籠の中の令嬢

第一章

初めてのお茶会

　「皆さま、本日は、ようこそお越しくださいました。この場を借りてご紹介させて頂きますわ。娘のミカエラです。」

　「お初にお目にかかります。ミカエラ・ランスロットです。」

　来賓の方々に、練習した淑女の挨拶であるカーテシーをし、ちらっと父たちを見ると、小さく頷いてくれる。

　やった！

　心の中でガッツポーズをしながら、緩みそうな頬を引き締め、静かに微笑む。

　「ほぅ。」「美しい…」

　小さな声だったため、ミカエラは全く気付かなかったが、何人もの男性がミカエラを見てため息を漏らす。

　庭園には大きなテーブルと椅子が用意され、主に女性がそこに座る。その後ろには円形のテーブルが用意され、軽い軽食やグラスが用意されている。父たちや他の男性は女性の後ろに立ち、時折会話に入ったり、後ろの円形のテーブルの周りに立ち、談笑している。
　一妻多夫なので、男性が多いことはある程度想像をしていたが、ミカエラは余りの成人男性の多さに少しだけたじろぐ。

　沢山の来賓の方から挨拶を受けたが、正直覚えることができない。微笑むことで精一杯だ。
　子どもたちは、別のテーブルを用意されていたので、挨拶が終わると、そちらに移動するよう促される。

　移動する時には、大人たちは既に談笑を始めており、お母様たちは流行りのドレスや化粧品、お父様たちは他国の情勢や、自分の領地など、難しい話ばかりだ。

　でも…他の家は我が家とはちょっと違うな…

　ミカエラは思った。なぜなら、自分の家族はかなり仲が良く、お母様もお父様たちを同等に扱う。でも、お茶会で見た女性たちは、夫であるはずの男性を召使いのように扱ったり、自分のことや自分の夫の数や見目の自慢ばかりだったからだ。しかも、男性もそれを当然のように受け入れ、それどころか、女性の機嫌を損なわないように談笑しながらも、女性の方を注意深く観察し、何か女性が言おうとすると、我先にと俊敏に動く姿は、まるで敏腕執事だ。

　そんなことを考え、大人たちのテーブルを見つめていると、エレンがミカエラを呼ぶ。

「ミア？どうしたの？あっちに行くよ？」

　ミカエラは慌てつつも、教えてもらったマナーを思い出しながら、背筋を伸ばし、子どもたちのテーブルへ向かう。

　「本日はお招きありがとうございます。グロスター公爵家のリネットと申します。ランスロット様、宜しければご兄弟もいらっしゃるのでミカエラ様とお呼びしても？私もリネットで構いませんわ。」

　カーテシーで挨拶をした後、提案してくれる。それにミカエラは頷くと、

「えぇ。リネット様。ありがとうございます。宜しければ皆さまも名前でお呼びさせて頂いてもよろしいでしょうか？」

　数人の御令嬢を見渡すと、皆コクッと頷く。軽く挨拶を済ました後、女の子たちが席に着き、お茶をコクッと口に含み、会話を弾ませている間も、男の子たちは、少し離れた場所で立ち、コソコソと耳打ちしながら女の子達を観察する。そんな様子を、初めての同世代の女の子との会話を心から楽しんでいたミカエラは、気付くことはなかった。少し会話が落ち着くと、その時を待っていたかのように、我先にと、令嬢たちに挨拶をする男の子達。

　何これ…

　女の子が男の子数人にチヤホヤされ、それを恥ずかしがるどころか、当然のように受け入れ、自分の好みの子にはスキンシップが激しい。

　その異常な光景に、ミカエラは目を見開いて唯唯見つめるばかりだった。