13 / 18
13.狼煙
しおりを挟む
指先で巻き髪を弄りながら、オリヴィアは戸惑っていた。どこか上の空なレイス様に問いかける。
「レイス様、彼女を同席させて宜しいですか?」
「ん? ……う、うむ」
「オリヴィアさん、何をしているの? 早くおいで」
そう言って小さく手招きすると、オリヴィアは弁当箱を持ち、重い足取りで私の隣にちょこんと座った。
反対に座すレイス様の目が泳いでいるのは少し気になるが、それよりも周囲に人集りが出来ていることの方が気になる。
「そのお弁当、もしかしてオリヴィアさんが作ってらっしゃるの?」
「え? ……あ、はい、まぁそうですけど」
「見せて頂けないかしら? 盛り付けの参考に」
「ええ、構いませんわ」
オリヴィアが辿々しくも、弁当箱のフタを開けて見せてくれた。
「まぁ、可愛らしい! 美的センスがなければ、こんな鮮やかになりませんわ! まるで宝石箱のようね」
「いや……ち、ちょっと褒めすぎですわ~!」
それを皮切りに、彼女と少しずつ会話を重ねていった。凍っていた氷山を溶かすように――。
「――あはははっ! 面白~い!!」
無邪気な子供のように笑顔を見せるオリヴィア。なんて可愛らしい子なんだろう。
まつ毛が長く、茶褐色の瞳にパッチリとした目に引き込まれそうになる。アヒル口のように緩い口元も可愛い。
表現が豊かで抑揚のある口調、身振り手振りが大きく、どんな話題でも飽きを感じさせない。
こちらが話していると、オリヴィアは笑顔で「うん、うん!」と心地よい相槌を打ってくれるので、気持ちがいい。
ていうか楽しい!
すごく楽しい!
あっという間に時間がたっちゃう!
話せば話すほど、オリヴィアの魅力に取り憑かれる。なぜ彼女がこの学園で人気者なのか……やっとわかった気がする――。
ふと――私がオリヴィアの膝の上に乗る弁当箱を見遣ると、一雫の水滴が落ちる。彼女は……泣いていた。
「……どうしたの?」
「……だって……私……アイシャ様に……ずっと酷いことを……本当に……ごめんなさい」
私はそっと、泣きじゃくるオリヴィアの肩を抱き寄せた。
「そんなこと、もういいのよ。今はこうして、仲良くなれたじゃない?」
「私……アイシャ様と……とも……だちになりたくて」
「あら? 私だけだったのかしら。貴女と“友達“だと思ってたのは」
俯いていたオリヴィアが顔を上げる。涙と鼻水で顔が乱れまくり。私はハンカチを出して、それを拭った。
「可愛いお顔が台無しね」
「……えへへ」
すると、周囲にいた生徒達が拍手を始めた。最初は数人だったが、徐々に連鎖して広がり、それは喝采へと変わった――。
そんな中、私を挟んでオリヴィアの反対側に座っていたレイス様の挙動がおかしいことに気付く。
今まで暗殺者も驚くほど気配を消して、完全に空気と化していた彼だったが、急にソワソワしだしたのだ。
すると、レイス様は「あ、そうだ」と、何かを思い出したかのように手を叩き、立ち上がった。
「すまん、俺はそろそろ帰らなければならない」
「え、そうなんですか?」
見上げた私が尋ねると「ああ、急でホントにすまない」と言って振り返り、その場を立ち去ろうとした――ところが。
「あの~レイス様、一体どちらに行かれるのですか?」
オリヴィアの問いかけに、彼はビックリしたのか背中を縮こませて止まった。
「いや……その~野暮用が――」
背を向けたままのレイス様に、オリヴィアが尋ねる。
「何か私に対して……“大事なこと“をお忘れではございませんか?」
「だ、大事な事……? いや、何だ、頭痛が痛いぞ」
レイス様が額に手を添えて立ちすくむ。オリヴィアは膝の上にあった弁当箱を横に置くと、ゆっくりと立ち上がって腕を組み、首を傾げた。
「へぇ~……私にあれだけの“仕打ち“をしといて、まさかシラを切るおつもりですかぁ~?」
オリヴィアの目付きが、獲物を狙う大鷲のように変わる――瞳の奥から光を失ったその鋭さは、中庭にいた全員の背筋が凍りつくほどだった――。
「レイス様、彼女を同席させて宜しいですか?」
「ん? ……う、うむ」
「オリヴィアさん、何をしているの? 早くおいで」
そう言って小さく手招きすると、オリヴィアは弁当箱を持ち、重い足取りで私の隣にちょこんと座った。
反対に座すレイス様の目が泳いでいるのは少し気になるが、それよりも周囲に人集りが出来ていることの方が気になる。
「そのお弁当、もしかしてオリヴィアさんが作ってらっしゃるの?」
「え? ……あ、はい、まぁそうですけど」
「見せて頂けないかしら? 盛り付けの参考に」
「ええ、構いませんわ」
オリヴィアが辿々しくも、弁当箱のフタを開けて見せてくれた。
「まぁ、可愛らしい! 美的センスがなければ、こんな鮮やかになりませんわ! まるで宝石箱のようね」
「いや……ち、ちょっと褒めすぎですわ~!」
それを皮切りに、彼女と少しずつ会話を重ねていった。凍っていた氷山を溶かすように――。
「――あはははっ! 面白~い!!」
無邪気な子供のように笑顔を見せるオリヴィア。なんて可愛らしい子なんだろう。
まつ毛が長く、茶褐色の瞳にパッチリとした目に引き込まれそうになる。アヒル口のように緩い口元も可愛い。
表現が豊かで抑揚のある口調、身振り手振りが大きく、どんな話題でも飽きを感じさせない。
こちらが話していると、オリヴィアは笑顔で「うん、うん!」と心地よい相槌を打ってくれるので、気持ちがいい。
ていうか楽しい!
