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第2幕 霊界 ネオ大江戸辰区縄張り激闘編

馬じゃない、馬じゃなかった・・・そうだ、健康的に自転車に乗ろう・・・そして、僕は枕を濡らす。

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「・・・・・・。」
 善朗と虎丞の戦いを見守る全員が、固唾を飲んで二人の一挙手一投足に集中する。


 〔ダッ!〕
 もちろん、先に動いたのは善朗だった。
 善朗は大前を下段、右後方。脇構えから左手を離し、虎丞に駆け出し、一気に間合いを詰める。

「・・・・・・。」
 虎丞は一歩も動かず、善朗の攻撃に備える。

 善朗は虎丞を間合いに収めると、左足を床に叩きつけ軸足として固定、
 〔ダンッ!ズバッ、ガゴンッ!〕
 右下段から左手を合流させて、左上段に切り上げる。
 虎丞は左腕でそれを止め、右腕で上から左腕を支える。

 虎丞は善朗の一撃を受け止めきると、左腕をそのまま善朗の胸倉目掛けて、突き出した。
 〔ボッ!ガシッ、ギュルンッ、ズバーンッ〕
 善朗も虎丞の行動を察し、攻撃を交わすように左肘で虎丞の左腕をかち上げ、横回転に1回回り、今度は上段から大前を振り下ろす。

 虎丞は善朗の上段振り降ろしを察知して、左肩を突き出して、そのまま身体全体で善朗に体当たりをする。
 〔ドオンッ!〕
 善朗は大振りが仇となり、虎丞の体当たりを懐に入れしまう。が、寸での所で後方に跳ねて、衝撃を逃がす事に成功した。しかし、余りの衝撃にまたも後方の壁にまで飛ばされた。

 善朗は完全に無意識に笑っていた。
(主ッ、大振りはいかんっ・・・小さな連撃でけん制せねばっ。)
 大前が善朗に戦闘のプロとして助言をする。

「・・・あぁっ・・・分かってる・・・。」
 善朗は笑みを浮かべながら、虎丞だけをジッと見て大前にそう答えた。

 善朗は今度はゆっくりと床を歩いて、虎丞との距離を詰めていく。
(・・・主よ、主の高ぶりをこの大前に乗せよっ!主なら勝てるっ。)
 両腕を広げて、善朗は大前を右に持ち、虎丞を間合いに入れようとしていた。

「・・・・・・。」
 虎丞は完全に受身の態勢として、善朗を受け入れる。
(なんという少年だ・・・一撃一撃が余りにも重過ぎる。ガードに徹していても、そのまま持っていかれそうだ・・・。)
 ポーカーフェイスの虎丞だったが、内情としては焦りが出ていた。しかし、虎丞から攻めて、反撃を食らうのは善朗の攻撃力を考えて、余りにもリスキーで、受身にならざるを得なかった。隠せない焦りが、頬を流れる一筋の汗に凝縮されていた。

「・・・・・・。」
 佐乃は善朗の闘いを見て、下唇を黙って噛む。
(・・・善朗・・・あんたなら間違わないはずだよ・・・。)
 佐乃は勝負の勝ち負けよりも何か大事なものを優先しているようだった。

 善朗が虎丞を間合いに収めてから睨みあうかに思われた次の瞬間、
 〔ブオンッ〕
 善朗が右下段から虎丞の胴を狙って、大前を滑らせた。

 〔カキンッ〕
 虎丞はもちろん、受けに徹している分、攻撃への反応は出来る。
「ッ?!」
 虎丞は気付く。今までにはない、余りにも軽い一撃。
(化け物か・・・。)
 虎丞は戦慄する。一撃を受け止めた後に目の前に広がる連撃の波。

 善朗の目がギラつく、上段から雨あられのように大前を撃ち降ろす。
 〔カキカキカキカキカキッ、カカカカカッ!〕
 虎丞はあまりにも間のない連撃の感覚に頭上で腕を交差して、嵐が去るのを耐えざるを得なかった。

