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第1幕 異世界転生失敗??? 悪霊 縄破螺編

死んだ後に望んだ「異世界転生」だったけど、うまく逝きませんでした。

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 〔・・・・・・ポコポコッ・・・ゴボゴボッ・・・・・・〕



 少年が暗い水の中、流れに身を任せて流れていた。
 暗い闇へと落ちる前触れ。
 薄らぐ意識の中、

 少年は思う。

 命の行きつく先は何処だろう?
 身体は魂の入れ物だと言うが、その入れ物からこぼれた魂は何処に流れるのか?
 最近では、現実世界とは掛け離れた異世界に導かれる事が多いみたいだが・・・。
 魂の考え方はそれぞれで、神様もそれぞれならば、行きつく先も違うのか?



 (俺はこれからどこに流れるのだろうか?)



 願わくば、異世界に・・・。



「もしも~~し・・・お目覚めですか?」
 俺の耳に優しい柔らかい少女の声が朝の鳥のさえずりのように聞こえてくる。

「もしも~~~し、いい加減起きて下さ~~~い・・・。」
 優しい声の少女が俺に声を掛けながら俺の肩に優しく触れて、
 小刻み揺らしてきた。

「・・・・・・。」
 俺は静かに目を開けて、少女の声に導かれるままにそちらに視線を送る。

「・・・お目覚めですか?」
 俺が目を開けて流した視線の先には、銀色の綺麗な輝きを放つロングヘアをたなびかせ、こちらをしゃがんだ状態で頬杖をつきながら見下ろしている少女がいた。

 目を開けて眩しかったのが収まってくると、次に飛び込んできたのは少女の奇抜な服装だった。少女の服装は見慣れないもので、ハロウィンの衣装かと思うような出で立ちだった。両手には黒い革手袋をはめ、上着は大胆な黒い革のベストの下に白いタンクトップ。

 下は、ベストと揃えられた黒い革の・・・ショートパンツ!

 だが、補正が掛かっているのか、見たいところは何故か暗く見えない・・・。
 そんなことはさておき、余りにも奇抜な服装に度肝を抜かれて目を丸くさせる。

「・・・・・・やっとお目覚めになられましたね。ご自分の事は覚えておられますか?」
 奇抜な服装の美少女は淡々と、そして丁寧な口調でこちらに対して確認をしてくる。

 その並べられた言葉はマニュアルに書かれている言葉を一言一句間違えないように暗記して、何度も繰り返しているからこそ、正確に並べられた言葉のように感じた。

「・・・・・・意識混濁により、ご自分の事が分からないようですか?」
 作業のように美少女はマニュアルの次のページをめくって行く。

「・・・あぁっ・・・えぇ~っと・・・。」
 美少女のテキパキとした対応に置いてけぼりをくらう俺は、何も言えずにしどろもどろになる。

「あぁっ、いいですよ。ご無理なさらないように、迷われても困りますから・・・。」
 美少女はこちらを心配するように声をかけてくれたが、最後に小さな声で不思議な言葉を付け足す。

「オホンッ・・・貴方は『善湖(よしうみ) 善朗(よしろう)』。今年、17歳になる高校二年生です・・・ここまでは思い出せますか?」
 美少女は懐から大学ノートに似た黒革のメモ帳を取り出すと、そこに書かれている文章を読み上げて、俺に確認してきた。


 よしうみ よしろう
 高校二年生


(・・・あぁ、確かに俺は善朗で高校二年生だ・・・。)
 善朗は美少女に言われると頭の中にモヤがかかっていたものが少しずつ晴れていくような感覚が頭の中に広がっていくのを感じた。




「・・・・・・残念ですが、今日、貴方は死にました・・・。」
「エッ?!」




 美少女の唇が善朗の目の中に大きく飛び込んでくる。
 その唇が発する言葉を見逃さないように耳が音を拾い、目が口の動きで確認する。
 しかし、美少女の言葉が大きな大きなハンマーとなって善朗の小さな頭を打ち付ける。


(・・・・・・俺が・・・死んだ・・・。)
 善朗は予想していなかった言葉に動揺を隠せない。


 今まで、自分の名前も思い出せないでいた自分の死をいきなり奇抜な服装の美少女に宣告されたのだから無理もない。だが、あまりにも唐突な言葉に善朗の全身の毛と言う毛が逆立ち、ゾワゾワと大きな虫が全身に這い回るような異様な感覚に支配された。

