籠の中の令嬢

ワゾースキー

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第二章

実は

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 ノックの音がした後、外から声がかけられる。

「エレン様、失礼致します。そろそろお時間でございます。御支度を。」

 その声はミカエラのよく知る声であった。

「あぁ。入れ。」
「…リチャード…?」

 エレンが返事を返すとほぼ同時に、ミカエラが名を口にするや否やドアが開き、そこには我が家で幼い時から仕えてくれている執事の姿があった。

間違いない…リチャード…なぜ彼がここへ…?
え…ということは家族も黙認していると言う事…?

 私の考えていることが分かったのか、少し申し訳なさそうに、同情するかの様にこちらを見つめる。

「すぐに行く。食事は済んだから下げといてくれ。あと、ミアの好きそうな本を幾つか用意して。余計なことはしなくていいから。」

「かしこまりました。」

 スッと頭を下げると、今度はミカエラの方を向くことなく食器だけ片付けてすぐに立ち去る。

色々聞きたかったのに…家族のこと…ローズのこと…

 リチャードの背中を見つめていると、エレンは少しムッとし、ミカエラの顎を掴み、自らの方へ向ける。

「執事とはいえ、見つめるって何? 助けてもらうつもり? あいつはね、僕たちの意を汲んでくれている、忠実な執事だよ。 まさか…リチャードのことが好きとか言わないよね? 」

何を言っているのだろうか…

 ミカエラはエレンの言葉に困惑しながら首を横に振る。

「確かにリチャードが現れて驚きましたが、お兄様が思っているような感情はありません。ただ…家族やローズがどうしてるのか気になっただけです。」

「あぁ…あの売女ね…」

ば…売女?!

 兄とは思えない、家族への暴言に、信じられないと目を見開き驚く。

「あぁ。ミアは知らなかった? あいつ、色んな男たちを侍らせてさぁ。 婚約者がいるやつにも手を出して婚約者に知られて男が捨てられたらあいつもポイ捨てするんだぜ。 貴族では醜聞が広がるのが早いのはミアも分かるだろう? もう、男の方はお一人様確定だよ。 あいつは貴重な女だし、咎められることはないみたいだけど、それを知ってて行動してるみたいだな。 まぁ、男の方はそこまで考えてたのか、見通しが甘すぎるってのも悪いんだけどさ。 で、遂には王子たちにも色目使って…あいつマジで性格悪いよ。」

「し…信じられない…ローズが…?」

 ミカエラの前では可愛いローズだったが、男の前では違ったということなのだろうか?
 この世界を受け入れることが出来なかった私と、この世界にハマり過ぎた妹。

 いや、ある意味、妹は幸せなのかもしれない。沢山の男性から愛され、また沢山の男性を愛すことが出来るのだから。この国からしてみれば、結婚率や出生率をあげる有難い存在だ。

私は…沢山の男性が苦手だったけど…ローズは…幸せに暮らしていくのかしら…

 そんなことを思いふけながら、ぼーっとドアの方を見つめる。すると、またノックの音がして、何冊か本をかかえてリチャードが現れる。

「お待たせ致しました。いくつか本をご用意させて頂いております。」
「あぁ。」

 エレンはミカエラの視線を防ぐかの様に、リチャードとミカエラの間に立ち、本を受け取ると、ミカエラの方へ振り返る。

「ミア。僕は今から仕事に行かなきゃいけないんだ。 夕方にはあの2人のどちらかが帰ってくるから、それまで1人だけど本を置いておくから、ゆっくり過ごして? 夜には僕も帰ってくるからね?」

 ニコッと柔らかい笑顔で見つめてくるエレンに、ミカエラは、暫く1人だという言葉に内心、心を弾ませていた。

やっと、部屋を探れる!絶対逃げてみせる!

 少し、瞳に光が戻り、俯き、興奮を抑える様にスカートをギュッと握り締める。
 その様子を冷たい視線でエレンが見下ろしていることにミカエラは気づかなかった。

「さて!僕は行ってくるね!ミア、後でねっ!」

 おでこにチュッとキスを落とし、リチャードと共に部屋を出ると、ガチャリと鍵が閉まる音がする。

「まぁ…そうよね。鍵…かけちゃうよね…。でもっ!何かないか調べなくちゃっ!」

 1人になって、自らに気合いを入れ、ジャラッと鳴る足枷に若干立ちくらみを起こしながら部屋を調べることにした。
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