 虎丞が待っていた嵐が過ぎ去った。
「・・・ッ・・・。」
 かに見えて、虎丞が落ち着いた瞬間、
「ボッ、ズバンッ!」
 体を深く沈みこませた善朗が横一線の二度目の胴払いを放つ。

「グオオオオオオオッ!オラアアアアアアアアアッ!!」
 虎丞はまともに善朗の胴払いを喰らいながらも、身体を持っていかれないように耐える。
 〔ドオオオオオオオオンッ!〕
 虎丞は頭上で構えていた両腕をそのまま善朗に叩き込み、善朗を地面に叩きつけた。

「ガハッ?!」」
 善朗は虎丞の捨て身のカウンターをモロに食らって、一瞬意識が飛びそうになる。
(主ッ、次だっ!)
 大前がすかさず、連打を浴びせようとする虎丞を察知して、善朗に叫ぶ。

「ウオオオオオオオオオオオッ!」
 虎丞はここしかないと鬼の形相で床に倒れた善朗にたたみかけようと襲い掛かる。

 その時だった。虎丞の背中がゾクリッと冷える。
 〔ヒュンッ、ズドオオオンッ!〕
 善朗は床に叩きつけられながらも、次の行動に瞬時に移っていた。蛙が地面を蹴るように両足でしっかりと地面を蹴り、大前を胸の前で突きの構えのまま、虎丞に突進した。

「グォッ?!」
 攻撃に全振りしていた虎丞はがら空きになったミゾオチにモロに一撃を喰らう。

 〔ドオオオオンッ!〕
 虎丞の巨体が床から離れ、天井を突き破った。

「・・・・・・。」
 今度は虎丞が空中で善朗を見下ろす。
(・・・なるほど・・・佐乃と菊の助が惚れるわけだ・・・。)
 虎丞は清々しいまでに微笑む。

 虎丞はチラリと自分達の戦いを見ていた賢太の顔見た。
「・・・・・・。」
 賢太はヒーローを見る子供のように虎丞を見上げている。

(・・・賢太・・・すまなかったな・・・。)
 虎丞は賢太に微笑み、静かに地上へと下りていく。

「・・・・・・。」
 善朗は次の出方を伺うように虎丞が床につくまでも、ついてからもにらみつけている。

「・・・・・・。」
 虎丞は最早、臨戦態勢を取らずに善朗を見ていた。


 虎丞はニコリと笑って叫ぶ。
「私の負けだッ!」
「ッ?!」
 善朗含む、その場にいた全員が驚きを隠せない。


 虎丞は毒気が完全に抜けた清々しい顔で佐乃達を見る。
「勝負はついた・・・虎丞組は今日から佐乃の下につく。」
「・・・・・・。」
 虎丞の言葉に全員が凍りついた。

「どういうことだっ、オジキッ!」
「オジキッ、俺達はまだ戦えるッ!」
「オジキッ、そんなガキ、皆で畳んじゃいましょうやっ!」
 納得の行かない組員たちが一斉に怒号を上げる。


 怒号が巻き起こる本堂にそれよりも大きな声が木霊す。
「やかましいわッ!」
「・・・・・・。」
 賢太の怒声に騒いでいた面々が驚く。


「・・・オジキが決めたんや・・・しのごの俺らがゆうて、どないすんねん・・・オジキの顔にどろぉ塗るきかっ?」
 賢太は騒いでいた組員達をにらみつけて、しっかりとした言葉と口調で制止した。
「・・・・・・。」
 確かに若い賢太ではあったが、組の中での実力は折り紙付きなだけあって、その言葉に反旗をひるがえそうとする者はいなかった。しかし、賢太の両腕は握り拳をしっかりと握り込み、ワナワナと震えている。組の中で、虎丞の敗北が一番悔しかったのは他でもない賢太だった。

