聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

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聖女を追放した国の物語

第20話 案内状

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 邪竜王ガルトルシアの討伐に成功した。


 討伐成功の際の合図である狼煙を上げ、脅威の終わりを知らせる。

 知らせを受けた親衛隊は、現場へと急行して疲労困憊の俺を回収する。

 疲労と痛みで動けない俺に代わって、親衛隊長リスティーヌが新生ゾポンドート軍を使い、邪竜王ガルトルシアの亡骸をイーレス城へと運んだ。

 邪竜王の亡骸の移送は、大々的に行われた。
 それを民衆に公開して混乱を収め、討伐した俺の名声を高めるためだ。


 イーレス城に邪竜王の亡骸が運ばれた時には、集まった民衆から歓声が上がった。
 巨大な竜の亡骸は、さながら祭りの山車のようなものだ。

 イーレス城の中庭まで運ばれた邪竜王は、解体されて俺が懇意にしてきた商人たちに優先的に売り払われた。
 これで俺個人の活動資金を、大量に確保出来た。



 それからの領地経営は順調に進んだ。
 早期に恭順した貴族の中から役に立つ奴を選び、側近や重役に据えて優遇した。

 特にゾポンドート弟の息子は優秀だったので、仕事を多く割り振ってこき使っている。順調にいけばそいつがこの領地を相続するのだから、遠慮の必要はない。
 周りから悪辣眼鏡と呼ばれていて、人格面で問題でもあるのかと危惧したが、今のところは大丈夫だ。



 前領主と仲が良く、俺に対して反抗的だった者に対しては、減俸したり、改易したり、当主をすげ替えたりして力を削いでやったが――

 反乱を起こす根性のある者はいなかった。

 これも、邪竜王を討伐した賜物だろう。



 邪竜王を討伐した俺の身体には、二つの異変が生じた。

 良い変化と、悪い変化が一つずつ。

 良い変化は、レベルが急激に上がった。
 邪竜王と戦い倒した俺は、とんでもない経験値を獲得することになった。
 レベルが上がったことで、身体能力が大幅に強化された。
 

 悪い変化は、邪竜王から受けた呪い。

 呪いを受けた時の痛みと熱は、数日で収まったのだが――
 左腕に漆黒の紋様が刻まれて、邪竜王の力が蓄積し続けている。

 力が強くなるのはいい事のように思えるかもしれないが、強すぎて日常生活がまともに送れない。
 しかも気を抜くと、邪竜王の黒の炎が溢れ出てくる。

 危なくて仕方がない。

 ――これじゃあ女の子を、抱きしめられないじゃないか。



 しばらくは左手を一切動かさず、人も寄せ付けずにいた。
 ロザリアを中心とした頭脳チームが、邪竜王の呪いの力を抑える封呪の包帯を作成してくれて、現在はそれを巻いている。

 日常生活でも左腕を使えるようになったし、黒い炎も出てこない。


 農業知識やノウハウの伝達も行われ、新設した軍隊と傭兵団とで連携して魔物討伐にも力を入れる。
 まだしばらくは苦しいだろうが、この東の地もこれで安定していくだろう。

 


 俺が新領主となり一年が経過した。

 凶作や長年の圧政、魔物被害や戦乱で荒れた領地も少しずつ回復し、農作物の収穫量も持ち直してきている。
 商人の流通網も正常化してきている。
 


 ようやく一息ついたなと、ほっとしていたが……『嫌われ役王子』の人生は、そう上手くはいかないらしい。

 ゾポンドート城の書庫にあった古文書を解読してる調査チームから、嬉しくない研究結果が報告された。


 このリーズラグド王国が今の体制になる前の時代。

 ゾポンドートがまだ独立勢力として王国の傘下に入っていなかった昔の記録。
 破壊神が封印されているとされるダルフォルネ領を中心に、現在のリーズラグド王都までが作物の一切育たない、死の荒野だった。


 ここまでは、これまでの研究でも解っていることだったが、さらに具体的な記録が発見された。 

 古文書の記録では――
 ゾポンドート王国およびその周辺国に、聖女の加護が無い期間が二十年続き、国土の半分以上が死の荒野になってしまった、とあった。

 今現在は一時的に農作物の生産能力を向上させることが出来ても、聖女の力無しではこの国の領土の大半が――
 数十年後に作物の育たない、不毛の地になることが予想される。

 そうなっては、小手先の農業技術ではどうにもならない。



 では、どうするか?

 一次産業がダメなら、二次産業で稼ごうじゃないか!
 だが俺には産業革命を起こす頭脳はない。
 蒸気機関車なんか、どうやって作ればいいんだ?

 とりあえず日用品を大量生産する機械を作って、工場を整備すればいいのか?
 出来る奴がいればいいんだが――



 
 この国は周辺国と比べて人口が多い――
 傭兵事業を拡大して、魔物討伐や戦争で稼ぐ。

 

 土地がほぼ使えなくなるのなら、他国への金貸しで金融業で稼ぐか――
 でも金貸しは嫌われるよな。




 いずれかの手段が成功しても――
 自国でほとんど食料が生産できないのは致命的だ。

 他国を侵略して食料を奪うか?
 食料が尽きればそういう選択もせざるを得ないだろうが――
 そこまで追い詰められた時点でもう、色々とおしまいな気がする。


 開墾作業が困難で、どの国の領土にもなっていない手付かずの土地を開拓するか?
 
 上手くいった後で欲張りな奴が、自国領だと言って領有権を主張してきそうだ。



 困難が予想される未来にどう対処すべきか、俺が頭を悩ませていると――
 耳を疑うような知らせが届いた。

 




 手紙の送る主はダルフォルネで……

 ダルフォルネ侯爵領にて『偽聖女ソフィ』の公開処刑を執り行う――
 という案内だった。
 


 ダルフォルネは偽聖女を擁立し聖女を追放を主導したことで、三年前に国務大臣の任を解かれ、現在は自身の領地で謹慎している。


 聖女を追放した割に軽い罰で済んでいるのは、それまでの功績を考慮したことと、大貴族という地位に配慮してのことだ。

 国王といえども大貴族に、重い罰を科すのは難しいらしい。


 だがそれでも、やりたい放題していいわけでもない。
 ソフィを処刑するとなると、放置するわけにはいかない。



 彼女が偽聖女だということは、状況証拠からもうすでに国中に知れ渡っている。
 しかし……それでもまだソフィは、俺の婚約者なのだ。


 次期国王の正妻となることが決まっているソフィを、現国王や俺に何の断りもなしに処刑する。

 そんなことを見過ごせば――
 俺の権威は失墜し、王国の秩序は崩壊する。

 そんなことは……ダルフォルネなら解っているはずだ。
 解っていて、こんな案内を寄こしやがった。

 俺を挑発しているのか?


 ――なめやがって。

 邪竜王に呪いを受けた左腕が、ひどく疼く……。




 なんとしてもダルフォルネは、俺の手で粛清しなければならない。


 俺はダルフォルネへの使者の用意と――
 親衛隊の出撃準備を命じた。
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