悪役令息に転生したから断罪ルート回避しようとした結果、王太子殿下を溺愛してる

琥月ルル

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75.この世界で、愛しいあなたと

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無事に生まれたと聞いた瞬間、俺は待機用に準備してもらったから隣室から、エドワードがお産をしていた部屋にすっ飛んでいった。
本当は出産に立ち会いたかったんだけど、王室の伝統云々で許可が下りなかったんだよね。こればかりは今の俺たちにはどうしようもない。
一緒にいるときに破水したから「頑張ってね。愛してるよ」と手を握ってから見送ることはできたけど、出産は命懸けなので、母子ともに健康って聞くまでは気が気じゃなかった。

部屋に入ると、生まれてきた赤ちゃんが、お産を手伝っていた侍女の手によってふわふわの布にくるまれているところだった。
ぐったりと寝台に横たわっているエドワードは、元気な産声を上げている男の子を腕に抱き、ほっとしたように深く息を吐いて微笑む。

「かわいい……初めまして、愛しい子」

彼は赤ん坊の額にそっとキスをすると、俺の方に視線を向けて花が綻ぶように笑った。

「ウィリアム、抱っこしてあげて。私たちの子だよ」
「うん」

促されるまま、彼の腕から赤ちゃんを受け取り、そうっと優しく抱き上げた。

「……かわいいね。こんなに小さいんだ」

初めて抱く我が子のぬくもりに、言葉に尽くせないほどの愛しさが込み上げてくる。
俺は先ほどのエドワードと同じように、生まれてきてくれてありがとう、という気持ちを込めて小さな額にキスをした。
寝台から少し離れたところで控えていた侍女に赤ちゃんを預けてから、くったりと横たわっているエドワードの唇にも口付ける。

「ありがとう、エドワード。よく頑張ったね……この世の誰よりも何よりも、俺はあなたを愛しているよ」
「うん。あの子が無事に生まれてきてくれて、本当に良かった……私も君を愛しているよ、ウィリアム」

じっと見つめ合い、そっと指先を絡めて穏やかな微笑みを交わす。
それからエドワードは、何度か瞬きをして瞳を閉じた。初産ということもあり、長時間にわたる出産で体力が限界なのだろう。
これ以上いても邪魔になるとわかっているので、あとのことは医師と侍女たちに任せて、俺はひと足先に部屋を出た。

どうしても今日のうちにやっておかなければならない仕事を片付けてから、王太子付きの侍女に案内され、エドワードが休んでいる部屋を訪ねた。
彼は寝台に横たわって目を閉じていたが、眠っていたわけではないらしく、すぐに俺が入ってきたことに気付いて目を開ける。
ちなみに俺たちの赤ちゃんは寝台の横に置かれた小さなベビーベッドに寝かされてて、すよすよと寝息を立てていた。

「ごめんね、エディ。ちょっと仕事が長引いて、来るのが遅れちゃった」
「気にしないで。来てくれて嬉しいよ」
「うん。体調はどう?」
「大丈夫。出産時の出血が多かったから貧血気味みたいだけど、めまいがしたり動悸がしたりすることもないよ」
「それは良かった……仕事中もあなたが心配で、早く顔を見たくて仕方なかったんだ」

星を散りばめたような美しい髪を撫でながら、柔らかな微笑みをたたえてエドワードを見つめる。彼は白い頬をほんのり赤く染めると、少し照れたように微笑み返してくれた。

「……赤ちゃんの名前、どうしようか」

エドワードがゆっくりと上半身を起こしたので、背中に手を添えて支える。
俺たちはベビーベッドで眠っている我が子を眺めながら、この子の名前を決めることにした。

「俺は、この前一緒に考えた名前がいいかなって思うよ」
「リチャード?」
「そう。エディはどう思う?」
「私もリチャードがいいと思った。なぜかわからないけど、この子の顔を見たら、それ以上にふさわしい名前はないように感じたんだ」

リチャード。良い名前だ。
この子の未来が希望に満ちあふれた幸せなものになるよう祈りながら、その名前を心の中で何度も呟く。

「ねぇ、エディ。俺は生涯をかけて、あなたとリチャードを愛し、守り抜くと誓うよ」
「ありがとう。私も今ここで、君とリチャードを生涯をかけて愛し、守り抜くと誓おう」

俺たちは互いに誓いを立て、そっと唇に触れるだけの口付けを交わした。
エドワードの体を優しく抱き寄せると、こてんと肩に頭が乗ってきた。その重みが愛しくて、さらさらの髪に軽く唇を押し当ててキスをする。 

ウィリアム・エバンスという男に転生し、第二の人生を歩み始めてから約二十年。
俺は、前世で信号無視の車に轢かれて死んだときと同じ年齢になった。

きっとあのままどこにでもいる平凡な男子大学生として生きていく未来も、それなりに幸せなものだったと思う。
怒ると怖いけど基本的には優しい両親、おしゃべり好きで明るくて仲の良かった姉、気心の知れた友人たちに囲まれて、くだらないことで笑ったり泣いたりして。

でも、俺は死んだのだ。あの世界の俺は死んで、何の因果か前世の記憶を持ったまま、この世界に生まれ落ちた。
寂しくなかったし不安に感じることもなかった、なんて口が裂けても言えない。寂しかったし不安だった。それでも俺は前を向いて、第二の人生を必死に生きようと決めたのだ。
まさか異世界転生した先の世界でこんなに幸せな未来が待ってるなんて、自分が転生者だと気付いたばかりの頃は、本当に思いもしなかった。

この世の誰よりも何よりも愛しているエドワードと、大好きな可愛いリチャード。
愛しい人たちとこの世界で一緒に生きていけることが、本当に嬉しくてたまらない。
俺は泣きたくなるほどの幸福に柔らかく唇を綻ばせながら、これから先の明るい未来に思いを馳せた。
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