聖なる夜に私は叫ぶ

しずもり

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クリスマスイブ 18時半

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それで目が覚めたら日暮れ間近の夕方だった。


失恋のショックだな、うん。めっちゃ頭が痛いし。
今日が土曜日で本当に良かった。・・・いや、良かったのか?


このままふて寝でもしていたいところだったけれど、超有名ケーキ店でクリスマスケーキを予約していた事を思い出してしまった。

しかも前払いしている!
ムカつくことに、これも聖のリクエストだった。

 あの男はそういう奴だった。分かりやすい有名ブランドが好きで、流行りモノには全力で乗っかり、『俺は前から知ってたぜ』が口癖。
思い出してみれば、随分と薄っぺらい男だったなぁ。

そんな男に振られた私、一体あの男のどこが良かったんだろう。


冷蔵庫にあった牛乳を一気飲みして、ケーキを予約した店を思い浮かべる。


自宅から徒歩十分の最寄り駅から二駅、電車で十五分。そこから更に歩いて十分。

 出掛けるのに苦にはならない距離であるけれど、少々問題がある。
 その駅はこの時期になると、クリスマスイルミネーションに力を入れている場所だった。毎年多くのカップルが、駅前広場の巨大クリスマスツリーを見に来ることで有名で、ちょっとした観光スポットにもなっていた。当然、カップルたち、家族連れで激混みの場所である。

カップルにはそういうのも苦にはならないんだろうけどなぁ。
今の私には精神的に苦になるどころか、見知らぬ他人にも殺意が湧きそうな気がする。

大丈夫か、私!?

そんな精神状態の中、イルミネーション渋滞をすり抜け、無事にケーキを受け取りに行ける自信は・・・ないな。

だけど今日行かなくても、明日はまだクリスマス。
激混みから混雑に変わるだけ。しかも今日は土曜日で、明日は日曜日だ。
その上、一日経てばケーキの味は落ちる。確実に。


一人でホール食いするのに、味の劣化は嫌だなぁ。
折角のお高いケーキだし。
クリスマスイブに誘えるような暇している友人なんて・・・いないよね。
こん畜生っ!!


そんな殺伐とした気持ちのまま、結局、ケーキを受け取りに行ってしまった。いや、行くしかなかったんだ。店から受け取り時間の確認メールが来ていたしね。



駅前のイルミネーションは、恋人たちが感動するぐらい綺麗なのは分かる。確かに綺麗だ。


ミンナ、シアワセソウダネ。


幸せ気分のお裾分けならぬ押し付けに耐え、頭の中で諸行無常の鐘の音を響かせて、心を無にして予約していたケーキを受け取りに行くのは、何の為の修行?


「良いクリスマスイブをお過ごしください♪」


店員さんの無邪気な笑顔が辛い。初めてバイトをしたんじゃないかな?って感じのサンタクロースの衣装を着た初々しいバイト君の純真無垢そうな笑顔に、忘れたい昨夜の残酷な現実を呼び起こされる。

あぁっ!
私の心の中で雪が降ってきた気がする。
ちょっと、いや、かなりブリザード気味な感じで!
ホワイトクリスマスならぬ、ホワイトアウト状態で。
このまま春まで冬眠してしまいたい・・・。


だけど!
冬眠の前に腹ごしらえが必要だよね。
今日の夕飯は、一個2万円のクリスマスケーキ!
贅沢にホール食いの予定さ。はっはっは!


落ち気味の気分を何とかしたくて、無理矢理に思考を明後日の方向に向ける。
だって、これからまたあの激混みスポットを横切って駅に向かうんダヨ?

いざ!意を決して、再びの激混みスポットへ!!


気合いを入れて店から徒歩十分の駅に向かっていると、数メートル先に見覚えのある後ろ姿を発見!


・・・マジか。


見覚えのある後ろ姿っつうか、昨日も見た後ろ姿・・・。

あぁっ!あの黒のジャケットも私が買ったヤツだったじゃん!!

しかも見覚えのある後ろ姿がもう一つ・・・。



ーーーーーーーーーーーーーーー


ここまでお読みくださりありがとうございます。
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