私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり

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悪役令嬢の扱い

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「ひっ……!」

ミナが大げさに肩を震わせて、アルベルト様の背中に隠れました。

「ロ、ロゼリア様……ごめんなさい。私たちが楽しそうにしているのが、そんなに気に入らないの……?」 

「え?」 

「私がアルベルト様と仲良くしているからしているんでしょう? だから、私の友達のリリィにまで意地悪を言うのね……ひどいわ」



ミナの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちました。すごい演技力です。さっきまでケラケラ笑っていたのに、一瞬で悲劇のヒロインに変身しました。

「ロゼリア!」

アルベルト様が私を睨みつけました。

「なんて心の狭い女なんだ! みんなで楽しく話していただけじゃないか! それを『迷惑』だなんて……君には『友情』とか『愛』とか、温かい心がないのか!?」

「そうですわ、ロゼリア様!」

リリィが追撃してきます。



「私の魔法が迷惑だなんて……一生懸命、ミナを励まそうとしていただけなのに! 公爵令嬢だからって、私たちの遊びを見下しているんですね!?」

そして、ガストンが大きく息を吸い込みました。嫌な予感がします。

「聞いたかみんなーっ! ロゼリア様は、身分が低い者たちが楽しむのを許さないそうだーっ! これが強者の横暴! なんて冷酷! なんて非道! 我らが天使ミナちゃんを泣かせる悪役令嬢とは、彼女のことだーっ!!」

ビリビリビリッ!  ガストンの【増幅】された声が、教室中の生徒の耳にねじ込まれます。

人間の心理とは怖いものです。大きな声で断定されると「そうなのかな?」と思ってしまうのです。



「ロゼリア様、ちょっと言い過ぎじゃない?」 

「せっかく盛り上がってたのにね」 

「やっぱり、家柄が良いからプライドが高いんだよ」

クラスメイトたちのヒソヒソ話が聞こえてきます。いつの間にか私は「真面目な注意をした人」ではなく「幸せなカップルをいじめる悪役」になっていました。

(……理不尽です)

胃が痛い。どうして、正しいことを言っている私が責められて、嘘をついて騒いでいる彼らが褒められるのでしょうか? 悔しくて唇を噛み締めました。

その時。私の右目が、カッと熱くなりました。感情が高ぶると私の魔力が反応してしまいます。



(記録します。絶対に、この光景を忘れません)

私は目を細めて彼らの顔をじっと見つめました。勝ち誇ったようなアルベルト様の顔。ニヤニヤと笑っているガストンとリリィの顔。

そして、アルベルト様の背中の陰で私に向かって「ざまぁみろ」と口パクで言ったミナの顔。

全部を録画しました。音声もバッチリです。ガストンの鼓膜こまくが破れそうな大声も、リリィの被害妄想なセリフも、全部証拠として残しました。

「……わかりましたわ」

私は反論するのを諦めました。ここで言い返してもガストンの大声にかき消され、ミナの嘘泣きでさらに悪者にされるだけです。私は静かに自分の席に戻り、教科書についた幻の花びらを手で払いました。



「いつか、後悔なさいませ」

誰にも聞こえない声で、そうつぶやきました。

「あら、災難だったわね、ロゼリア」

隣の席から声が聞こえました。友人のマリーです。彼女は遠くにいるミナたちをじっと観察していました。

「マリー……見ていましたの?」 

「ええ、特等席でね。リリィの【幻影】は雑な作りね。魔力の粒子が荒くて美しくないわ。それにガストンの声、ただうるさいだけで知性がない。私が【鑑定】する価値もない三流のお芝居よ」

マリーの毒舌は、どんな薬よりも私の心を癒やしてくれます。



「それよりロゼリア。さっきのミナの涙、見た?」 

「ええ、【記録】しました」 

「私の【解析】だとね、あれは目薬よ。袖口に隠し持ってたわ」

「……やっぱり」

私とマリーは顔を見合わせて、小さくため息をつきました。敵は嘘をつくことに命をかけている「プロの嘘つき」たちです。そして、その嘘を信じ込んで応援する「騒がしい信者」たち。



今はまだ、彼らの天下かもしれません。クラス中が彼らの味方です。私は完全に「悪役令嬢」のポジションに追いやられました。

でも、覚えておいてください。魔法の映像は嘘をつきません。今はまだフィルムを貯める時期です。

(いつか必ず、この理不尽な劇場のスクリーンを引き裂いてやりますわ)

私はキッと前を向き、先生が入ってくるのを待ちました。背中には、まだアルベルト様たちの冷ややかな視線が刺さっています。
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