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頼りになる友人
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「……助かりました。もう少しで、学園の入り口で『ミナさんの激走シーン』を上映するところでした」
「それはまずい。君が『嫉妬に狂った公爵令嬢』として噂になってしまう」
キース様は呆れたように肩をすくめると、アルベルト様の方を向きました。
「アルベルト殿下。怪我人を運ぶのは騎士科の生徒の役目だ。君のような高貴な方がすることではない。それに、ロゼリア嬢を待たせていたのだろう?」
キース様の声は、氷のように冷ややかでしたが正論でした。しかし、アルベルト様はムッとした顔をしました。
「何を言うんだキース! 困っている人を助けるのに、身分なんて関係ないだろう! ロゼリアもロゼリアだ。いつまでもそこで突っ立っていないで、先に行けばいいだろう? 心の狭い女だなぁ!」
「……っ!」
心の狭い女。その言葉が胸に突き刺さりました。婚約して十年です。十年間、私は彼の隣にふさわしい女性になろうと、勉強もマナーもダンスも必死に努力してきました。彼が魔法の練習でボヤ騒ぎを起こした時も、彼がテストで赤点を取った時も、全部私が裏で頭を下げて尻拭いをしてきました。それなのに彼は、ちょっと可愛く甘えてくるだけの幼馴染を選び、私を「心の狭い女」と呼ぶのですか。
悔しくて涙が出そうになりました。でも、泣いたら負けです。ここで泣いたら、本当に私が「ミナに意地悪をされて泣いた弱い女」か「嫉妬して泣きわめく、みっともない女」になってしまいます。
私は深呼吸を一つ。そして、最高の笑顔仮面を貼り付けました。
「……おっしゃる通りですわ、アルベルト様。わたくしの配慮が足りませんでした。ミナさんの足、早く治るといいですわね。さっきまであんなに元気に走り回っていたのに、急に悪くなるなんて、きっと大変な病気なのでしょうから」
最後の一言だけ、チクリと嫌味を混ぜてやりました。でも、アルベルト様には通じません。
「ああ、そうだよ! 本当に大変なんだ! わかってくれて嬉しいよ。じゃあな!」
アルベルト様は嬉しそうにミナの肩を抱いて、校舎の方へ歩いていってしまいました。ミナが去り際に、私の肩越しにキース様を見て、ねっとりとした視線を送ったのを私は見逃しませんでした。そして私には舌を出して「べーっ」とやったのも、しっかりと【記録】しました。
(あの女……)
「……行ったか。災難だったな、ロゼリア」
キース様が軽く息を吐きました。そして、扇子をパチリと鳴らして近づいてくる女子生徒がいました。私の友人のマリーです。彼女は眼鏡をクイッと上げると、去っていく二人を冷ややかな目で見つめました。
「あらあら、朝からお熱いこと。でもロゼリア、気づいた? ミナの足元」
「ええ、マリー。気づいていましたとも」
私は、自分の頭の中にある映像を再確認します。さっき、アルベルト様に支えられて歩き出す瞬間。ミナは、確かに「痛い」と言っていた右足で地面を強く踏みしめていました。そして、バランスを取るために左足を浮かせていたのです。痛い足で踏ん張れるわけがありません。
「完全に演技ね。しかも、アルベルト様はそれに気づいていない。【鑑定・解析】するまでもないわ、ただのバカ王子よ」
マリーの毒舌に、少しだけ心が軽くなりました。私は二人に向き直り、スカートをつまんで優雅にお礼をしました。
「ありがとう、キース、マリー。おかげで落ち着きました」
「それはよかった。僕の【遮断】結界でも、君の再生は防ぎきれるか怪しいからな」
「さあ、行きましょうロゼリア。胃薬なら持っているわよ」
二人に挟まれて、私は校舎へと歩き出しました。アルベルト様とミナの背中はもう見えません。でも、私の頭の中には、今日の屈辱が鮮明に【記録】されています。
絶対に許しません。この証拠映像をいつか必ず、一番効果的な場面で使ってやりますわ。それまでは……この胃痛とお友達でいるしかなさそうです。