「・・・安心して下さい・・・皆さん、最初はそうなられるんですよぉ~・・・落ち着いて、自分の最後の記憶を思い出してくださいねぇ~。」
 美少女はメモ帳をしまうと両手を前に出して、ゆっくりと動かして、善朗に落ち着くように指示をした。



(ついに来たのかッ!)
 善朗はおぼろげな自分の記憶を置き去りにして、心の中でガッツポーズを作る。



 そう、善朗にとってはこの状況は願ってもない待望の瞬間なのだ。

 今日まで善朗は普通の高校生のように漫画を読み、アニメを見て、動画を漁り、気に入ったものは小説も読みふけり、今まさにこの瞬間がいつか自分の元に来ないかと望んでいたのだ。

「エッ?!・・・どうかされました?」
 突然目の前で元気良く立ち上がる善朗を見て、美少女がその行動に驚く。


(ついにきた・・・ついにきたんだ・・・差し詰め、この女の子は女神様!きっと俺をこれから異世界に導いて、何かをくれるに違いない。)
 最早、善朗の目はランランと輝き、美少女を見つめている。


「えっ、えっ?」
 余りに期待に満ちた少年の目に逆に引くしかない美少女。

「・・・・・・俺・・・必ず、やり遂げて見せます!」
 これ以上ない力を込めて、善朗は右拳を握りこみ、ガッツポーズを作って美少女にこれからの如何なる試練にも打ち勝つ事を誓う。

「・・・・・・あぁっ・・・あぁ~っ・・・はぁ~~っ・・・。」
 善朗の圧にいよいよ尻餅をついて、それ以上に圧倒される美少女が戸惑いながら返事をする。

「・・・俺はどんな敵にも負けませんっ!どんな魔王だろうとっ・・・。」
「あの、勘違いされてるかもしれませんけど・・・異世界になんて行けませんよ?」
 希望に満ちた少年のそのたぎった燃え上がる炎にバケツ一杯の氷水をかけるように食い気味に美少女は真実を告げる。




「・・・・・・えっ・・・・・・。」
 ついさっきまで夢を語り、希望に胸を踊らせた少年は、今は氷のように固まる。




「本当に困るんですよねぇ・・・最近、そういう勘違いされる方が多くて・・・。」
 〔・・・パンパンッ。〕
 少女は立ち上がって、尻餅をついたお尻のほこりを払いながらテキパキと服装を整える。

「・・・・・・。」
 善朗は現実を受け止められずに固まったままだ。

「・・・輪廻転生ってご存知ですか?・・・いいですか?・・・人は死んだら、霊界に行って、そこから天国か地獄に選別されて、転生を繰り返すんです。」
 美少女はやれやれと目をつむりながら右手の人差し指をつき立てて揺らしながら善朗に淡々と説明していく。

「善湖善朗さんっ・・・貴方は残念ながら若くして死んでしまわれました・・・私はそんな貴方が迷わないように、輪廻転生が出来るようにサポートする魂の案内人なんですよぉ~。」
 美少女はそこまでいうと両手をそれぞれ腰の両脇につけて胸を張った。

「・・・・・・。」
 善朗は返事が出来ない・・・ただのしかばねのように。


「・・・申し遅れました・・・私は魂の案内人『迷手 乃華(メイショ ノバナ)』と申します。貴方が迷わぬように極楽に導いてあげまっ・・・。」



「善朗っ!!」〔ドカンッ!〕



 乃華と名乗った美少女を勢い良く吹き飛ばして、突然、善朗に飛びついてきた人物が現れた。


「ちょっ、ちょっとあなた、なにするんですか!」
 吹っ飛ばされてまたまた尻餅をついた乃華はぶつかってきた人物に怒鳴る。

「・・・あぁっ・・・善朗・・・ごめんなさいね・・・本当にごめんなさい・・・。」
 その人物は善朗を力強く。しかし、子供が痛がらないように優しく包み込むように抱きしめて、善朗に滝のように涙を流して、謝る。

「・・・・・・。」
 善朗は違う意味で何も言えず、その人物の成すがままになる。

「・・・善朗ぅ~・・・あんたを護ってやれなくて、ごめんねぇ~~・・・。」
 善朗の視界にその人物の顔がやっと入ってくる。

 40歳?ぐらいの女性で昔ながらの飾らない服装。オシャレをするわけでもなく、ただ人前で恥ずかしくないように整えられた外見。髪は後ろでまとめられていて、ヘアバンドで止められている。ザ・昭和のお母さんと思われる全身の出で立ち。上は淡い色のペイントの何も無い飾り気の無いトレーナー。下は淡い桃色の丁度良い長さのゆったりとしたスカート。白い靴下にサンダルがなんとも和む。

