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クリスマスイブ 19時 発覚
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真希は以前からちょっと色々と問題のある子ではあったけれど、仕事はきちんとやる子だった。
同僚として普通に接していただけだけど、どういうわけだか『先輩、先輩』と懐かれていた。
内緒にしていた別部署にいた聖との交際も、ズバリと言い当てられてからは、『三人で行動してれば、付き合ってるってバレないんじゃない?』なんて言って、私たちに協力してくれていた。
協力してくれているんだと思ってた!
なのに、何故?いつから?
腹の底から沸々と怒りが湧き上がってくるけど、冷静になれ、私!
出張の多いエリートイケメン彼氏が不在の時は、仲の良い男友達を呼び出しては、ご飯を奢らせたりしていた真希。
『彼氏が大事ならそういうのはやめなって』
『先輩、最近小言ばっかり言ってくるから、ちょっとウザいんだけど。自分が聖クンに相手にされてないからって八つ当たりしないでよ』
真希とその彼氏との恋路を応援しているからこその言葉は、いつしかウザいだけの言葉と認識されるようになっていったのはいつの頃だっけ?
『彼が買ってくれたんだぁ~』
『あれ?真希って誕生日はまだ先だったよね?』
『うん。何でもない日でも買ってあげたくなるんだって。愛されているよね~』
耳に光るピアスを指でなぞり、自慢げな笑顔を私に向けた真希。もしかして、あれは惚気ではなくて、私に対するマウントだった?
たしかあの頃、私は聖に誕生日を忘れられ、後からファミレスで390円のドリアを奢られたと、真希に愚痴った後だった。
デートの約束をドタキャンされた翌日に、真希から箱根のお土産を貰ったのもその頃だった気がする。私が箱根に行きたいと言っていた直ぐ後の事だ。
今までは何とも思わなかった真希の言動と、聖の私に対する扱いが雑になっていった頃の様子を思い出して、点と点が繋がっていく。
いや、まだ分からない。真希には本命の彼氏がいて、来年には同棲を始めたいと嬉しそうに言っていたじゃないか。
数メートル前に見える見慣れた背中に、最悪な答えを打ち消そうとそっと近付いていく。
大丈夫。
二人は私に気付かないはず。
今日の私は、腫れた瞼を隠す為にかけたサングラスと、浮腫んだ顔を誤魔化す為のマスクをしている。恰好も目立たないように黒のコートに黒のパンツスタイルだ。ケーキを受け取りに通ったイルミネーションの前では悪目立ちしていたような気がするけど。
ケーキを渡してくれたバイト君。よくこんな恰好の私に笑顔でケーキを渡してくれたよね。クリスマスを楽しく過ごそうとしている人には全く見えなかったよね!?
それはそうと、足音を立てずにそっと二人に近づいていけば、随分と浮かれた声で話している聖の声が聞こえてくる。
「真希とイブを過ごせるなんて、今日は最高の夜だよ」
「えぇ~、本当?前日まで佳奈先輩と付き合ってたのにぃ?」
「それは別れ話をするのも面倒で言ってなかっただけ。真希と付き合い始めてからアイツの相手をするのも面倒でドタキャンばっかだったじゃん?」
「あ~、箱根の温泉良かったよねぇ~」
はい、ビンゴ!
普段、旅行に行っても、荷物になるのが面倒だからって、真希はお土産なんて買ってきた事がなかったよね。
あの時は珍しい事もあるもんだと思っていたけれど、あれは優越感に浸りたいだけだったって事だね。
真希、それだけの為に美味しい温泉饅頭をどうもありがとう!!
「それな。でも、今夜のホテルも一泊五万の超豪華スイートルームだぜ?」
聖の言葉にハッとする。聖に言われてホテル取ってたじゃん、私ぃ!
昨夜の別れ話で、ショックでやけ酒して忘れてたじゃん。どうする私!?
「えぇ~、たった五万で超豪華ってショボくない?」
「しょうがないよ。佳奈がケチったんだからさ。その分、年末年始はもっと良いホテルを取るから、今日は我慢してくれよ」
「あはっ。佳奈先輩ってば可哀想~。聖クン、その時計だって先輩に貢がせたんでしょ?
クリスマスプレゼントのお返しが別れ話なんて下衆過ぎない?」
「いいんだよ。だって佳奈の奴、先輩命令で真希にばっかり仕事を押し付けてたんだろ?真希の方が可愛いからって最低だよな。だから真希の希望通り、昨日別れ話をしてやったんだよ。アイツ、ビックリして固まってやんの」
「ええ~、ボクもそれ見たかったなぁ」
「佳奈が逆上して真希に何かしたら大変だろ。アイツ、ガサツだし乱暴者だしさ」
ガサツなのは自他ともに認めますけど、乱暴者だってのは初耳ですが?
それにいつ、誰が、先輩命令で仕事を押し付けたって?
逆でしょ、逆!
真希は仕事は自分のきちんとやるけれど、面倒くさい案件が他から回ってきた時には絶対に引き受けない。我関せずで他の人に押し付けて、助け合いの精神は皆無の『割振られた仕事以外は致しません』で、その皺寄せはいつだって私にきていたのに。
だけどその考え方はそこまで悪いことではないのかも、と私はいつも真希をフォローしてきていたのに。
というか、きよしっ!
