悪役令息に転生したから断罪ルート回避しようとした結果、王太子殿下を溺愛してる

琥月ルル

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EX.エンドロール

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たったひとりの、大切な弟が死んだ。

大学に向かう途中、交差点に突っ込んできた信号無視の車に轢かれたらしい。

ちょっと生意気なところもあったけど、優しくて思いやりのある子だった。
亡くなってから随分経った今でも、私はふとした瞬間にあの子のことを思い出す。

今日は雨降りの休日だったから、久しぶりに物置部屋の掃除をした。そうしたら私が学生だった頃にドハマりしていた『セカ愛』って乙女ゲームが出てきて、芋づる式に弟のことを思い出した。
あの子は別にオタクじゃなかったけど、私が興奮しながらゲームのシナリオとかキャラクターについて話すのをのんびり相槌を打ちながら聞いててくれたっけ。懐かしいな。
私はパッケージにもいちばん大きく描かれているメイン攻略対象の王太子・エドワードが推しで、弟にも彼のルートの攻略法や感想などを散々聞かせた覚えがある。

思いがけず、亡くなった弟との思い出にあふれたものが出てきたので、掃除をした甲斐があった。
自分でもなんでそうしようと思ったのか上手く説明できないけど、なんとなく今夜は『セカ愛』のソフトを枕元に置いて眠ろうと思った。

明日は仕事だから早めに寝なきゃいけない。
私はお風呂に入って寝支度を整えると、ベッドに入って目を閉じる。
眠りに落ちる瞬間、あの子が「姉さん」と優しく私を呼んだ気がした。


❖❖❖


夢を、見ている。

私は幽霊みたいに宙を浮いていて、目の前の光景を眺めることしかできない。

そこは大きな城の中庭みたいな場所だった。
透き通るような青色の瞳をした小さな男の子が、ふわふわの黒髪を揺らしながら蝶々を追いかけてよちよち歩いている。
それを少し離れたところから、男の子と同じ色の瞳とさらさらの艶やかな金髪を持った美しい男性が、優しい眼差しで見守っていた。

ガーデンチェアにゆったりと腰掛けている彼は、よく見ると『セカ愛』の攻略対象である王太子・エドワードだった。
ゲームで描かれてたよりも未来の時間軸なのか、その甘やかな顔立ちは、少し大人びて落ち着いた印象を与える。

蝶々を追いかけている男の子は、きっとエドワードの息子なのだろう。ふたりを見比べてみると、瞳の色だけでなく、目の形や鼻筋のあたりがよく似ている。
ヒロインとの子供かなぁ、と考えたところで、彼女の髪と瞳はピンク色という設定だったことに気付く。

じゃあ、この子のもう一人の親は誰?

私が不思議に思っていると、向こうの方から、垂れ目がちな瞳が優しそうな印象を与える男性がふわふわの黒髪を揺らしながら歩いてきた。
彼はすらりと背が高く、上品ながらも妖艶な雰囲気を纏っている。エドワードとはタイプの異なる美青年だ。

私は彼を認識した瞬間、ハッと息を呑んだ。どうしてわかったのか自分でもわからないけど、彼の魂は亡くなった私の弟のそれと同じ形をしていることがわかったから。

この美しい青年は、私の大切な弟の生まれ変わりだ。

理屈ではなく本能みたいなもので理解した。その瞬間、上手く言葉にできない感情が胸いっぱいに込み上げてきて、私は無性に泣きたくなった。

そして、その端正な顔立ちを眺めているうちに、私は彼がエドワードの学友として『セカ愛』にも登場していたウィリアム・エバンス公爵令息だということにも気付いた。
こちらもゲームで描かれていたより、幾分か大人びた顔つきになっている。

「待たせてごめんね、エディ……」
「いいよ、気にしないで。仕事が忙しかったんだろう?お疲れさま、リアム」

ウィリアムは優雅に腰掛けているエドワードに近付いていき、長身を屈めて彼の唇にそっと触れるだけのキスをした。エドワードも顔を上向かせ、自然に優しい口付けを受け入れている。

「リチャードは?」
「あそこで蝶々を追いかけてるよ。捕まえたら、私に見せにきてくれるそうだ」
「ふふ、可愛いね。あの子はあなたが大好きだから、きっと褒められたいんだ。あんよもすっかり上手になって……子供の成長は早いなぁ」
「本当に。リチャードが健やかに育ってくれて、嬉しいよ」

彼らは仲睦まじい様子で語らい、寄り添うようにしながら、蝶々を追いかけて遊ぶ小さな男の子を見守っている。
リチャードと呼ばれた男の子の容姿や会話の内容から、あの子はウィリアムとエドワードの息子なのだろう。
どうしてそうなったのかとか詳しいことは私には全然わからないけど、ウィリアムとエドワードが結婚して伴侶になっていて、彼らの間には息子が一人いるってことはわかった。

