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聖女を追放した国の物語
第26話 聖女の要請
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「上手く、いったのか――」
王宮の禁書庫から、魔導書の窃盗に成功した。
報告を聞いたダルフォルネは、ホッと一息つく。
聖女を追放してから、もうすぐ四年になる。
ダルフォルネは聖女ローゼリアの要求に応じて、自分の子飼いの特殊部隊を使って禁書の窃盗を敢行した。
息のかかった盗賊団を捨て駒の囮にして、本命の特殊部隊が盗み出すという大掛かりな作戦だった。
それでも成功する見込みは、ほぼないだろうと思っていたのだが――
上手くいくとは……。
それに先立って進めていた、ピレンゾルの第一王位継承者に対する、二度目の暗殺も成功している。
これも、聖女様のご加護か――
などと、らしくもない冗句を口にする。
「それにしても、禁書に指定された魔導書など……何に使うつもりなのか――」
ローゼリアが何を考えているかは解らないが、ダルフォルネは交渉に手応えを感じている。聖女がこの国へと、帰ってくるつもりがあることは確かだ。
四年前よりは、ずっと前向きなコミュニケーションが取れている。
「後は――自分の意のままに動く、軍隊を組織したいのだったな」
こちらの要求はわかりやすい。
リーズラグドに戻ってくるにあたって、自分の身の安全を確保する必要がある。
ダルフォルネは目的達成までの手順を紙に書いて、ローゼリアと連絡を取っている使いに渡す。
「聖女の威光があれば問題なかろう。しかし、時間はかかる。聖女の帰還まで領内を何とか持たせねばな――」
先ほどの安堵とは違い、今度は暗鬱なため息が漏れだした。
そして、聖女追放から四年と半年が経過――
ダルフォルネは歓喜に包まれた。
聖女が三千の軍を引き連れて、ダルフォルネ領に向かい出発したとの報が入った。
ついにローゼリアが、この国に帰って来るのだ。
「ようやく、だ――」
長年の苦労が実を結ぶ、聖女さえいればすべての問題は解決するのだ。
聖女さえいれば……。
*************************
ローゼリアは自ら組織した軍隊を率いて、リーズラグド王国のダルフォルネ領に向かっている。
ローゼリアが命名した、この部隊の名前は『聖女十字軍』。
聖女を迫害するという十字架を背負いし愚か者共に、天罰を下すたの――
聖女に忠誠を誓い、その命を捧げる最強部隊だ。
国境には威圧感のある、巨大な要塞が立ち塞がっている。
しかし、真の聖女を前にしては、のれん程の役にも立たない。
砦を守る兵士たちは、ダルフォルネの命令で聖女十字軍を素通りさせるように言い含められている。
奴らは大人しく、門を大きく開いている。
聖女十字軍は一人の死傷者も出さずに、難攻不落の要塞を通過した。
他国の軍隊を無抵抗で通過させる命令に憤慨し、戦いを主張する者もいたが……そういった者達は事前に捉えられて、砦の奥に隔離されている。
――これから起こる。
リーズラグド王国に、未曽有の厄災を振りまくことになる事件。
その引き金を引く者達は、国境の砦を労せずに通り抜け――
運命に導かれるように、進軍を続ける。
*************************
「随分と、久しぶりね――」
私は床に這いつくばるダルフォルネを見下ろして、声をかける。
私の周りには、聖女十字軍の精鋭が護衛についている。
最初は膝をついて挨拶をしてきたダルフォルネに、私は聖なるポーズで『聖女の威光』を披露する。
『聖女の威光』とは、私が開発した応用スキルだ。
私はピレンゾルで、ただ慎ましく暮らしていたわけではない。
聖女の力の使い方を研究して、応用した使用法を編み出していた。
邪悪を打ち払う『聖女の光』の威力を押さえ、私の全身から溢れるように放つのだ。すると――