アンタいつの間に同姓愛者になったのよ?!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読みいただきありがとうございます。
同僚として普通に接していただけだけど、どういうわけだか『先輩、先輩』と懐かれていた。
内緒にしていた別部署にいた聖との交際も、ズバリと言い当てられてからは、『三人で行動してれば、付き合ってるってバレないんじゃない?』なんて言って、私たちに協力してくれていた。
協力してくれているんだと思ってた!
なのに、何故?いつから?
腹の底から沸々と怒りが湧き上がってくるけど、冷静になれ、私!
出張の多いエリートイケメン彼氏が不在の時は、仲の良い男友達を呼び出しては、ご飯を奢らせたりしていた真希。
『彼氏が大事ならそういうのはやめなって』
『先輩、最近小言ばっかり言ってくるから、ちょっとウザいんだけど。自分が聖クンに相手にされてないからって八つ当たりしないでよ』
真希とその彼氏との恋路を応援しているからこその言葉は、いつしかウザいだけの言葉と認識されるようになっていったのはいつの頃だっけ?
『彼が買ってくれたんだぁ~』
『あれ?真希って誕生日はまだ先だったよね?』
『うん。何でもない日でも買ってあげたくなるんだって。愛されているよね~』
耳に光るピアスを指でなぞり、自慢げな笑顔を私に向けた真希。もしかして、あれは惚気ではなくて、私に対するマウントだった?
たしかあの頃、私は聖に誕生日を忘れられ、後からファミレスで390円のドリアを奢られたと、真希に愚痴った後だった。
デートの約束をドタキャンされた翌日に、真希から箱根のお土産を貰ったのもその頃だった気がする。私が箱根に行きたいと言っていた直ぐ後の事だ。
今までは何とも思わなかった真希の言動と、聖の私に対する扱いが雑になっていった頃の様子を思い出して、点と点が繋がっていく。
いや、まだ分からない。真希には本命の彼氏がいて、来年には同棲を始めたいと嬉しそうに言っていたじゃないか。
数メートル前に見える見慣れた背中に、最悪な答えを打ち消そうとそっと近付いていく。
大丈夫。
二人は私に気付かないはず。
今日の私は、腫れた瞼を隠す為にかけたサングラスと、浮腫んだ顔を誤魔化す為のマスクをしている。恰好も目立たないように黒のコートに黒のパンツスタイルだ。ケーキを受け取りに通ったイルミネーションの前では悪目立ちしていたような気がするけど。
ケーキを渡してくれたバイト君。よくこんな恰好の私に笑顔でケーキを渡してくれたよね。クリスマスを楽しく過ごそうとしている人には全く見えなかったよね!?
それはそうと、足音を立てずにそっと二人に近づいていけば、随分と浮かれた声で話している聖の声が聞こえてくる。
「真希とイブを過ごせるなんて、今日は最高の夜だよ」
「えぇ~、本当?前日まで佳奈先輩と付き合ってたのにぃ?」
「それは別れ話をするのも面倒で言ってなかっただけ。真希と付き合い始めてからアイツの相手をするのも面倒でドタキャンばっかだったじゃん?」
「あ~、箱根の温泉良かったよねぇ~」
はい、ビンゴ!
普段、旅行に行っても、荷物になるのが面倒だからって、真希はお土産なんて買ってきた事がなかったよね。
あの時は珍しい事もあるもんだと思っていたけれど、あれは優越感に浸りたいだけだったって事だね。
真希、それだけの為に美味しい温泉饅頭をどうもありがとう!!
「それな。でも、今夜のホテルも一泊五万の超豪華スイートルームだぜ?」
聖の言葉にハッとする。聖に言われてホテル取ってたじゃん、私ぃ!
昨夜の別れ話で、ショックでやけ酒して忘れてたじゃん。どうする私!?
「えぇ~、たった五万で超豪華ってショボくない?」
「しょうがないよ。佳奈がケチったんだからさ。その分、年末年始はもっと良いホテルを取るから、今日は我慢してくれよ」
「あはっ。佳奈先輩ってば可哀想~。聖クン、その時計だって先輩に貢がせたんでしょ?
クリスマスプレゼントのお返しが別れ話なんて下衆過ぎない?」
「いいんだよ。だって佳奈の奴、先輩命令で真希にばっかり仕事を押し付けてたんだろ?真希の方が可愛いからって最低だよな。だから真希の希望通り、昨日別れ話をしてやったんだよ。アイツ、ビックリして固まってやんの」
「ええ~、ボクもそれ見たかったなぁ」
「佳奈が逆上して真希に何かしたら大変だろ。アイツ、ガサツだし乱暴者だしさ」
ガサツなのは自他ともに認めますけど、乱暴者だってのは初耳ですが?
それにいつ、誰が、先輩命令で仕事を押し付けたって?
逆でしょ、逆!
真希は仕事は自分のきちんとやるけれど、面倒くさい案件が他から回ってきた時には絶対に引き受けない。我関せずで他の人に押し付けて、助け合いの精神は皆無の『割振られた仕事以外は致しません』で、その皺寄せはいつだって私にきていたのに。
だけどその考え方はそこまで悪いことではないのかも、と私はいつも真希をフォローしてきていたのに。
というか、きよしっ!
アンタいつの間に同姓愛者になったのよ?!
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