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盛り上がる彼ら
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パラララ……。私の目の前で、ピンク色の花びらがヒラヒラと舞い落ちてきました。
綺麗なバラの花びらです。でも、ここは教室でお花畑ではありません。私の机の上には、これから予習しようとしていた教科書が開いてあります。その大事なページの上に、花びらが落ちて文字を隠してしまうのです。
「……邪魔ですわね」
私は指でピンッ、と花びらを弾きました。すると、花びらは煙のようにフッと消えてしまいました。本物ではありません。これは魔法で作られた【幻】です。
「ああ、なんて美しいんだ! 身分の壁を乗り越えた、真実の愛! これぞ青春! これぞロマンだーっ!!」
ビリビリビリッ! 教室の窓ガラスが震えるほどのものすごい大声が響き渡りました。耳がキーンとします。頭痛がしてきました。
「胃の次は、頭ですか……」
私の体調は休まる暇がありません。
声の主は、教室の真ん中に立っている男子生徒ガストンです。彼は私の婚約者であるアルベルト様の側近で、いつも彼にくっついている腰巾着です。ガストンの得意な魔法は【増幅】で音を大きくしたり振動を強くしたりする魔法ですが、彼はそれを「無駄に大声を出すこと」にしか使っていません。
「見てくれ、この二人を! 怪我をした幼馴染を優しく支える王子様! まるで絵画のようじゃないかーっ!」
ガストンがメガホンを持ったように叫ぶと、クラス中の注目がそこに集まります。そこには私の席のすぐ近くで、べったりとくっついているアルベルト様とミナの姿がありました。
(その『足が痛いごっこ』まだやっているんですか?)
「やだぁ、ガストン様ったら大げさよぉ。私なんて、身分の低い男爵家の娘だし……アルベルト様の隣になんて、ふさわしくないわ」
ミナが恥ずかしそうに頬を染めて、うるうるとした瞳で言いました。すると、その横から茶色い髪をツインテールにした女子生徒が飛び出してきました。ミナの友人のリリィです。彼女の手には杖が握られていて、そこからポンポンと幻の花吹雪が出ています。この迷惑な演習の犯人は彼女ですね。
「そんなことないわ、ミナ! 身分なんて関係ない! 大事なのはハートよ、ハート!」
リリィは杖を振って、ミナの周りにキラキラと光る星屑の幻を出しました。リリィの魔法は【幻影】です。実際にはそこにないものを見せる魔法です。彼女の作り出す映像は、ミナを「可哀想で可愛いヒロイン」に見せるための舞台装置そのものです。
「リリィ……ありがとう。私、頑張る!」
「そうだよミナ! 僕がついてる! 誰も僕たちを引き裂くことなんてできないさ!」
アルベルト様がミナの手をぎゅっと握りしめます。
「ブラボォォォーッ!」
ガストンが叫び、リリィが花吹雪を倍増させます。教室の中は、完全に彼らの劇場になっていました。周りの生徒たちもガストンの大声とリリィの演出に乗せられて、なんだか感動したような顔になっています。
「素敵ねぇ……」
「まるで物語みたい」
……待ってください。みなさん、正気ですか? ここは学校です。しかも、アルベルト様の婚約者は私です。彼が別の女性とイチャイチャしているのを「素敵」と褒めるなんて、貴族社会のルールとして間違っています。
私は我慢の限界でした。席を立ち、ツカツカと彼らに近づきました。
「アルベルト様、それに皆様。もうすぐ先生がいらっしゃいます。席に戻っていただけませんか? それとリリィさん、この花吹雪、教科書が読めなくて迷惑なのですが」
私は努めて冷静に、当たり前のことを言いました。怒鳴り散らしたりはしません。あくまで優雅に正論を述べただけです。
その瞬間、場の空気が凍りつきました。
綺麗なバラの花びらです。でも、ここは教室でお花畑ではありません。私の机の上には、これから予習しようとしていた教科書が開いてあります。その大事なページの上に、花びらが落ちて文字を隠してしまうのです。
「……邪魔ですわね」
私は指でピンッ、と花びらを弾きました。すると、花びらは煙のようにフッと消えてしまいました。本物ではありません。これは魔法で作られた【幻】です。
「ああ、なんて美しいんだ! 身分の壁を乗り越えた、真実の愛! これぞ青春! これぞロマンだーっ!!」
ビリビリビリッ! 教室の窓ガラスが震えるほどのものすごい大声が響き渡りました。耳がキーンとします。頭痛がしてきました。
「胃の次は、頭ですか……」
私の体調は休まる暇がありません。
声の主は、教室の真ん中に立っている男子生徒ガストンです。彼は私の婚約者であるアルベルト様の側近で、いつも彼にくっついている腰巾着です。ガストンの得意な魔法は【増幅】で音を大きくしたり振動を強くしたりする魔法ですが、彼はそれを「無駄に大声を出すこと」にしか使っていません。
「見てくれ、この二人を! 怪我をした幼馴染を優しく支える王子様! まるで絵画のようじゃないかーっ!」
ガストンがメガホンを持ったように叫ぶと、クラス中の注目がそこに集まります。そこには私の席のすぐ近くで、べったりとくっついているアルベルト様とミナの姿がありました。
(その『足が痛いごっこ』まだやっているんですか?)
「やだぁ、ガストン様ったら大げさよぉ。私なんて、身分の低い男爵家の娘だし……アルベルト様の隣になんて、ふさわしくないわ」
ミナが恥ずかしそうに頬を染めて、うるうるとした瞳で言いました。すると、その横から茶色い髪をツインテールにした女子生徒が飛び出してきました。ミナの友人のリリィです。彼女の手には杖が握られていて、そこからポンポンと幻の花吹雪が出ています。この迷惑な演習の犯人は彼女ですね。
「そんなことないわ、ミナ! 身分なんて関係ない! 大事なのはハートよ、ハート!」
リリィは杖を振って、ミナの周りにキラキラと光る星屑の幻を出しました。リリィの魔法は【幻影】です。実際にはそこにないものを見せる魔法です。彼女の作り出す映像は、ミナを「可哀想で可愛いヒロイン」に見せるための舞台装置そのものです。
「リリィ……ありがとう。私、頑張る!」
「そうだよミナ! 僕がついてる! 誰も僕たちを引き裂くことなんてできないさ!」
アルベルト様がミナの手をぎゅっと握りしめます。
「ブラボォォォーッ!」
ガストンが叫び、リリィが花吹雪を倍増させます。教室の中は、完全に彼らの劇場になっていました。周りの生徒たちもガストンの大声とリリィの演出に乗せられて、なんだか感動したような顔になっています。
「素敵ねぇ……」
「まるで物語みたい」
……待ってください。みなさん、正気ですか? ここは学校です。しかも、アルベルト様の婚約者は私です。彼が別の女性とイチャイチャしているのを「素敵」と褒めるなんて、貴族社会のルールとして間違っています。
私は我慢の限界でした。席を立ち、ツカツカと彼らに近づきました。
「アルベルト様、それに皆様。もうすぐ先生がいらっしゃいます。席に戻っていただけませんか? それとリリィさん、この花吹雪、教科書が読めなくて迷惑なのですが」
私は努めて冷静に、当たり前のことを言いました。怒鳴り散らしたりはしません。あくまで優雅に正論を述べただけです。
その瞬間、場の空気が凍りつきました。
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