神聖な光に包まれた私が、まるで女神の化身であるかのように見える。
女神の化身となった私が、ちゃんと土下座して挨拶をやり直すように命じる。
ダルフォルネは恐れ入って、言われるままに床に手と顔を付けて平伏した。
「お久しぶりに御座います。聖女様。ご無事の御帰還おめでとうございます」
「別に――まだ帰ってきたわけじゃないわよ。ちょっと様子を見に来たの。やっておくこともあったしね。ふふっ」
「『まだ』ということは、いずれはこの国に住まわれるご意思はおありだと?」
「まあ、そういうことね。でも、その前に――あなたにやって欲しいことがあるの。いいかしら?」
「もちろんでございます。聖女様のお望みであれば――」
「じゃあまずは、私が牢にいた時に……監視していた兵士、全員を殺します。後で連れて来なさい」
「ははっ」
「例の魔導書は手に入れたのよね? 持ってきて渡しなさい。それと、あの偽聖女はちゃんと生かして捕らえているわね? そいつの公開処刑をするから舞台を用意しなさい」
「かしこまりました」
「最後に、あの阿呆王子を懲らしめます。手筈を整えなさい」
「仰せのままに――」
ダルフォルネに言いつけてから半月後――
阿呆王子がダルフォルネ領との境にある砦に、兵士を集めているという報告が入った。あの阿呆は身の程知らずにも処刑を中止するように言ってきたらしい――
阿保だわ。
偽物の聖女の処刑など、放っておけばいいのに……。
それともあいつ……
ひょっとして、まだ『アレ』が偽物だって気付いていないのかしら。
「ぷっ、ぷくくっ……」
ありえる。
だってあいつは、阿呆だから。
それにしても、あの阿呆は戦争で私に勝てるとでも思っているのかしら?
ああ、あいつは私がここにいることを、まだ知らないのね。
可哀そうに――
聖(笑)を熟読している私にはわかる。
聖女率いるピレンゾル軍は、阿呆王子が率いるリーズラグド軍を打ち負かすのだ。
「愚か者に天罰を与えてあげるわ。まずは、あんたよ。阿呆王子!!」
顔を洗って待っていなさい。
私は聖女十字軍を率いて、ゾポンドート領へと進軍を開始した。
王宮の禁書庫から、魔導書の窃盗に成功した。
報告を聞いたダルフォルネは、ホッと一息つく。
聖女を追放してから、もうすぐ四年になる。
ダルフォルネは聖女ローゼリアの要求に応じて、自分の子飼いの特殊部隊を使って禁書の窃盗を敢行した。
息のかかった盗賊団を捨て駒の囮にして、本命の特殊部隊が盗み出すという大掛かりな作戦だった。
それでも成功する見込みは、ほぼないだろうと思っていたのだが――
上手くいくとは……。
それに先立って進めていた、ピレンゾルの第一王位継承者に対する、二度目の暗殺も成功している。
これも、聖女様のご加護か――
などと、らしくもない冗句を口にする。
「それにしても、禁書に指定された魔導書など……何に使うつもりなのか――」
ローゼリアが何を考えているかは解らないが、ダルフォルネは交渉に手応えを感じている。聖女がこの国へと、帰ってくるつもりがあることは確かだ。
四年前よりは、ずっと前向きなコミュニケーションが取れている。
「後は――自分の意のままに動く、軍隊を組織したいのだったな」
こちらの要求はわかりやすい。
リーズラグドに戻ってくるにあたって、自分の身の安全を確保する必要がある。
ダルフォルネは目的達成までの手順を紙に書いて、ローゼリアと連絡を取っている使いに渡す。
「聖女の威光があれば問題なかろう。しかし、時間はかかる。聖女の帰還まで領内を何とか持たせねばな――」
先ほどの安堵とは違い、今度は暗鬱なため息が漏れだした。
そして、聖女追放から四年と半年が経過――
ダルフォルネは歓喜に包まれた。
聖女が三千の軍を引き連れて、ダルフォルネ領に向かい出発したとの報が入った。
ついにローゼリアが、この国に帰って来るのだ。
「ようやく、だ――」
長年の苦労が実を結ぶ、聖女さえいればすべての問題は解決するのだ。
聖女さえいれば……。