「・・・・・・。」
 善朗は突然自分を抱きしめて、ひたすら自分に謝る女性に驚くも、不思議と拒絶できなかった。

 むしろ、なぜだが温かみを感じ、昔からいつも傍に居てくれたような。
 そして、懐かしい匂いが善朗を異様な状況ながらも穏やか心持ちに導いていた。

「ちょっとっ!なにしようとしてるんですか?!困るんですよっ!」
 蚊帳の外に放り出されていた乃華が強引に二人の中に入ってこようと試みる。



「・・・善朗っ、来なさい!」
「あぁっ?!」
 年配の女性は乃華を見ると、透かさず善朗の手を引いて走り出した。



「アッ、ちょっとっ!!!」
 乃華は二人の突然の行動に呆気にとられて、スタートダッシュに失敗。
 声を張り上げるが虚しく響き、瞬く間に相当な距離を離される。

 不思議な事に40歳ぐらいのこの女性は年齢を感じさせない力とスタミナで、グイグイと善朗をどこかに引っ張っていく。

 善朗は確かに高校では帰宅部で家に帰っては漫画や動画、ゲームに明け暮れてはいたが、運動が不得意と言うわけではなく、人並みにはこなせていた。しかし、その善朗を持ってしても、この女性には抗えないだけの体力と力があるように思えた。

 女性に引っ張られて、謎の美少女乃華から離れた事からか。
 不思議と安らぎを与えてくれる女性が傍にいるからなのか。
 善朗は周囲の状況に目を向ける余裕が出てきていた。
 年配の女性に引かれながらも街並みや人とすれ違う善朗。



 貴方は死んだ。



 そう言われたのにどこかしっくりこない。

 善朗が女性に導かれる道すがら、その光景は見慣れた風景と変わらなかった。確かに自分の住んでいた町とは違う見知らない街の風景だが、異世界と言う感じは微塵もしない。それどころか、人の服装や建物が織り成す雰囲気はどこか都会チックで、とても死んだ事を実感させるようなものではなかった。

 すれ違う人を見てみると、
 男女で笑いながらデートをしていたり、
 スマホを見ながら歩く学生。
 時計で時間を確認するリーマン。
 酔っ払って千鳥足のおじさん。
 色々な人がそれぞれの時間を過ごすありふれた現代がそこにはあった。




「・・・ここまでくれば、大丈夫かしら・・・。」
 年配の女性はある程度走ってくると息も一切切らさず、周囲を見ながらそう呟いた。

「・・・・・・。」
 善朗も引っ張られながらも走ってきていたが、一切息を切らさない自分に驚いていた。

「・・・善朗・・・今は気が動転してるかもしれないけど、落ち着きなさい・・・婆ちゃんがきっと助けてあげるからね。」
「・・・?・・・」
 不思議な事を言う女性に善朗は目を丸くする。

 婆ちゃんと自分の事をいう年配の女性を善朗は今まで見たことがない。しかも、婆ちゃんといっているが、どう見ても老人には見えない。美少女に声をかけられてからジェットコースターのように、怒涛のスピードで様々なものが善朗の頭の中を駆け巡っていく。

「・・・・・・あの・・・どちらさまですか?」
 ついに善朗の口から我慢していた言葉が吐き出された。

「・・・・・・。」
 善朗の突然の言葉に目を点にして、年配の女性が固まる。



「のぶっ!」
 二人が固まっていると誰かの名前を呼ぶ男性の野太い声が響いた。



「・・・あぁっ、あんたぁっ・・・。」
 年配の女性は野太い声の方に視線を送り、声の主に返事をしたようだった。

「・・・まったく・・・お前は何考えとるんじゃ・・・。」
 声の主は善朗たちを見つけると、やれやれとゆっくりと善朗達の元へと歩いてくる。

 見た目は腹巻に白いシャツ、下はダボッとしたスウェットのような黒いズボン、首にはタオルを巻いている少し体つきがいい40歳ぐらいの男性だった。明らかになんらかの職人のような風貌で立っているだけで少し圧を感じるようだった。

「・・・・・・。」
 新たな登場人物に善朗の思考は完全に考えるのをやめてしまった。

「・・・案内人はどうした?」
 年配の男性は女性に先ほどの乃華のことを聞いているようだ。

「・・・・・・。」
 バツが悪そうに女性は男性から目線を外す。

「・・・あぁ~~~~っ・・・話をややこしくしよって・・・おまえのせいじゃないと、いうたじゃろうにぃ~~・・・。」
 男性は肩を大きく落として、何かを残念がっている。

