意見も聞いておこうか、イザベラ嬢」
「私はセシリアさんを転ばせてやろうだなんて考えたこともありませんし、歩いていたら偶然ぶつかってお互いに転んでしまっただけだと認識しております」
「妹もこう言っているし……今回の件はもしかしたらエドワードの言う通り、君の勘違いかもしれないね」

俺がにこりと優しく微笑みながら首を傾げれば、セシリアは唇をグッと噛み締めながら悔しそうな目でイザベラを睨みつけた。
しかし、エドワードと俺がいる手前、口汚く罵ることもできない。

セシリアは目を閉じて深く息を吐くと、次の瞬間には、眉を下げてひどく申し訳なさそうな表情を作ってみせた。ピンク色の目からは、ぽろぽろと涙が零れている。

「イザベラ様、ごめんなさいっ!エドワード様やウィリアム様の仰る通り、私、もしかしたら勘違いをしてしまっていたのかもしれません。許していただけますか?」
「……許しましょう」

ここで「許しません」と言おうものなら完全にイザベラが悪者にされるから許さざるを得ないんだろうけど、この謝罪は言葉選びがずるいよね。

セシリアは「勘違いをしてしまったのかもしれない」という言い方をした。それはつまり「私はイザベラ様を陥れるためにわざと転ばされたって証言したわけじゃないんです」ということだ。

「解決したようだし、私は失礼するよ」
「じゃあ、俺もこれで……また何かされたら遠慮なく俺を頼るんだよ、イザベラ」

後半はイザベラにしか聞こえない大きさの声で囁き、彼女たちに背を向ける。

エドワードは別れの挨拶もそこそこにさっさと踵を返していたので、俺は少し大股歩きをして追いつき、彼と肩を並べた。

「仲裁に入ってくれて助かったよ。ありがとう、エドワード」
「これくらい構わないよ」

エドワードは多くを語らず、ただ俺を見上げて柔らかく微笑んだ。
その顔を見て、俺はやっぱりこの人が好きだなと思う。
そう遠くない未来に、王太子であるエドワードは高貴な身分の令嬢と婚約して結婚することになるだろう。
だから、せめてその日が来るまでは、今のように彼の隣を独り占めしていたかった。
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