(・・・すまんな、賢太・・・。)
 虎丞はそんな賢太を見て、微笑み、俯いた。

「いいのかい、虎丞・・・。」
 佐乃が座ったまま、真っ直ぐと虎丞を見て、尋ねる。

「・・・ふっ・・・お前なら俺を見れば、聞くまでもないだろう?」
 虎丞は佐乃の方を見て、自分の状態がどうかを佐乃に答えた。霊体の闘いは表面的には見えない霊力の削り合い。虎丞は外見はなんともないように見えるが、善朗との闘いで、半分以上霊力を使い果たしていた。そして、虎丞は一番理解している。このまま善朗と打ち合っても、霊力の総量で善朗に敵わないと・・・。

「・・・・・・。」
 善朗は虎丞と佐乃のやり取りを大前を中途半端に構えたまま見ていた。
(・・・もう・・・終わった?)
 善朗はそんな考えがよぎった瞬間、尻餅をついて倒れこむ。


「善朗君っ!」
 乃華が倒れた善朗に一目散に近寄った。

 近寄ってきた乃華をみて、苦笑いをする善朗。
「・・・あぁっ・・・乃華さん・・・勝ちました?」
「うんっ、うんっ。」
 乃華は目に涙を溜めて、笑って答える。

「あああああああああっ・・・よかったぁ~~・・・。」
 善朗は自分が勝った事を実感して、床に大の字になった。

 虎丞は善朗の霊力の総量を見誤ったわけではない。しかし、戦い慣れていない善朗にとって、実戦の一つ一つが、思った以上に精神力として、霊力を削っていたのは間違いなかった。

「善朗ッ、ようやったっ!」
 少年菊の助が扇子でパタパタと仰ぎながら笑顔で善朗を見る。

「善朗君、大したもんだよっ。」
 腕組みをした秦右衛門がニヤニヤしながら善朗を労う。

「・・・殿っ、秦右衛門さん・・・ありがとうございます・・・。」
 大の字のままで失礼かと思ったが、善朗は動けないので、仕方なくそのままの状態で苦笑いを返した。

「ハッハッハッハッハッ、よいよいっ・・・大儀であったッ!」
 大の字で動けない善朗を見て、菊の助が大笑いする。

「・・・・・・。」
 その様子を見ていた組員達は黙って、鋭く善朗達を睨んでいた。

「・・・なんや、お前ら・・・まだ、納得しとらんのかっ?」
 ズボンのポケットに手を突っ込みながら猫背で組員達を睨む賢太。

 組員達はそんな賢太に背を向けて、
「・・・虎丞組は仕舞いじゃ・・・付き合ってられん・・・。」
 そう言葉を残して、続々とその場から離れていく。

「オイッ!お前ら何処に行くんじゃっ!!」
 組員達の背中に怒声を浴びせる賢太。

「・・・ワシらはササツキさんとこにつく・・・あんな女の下になんかつけるか・・・。」
 組員の一人がつばを吐き捨てながら賢太を睨んで去って行った。

(・・・あのバカドモがっ。)
 賢太は握り拳を作って、今にも殴りに行こうとしたが、


「賢太ッ、いるかっ!?」
 本堂の中から、賢太を呼ぶ虎丞の声が響く。


「オジキッ!」
 賢太は去って行った組員達を放っておいて、虎丞の元へと足早に向かう。

「・・・賢太・・・すまなかったな・・・。」
 虎丞はそう言いながら苦笑いする。その顔には一片の曇りもなかった。

「・・・オジキっ・・・おつかれさんしたっ・・・。」
 虎丞の笑顔に賢太はガニマタで上体を沈めて、頭を深々と下げて労った。


 勝負が終わって、和やかに落ち着いていた本堂だったが、
「△○寺虎丞っ、虎丞はいるかっ!」
 男性の野太い大きな声が響く。
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