「・・・だってぇ~~~・・・私がついてたんやからぁ~・・・。」
 のぶといわれた女性は涙を流しながら塞ぎ込む。

「・・・善朗ぉ~・・・大変じゃったやろう?安心してええからのぉ~~、じいちゃんが護ってやるさかい・・・。」
 この男性も不思議な事を言い出した。

 明らかに女性と同じように老人には見えない。しかも、今まで見たこともない人に親切にされている。乃華は異世界には行けないといっていたが、善朗にとって、最早この状況は異世界といっても過言ではなかった。


「・・・あの~~・・・失礼かもしれないんですけど・・・俺、会ったことありますか?・・・どうも、記憶があいまいで・・・。」
 善朗は二人を傷つけないように言葉を選びながら、今の状況の打開策を探る。


「・・・あぁっ・・・のぶぅ~・・・お前、慌てて善朗になんもいわんでつれてきたんやなぁ~~・・・そりゃ、善朗も困るわぁ~~・・・」
 そう言うと男性は腕組みをして、苦笑いをした。

「・・・・・・。」
 善朗は不思議だった。

 女性に突然抱きしめられても、不思議と嫌悪感が湧かず、逆に安心感でそのままで居たいとさえ思い、男性のクシャッとなった顔を見て、なぜだが、胸の中が暖かくざわめき、自然と一筋の涙が流れた。

「・・・・・・。」
 善朗の涙を見て、二人が固まる。

「・・・善朗、どっか痛いんか?」
 男性が本当にわが子を心配するように善朗に優しく触れて尋ねた。

「・・・善朗、なんでも言ってええんよ?」
 心配そうに女性も善朗を上目遣いで覗き込む。

「・・・すっ・・・すいません・・・なんだか、お二人の事が懐かしいような・・・気がして・・・。」
 善朗は自分の思った事を素直に言葉にして伝える。

「・・・・・・ハッハッハッハッハッ・・・懐かしいか・・・そうかそうか・・・。」
 男性が善朗の言葉を聞いて、笑いながら天を仰ぐ。

「・・・善朗、ごめんね・・・さっきはあんたが連れて行かれると思ったから、ばあちゃん居ても立っても、おらんれんようになったんよ・・・。」
 涙を拭いながら女性が先程の突発的な行動の理由を説明する。

「・・・善朗・・・信じられんかもしれんが、ワシらはお前のヒイじいちゃんとヒイばあちゃんなんじゃ・・・ワシの家内のノブエはお前さんの守護霊でな・・・。」
「っ?!」
 男性の口から真実に近付く言葉が発せられる。がしかし、目の前の二人はどう見ても、年齢的な見た目が合わないことに善朗の頭がショート寸前になる。

「・・・・・・ええんよ、ええんよ・・・ゆっくりでええ・・・理解しろって言われてもできるようなもんやない・・・ただ、お前の敵じゃない事はたしかじゃっ。」
 そう言うと男性はウインクをしながら、善朗の肩をバンと掴んだ。

 その手はとても力強く、大きく。
 そして、何よりも暖かかった。



「善朗さんっ!見つけましたよっ!!」
 三人が暖かな雰囲気に包まれる中、その聞き覚えのある声が空間を切り裂くように響き渡った。



「あかん、案内人やないかっ!」
 男性は乃華の姿が視界に入り、驚く。

 その事が男性の行動を遅らせる結果となった。

 乃華は男性をかいくぐり、女性がとっさに善朗を護ろうとする行動を見抜き、巧みなステップで善朗を射程圏内に納めて飛び掛る。


「エッ・・・ちょっとっ。」〔トンッ〕
 善朗は乃華が自分に飛び掛るのに驚いて、つい両手でその行動を邪魔するように乃華を遮った。


 〔バヒューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ〕
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


「・・・・・・。」
 それはまさに非現実的な光景だった。
 善朗が乃華の飛び掛りを防ごうと手を出して、その手が乃華に少し優しく触れた。

 まさに、その時だった。

 乃華は夜空の星にならんばかりに吹き飛ばされて、地平線の彼方へと姿を消していった。運動はそこそこ、帰宅部の一男子高校生にはとても出せない力がその時、か弱い女性に放たれたのだ。

「・・・あぁ~~~・・・すごかなぁ~~・・・。」
 その光景を見て、男性の開いた口が塞がらない。



「・・・エッ?」
 善朗は乃華の行動を遮ろうとしたポーズのまま固まって動けない。
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