聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

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続・追放された聖女の物語

第83話 王子 B

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 そんなある日、私の住む神殿が襲撃を受けた。

 ハエの顔を持った醜悪な悪魔ベルゼブブが、大量の眷族を引き連れて攻め込んできた。

 ハエの大軍は神殿を守る騎士たちを飲み込み、その身を腐らせて戦闘不能に追い込んでいく。
 

 私は聖女の杖を持ち、敵の迎撃に出る。

 ハエの悪魔が、外にひしめいている。
 神殿を包囲して太陽を遮り、辺り一面を覆い尽くす。


 私は邪悪な存在を浄化する『聖女の光』を放ち、悪魔ベルゼブブの眷族を消し去っていく。

 私の放った光は真っ黒なハエの群れに穴を開ける。

 その穴から太陽の日が差すが、敵の数が多すぎる。
 私の開けた穴は、すぐに敵に防がれてしまう。



 私は聖女の光で自身を守りつつ、ハエの眷族を浄化し続けた。

 
 
 無数に繰り広げられた、攻防の末に――
 私は敵の群れを殲滅して、悪魔ベルゼブブ本体に聖女の光を当てる。

 女の身体に、ハエの頭の化け物。
 その半身が、焼け溶けて崩れている。

「くっ、おのれ~! お前のようなぽっと出のモブキャラに、この私がッ!! これは何かの間違いよ。お前なんかに、私が負けるなんて、ありえない……」

 悪魔は地面に横たわり、身動きが取れないでいる。
 悔しそうに、拳で地面を叩く。





「はぁ、はぁ……ッ」

 私もほとんどの力を使い、消耗している。
 聖女の光は、あと一度しか使えないだろう。

 でも――
 あと一息で、勝てる!!
 
 次の一撃を、放てば――



「……いまよ、シュドナイ!!」

 私が勝利を確信したその時に、悪魔が何かを叫んだ。

 それに呼応するように、聖堂の中に隠れていた老人が姿を現す。
 そいつは剣を振りかぶり、裂帛の気合と供に私に襲い掛かってきた。

「せりゃっぁっぁあぁあああ!!!!」



「くっ……」

 私は慌てて聖女の光を放ち、その老人の目を眩ませる。


 視力を奪われた老人は、その場に蹲るが――
 私は最後の一撃を、使ってしまった。


 年老いた剣士の視力は、まだ回復していない。
 けれど、私はこの老人に対する、有効な攻撃手段を持たない。



 この聖女の杖で殴れば、多少はダメージを与えられるかも――
 私は老人に近づこうとするが、嫌な予感に動きを止める。



 老人が立ち上がる。

 あの老人は目が回復していない振りをして、私が攻撃するのを待っていた。
 杖で殴りかかっていれば、近づいた瞬間に斬り殺されていただろう。


「気付いたか。だが、死ぬのが少し遅くなっただけだ。これだけ神殿で騒ぎが起きているのに、城からは援軍がまだ来ない――お前は嫌われている。それが敗因だ」


「……ッ!」

 その通りだ。
 ――言い返せない。


 私は死を覚悟し、杖を握り締めて目を閉じる。

 老人が私を殺そうと足を踏み出した、その時に――

 

「ローゼローラ!!」

 私の名を叫んで、一人の少年が戦いに割って入った。

「……あんた、なんで?」

 そいつは私の婚約者の、この国の第一王子だった。


 王子は剣を構え、私の前に立つ。

 そして、襲撃者と戦いだした。
 男の子と老人の攻防が、繰り広げられる。
 




「ぐあっ――」

 王子もそこそこ強かったが、老人とは戦闘経験に差があり過ぎた。
 身体を斬られて、跪く。

 それでも王子は逃げずに、老人に向かって剣を向ける。
 あいつが私に近づかない様に、牽制している。



 このままだと、こいつも殺されてしまうだろう。

「いいから、あんたは逃げなさい! 殺されるわよ。私が殺されたって代わりの聖女はすぐに用意されるんだから、気にしなくっていいのよ。あんたが命をかける必要はないわ!!」

 私は王子に逃げるように言った。
 


 だが、王子は逃げない。
 老人に向かって、剣を構えたまま――

「聖女の代わりは、いるかもしれないが――ローゼローラ、君の代わりはいないだろ!! 僕は君に死んで欲しくは無いんだ。だから、逃げないよ」

「……ッ!??」
 
 何を言ってるんだ?
 こいつは……??

 訳が分からない、だが――



 私の顔に血が上り、熱くなる。

 私を守る為に、強敵に立ち向かう。
 王子のその背中を、見つめていると――

 力が湧いてくるのを感じた。


 心がよく分からない想いで、満たされる。

 今なら、聖女の力が使える。
 私は聖女の癒しで、王子や戦闘不能になっていた神殿騎士たちの傷を癒す。

 傷の治った騎士たちは、襲撃者を包囲する。


 あれだけ強かった老剣士も、複数を相手にしては歯が立たない。

 傷を負い、剣を落とす襲撃者――
 最後は王子が剣で、止めを刺した。




 私は悪魔ベルゼブブと対峙する。

 半死状態で身動きの取れないベルゼブブは、老人に対して悪態をついていたが、私が杖を構えると、命乞いを始めた。

 自分がいかに可哀そうで、同情すべき存在なのかを語り続ける。


 その話を聞き流しながら――
 聖女の杖に力を込めて、光を放つ。

 私は悪魔を、この世界から消し去った。






 これまで私は、王宮や神殿ではずっと一人だったけれど、悪魔の襲撃があった日からは仲間が増えた。
 
 婚約者の王子や、一緒に悪魔と戦った騎士たちとは、少しずつ打ち解けることが出来た。


 そして、王子からアドバイスを貰う。
 国を良くしたい、変えたいと思うのなら、まず協力者を集めて、少しずつ変えていこうと言われた。


 それもそうだと思ったけれど、素直に感心するのは何だか癪に障る。
 私はそっぽを向いて、フンっと言う。

 それから――


「あんたがそう言うなら、そうしてやっても良いわ!」



 そう答えておいた。
 自分でも『可愛くないなぁ』と、思いながら――
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