すごく楽しい!
あっという間に時間がたっちゃう!
話せば話すほど、オリヴィアの魅力に取り憑かれる。なぜ彼女がこの学園で人気者なのか……やっとわかった気がする――。
ふと――私がオリヴィアの膝の上に乗る弁当箱を見遣ると、一雫の水滴が落ちる。彼女は……泣いていた。
「……どうしたの?」
「……だって……私……アイシャ様に……ずっと酷いことを……本当に……ごめんなさい」
私はそっと、泣きじゃくるオリヴィアの肩を抱き寄せた。
「そんなこと、もういいのよ。今はこうして、仲良くなれたじゃない?」
「私……アイシャ様と……とも……だちになりたくて」
「あら? 私だけだったのかしら。貴女と“友達“だと思ってたのは」
俯いていたオリヴィアが顔を上げる。涙と鼻水で顔が乱れまくり。私はハンカチを出して、それを拭った。
「可愛いお顔が台無しね」
「……えへへ」
すると、周囲にいた生徒達が拍手を始めた。最初は数人だったが、徐々に連鎖して広がり、それは喝采へと変わった――。
そんな中、私を挟んでオリヴィアの反対側に座っていたレイス様の挙動がおかしいことに気付く。
今まで暗殺者も驚くほど気配を消して、完全に空気と化していた彼だったが、急にソワソワしだしたのだ。
すると、レイス様は「あ、そうだ」と、何かを思い出したかのように手を叩き、立ち上がった。
「すまん、俺はそろそろ帰らなければならない」
「え、そうなんですか?」
見上げた私が尋ねると「ああ、急でホントにすまない」と言って振り返り、その場を立ち去ろうとした――ところが。
「あの~レイス様、一体どちらに行かれるのですか?」
オリヴィアの問いかけに、彼はビックリしたのか背中を縮こませて止まった。
「いや……その~野暮用が――」
背を向けたままのレイス様に、オリヴィアが尋ねる。
「何か私に対して……“大事なこと“をお忘れではございませんか?」
「だ、大事な事……? いや、何だ、頭痛が痛いぞ」
レイス様が額に手を添えて立ちすくむ。オリヴィアは膝の上にあった弁当箱を横に置くと、ゆっくりと立ち上がって腕を組み、首を傾げた。
「へぇ~……私にあれだけの“仕打ち“をしといて、まさかシラを切るおつもりですかぁ~?」
オリヴィアの目付きが、獲物を狙う大鷲のように変わる――瞳の奥から光を失ったその鋭さは、中庭にいた全員の背筋が凍りつくほどだった――。
1
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので、愛のない契約結婚を選んだはずでした
鍛高譚
恋愛
王太子の婚約者だった伯爵令嬢・カーテンリンゼ。
しかし、王太子エドワルドは突然の婚約破棄を言い渡し、彼女を冷たく突き放す。
――だが、それは彼女にとってむしろ好都合だった。
「婚約破棄? 結構なことですわ。むしろ自由を満喫できますわね!」
ところが、婚約破棄された途端、カーテンリンゼは別の求婚者たちに目をつけられてしまう。
身分を利用されるだけの結婚などごめんだと思っていた彼女の前に現れたのは、冷徹と噂される若き公爵・レオポルド。
「契約結婚だ。君の自由は保証しよう」
「まあ、それは理想的ですわね」
互いに“愛のない”結婚を選んだ二人だったが、次第に相手の本当の姿を知り、想いが変わっていく――。
一方、王太子エドワルドは、自分が捨てたはずのカーテンリンゼを取り戻そうと動き出し……!?
