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第1幕 異世界転生失敗??? 悪霊 縄破螺編

田舎の蔵から偶然出てきた物を意気揚々と持って行っても「良い仕事してますねぇ」なんて滅多に言われない

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「お前にこれをくれてやるっ!」
菊の助は一振りの刀を右手で持ち、善朗の目の前に突き出す。



「・・・えっ・・・これって・・・。」
善朗は菊の助に呼ばれて来てみれば、突然突き出された刀に呆気に取られていた。

「・・・これは我が一族の家宝・・・名工、長治桂川往久(ちょうじかつらがわ ゆくひさ)作『大前 盛永(だいぜん もりなが)』だ・・・これをお前に託す。」
「・・・ッ?!・・・」
菊の助がその刀の事を口にすると、善朗や乃華以外の部屋にいる全員の空気が変わった。

「・・・良いのか、菊の助?」
佐乃が真剣な目で菊の助を見て、酒を飲む手を止める。

「・・・あぁっ・・・。」
菊の助は善朗を真っ直ぐ見ながら佐乃に答える。

「・・・これはたまげた・・・。」
あの食いしん坊の金太も食事の手を止める。

「どうしたぃっ、受け取らねぇのかぃ?」
菊の助が呆けている善朗に声を掛ける。

「・・・えっ・・・あっ・・・あの・・・。」
善朗は刀が床に落ちないように下で手を構えるがそれ以上どうしていいか分からなかった。

「ほらよっ・・・大事に使ってくれよっ。」
菊の助は戸惑う善朗に気を使って、ゆっくりと善朗の両手に収まる様に刀を預けた。

「・・・あっ・・・ありがとう・・・ございます・・・。」
刀を受け取った善朗は、周囲の様子から自然とその刀を抱きかかえるように大事に扱う。

「・・・戦友(トモ)は渡した・・・後はお前次第だぜ、善朗っ。」
腰に両手を当てて、菊の助が胸を張る。

「・・・・・・。」
刀を抱えたまま話についていけない善朗。

「・・・秦右衛門・・・吾朗にあのお守りを渡してやんな・・・それで、幾分か時間は稼げる。」
「・・・御意っ・・・吾朗・・・。」
「・・・ハッ。」
菊の助の指示を受けると、今までにはない素早い動きで秦右衛門が動き、部屋を出て行く。その後を忙しなく吾朗が追いかける。

「・・・佐乃・・・おめぇを呼んだかいがあったってもんだな・・・。」
腕組みをして、右手であごを触り、にやける菊の助。

「・・・あたしは送別会で酒が飲めるって聞いただけだよ・・・。」
少し口角を上げながら目を閉じて、酒を静かにたしなむ佐乃。

「・・・善朗、弟を助けたいんだろ?」
真剣な目で善朗を見据える菊の助。

「・・・はいっ。」
戸惑っていた善朗だったが、そこは譲れないと、しっかりと返事をする。

「・・・善朗・・・お前は我が一族の期待の星だ・・・だが、いくら力があっても使い方をしらないとなんにもならねぇ・・・まずはしっかりと力の使い方を学べっ。」
腕組みをして胸を張り、菊の助が善朗に助言する。

「・・・そこにいる佐乃っていう可憐に見える女は、何を隠そう辰区の裏の総大将にして、喧嘩最強の92歳のババアだっ・・・。」

〔ビュンッ、バコッ〕
「アイテッ!」
菊の助は堂々と佐乃の素性を話していたが、最後の最後に佐乃からお猪口を頭目掛けて投げられる。そのお猪口は見事に菊の助の頭に当たり床に転がる。

「年齢は余計だよっ・・・お前も大概クソジジイだろうがっ。」
佐乃は徳利から直にお酒を飲みながら善朗に近付く。

「・・・・・・。」
二人のやりとりにまた言葉を失う善朗。

「・・・善朗・・・霊の喧嘩ってのは外見の力じゃない・・・その拳に想いと、己の信念と生き様を乗せた殴り合いなんだ・・・あんたには弟を守りたいって言う信念はあるかいっ?」
佐乃はそう言いながら善朗の肩に腕を回す。

「・・・守りたいですっ。」
善朗は真剣に佐乃に答える。


「・・・よっ・・・。」
「良く申された主(あるじ)よっ、この大前盛永・・・どんな獲物であろうとも、その首を切り落としてしんぜようっ!」
佐乃が善朗の真剣な思いに答えるようとした時、善朗のすぐ後ろから別の女性の声が佐乃の言葉を遮って、木霊した。


「・・・あれ?」
後ろから聞こえた声に驚く善朗だったが、今まで抱きかかえていた刀が腕の中から消えた事に一番驚く。

「・・・何を驚いておる主っ・・・弟を一緒に守るのであろうっ?」
そういうと女性の豊満な胸が善朗の肩に当たり、佐乃と一緒に包み込むように腕が善朗の首に絡みつく。

「こらっ、大前・・・あたしがまだ話してる途中だろうがっ。」
佐乃がそのスタイルのいい身体を善朗に無自覚に当てながら、大前盛永と名乗る女性に怒る。

「・・・・・・ッ?!」
善朗は佐乃の目線に従って、ゆっくりとその方向に視線を向けていく。ちょうど、胸に顔が近付いていくが、当たらないように避けつつ見てみると、

そこには長身のスラッとした女性が立っていた。
目にはメガネをかけて、褐色の肌に黒い着物で全身を統一させ、髪は栗色のパーマをかけたような巻き髪が腰の方まで伸びていた。締まる所は締まり、出るところは出て、無慈悲に無意識に思春期の少年を惑わせる存在がそこに実体化していた。

そして、その中の一少年である純真無垢な少年は、余りにも無自覚な女性二人の責め苦により発せられた余りにも大きな○欲に駆り立てられて、鼻血を出して卒倒してしまう。

「・・・おいっ、大丈夫かっ。」
「主ッ!」
二人の無自覚な極楽・・・もとい、責め苦のせいで突然倒れた善朗に二人は驚き慌てる。

「・・・・くっくっくっくっくっ・・・こりゃ、見物だぜっ。」
一人その様子に高みの見物を決め込む菊の助が扇子で顔を隠しながら静かに笑う。



「・・・・・・・・・。」
そのやり取りを見ていた乃華の心の奥底は、本人には自覚なく静かにざわめき、なぜか顔は引きつっていた。



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