*************************
ローゼリアは自ら組織した軍隊を率いて、リーズラグド王国のダルフォルネ領に向かっている。
ローゼリアが命名した、この部隊の名前は『聖女十字軍』。
聖女を迫害するという十字架を背負いし愚か者共に、天罰を下すたの――
聖女に忠誠を誓い、その命を捧げる最強部隊だ。
国境には威圧感のある、巨大な要塞が立ち塞がっている。
しかし、真の聖女を前にしては、のれん程の役にも立たない。
砦を守る兵士たちは、ダルフォルネの命令で聖女十字軍を素通りさせるように言い含められている。
奴らは大人しく、門を大きく開いている。
聖女十字軍は一人の死傷者も出さずに、難攻不落の要塞を通過した。
他国の軍隊を無抵抗で通過させる命令に憤慨し、戦いを主張する者もいたが……そういった者達は事前に捉えられて、砦の奥に隔離されている。
――これから起こる。
リーズラグド王国に、未曽有の厄災を振りまくことになる事件。
その引き金を引く者達は、国境の砦を労せずに通り抜け――
運命に導かれるように、進軍を続ける。
*************************
「随分と、久しぶりね――」
私は床に這いつくばるダルフォルネを見下ろして、声をかける。
私の周りには、聖女十字軍の精鋭が護衛についている。
最初は膝をついて挨拶をしてきたダルフォルネに、私は聖なるポーズで『聖女の威光』を披露する。
『聖女の威光』とは、私が開発した応用スキルだ。
私はピレンゾルで、ただ慎ましく暮らしていたわけではない。
聖女の力の使い方を研究して、応用した使用法を編み出していた。
邪悪を打ち払う『聖女の光』の威力を押さえ、私の全身から溢れるように放つのだ。すると――
神聖な光に包まれた私が、まるで女神の化身であるかのように見える。
女神の化身となった私が、ちゃんと土下座して挨拶をやり直すように命じる。
ダルフォルネは恐れ入って、言われるままに床に手と顔を付けて平伏した。
「お久しぶりに御座います。聖女様。ご無事の御帰還おめでとうございます」
「別に――まだ帰ってきたわけじゃないわよ。ちょっと様子を見に来たの。やっておくこともあったしね。ふふっ」
「『まだ』ということは、いずれはこの国に住まわれるご意思はおありだと?」
「まあ、そういうことね。でも、その前に――あなたにやって欲しいことがあるの。いいかしら?」
「もちろんでございます。聖女様のお望みであれば――」
「じゃあまずは、私が牢にいた時に……監視していた兵士、全員を殺します。後で連れて来なさい」
「ははっ」
「例の魔導書は手に入れたのよね? 持ってきて渡しなさい。それと、あの偽聖女はちゃんと生かして捕らえているわね? そいつの公開処刑をするから舞台を用意しなさい」
「かしこまりました」
「最後に、あの阿呆王子を懲らしめます。手筈を整えなさい」
「仰せのままに――」
ダルフォルネに言いつけてから半月後――
阿呆王子がダルフォルネ領との境にある砦に、兵士を集めているという報告が入った。あの阿呆は身の程知らずにも処刑を中止するように言ってきたらしい――
阿保だわ。
偽物の聖女の処刑など、放っておけばいいのに……。
それともあいつ……
ひょっとして、まだ『アレ』が偽物だって気付いていないのかしら。
「ぷっ、ぷくくっ……」
ありえる。
だってあいつは、阿呆だから。
それにしても、あの阿呆は戦争で私に勝てるとでも思っているのかしら?
ああ、あいつは私がここにいることを、まだ知らないのね。
可哀そうに――
聖(笑)を熟読している私にはわかる。
聖女率いるピレンゾル軍は、阿呆王子が率いるリーズラグド軍を打ち負かすのだ。
「愚か者に天罰を与えてあげるわ。まずは、あんたよ。阿呆王子!!」
顔を洗って待っていなさい。
私は聖女十字軍を率いて、ゾポンドート領へと進軍を開始した。
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