幸せな家族だなぁ、と思った。ちょっと目にしただけでもわかるくらい、彼らは互いに愛し合っていて、心から満たされた表情をしている。

『どうか末永く、お幸せに』

祈るようにそっと心の中で呟くと、春の柔らかな風が花を揺らすように視界が揺らぎ、プツンと意識が途切れた。


❖❖❖


ハッ、と目が覚める。

まるで奇跡みたいな、そんな夢を見ていた。

カーテンの隙間から窓の外を見れば、すでに夜は明けている。
私の目からは、ぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちて頬を伝っていた。
枕元には物置部屋から発掘した『セカ愛』のゲームソフトが置いてあって、ここは紛れもなく私が生きてきた世界で。
何もかもが、いつも通りの現実だった。

それでも、さっきまで私が見ていた光景はただの夢なんかじゃないと信じている。
証拠もないし理屈の通った説明もできないけど、あれはどこか遠くのこことは全く違う世界の現実なんだって、私は確信していた。

私の、大切な弟。生意気なところもあったけど、とても優しくて思いやりがあった子。
あの子は死んでしまったけれど、異世界に生まれ変わって、愛しい人と出会い、あたたかな家庭を築いて幸せな毎日を送っている。

元気にしてるみたいで、良かった。
あなたが亡くなったばかりの頃は、どうしてこんなに早く死んじゃったの?って毎日泣いてたし、もう何年も経った今でも、あなたのこと思い出してたまに泣いちゃう日があった。
だからさ。お姉ちゃん、たとえ夢の中でも、あなたが愛する人たちと幸せに生きてるって知ることができて、本当に嬉しかったんだ。

あなたが幸せなら、それでいいの。それだけで良かったの。

私は晴れやかな気持ちで起き上がると、いつものようにテキパキと朝の準備を始めた。
朝食をとって、顔と歯を磨き、スーツに着替えて髪を綺麗に整える。
さぁ、今日も仕事だ。気合いを入れて頑張ろう。

「いってきます」

私はそっと唇を綻ばせながら、朝日が降りそそぐアスファルトをお気に入りのヒールでしっかりと踏みしめて歩き出した。


━━━━━━━━━━━━━━━


これにて「悪役令息に転生したから断罪ルート回避しようとした結果、王太子殿下を溺愛してる」は完結です。

読者の皆さまにおかれましては、最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございます!

無事に完結を迎えることができて良かったと、作者としてもホッとしております。書いていて本当に楽しかったです!

ウィリアムとエドワードのまっすぐでひたむきな愛の物語を、皆さまにも楽しんでいただけましたでしょうか。そうだと嬉しいです。

またいつかお目にかかることができますように。
最後になりますが、寒くなって参りましたので、皆さまどうぞご自愛くださいませ。

琥月ルル
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感想 37

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みんなの感想(37件)

佐倉ななみ
2024.11.29 佐倉ななみ

あっという間に読んでしまいました、、!!
2人が幸せそうに結ばれていくのが丁寧に描かれていてこちらも幸せな気持ちになりました。
これからも応援してます!

解除
東雲紫苑
2023.12.06 東雲紫苑

朝から頑張って一話から読んで今、丁度読み終わりました。
とても面白くて、全体的に雰囲気がふわふわしていたので読んでいて和みました。
最終話のエンドロールなどは少し涙腺が緩んでしまって授業中だというのに目頭を押さえる羽目に、、、(笑)

初めて読むタイプの小説でしたが、とても綺麗で甘くて、意図せず微笑んでしまうような仲睦まじい様子が描かれていて、凄いなと思いました。素晴らしい小説をありがとうございました。

2023.12.09 琥月ルル

ウィリアムとエドワードの物語を最終話まで見届けていただき、素敵なご感想もありがとうございます。
まさに優しくて甘くて綺麗な雰囲気になったらいいなと思いながら書いた作品なので、そのように言っていただけて、とても嬉しくなりました。
ふたりの物語を楽しんでいただけたなら幸いです。こちらこそ、この物語に出会ってくださりありがとうございました!

解除
aaaa
2023.10.12 aaaa

神作でした‼️悪役令息転生モノでこんなに純愛で幸せで綺麗な物語を読んだことがありません。もし次作の予定があるなら嬉しいです✨
ウィリアム、エドワード、お幸せに🙏

2023.10.15 琥月ルル

ご感想ありがとうございます(*ˊ˘ˋ*)♡ウィリアムとエドワードの物語を楽しんでいただけてすごく嬉しいです!いつか次回作を連載する際には、どうぞよろしくお願いします✨

解除

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