こうして、私の胃が痛い学園生活の一日が始まったのです。
「それはまずい。君が『嫉妬に狂った公爵令嬢』として噂になってしまう」
キース様は呆れたように肩をすくめると、アルベルト様の方を向きました。
「アルベルト殿下。怪我人を運ぶのは騎士科の生徒の役目だ。君のような高貴な方がすることではない。それに、ロゼリア嬢を待たせていたのだろう?」
キース様の声は、氷のように冷ややかでしたが正論でした。しかし、アルベルト様はムッとした顔をしました。
「何を言うんだキース! 困っている人を助けるのに、身分なんて関係ないだろう! ロゼリアもロゼリアだ。いつまでもそこで突っ立っていないで、先に行けばいいだろう? 心の狭い女だなぁ!」
「……っ!」
心の狭い女。その言葉が胸に突き刺さりました。婚約して十年です。十年間、私は彼の隣にふさわしい女性になろうと、勉強もマナーもダンスも必死に努力してきました。彼が魔法の練習でボヤ騒ぎを起こした時も、彼がテストで赤点を取った時も、全部私が裏で頭を下げて尻拭いをしてきました。それなのに彼は、ちょっと可愛く甘えてくるだけの幼馴染を選び、私を「心の狭い女」と呼ぶのですか。
悔しくて涙が出そうになりました。でも、泣いたら負けです。ここで泣いたら、本当に私が「ミナに意地悪をされて泣いた弱い女」か「嫉妬して泣きわめく、みっともない女」になってしまいます。
私は深呼吸を一つ。そして、最高の笑顔仮面を貼り付けました。
「……おっしゃる通りですわ、アルベルト様。わたくしの配慮が足りませんでした。ミナさんの足、早く治るといいですわね。さっきまであんなに元気に走り回っていたのに、急に悪くなるなんて、きっと大変な病気なのでしょうから」
最後の一言だけ、チクリと嫌味を混ぜてやりました。でも、アルベルト様には通じません。
「ああ、そうだよ! 本当に大変なんだ! わかってくれて嬉しいよ。じゃあな!」
アルベルト様は嬉しそうにミナの肩を抱いて、校舎の方へ歩いていってしまいました。ミナが去り際に、私の肩越しにキース様を見て、ねっとりとした視線を送ったのを私は見逃しませんでした。そして私には舌を出して「べーっ」とやったのも、しっかりと【記録】しました。
(あの女……)
「……行ったか。災難だったな、ロゼリア」
キース様が軽く息を吐きました。そして、扇子をパチリと鳴らして近づいてくる女子生徒がいました。私の友人のマリーです。彼女は眼鏡をクイッと上げると、去っていく二人を冷ややかな目で見つめました。
「あらあら、朝からお熱いこと。でもロゼリア、気づいた? ミナの足元」
「ええ、マリー。気づいていましたとも」
私は、自分の頭の中にある映像を再確認します。さっき、アルベルト様に支えられて歩き出す瞬間。ミナは、確かに「痛い」と言っていた右足で地面を強く踏みしめていました。そして、バランスを取るために左足を浮かせていたのです。痛い足で踏ん張れるわけがありません。
「完全に演技ね。しかも、アルベルト様はそれに気づいていない。【鑑定・解析】するまでもないわ、ただのバカ王子よ」
マリーの毒舌に、少しだけ心が軽くなりました。私は二人に向き直り、スカートをつまんで優雅にお礼をしました。
「ありがとう、キース、マリー。おかげで落ち着きました」
「それはよかった。僕の【遮断】結界でも、君の再生は防ぎきれるか怪しいからな」
「さあ、行きましょうロゼリア。胃薬なら持っているわよ」
二人に挟まれて、私は校舎へと歩き出しました。アルベルト様とミナの背中はもう見えません。でも、私の頭の中には、今日の屈辱が鮮明に【記録】されています。
絶対に許しません。この証拠映像をいつか必ず、一番効果的な場面で使ってやりますわ。それまでは……この胃痛とお友達でいるしかなさそうです。
こうして、私の胃が痛い学園生活の一日が始まったのです。
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