『婚約破棄された令嬢ですが、気づけば王国の基準になっていました』
ふわふわ
恋愛
公開の場で婚約破棄された伯爵令嬢セレスティア。
感情に溺れることなく彼女が選んだのは、王都を去ることでも復讐でもなく――王国の財政を立て直すという、最も冷静で最も残酷な道だった。
港湾優遇策による揺さぶり、商会の流出圧力、貴族の反発、制度への不信、そして他国との経済圏構想。
次々と襲いかかる試練の中で、彼女が守り続けたのはただ一つ――「揺らがぬ基準」。
短期の利益ではなく、持続する構造。
称賛ではなく、透明性。
権力ではなく、制度。
やがて王国は、規模ではなく“基準”で選ばれる国へと変わっていく。
そして気づけば、かつて婚約を破棄した者たちは、彼女の築いた秩序の上で判断を仰ぐ立場になっていた。
これは、感情でざまあする物語ではない。
静かに、確実に、世界の重心を塗り替えていく令嬢の逆転譚。
揺れながらも崩れない王国と、選び続ける一人の令嬢の物語。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!ー新たなる王室編ー
愚者 (フール)
恋愛
無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!
幼女編、こちらの続編となります。
家族の罪により王から臣下に下った代わりに、他国に暮らしていた母の違う兄がに入れ替わり玉座に座る。
新たな王族たちが、この国エテルネルにやって来た。
その後に、もと王族と荒れ地へ行った家族はどうなるのか?
離れて暮らすプリムローズとは、どんな関係になるのかー。
そんな彼女の成長過程を、ゆっくりお楽しみ下さい。
☆この小説だけでも、十分に理解できる様にしております。
全75話
全容を知りたい方は、先に書かれた小説をお読み下さると有り難いです。
前編は幼女編、全91話になります。
「脇役」令嬢は、「悪役令嬢」として、ヒロインざまぁからのハッピーエンドを目指します。
三歩ミチ
恋愛
「君との婚約は、破棄させてもらうよ」
突然の婚約破棄宣言に、憔悴の令嬢 小松原藤乃 は、気付けば学園の図書室にいた。そこで、「悪役令嬢モノ」小説に出会う。
自分が悪役令嬢なら、ヒロインは、特待生で容姿端麗な早苗。婚約者の心を奪った彼女に「ざまぁ」と言ってやりたいなんて、後ろ暗い欲望を、物語を読むことで紛らわしていた。
ところが、実はこの世界は、本当にゲームの世界らしくて……?
ゲームの「脇役」でしかない藤乃が、「悪役令嬢」になって、「ヒロインざまぁ」からのハッピーエンドを目指します。
*「小説家になろう」様にも投稿しています。
地味令嬢と嘲笑された私ですが、第二王子に見初められて王妃候補になったので、元婚約者はどうぞお幸せに
有賀冬馬
恋愛
「君とは釣り合わない」――そう言って、騎士団長の婚約者はわたしを捨てた。
選んだのは、美しくて派手な侯爵令嬢。社交界でも人気者の彼女に、わたしは敵うはずがない……はずだった。
けれどその直後、わたしが道で偶然助られた男性は、なんと第二王子!?
「君は特別だよ。誰よりもね」
優しく微笑む王子に、わたしの人生は一変する。
【完結】悪役令嬢の本命は最初からあなたでした
花草青依
恋愛
舞踏会の夜、王太子レオポルドから一方的に婚約破棄を言い渡されたキャロライン。しかし、それは彼女の予想の範疇だった。"本命の彼"のために、キャロラインはレオポルドの恋人であるレオニーの罠すらも利用する。 ■王道の恋愛物(テンプレの中のテンプレ)です。 ■三人称視点にチャレンジしています。 ■画像は生成AI(ChatGPT)
【完結】死に戻り8度目の伯爵令嬢は今度こそ破談を成功させたい!
雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
アンテリーゼ・フォン・マトヴァイユ伯爵令嬢は婚約式当日、婚約者の逢引を目撃し、動揺して婚約式の会場である螺旋階段から足を滑らせて後頭部を強打し不慮の死を遂げてしまう。
しかし、目が覚めると確かに死んだはずなのに婚約式の一週間前に時間が戻っている。混乱する中必死で記憶を蘇らせると、自分がこれまでに前回分含めて合計7回も婚約者と不貞相手が原因で死んでは生き返りを繰り返している事実を思い出す。
婚約者との結婚が「死」に直結することを知ったアンテリーゼは、今度は自分から婚約を破棄し自分を裏切った婚約者に社会的制裁を喰らわせ、婚約式というタイムリミットが迫る中、「死」を回避するために奔走する。
ーーーーーーーーー
2024/01/13 ランキング→恋愛95位 ありがとうございました!
なろうでも掲載20万PVありがとうございましたっ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる